プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
シロイヌナズナ転写因子の「DNAブック」完成について
- 理研の植物遺伝子リソースおよび遺伝子技術を活用した画期的な研究成果 -
- 植物遺伝子リソースの流通促進と植物科学研究を加速するための有望な基盤技術として今後大きな期待 -
平成16年12月6日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、保有するシロイヌナズナ※1の転写因子の完全長cDNAクローン※2を固定したDNAブック※3、「RIKEN Arabidopsis cDNA Encyclopedia DNABookTM」(資料参照)を作製しました。高等植物の完全長cDNAクローンが初めて書籍の形式で配布可能になり、植物研究への貢献が期待されます。理研横浜研究所ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)植物ゲノム機能情報研究グループの篠崎一雄プロジェクトディレクターと遺伝子構造・機能研究グループの林崎良英プロジェクトディレクター*及び理研筑波研究所バイオリソースセンター(森脇和郎センター長)リソース基盤開発部実験植物開発室の小林正智室長らによる成果です。
 転写因子は複数の遺伝子の働きをコントロールする司令塔の役割を持った重要なグループの遺伝子です。植物では動物に比べて2倍もの転写因子遺伝子が存在し、様々な生理機能に関わっていることが明らかにされています。植物ゲノム機能情報研究グループの解析によりシロイヌナズナには1,978個の転写因子が存在すると予想されていますが、今回作製したDNAブックにはこのうちの1,069個がスポットされています。これら転写因子の詳細情報はホームページ(http://rarge.gsc.riken.jp/rartf/)より公開され、DNAブックとあわせて植物科学の様々な研究分野に貢献していきます。なお今回刊行するDNAブックは理研ゲノム科学総合研究センターより共同研究者向けに提供されるとともに、一部は理研バイオリソースセンターより一般研究者にも配布される予定です。
 本研究成果は、12月8〜11日・兵庫県神戸市で行われる『第27回分子生物学会』において発表されます。
*:独立行政法人科学技術振興機構、プレベンチャー事業、DNAブックチームリーダー兼務


1. 背 景
 2000年12月に日本の研究機関を含む国際研究チームによって、高等モデル植物の一つ「シロイヌナズナ」の全ゲノムが解析され、植物の機能解析が飛躍的に進歩しました。植物ゲノム機能情報研究グループでは、シロイヌナズナ遺伝子(完全長cDNA)のすべてを取り出し、その塩基配列情報などを体系的に整理した辞書となる「シロイヌナズナ遺伝子エンサイクロペディア(百科事典)」の作成を目指して、機能情報の注釈付けを行っています。遺伝子構造・機能研究グループと共同して19個のシロイヌナズナ完全長cDNAライブラリーを作成し、その中から約18,000種(全遺伝子の約70%)の独立した完全長cDNAを単離し、塩基配列情報を解読し、その配列情報を公開しました。それらの成果は米国の科学誌Science(2002年4月5日号および2003年10月31日号)に発表しました。また、バイオリソースセンターからこれまでに約10,000個のシロイヌナズナ完全長cDNAクローンが国内外の植物研究者に分譲されており、単離されたシロイヌナズナ完全長cDNAクローンは、世界の植物研究における標準的な遺伝子リソースになっています。
 しかしながら、大量の遺伝子クローンを研究者に分譲する場合、従来の方法(凍結大腸菌または抽出DNAをチューブやプレートに入れて送付する方法)では、多大な手間と経費がかかるという問題がありました。最近、遺伝子構造・機能研究グループは上記の問題をクリアする新規な遺伝子クローン頒布法、「DNAブック」※3を開発し、これまでにマウス遺伝子6万個を1冊の本に収めた「マウスDNAブック」やヒラメのDNAマーカーや魚病診断に必要なDNA材料を印刷した「アクアDNAブック」を作製してきました。今回、この「DNAブック」技術を用いて植物で初めてシロイヌナズナの転写因子の完全長cDNAクローンを頒布することを計画しました。


2. 研究成果
 研究グループでこれまでに単離したシロイヌナズナ完全長cDNAクローン中に、転写因子をコードすることが予想されるクローンが1069個存在していました。研究グループは、この1069個のシロイヌナズナ転写因子を1冊の本に収めた「シロイヌナズナDNAブック」を今回作製しました。この「シロイヌナズナDNAブック」では、転写因子はファミリー毎に分類された状態でスポットされており、各転写因子ファミリーを研究する植物研究者にも利用しやすい形になっています。
 スポットした転写因子の詳細情報(機能モチーフ、マイクロアレイ解析による発現プロファイル、選択的スプライシング、Ac/Dsトランスポゾン挿入変異系統、などの情報)は、シロイヌナズナの全転写因子を扱うデータベースRARTF(RIKEN Arabidopsis Transcription Factor Database; http://rarge.gsc.riken.jp/rartf/)より公開されています。今回作製した「シロイヌナズナDNAブック」は、データベースRARTFとあわせて利用することにより植物科学の様々な研究分野への貢献が期待されます。
 今回作製した「シロイヌナズナDNAブック」は理研ゲノム科学総合研究センターより共同研究者向けに配布されるとともに、一部は理研バイオリソースセンターより一般研究者にも提供される予定です。


3. 今後の展開
 植物ゲノム機能情報研究グループでは、これまでに単離したシロイヌナズナ完全長cDNA(転写因子を含む)を活用した遺伝子の発現・機能解析等に関して、国内外の研究機関とさらに積極的に共同研究を推進していきます。応用面でも、植物の乾燥や低温など環境ストレス耐性に関わる遺伝子、植物の光合成能の向上や生産性の向上に関わる遺伝子、脂質や糖質など種々の物質生産に関係する遺伝子、植物の生長制御に関係する遺伝子など有用な遺伝子の探索に役立てていきたいと考えています。
 今回、高等植物の完全長cDNAクローンが初めて書籍の形式で配布可能になりました。研究グループでは、シロイヌナズナの完全長cDNAクローン以外にも国内の研究機関と共同して他の植物(コムギ、オオムギ、ダイズ、ポプラ、ヒメツリガネゴケなど)の完全長cDNAクローンの単離も進めています。それら植物遺伝子がスポットされた単行本が将来作製され、植物科学分野の研究者の机の上に種々の植物の巨大容量のcDNAバンクが出現する時代の到来が予想されます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所 横浜研究所 ゲノム科学総合研究センター
 植物ゲノム機能情報研究グループ
プロジェクトディレクター  篠崎一雄
上級研究員  関  原明

Tel: 045-503-9625 / Fax: 045-503-9586


独立行政法人理化学研究所 横浜研究所 ゲノム科学総合研究センター
 遺伝子構造・機能研究グループ
  プロジェクトディレクター
 (独立行政法人科学技術振興機構、プレベンチャー事業、
DNAブックチームリーダー兼務)
林崎良英
チームリーダー  河合  純

Tel: 045-503-9222 / Fax: 045-503-9216


独立行政法人理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター
 リソース基盤開発部 実験植物開発室
室長  小林 正智

Tel: 029-836-9067 / Fax: 029-836-9053

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 シロイヌナズナ
学名はArabidopsis thaliana L. Heynh.、全長約30〜40 cmのアブラナ科1年生草本植物。食用でも観賞用でもない、いわゆる雑草である。シロイヌナズナは実験室内の環境において約2か月で次世代の種子をつけること、ゲノムのDNA配列が全て解析済みであることなどから、代表的なモデル実験植物として全世界で幅広く用いられている。
※2 完全長cDNAクローン
cDNAとは、ゲノムDNAの中から不要な配列を除き、タンパク質をコードする配列のみに整理された遺伝情報物質であるmRNAを鋳型にして作られたDNAのことである。完全長cDNAは、断片cDNAと異なり、タンパク質を合成するための設計情報をすべて有しているため、タンパク質を合成することができる。この完全長cDNAを効率的に合成するためには、非常に高い技術が必要とされ、わが国が世界に先んじている。
※3 DNAブック
DNAを固相化して紙に固定し、書籍の形にする技術。通常の宅配便などで多種類のDNAを印刷された情報とともに研究者に配布することが可能で、かつ受け取った研究者は容易な方法により短時間のうちに必要なDNAを回収することができる。
(参照)http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2003/030416/index.html


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