プレスリリース 山之内製薬
独立行政法人 理化学研究所
山之内製薬と理化学研究所システムバイオロジーで体内時計の遺伝子ネットワークの心臓部を解明
- Nature Geneticsに発表 -
平成17年1月24日
山之内製薬株式会社(社長:竹中登一)創薬研究本部分子医学研究所(所長:加藤正夫)及び独立行政法人理化学研究所(理事長:野依良治)神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター(センター長:竹市雅俊)は、体内時計の遺伝子ネットワークの心臓部を解明することに成功し、1月23日のNature Geneticsオンライン版に発表する。

体内時計は体内の昼夜のリズム(体内リズム・概日リズム)を作り出す仕組みで、これまでに16個の遺伝子(時計遺伝子および時計関連遺伝子)が体内時計の部品となっていることが知られている。しかしながら、これらの16個の遺伝子がどのような仕組みで体内時計を構成しているのかは明らかになっていなかった。同発表では、16個の遺伝子からなる体内時計の遺伝子ネットワークの全体像を明らかにすることによってネットワークの心臓部を特定した。またこれら16個の遺伝子が朝・昼・夜といった特定の時間に活動する仕組みの動作原理を明らかにした。

体内時計は、睡眠や覚醒、血圧や体温の変動、ホルモン分泌といった生理機能の24時間リズムを管理している。そのリズムが乱れることで惹き起こされる疾患や症状には、不眠症やうつ症状、時差ボケ、登校拒否症や痴呆症の周辺症状である夜間徘徊などが知られている。さらに最近では薬の効き目などへの関与も明らになっている。今回の成果は、リズムの変調によって惹き起こされる様々な疾患の治療や予防に大きく道を開くものである。

今回の発表のような遺伝子ネットワークの全体像を解析する研究分野は、システムバイオロジーと呼ばれている。システムバイオロジーは、ダイナミックで複雑な生命現象をネットワークとして理解することを目的とする新しい生命科学分野で、分子生物学の次を担う生命科学として期待されている。2003年のヒトゲノム配列の完全解読をはじめとして数多くの生物のゲノム配列が次々と決定され生命を理解する枠組み(パラダイム)が大きく変わろうとしている現在において、システムバイオロジーは基礎分野だけではなくゲノム創薬といった応用分野においても最先端の研究分野として注目されている。今回の成果は、システムバイオロジーのモデルケースとして生命科学のパラダイムシフトに大きく貢献するものと期待される。

今回の研究成果は、NEDO(新エネルギー産業技術共同開発機構)「細胞内ネットワークのダイナミズム解析技術開発」プロジェクトにおける山之内製薬の橋本誠一主席研究員のグループと文部科学省からの科学研究費補助金およびNEDOからの研究費のサポートを受けた理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター システムバイオロジー研究チーム 上田泰己チームリーダーを中心に行ったものである。また本研究を実施するにあたり近畿大学、東京大学や産業技術総合研究所からも協力を受けた。

以上

(ご参考)論文の要旨

Nature Genetics
タイトル System-level Identification of Transcription Circuits Underlying Mammalian Circadian Clocks
著者 Hiroki R. Ueda, Satoko Hayashi, Wenbin Chen, Motoaki Sano, Masayuki Machida, Yasufumi Shigeyoshi, Masamitsu Iino & Seiichi Hashimoto
タイトル 哺乳類の体内時計を支える転写回路のシステムレベルの同定
著者 上田泰己、林聡子、陳文彬、佐野元昭、町田雅之、重吉康史、飯野正光、橋本誠一
要旨 哺乳類の体内時計は複雑に統合された制御ループからなっており、システムのダイナミクスの精緻な測定やネットワーク回路の包括的な同定なしには、理解することが困難である。この転写ネットワークをシステムとして理解するために、我々は16個の時計遺伝子及び時計関連遺伝子のプロモーター・エンハンサー領域を解析対象として進化上保存された転写制御配列を包括的に探索し、これらの制御配列からの転写ダイナミクスを測定することで時計制御配列を機能的に同定した。その結果、3つの時計制御配列(E-box/E’-box、D-box、RRE)の役割を明らかにし、それぞれ9個の遺伝子、7個の遺伝子、6個の遺伝子上に進化的に保存されていることを見出した。これらの結果から、体内時計の転写制御が以下の二つの設計原理で支配されていることを示した。すなわち、(1)E-box/E’-boxとRREの転写制御は、「転写抑制が転写活性化に先行」するメカニズムに従い転写出力の遅れを生み出しうること、一方、(2)D-boxの転写制御は、「転写抑制が転写活性化と逆位相」になるメカニズムに従い高振幅の転写出力を生み出しうること、を示した。さらに、E-box/E’-boxの転写制御が哺乳類の体内時計の転写回路のアキレス腱(弱点)になっていることをネットワーク解析によって構造的に予測し、新規に開発した試験管内表現型解析システムを用いて機能的に証明した。


図:哺乳類の体内時計を支える16遺伝子からなる転写制御ネットワーク

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