プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
光リソグラフィーの限界を破る
- 集積回路の製造に新たな一歩 -
平成16年5月25日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は可視光を用いて50ナノメートル幅の金属の微細パターンを感光性樹脂に転写することに成功しました。フロンティア研究システム(丸山瑛一システム長)励起子工学研究チームの羅先剛(ルオ・シェヌガン)研究員と石原照也チームリーダーによる研究成果です。
 これまで、集積回路などの微細構造の作製では、光を用いて透明基板上の微細パターンを転写する方法が使われてきましたが、波長の半分以下に結像させることができないという物理的限界のために、より小さな構造を作製するためには、より波長の短い紫外線などを使うことが検討されてきました。
 今回の研究では、436ナノメートルの紫色の光を、電気伝導性のよい銀のパターンに照射し、表面プラズモン※1と呼ばれる励起状態を作ることによって、50ナノメートルの幅の周期構造を作製することに成功しました。表面プラズモンは励起する光に比べて波長がずっと短いために、微細な電場分布が生じることを利用したものです。研究チームによって、表面プラズモン共鳴干渉ナノリソグラフィー法(Surface Plasmon Resonant Interference Nanolithography Technique: SPRINT)と名づけられたこの手法は、マスク部分を交換するだけで、従来の露光装置を利用して従来の限界を大幅に超える微細な構造を作製できるため、より高度な半導体集積回路の実現に向けた応用が期待されます。 本研究成果は、米国の科学雑誌『Applied Physics Letters』6月7日号として発表されます。


1. 背 景
 半導体集積回路は微細化によって性能を向上させ、社会を質的に変革させています。ここで微小なパターンを作製するリソグラフィー技術は半導体製造においてもっとも重要なものの一つです。光を用いてパターンを転写する光リソグラフィーは大量生産に適しているため、現在の主力ですが、光の回折により決まる物理的な限界のため、より高密度化をめざすためには、波長の短い光を使うことが検討されています。そのためには、光源やレジスト材料の開発など多大な設備投資が不可避とされてきました。しかし、物質の励起状態をうまく利用することによって、従来の限界を打ち破る可能性がでてきました。


2. 研究手法と成果
 表面プラズモン共鳴干渉ナノリソグラフィー法(SPRINT)は金属表面の表面プラズモンが同じ振動数の光に対してはるかに小さな波長をもつことを利用することにより、超微細構造を作製しようとするものです。このような表面プラズモンは通常は光と結合しませんが、周期的な構造の助けをかりて励起することができます。まず石英基板に蒸着した厚さ60nmの銀薄膜に対して電子線リソグラフィー法※2を用い、幅60nmの矩形状の開口部を300nmの間隔で周期的に作製しました。436nmの可視光をこの構造に照射して発生した近接場を、密着した半導体基板に塗布した感光性樹脂に感光させました。現像の結果50nm幅の溝構造が作製されたことを走査電子顕微鏡で確認することができました。これは従来の回折限界で予想されるよりもはるかに優れた解像度を実現できたことを示しています。数値計算で銀パターン近傍の電場の分布を調べたところ、近接場の電場は強く、分布は深さ方向に比較的一様で、従来の近接場リソグラフィーのように厳密な密着性は必要ないことがわかりました。さらに、一般的なパターンを作製する方法として、光を結合させる周期構造と近接場を制御する微細構造の間に、薄い金属層を設ける方法も提案しています。


3. 今後の展開
 可視光を用いた光リソグラフィーで50nmの構造を作製することができました。これは金属の励起状態である表面プラズモンを介して通常の光リソグラフィーの限界(光波長の半分)を破る高い空間分解能を実現できることを示したものです。今回の論文では比較的簡単な構造についてデモンストレーションがなされました。一般には干渉効果によってマスクの形状と作製できるパターンの間に簡単な関係がつけられず、あるパターンを作成するためのマスク形状を求めるには、数値計算を用いた試行錯誤が必要となります。しかし様々な工夫によって任意の形状の作製も可能となり、集積度の高い半導体集積回路が安価に実現できることが期待されます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 フロンティア研究システム 励起子工学研究チーム
  チームリーダー 石原 照也

Tel: 048-467-9604 / Fax: 048-462-9597
(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9271 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 表面プラズモン
金属などの表面近傍に存在する電磁波で自由空間を伝播することはできない。同じ振動数をもつ自由空間の光より短い波長をもつ。
※2 電子線リソグラフィー法
加速した電子ビームを用いて微細なパターンを作製する方法。数nm程度までの微小な構造が作製できるが、描画に時間がかかるため大量生産には向かない。






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