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【感受性遺伝子、CILPの同定】
以前より、椎間板ヘルニアの発症には遺伝的な要因が関与することが示唆されていました。いくつかの原因遺伝子(感受性遺伝子)が報告されていましたが、その機能がはっきりと証明されているものはありませんでした。
椎間板ヘルニアの感受性遺伝子をみつけるために、我々は遺伝子多型研究センターで収集した遺伝子多型データと高速度大量
タイピングシステムを用いて、大規模な相関解析を行いました。候補となる遺伝子のひとつとして、CILP
(cartilage intermediate layer protein) 遺伝子に着目しました。CILPは軟骨特異的な細胞外基質タンパクです。従来、その機能はよく分かっていませんでした。ヒトで組織ごとのCILP遺伝子の発現を調べた所、椎間板に著しく強く発現していることがわかりました(図1)。椎間板ヘルニアの患者さんのCILP遺伝子の発現は、椎間板の変性の重症度に伴い上昇傾向を示しました(図2右)。更に、CILPタンパクは、患者さんの椎間板の変性の強い部分に、特に、たくさん発現していることわかりました(図2左)。
そこで、CILP遺伝子多型を用いたケース・コントロール相関解析(疾患の遺伝子を見つける方法のひとつ。疾患を持つ人と疾患を持たない人とでSNPの型に差があるかどうかを統計学的に比較する解析方法)を行った所、CILPのあるSNP(一塩基多型)が椎間板ヘルニアと最も強く相関することがわかりました(表1)。このSNPは、CILPタンパクの395番目のアミノ酸のイソロイシン(Ile)がスレオニン
(Thr)に変わっていました。このスレオニン型 (Thr型)の多型が椎間板患者集団に多くなっていました。Thr型の多型を持つと、椎間板ヘルニアの発症リスクが、約1.6倍になります。
【CILPの機能】
CILPには、TGF-βと結合すると推定されるアミノ酸の配列があります。TGF-βは椎間板の軟骨細胞の主要な成長因子で、II型コラーゲン、アグリカンなどの軟骨基質の発現を促進します。そこで、CILPとTGF-βの結合を調べてみると、両者は特異的に結合し、その結合力はThr型のCILPでより強いことがわかりました(図3)。免疫染色で、ヒトの椎間板でのCILPとTGF-βの存在部位
をみると、両者は細胞周囲に共存していました(図4)。これらの結果
から、CILPは、TGF-βと結合して、その作用を調節していることが示唆されました。
そこで、ウサギの椎間板から採取した軟骨細胞でCILPタンパクの作用をみてみると、CILPはTGF-βシグナルを抑制し、TGF-βによるII型コラーゲン、アグリカンの発現を顕著に低下させました。CILPのこのTGF-βの抑制作用は、Thr型のCILPでより強いことがわかりました(図5)。
【CILPが椎間板ヘルニアを起こすメカニズム】
機械的ストレスにより椎間板は日々傷害を受け、その軟骨細胞、基質が減少していきます。これが椎間板の変性で、二足歩行をするようになった人類の宿命と言えます。これを防ぐために、TGF-βなどの成長因子が働き、軟骨細胞を分化させ、基質を産生する能力を上げてこの減少を補償しようとします。しかし、成長因子の無制限の作用は、異常な軟骨の増大、骨化、腫瘍の発生などの新たな問題を引き起こしてしまうので、その作用には一定の調整、制御機構が必要です。我々はCILPが、椎間板においてこのTGF-βの調整役を担っていると考えています。Thr型のCILPでは、TGF-βの抑制作用が強すぎるために、十分にTGF-βが働けず、変性を起こし易くなっていると考えています。
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