プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
人工筋肉を用いたソフトロボットの研究開発
- 全身が柔らかい新しいロボットにつながる大きな一歩 -
平成17年3月3日
◇ポイント◇
  • 人工筋肉を用いて全身が柔軟な「ヘビ型ロボット」を製作
  • このヘビ型ロボットは水中でくねって、前進、後退、回転が可能
  • 今後は小型化および自立化が目標
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、高分子ゲル(IPMCアクチュエータ)※1を使った人工筋肉を用いて、全身が柔らかいロボットを世界で初めて開発しました。理研バイオ・ミメティックコントロール研究センター生物型感覚統合センサー研究チーム向井利春チームリーダーらと独立行政法人産業技術総合研究所(吉川弘之理事長)関西センターのセルエンジニアリング研究部門との共同研究の成果です。
 IPMCは、イオン導電性高分子の膜(ゲル)の両面に金属(金など)をメッキしたもので、水中でこの両面の金属に電圧(2V程度)をかけると、高分子ゲルが変形して屈曲し動力源になります。従来の電磁モータと比べ、柔軟、軽量、無音、小型化が容易などの特徴があります。
 今回研究グループは、1枚のIPMCアクチュエータを領域分割し、ヘビのように泳ぐロボットを製作しました。ロボットは至って単純な構造ですが、前進後退および回転もできます。人工筋肉だけを用いた全身が柔らかいロボットは、世界でも他に例がありません。制御用コンピュータは外部にあり、制御および電源供給のためにケーブルが接続し、外部からエネルギーを供給し、コントロールする仕組みとなっています。
 今後は、制御用に超小型コンピュータを搭載し、また、バッテリを搭載するか無線で電力を供給し、ケーブル無しで動く独立したロボットの開発を目指します。将来は、血管のように傷つけてはいけない管の中を移動し、手術の安全性を高めるような仕事ができるロボットにつなげたいと考えています。
 本研究成果は、『12th SPIE Annual International Symposium on Smart Structures and Materials』(3月6〜10日・サンディエゴ)やロボット関係の国際学会の最高峰の『ICRA2005』(4月18〜22日・バルセロナ)で発表されます。


1. 背 景
 生物のように柔軟に行動できるロボットを製作する際の大きな問題点の一つがアクチュエータです。現在のロボットには主に電磁モータが使われていますが、それには筋肉のように柔らかさが出せないという大きな問題があります。
 そこで、柔らかさが必要な場合には力覚センサー※2を装着し、フィードバック制御を行うことで見かけの柔らかさを実現するという手法(インピーダンス制御)がとられますが、センサーのサンプリング周期以上の動きに追従できない、システムが大型化、信頼性など、一般的に使うには多くの問題があります。他にも電磁モータには、出力重量比、電気ノイズ、サイズなどの問題もあります。こうした問題を解決するために、柔軟なアクチュエータが、人工筋肉という名称で研究されています。
 IPMCアクチュエータ※1はこのように開発が進められている人工筋肉の一つです(図1)。IPMCはIonic Polymer Metal Compositeの略で、イオン導電性高分子の膜の両面に金属(金など)をメッキし、膜の両面に電圧(2V程度)を掛けることにより屈曲するという特徴があります。従来の電磁モータと比較した場合、柔らかさが最大の特徴ですが、さらに、軽量、無音、安定、低電圧動作、高速応答、水に濡れた状態で動作などの特徴があります。
 本研究グループでは、IPMCアクチュエータの特徴である柔らかさを生かすために、全身がIPMCアクチュエータであるソフトロボットの製作を目指して、産業技術総合研究所(関西センター)セルエンジニアリング研究部門と共同で研究を行っています。


2. 研究手法と成果
 1枚のIPMCアクチュエータは電圧を掛けることにより屈曲(図2)しますが、その自由度は1であり、ロボットに必要とされる複雑な動きを行うことができません。胴体部に別の材料を使い、複数のIPMCアクチュエータをそれに接続することでロボットを製作した例はありますが、IPMCは接合が容易ではなく、また、全身が柔らかいロボットにはなりません。
 そこで、我々は1枚のIPMCアクチュエータの電極を電気的に分割するパターニングにより部分ごとに独立した屈曲を可能とすることで、1枚のIPMCアクチュエータからロボットを作り出す手法を開発しました。パターニングは、精度を必要としない場合には機械的に行い、精密な加工が必要とされる場合にはレーザーが使われます(図3)。これにより、全身が柔軟なロボットを少ない手順で製作することができます。構造が単純なため、小型化も容易であると推測されます。
 パターニングの手法を用い、1枚のIPMCアクチュエータを7つの領域に分割することにより、ヘビのようにくねって遊泳する全長140mmのロボットを製作しました(図4)。それぞれの領域に位相をずらしたサイン波の電圧を与えることにより、波をロボットにそって伝播させることで遊泳します(別紙1参照)。速度は4.22mm/sです。前後で対称な構造なので、位相を逆にすることで後退することができます。また、左右非対称の、のこぎり波状の電圧を与えることにより、回転も可能です。
 同様の手法で、ヘビ状のIPMCアクチュエータの一端を固定し、1枚のIPMCアクチュエータからソフトアームを作る研究も行っています。


3. 今後の展開
 現在、制御用コンピュータは外部にあり、制御および電源供給のためにケーブルが接続されています。最終的には制御用に超小型コンピュータを搭載し、また、バッテリを搭載するか無線で電力を供給し、ケーブル無しで動く独立したロボットにしたいと考えています。また、構造が単純なため、小型化も可能だと考えています。将来的には、血管のように傷つけてはいけない管の中を移動し仕事ができるロボットにつなげられたらと考えています。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 バイオ・ミメティックコントロール研究センター
  生物型感覚統合センサー研究チーム
   チームリーダー 向井 利春

Tel: 052-736-5866 or 052-736-5867 / Fax: 052-736-5868

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 IPMCアクチュエータ
イオン導電性高分子(高分子電解質ゲル)の両面に電極を接合した接合体であり、電極間に電圧をかけることにより屈曲する。IPMC(Ionic Polymer Metal Composite)アクチュエータやICPF(Ionic Conductive Polymer Film)アクチュエータと呼ばれる。1991年に工業技術院大阪工業試験所において小黒らにより発見された。電圧をかけると陽イオンが移動し、それに伴い水分子も移動するので、片面が膨張、逆の面が収縮し、その結果屈曲する。特徴として
  • 柔軟
  • 軽量
  • 動作時無音
  • 非常に安定,長寿命
  • 低い電圧(±0.5〜3V)で動作
  • 高速応答(数十Hz)
  • 力は弱い、水が必要
などが挙げられる。
※2 力覚センサー(図5)
歪ゲージを複数枚組み合わせ、力やトルクを計測できるようにしたセンサー。ロボットのリスト部や指先に装着して使われる。力覚センサーから先の部分にかかる力やトルクを計測し、それに応じてロボットの動きを制御することで、センサフィードバックにより柔らかな動作を実現することができる。


<別紙1>






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