プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
リンパ球に発現する遺伝子が関節リウマチの発症に関連
- 自己免疫性疾患の治療につながる大きな一歩 -
平成17年4月18日
◇ポイント◇
  • FCRL3という遺伝子の発現制御領域の遺伝子多型が、関節リウマチと強く関連。
  • FCRL3はBリンパ球に発現する遺伝子で、疾患にかかりやすい遺伝子多型を持つ人は発現量が増加。
  • 自己免疫性疾患の病態に即した治療法へ期待。
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ヒトのBリンパ球※1に発現するFCRL3遺伝子※2が、関節リウマチRA:Rheumatoid Arthritis)および、他の自己免疫性疾患※3の発症に関連する遺伝子であることを同定しました。理研遺伝子多型研究センター(中村祐輔センター長)関節リウマチ関連遺伝子研究チームの山本一彦チームリーダー、高地雄太研究員、山田亮客員研究員、東京大学大学院医学系研究科アレルギー・リウマチ内科、国立国際医療センター、米国オクラホマ大学、韓国ハンヤン大学、三共株式会社との共同研究成果です。
 RAは、関節に炎症を起こす病気ですが、遺伝的な素因が発症に関与することが知られています。今回の研究では、RA患者(830人)とRAでない被験者(658人)の遺伝子の違いを比べて、FCRL3遺伝子の発現量を制御する一塩基多型が、疾患に大きく関与していることを明らかにしました。その結果、疾患にかかりやすいタイプの遺伝子多型を持つ人は、細胞でFCRL3遺伝子の発現量が約3倍増加していることがわかりました。FCRL3遺伝子は、Bリンパ球で強く発現している遺伝子であり、その活動性に影響を与えることにより、RAなどの自己免疫性疾患の発症に関わっていることが考えられます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』ウェブサイト上のオンライン・パブリケーション(4月18日付)に発表されるとともに、5月号に掲載されます。


1. 背 景
 関節リウマチ(RA:Rheumatoid Arthritis)は、関節の滑膜※4に炎症が起きて、関節が腫れて痛み、病気が進行すると関節が変形をおこす病気です。RAをはじめとする自己免疫性疾患は、その原因の一つとして、遺伝的素因、すなわち個人における遺伝子の違い(遺伝子多型)がその発症に関わっていることが知られています。病気に関わっている遺伝子のうち、その遺伝子配列のわずかな違いによって、いくつかのタイプの遺伝子が存在し、病気にかかりやすいタイプの遺伝子を持つことによって、病気を発症する可能性が高くなるものと考えられています。 このようなRA発症に関わっている遺伝子を見つけるために、研究チームでは、平成12年度より全ゲノムに分布する一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)を用いた、ケース・コントロール関連解析※5によるRA関連遺伝子探索を進めてきました。


2. 研究手法と成果
研究チームでは、ヒトの持つ、これまで推定されたすべての遺伝子に対してRAと関連する可能性を考え、RA患者(830人)とRAでない被験者(658人)の遺伝子の違いを調べるためにゲノムに広く分布する約10万個のSNPを用いて解析しています。解析を進めていたところ、Fc receptor-like 1〜5(FCRL1〜5)という5つの遺伝子(FCRL遺伝子群)が並んでいる領域で(図1)、RA患者とRAでない被験者との遺伝子のパターンが異なることがわかりました。
 今回の研究では、FCRL遺伝子群のうち、FCRL3遺伝子の、遺伝子発現を制御している領域に存在するSNPが、RA発症と強く関連していることを明らかにしました。このSNPの周囲には、NFκBという転写活性因子が結合しますが、RAにかかりやすいタイプのFCRL3遺伝子には、NFκBがより強く結合し、結果として遺伝子の発現量が多くなることがわかりました(図2)。また、RAにかかりやすいタイプのFCRL3遺伝子を持つ人は、Bリンパ球のFCRL3遺伝子の発現量が多くなります(図3)。その結果、RAにかかりやすくなるものと考えられます。さらにRA患者の血液を用いて、自己に対する抗体(自己抗体※6)の産生量を調べたところ、RAにかかりやすいタイプのFCRL3遺伝子を持つ人では、自己抗体の量が上昇していることがわかりました。このため、FCRL3遺伝子は、Bリンパ球の活動性になんらかの影響を与える遺伝子であり、その発現量が増えることにより、結果として自己抗体の産生が増えることが考えられます。
 今回、複数の研究機関との共同研究で、FCRL3遺伝子は、他の自己免疫性疾患(全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎)のかかりやすさとも関連していることを明らかにしました。さらに、FCRL3遺伝子の遺伝子多型は、ヨーロッパ系米国人、アフリカ系米国人、韓国人においても存在することがわかりました。これらのことは、FCRL3遺伝子が複数の自己免疫性疾患・民族において、病気の発症に関わっている可能性を示唆します。


3. 今後の展開
 今回の発見をもとに、FCRL3遺伝子は免疫のシステムにおいてどのような役割を持つのか、FCRL3遺伝子がどのように働くと自己抗体の産生につながるのか、他の自己免疫性疾患とのかかわりはどうなのか、などを調べることによって、RAのみならず、広く自己免疫性疾患の病態の解明が進むことが予想されます。また、その結果、病因・病態により即した治療法の開発が可能になることが期待されます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所 横浜研究所
 遺伝子多型研究センター
  関節リウマチ関連遺伝子研究チーム
  チームリーダー  山本 一彦
  客員研究員  山田  亮
  研究員  高地 雄太

Tel: 045-503-9569 / Fax: 045-503-9590
研究推進部  星野 美和子

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 Bリンパ球
リンパ球の一種で、骨髄およびリンパ組織において分化成熟する。最終的に抗体を産生するようになったものは形質細胞(プラズマ細胞)と呼ばれる。
※2 FCRL3(Fc receptor-like 3)
FCRL3遺伝子は、最近その存在が明らかになったFCRL遺伝子群の一つ。FCRL遺伝子は血液のリンパ球のうち、抗体を作るのに重要なBリンパ球に強く発現しており、FcγR(Fcγ receptor)遺伝子と構造が似ていることが知られている(図4)。FcγRは、血液のリンパ球などに発現している遺伝子で、抗体タンパクの定常部(Fc部)と強く結合し、細胞に情報を伝える受容体遺伝子の一種であり、免疫システムにおいて重要な役割を果たしている。
※3 自己免疫性疾患
本来は、ウィルスや細菌などを排除するために働く免疫システムが、何らかの原因によって、自己の体を構成している成分に対して攻撃すること(自己免疫応答)によっておきる疾患の総称。RA以外にも、皮膚・腎臓などが障害される全身性エリテマトーデス、甲状腺の機能異常を生じる自己免疫性甲状腺炎、糖尿病を発症する1型糖尿病(自己免疫性糖尿病)などがある。
※4 滑膜
滑膜は、関節包を裏打ちする膜組織である。滑膜細胞は関節腔に滑液を分泌し、軟骨に栄養を供給する。関節リウマチでは、なんらかの原因で滑膜が異常増殖し、炎症を引き起こす。
※5 ケースコントロール関連解析
疾患の遺伝子を見つける方法のひとつ。疾患を持つ群と疾患持たない群とで遺伝子の違い(遺伝子多型)に差があるかどうかを統計学的に比較する解析方法。
※6 自己抗体
自己免疫応答の結果、自己の体の構成成分に対する抗体が産生されるようになる。病気によって、産生される抗体の種類は異なるが、RAでは、免疫グロブリン(通常の抗体)を認識するリウマトイド因子や、シトルリン化されたタンパクを認識する、抗シトルリン化ペプチド抗体などが知られている。RAにおいて、自己抗体自体が直接関節炎を生じるかどうかは明らかにされていない。


図1.FCRL遺伝子領域の染色体地図


図2.FCRL3 遺伝子の発現制御領域のSNP
SNPのうち、-169Cという型がRAにかかりやすいタイプであり、転写因子NFκBが強く結合する。その結果、 FCRL3 遺伝子の転写量が増える。


図3.健常人Bリンパ球での, FCRL3発現量
FCRL3遺伝子発現量をFCRL3遺伝子型別に比較した。-169C/C遺伝子型の人(-169CのタイプのFCRL3遺伝子を二つ持つ人)での発現量が最も高い。


図4.FCRL3タンパク質の構造
T型膜タンパク。細胞外は6つのイムノグロブリン様領域から成り立ち、細胞内には、チロシンというアミノ酸を含む構造部分(ITAM,ITIM,hemi-ITAM)が存在する。
* PNAS 2001、 Davis RS.ら論文より改変引用

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