プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
アルツハイマー病の発症前診断へ大きく前進
- MRIでアミロイド斑の可視化に初めて成功 -
平成17年3月14日
◇ポイント◇
  • アルツハイマー病アミロイド斑と結合する新しい化合物を合成しました。
  • この化合物を用いた19F-MRIという新しい方法でアミロイド斑を可視化することに成功しました。
  • アミロイド斑の形成は発症に先行するため、この発見は発症前診断に道を開きます。
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)脳科学総合研究センター(甘利俊一センター長)神経蛋白制御研究チーム(西道隆臣チームリーダー)の西道チームリーダーと樋口真人研究員は、鞄ッ仁化学研究所(野田栄二代表取締役)佐々本一美開発本部長らとの共同研究によって、アルツハイマー病の発症前診断へ大きく前進する研究成果をあげました。人間の脳は加齢に伴ってアミロイドβペプチド(Aβ)が蓄積してゆきます。このAβが過剰に蓄積することがアルツハイマー病発症の引き金であると考えられています。これまで、患者の死後脳の神経病理を解析することによってのみしか、Aβの蓄積を確認できませんでした。
 脳内におけるAβ蓄積は、実際の発症の数年以上前から始まっていますから、対象が生きたままの状態でこれを可視化することができれば、発症前診断が可能になります。本研究では、フッ素(19F)を含有するアミロイド親和化合物をMRIのプローブにするという、世界で初めての方法でAβが蓄積したアミロイド斑をMRIで可視化することに成功しました。この研究成果はAβを蓄積するモデルマウスを用いて得られたものですが、将来はヒトを対象としても可能になると期待されます。
 この新しい技術を使うと、これまでできなかった多くのことが出来るようになります。たとえば、アルツハイマー病モデル動物の病理変化を生きたまま継続的に観測することができますから、新しい診断マーカーの検索が容易になります。また、治療薬候補の効果も経時的に追跡することが可能になります。つまり、「縦断的検討」が可能になるということです。
 本研究の最終的目標は、生化学的診断マーカーの同定とMRI技術の発展によって、アルツハイマー病の発症前診断を確立することです。アルツハイマー病は、発症した時点ですでに多くの神経細胞が死滅しており、これが、不可逆的に進行してゆきます。発症前診断が可能になれば、発症潜伏期にある人たちに予防的治療(脳内Aβレベルを低下させる薬剤の投与など)を施すことによって、アルツハイマー病の患者数を大幅に減少させることも夢ではないでしょう。
 本研究成果は、Nature Neuroscienceオンライン版(3月13日日曜付け午後1時EST:日本時間3月14日午前3時)に掲載されます。


1. 背 景
 人間の脳は加齢に伴ってアミロイドβペプチド(Aβ)が蓄積してゆきます。このAβが過剰に蓄積することがアルツハイマー病発症の引き金であると考えられています。そのため、脳内のAβ蓄積を可視化すること(アミロイドイメージング)は、これまでのアルツハイマー病研究において重要な課題の一つでした。アミロイドイメージングが可能になれば、アルツハイマー病の早期診断・確定診断が可能になるだけではなく、治療の効果を追跡することができるからです。
 これまでのアミロイドイメージング研究の世界の主流は、PET (Positron emission tomography)でしたが、いくつか問題点があります。まず、PETは陽電子を放出する放射性化合物をプローブとして使用しますから、対象者は必ず被ばくします。したがって、装置を放射線管理区域内に設置する必要があります。また、用いられる放射性核種の半減期が数十分ですから、使用するその場で逐次合成・生成して、対象者に投与しなければなりません。このような大規模な施設は、非常に多額の費用を要しますので、日本では大きな大学病院でなければ使用することができないのが現状です。また、昨年「アルツハイマー病患者のAβ蓄積をPETによって可視化した。」という論文が米国から発表されましたが、その後、この方法では、ヒトと同様にAβを蓄積する遺伝子改変マウスのアミロイド斑を観測できないことを同じグループが発表しました。おそらく、Aβ蓄積とは異なる病変を検出していたと考えられます。
 一方、MRIは、PETと異なって以下の長所があります。
  • 分解能が高い。(弱点はPETよりも感度が低いことである。)
  • 比較的安価である(PETの1/10以下)。
  • プローブを長期保存できる。
  • 放射性物質管理区域を必要としない。
 これまでのところは、MRIは、おもに脳梗塞の有無の確認や脳室の萎縮(≒神経変性)を観測するために用いられてきました。これは、水素(1H)のシグナルを検出する1H(プロトン)MRIという方法によるもので、基本的には生体内で大量の1Hを含有するのは水ですから、水の密度の変化などが観測されるわけです。この1H-MRIを用いてアミロイドイメージングを行う試みもなされてきましたが、最大の欠点は、得られたシグナル(たとえば、黒いスポットや白いスポット)がAβ蓄積によるものなのか、何か他の原因によるものなのかを区別することができないことでした。

図1


2. 研究手法
私たちは、上記の問題点を解決するために、以下の戦略を立てました。
  • フッ素(19F)は、MRIのシグナル源となるので、フッ素を含有するアミロイド親和化合物FSB(図1)を設計し合成しました。これはアミロイドを染色するための蛍光色素としても使用することができることもわかっています。
  • 生きている動物(Aβ蓄積モデルマウス)に静脈注射したFSBが脳内に移行し、これがアミロイド斑と結合することを確認しました(図2:海馬を示します)。
  • FSBのシグナルを利用してMRIでアミロイド斑を検知することを試みました。

図2


3. 研究成果
脳内にAβを蓄積するトランスジェニックマウスにFSBを静脈から投与し、麻酔下でMRIを用いて脳の観察を行いました。その結果、Aβが蓄積する部分、すなわちアミロイド斑がある部分に19F-MRシグナル(MRIがFSBを検出した情報)が得られました(図3)。図3のHで強くシグナルを検出している部分を矢印で示しましたが、それが蛍光の標識と合致していることがわかります。

図3

さらに、より高齢の(Aβ蓄積量の多い)マウスを用いると、より強い19F-MRシグナルが得られることも確認しました(図4)

図4

また、予想外の結果として、FSBは通常の1H-MRIのシグナルを増強するコントラスト増感剤としての作用があることがわかりました(図5)。

図5

そして、アミロイド沈着レベルが異なる複数の動物を用いて定量性を検討しました。いずれの方法も、定量性がありましたが、特に19F-MRIは実際のAβ病理ともっともよく相関しました(図6)。

図6


4. 今後の期待
 人間の脳は加齢に伴ってアミロイドβペプチド(Aβ)が蓄積してゆきます。このAβが過剰に蓄積することがアルツハイマー病発症の引き金であると考えられています。今までのところは、患者の死後脳の神経病理を解析することによってのみしか、Aβの蓄積の有無を確認できませんでした。
 脳内におけるAβ蓄積は、実際の発症の数年以上前から始まっていますから、対象が生きたままの状態でこれを可視化することができれば、発症前診断が可能になります。本研究では、フッ素(19F)を含有するアミロイド親和化合物(FSB)をプローブにするという、世界で初めての方法でAβが蓄積したアミロイド斑をMRIで可視化することに成功しました。この研究成果はAβを蓄積するモデルマウスを用いて得られたものですが、将来的にヒトを対象としても可能になると期待されます。実際にヒトを対象とするためには、MRI技術のハード上およびソフト上のさらなる進歩・アミロイド親和化合物の改善(アミロイドに対する親和性を上げたり、1分子あたりの19Fの数を増加させたりすることが考えられます)が必要でしょう。
 この新しい技術を使うと、これまでできなかった多くのことが出来るようになります。たとえば、アルツハイマー病モデル動物の病理変化を生きたまま継続的に観測することができますから、新しい診断マーカーの検索が容易になります。より具体的には、「アミロイドイメージングと疾患プロテオミクスの結合」などの戦略が考えられます。また、治療薬候補の効果も経時的に追跡することが可能になります。つまり、「縦断的検討」が可能になるということです。
 本研究の最終的目標は、生化学的疾患マーカーの同定とMRI技術の発展によって、アルツハイマー病の発症前診断を確立することです。アルツハイマー病は、発症した時点ですでに多くの神経細胞が死滅しており、これが、不可逆的に進行してゆきます。発症前診断が可能になれば、発症潜伏期にある人たちに予防的治療(脳内Aβレベルを低下させる薬剤の投与など)を施すことによって、発症を防ぐことできるでしょう。アルツハイマー病の患者数を大幅に減少させることも夢ではないといえます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 脳科学総合研究センター 神経蛋白制御研究チーム
  チームリーダー  西道 隆臣
  研究員  樋口 真人

Tel: 048-467-9715 / Fax: 048-467-9716
脳科学研究推進部
  佐藤 彩子

Tel: 048-467-9596 / Fax: 048-462-4914

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9271 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp

同仁化学研究所
  佐々本 一美

Tel: 096-286-1515 / Fax: 096-286-1525
熊本県上益城郡益城町田原2025-5
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