プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
アレルギー症状を調節する分子スイッチ機構を解明
- アレルギー疾患治療につながる大きな一歩 -
平成16年5月1日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、アレルギー症状を調節する分子機構を明らかにしました。免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫シグナル研究グループの斉藤隆グループディレクターらの研究グループによる研究成果です。
  これまで、アレルギー症状の引き金はアレルゲン※1に特異的なIgE※2がアレルゲンと結合して肥満細胞を活性化することであると考えられていました。ところが最近、アレルゲンに結合しないIgEでも肥満細胞※3の生存延長を促し、アレルギー症状の増悪に関与している可能性が示唆されていました。今回の研究では、研究グループが開発したノックアウトマウス※4とキメラ分子※5を用いることにより、これまで謎であった肥満細胞の生存延長につながる分子機構が明らかになりました。
 研究グループによれば、同一のIgEレセプター※6を介するにも関わらず、肥満細胞は刺激の強さと持続時間を感知して異なった信号を伝達し、アレルギーを引き起こす「脱顆粒(だつかりゅう)※7」と、「細胞の生存延長」という異なった応答を切り替えるスイッチを持っていることが初めてわかりました。
 これらの成果は、肥満細胞の応答の調節機構を分子レベルで解明した世界で初となる研究成果で、人間のアレルギー発症機構に迫るとともに、アトピー性皮膚炎、花粉症を始めとしたアレルギー疾患の新たな治療法につながるものと期待されます。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『nature reviews immunology』(5月1日号)に掲載されます。


1. 背 景
 くしゃみ、鼻水、鼻づまりといったアレルギー症状の発症には肥満細胞と呼ばれる細胞が重要な役割を果たしていることが分かっています。アレルギー体質に人に多いIgEと呼ばれる抗体はまず肥満細胞のIgEレセプターに結合します。この後このIgEに特異的な抗原(ダニ抗原、スギ花粉などのアレルゲンなど)が結合すると、IgEレセプターの凝集が起きます。このことが引き金となってIgEレセプターからはシグナルが伝達され、アレルギー症状を直接引き起こすヒスタミンなどの顆粒の放出が起こる(脱顆粒)と考えられています。ところが、近年、IgEがIgEレセプターに結合するだけで肥満細胞の生存延長を促すことが分かってきました。この生存延長のメカニズムは全く分かっていませんでしたが、我々は以前の研究でIgEレセプターのγ(ガンマ)鎖を介するシグナルが必須であることを明らかにしました。同じ細胞で同じレセプターを介するのにも関わらず、肥満細胞はどのようにして異なった応答を使い分けているのでしょうか(図1)。発表者らは細胞には刺激の強さを感知して応答を切り替えるスイッチが備わっているのではないかという仮説を立て、研究を行いました。


2. 研究手法と成果
 γ鎖欠損マウスの骨髄細胞を用いて、図2に示すような「CD8※8/γキメラ分子を発現する肥満細胞」を創り出すことによって、抗CD8抗体を用いて刺激の強さと持続時間を調節することができるシステムを開発しました。実際、抗CD8抗体はこの細胞を効率よく刺激できることがわかり、このシステムを用いて仮説の検証を試みました。更に、刺激の強さを変える別のアプローチとして、二量体化できないCD8/γキメラ分子も作成して(図2 CD8(CS)/γ)同様に検討しました。
 実際、脱顆粒には強い刺激が必要なのに対し、生存延長は低い刺激から誘導されたことから、仮説の一部が証明されました。更に、図3に示すように更に刺激の強さと持続時間をコントロールしながらその関係を調べたところ、脱顆粒は刺激の強さによって決定され、生存延長は刺激の持続時間によって決定されていることが判明しました。刺激の強さは主にカルシウム濃度という情報に、また持続時間は持続したErkと呼ばれるキナーゼの活性化という情報に変換されて伝わり、下流へ伝達されていることも判明しました。


3. 今後の展開
 以上より、IgEレセプターは刺激の強さや持続時間を感知して異なった応答を使い分けるスイッチと連結していることが明らかとなりました。発表者らは更にその鍵となる信号機に相当する分子(図4)に関しても解析を進め、現在その候補を見いだしています。このように、肥満細胞の応答を調節する分子メカニズムが明らかになってくれば、信号機を人為的に青にしたり赤にしたりするアプローチが可能となり、将来花粉症、アトピー性皮膚炎に代表されるアレルギー疾患の諸症状を制御できるようになることも期待されます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所 横浜研究所
 免疫・アレルギー科学総合研究センター
  免疫シグナル研究グループ
   グループディレクター  斉藤  隆

Tel: 045-503-7037 / Fax: 045-503-7036
(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 アレルゲン
アレルギー反応を引き起こす抗原。ダニ抗原、スギ花粉などが良く知られている。
※2 IgE
石坂公成博士(RCAI・特別顧問および米国・ラホイアアレルギー免疫研究所名誉所長)によって発見されたアレルギーを引き起こす抗体。
※3 肥満細胞
鼻の粘膜などに分布し、くしゃみ、鼻水などのアレルギー反応を起こすヒスタミンを含む細胞。スギ花粉などに対して反応するIgE抗体と結合しやすく、IgE抗体が攻撃を始めるとヒスタミンを放出し、花粉症の諸症状があらわれる。
※4 ノックアウトマウス
ある特異的なタンパク質のみを作る遺伝子を人為的に欠損させたマウス。タンパク質の生体での機能、疾患との関係を調べるのに有用。
※5 キメラ分子
別々のタンパク質を融合させたタンパク質。それぞれの特徴的な機能を持つ部分を組み合わせることで、新たな機能を付与することができる。
※6 IgEレセプター
IgEが結合するレセプター。ここでは高親和性レセプターを指し、肥満細胞、好塩基球に発現している。
※7 脱顆粒
肥満細胞の細胞内に蓄えられている顆粒が放出されること。顆粒内にはヒスタミンを始めアレルギー症状を発症させる分子が多く含まれている。
※8 CD8
CD8とは本来T細胞に発現する細胞表面分子で肥満細胞には発現しておらず、γ鎖を自由自在に刺激できるように道具として人工的に融合させたものである。アレルゲン刺激を模倣したものである。





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