プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
国立大学法人東京大学
中間質量ブラックホール形成のメカニズムを解明
平成16年4月15日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人東京大学(佐々木毅総長)を中心とする国際共同研究グループ※1は、スターバースト銀河※2(M82)星団(MGG11)の中心近くに発見された、太陽の質量の一千倍近くの質量を持つ「中間質量ブラックホール」※3の形成メカニズムを解明しました。
 理研中央研究所・戎崎計算宇宙物理研究室のホルガー・バウムガルト研究員、東大大学院理学系研究科天文学専攻の牧野淳一郎助教授らによる研究成果です。
 日本の X 線観測衛星「あすか」による観測で存在が推定されていたM82 の中心の明るいX線源の正確な場所がNASA の X 線観測衛星 「Chandra (チャンドラ)」※4による観測で確定しました。さらに、「すばる」による観測から、この X 線源が明るい星団と一致していることがわかりました。理研・東大グループは、これらの新発見に対して、2001年に「若い星団の中で恒星が中心に落下して次々と合体して暴走的に成長し、大質量星となってそれがブラックホールになる」という中間質量ブラックホール形成のシナリオを提案していました。しかしながら、実際に M82 の中間質量ブラックホールがある星団でそのようなことが起こるかどうかについては、星団の半径や質量が分からなかったためにはっきりしないままでした。その後ハッブル宇宙望遠鏡やハワイのKeck望遠鏡の観測で、星団の明るさや大きさがわかり、これらのデータをもとにしたシミュレーションの結果、中間質量ブラックホールをもつ星団(MGG11)の場合には、星団の中心で大質量星の暴走的合体が起こり、太陽質量の 1000倍程度の超大質量星が形成されることがわかりました。これらの結果は、大質量星の暴走的な合体が MGG11 では実際に起こった可能性が極めて高いことを示唆しています。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature』(4月15日号)に掲載されます。


1. 背 景
 NASA (米国航空宇宙局)の X 線観測衛星 「Chandra(チャンドラ)」 による観測で、日本の X 線観測衛星「あすか」によって存在が推定された M82銀河 の中心の明るいX線源の正確な位置が確定し、「チャンドラ」でも分解できないほど小さな X 線源であることがわかりました。これらの X 線による観測と国立天文台ハワイ観測所の「すばる」による赤外線観測との比較によって、観測誤差の範囲内で一致した場所にX 線源が非常にコンパクトで若い星団であることがわかりました(参考: 2000年9月の京都大学によるプレスリリースhttp://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/research/xray/press200009/)。
 鶴剛(つるたけし)京大助教授をはじめとするグループによるこれらの一連の研究結果は、このX線源が、太陽の 1000倍ほどの質量を持つブラックホールであることを示しています。この発見以前には、ブラックホールは太陽の質量(1.989×1030kg)の10 倍前後の「恒星質量」ブラックホールと、銀河の中心にあり太陽の100万倍以上の質量を持つ「超巨大」ブラックホールしか知られていなかったので、この「中間質量」ブラックホールの発見は、新種のブラックホールの発見というだけでなく、「超巨大」ブラックホールの形成メカニズムの理解の手がかりとなる可能性が高いという意味でも注目されました。


2. 研究成果
 理研・東大グループは、これらの新発見に対する解釈として、2001年に「若い星団の中で恒星が中心に落下して次々と合体して暴走的に成長し、大質量星となってそれがブラックホールになる」という中間質量ブラックホール形成のシナリオを提案していました。しかし、実際に M82銀河 の中間質量ブラックホールがある星団でそのようなことが起こるかどうかについては、星団の半径や質量がはっきり分からなかったために謎のままでした。このために、理研・東大グループのシナリオは有力なものの一つと考えられはしたものの、決定的なものとなるには至りませんでした。
 2003 年になって、ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線観測でこの星団を含むM82のスターバースト領域のいくつかの星団の明るさ、大きさが精密に決定され、さらにハワイの Keck 望遠鏡※5による分光観測で星団の中の星の速度分布がわかりました。これらの観測データを使うと、計算機シミュレーションによって星の暴走的な合体が起きるかどうかを判定することが可能になります。つまり、いろいろな初期条件から星団の進化のシミュレーションを行い、大きさ、明るさなどが観測と一致するようにしたときに、暴走的な合体※6が起こったかどうかを調べればよいわけです。すばる望遠鏡の観測ではM82は11個の星団が発見されています。それらはMGG9やMGG11などの呼ばれ方をしています。
 暴走的な合体が起きるかどうかを確実に判定するには、実際の星団に含まれる星の数になるべく近い数の星から出来た星団を計算機の中に作って、その進化を調べる必要があります。これは従来あまりに膨大な計算量のため不可能でしたが、東大の開発した世界最高速の多体問題専用計算機 GRAPE-6※7 によってそのような大規模なシミュレーションが可能になりました。シミュレーションの結果、中間質量ブラックホールがある星団 (MGG11) の場合には、星団の中心で大質量星の暴走的合体が起こり、太陽質量の 1000倍程度の超大質量星が形成されることがわかりました。 このような超大質量星は質量をあまり失わないでブラックホールになると考えられているので、そのまま中間質量ブラックホールが形成された考えて差し支えありません。
 これに対して、 M82銀河 のスターバースト領域の中で最大の星団(MGG9) では、その質量が MGG11 星団の 4 倍と大きいにもかかわらず明るい X 線源は見つかっておらず、その理由が分かりませんでした。しかし、 GRAPE-6 によるシミュレーションでは、 MGG9星団 では星の暴走的な合体は起こらなかったのです。この違いは、理論的には「緩和時間」の違いによります。
 星団の中では重い星は次第に運動エネルギーを失って星団の中心に沈んでいきますが、どれくらい速く沈むかを決めるのがこの「緩和時間」※8です。MGG11星団 に比べて MGG9星団 は緩和時間が 5 倍も長いために、重い星が中心に沈む前に寿命が尽きてしまうのです。
 今回の「Nature」 に掲載されたこれらの結果は、大質量星の暴走的な合体が MGG11星団 では実際に起こった可能性が極めて高いことを示唆しています。 言い換えると、中間質量ブラックホールの形成メカニズムとして大質量星の暴走的な合体が最も自然なものであるということです。


3. 今後の展開
 今回の研究で中間質量ブラックホールは、高密度星団の中で星の暴走的な合体で生まれた星の超新星爆発で誕生することがほぼ確定しました。その後、星団全体が中間質量ブラックホールを保持したまま銀河の中心に落下します。宇宙初期の生まれたばかりの銀河では、激しいスターバーストが起こったはずです。一度にたくさんの中間質量ブラックホールが産れたことでしょう。銀河中心近くに運ばれて解放された中間質量ブラックホールたちは、お互いに合体して、巨大ブラックホールに成長します。一方で、星団は母銀河の潮汐力などで破壊され星を撒き散らします。これらの星は、銀河のバルジになると考えられます。今回の研究はこのような一連の銀河の進化における重要な一過程を明らかにしたものです。このように合体と成長とそれに伴う大爆発を繰り返しながら、やがては銀河の中心の巨大ブラックホールに成長していきます。数多くのシミュレーションを行うことにより、巨大ブラックホール起源について重要な示唆が与えられる可能性があると期待しています。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 中央研究所 戎崎計算宇宙物理研究室
  研究員 ホルガー・バウムガルト

Tel: 048-467-9417 Fax: 048-467-4078
Mail: holger@riken.jp
  主任研究員 戎崎 俊一

Tel: 048-467-9414 Fax: 048-467-4078
Mail: ebisu@postman.riken.go.jp

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
  助教授 牧野淳一郎

Tel: 03-5841-4252/4276 Fax: 03-5841-7644
Mail: makino@astron.s.u-tokyo.ac.jp

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp

国立大学法人東京大学 総務部広報課
 松井 潤一

Tel: 03-5841-2031 Fax: 03-3816-3913


<補足説明>
※1 国際共同研究グループ
この国際共同研究グループのメンバーは、ホルガー・バウムガルト(理研)、牧野淳一郎(東大)、サイモン・ポーテギース=ツバート(オランダ・アムステルダム大学)、ピート・ハット(米国・プリンストン高等研究所)、スティーブ・マクミラン(米国・ドレクセル大学)である。
※2 スターバースト銀河
最近(数百万年から数億年程度の間)に非常に沢山の星が新しく生まれた、あるいは現在も生まれつつある銀河。爆発(バースト)的に星が生まれたということからスターバーストという。星が爆発しているからスターバーストというわけではない。が、特にII型超新星は大質量で寿命の短い星の最後の姿であるので、スターバースト銀河では起こりやすい。M82 は我々の銀河系にもっとも近くにあるスターバースト銀河である。数億年前に M81 銀河と近接遭遇をして内部のガスの運動をかき乱されたのがスターバーストのきっかけだと考えられている。
※3 中間質量ブラックホール
太陽の質量の 100 倍から 10万倍程度までの質量のブラックホールのこと。従来、観測的に見つかっていたブラックホールは、太陽の10 倍前後の質量を持つ恒星質量ブラックホールと、太陽の100万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールの2種類のみであった。恒星質量ブラックホールは銀河内に散在しているが、超巨大ブラックホールは一つの銀河には一つ、銀河中心にのみ存在する。 中間質量ブラックホールはこの間の「ミッシング・リンク」であり、 中間質量ブラックホールがどのようにして形成されたかを理解することは超巨大ブラックホールの形成の理解の鍵になると考えられている。
※4 Chandra
NASA の宇宙大望遠鏡計画の一環として打ち上げられた X 線観測衛星。地上の光学望遠鏡に勝るとも劣らない角度分解能と高い感度を誇る。
※5 Keck 望遠鏡
ハワイ・マウナケア山頂にある 8m クラスの大型望遠鏡の一つ。カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学、 NASA によって運用されている。特に分光器に特徴がある。
※6 暴走的合体
非常に星の密度が高い星団の中心部のさらに密度が高いところでは、星同士の衝突が頻繁に起こると考えられている。この時、合体して重くなった星は半径も大きくなり、また重力の効果も大きくなるためにますます他の星と衝突・合体しやすくなり、この星だけがどんどん合体を繰り返して大きく成長するという現象が起こる。これを暴走的合体という。
※7 GRAPE
東京大学で 1989 年から開発を続けている天文シミュレーション専用計算機。最新の GRAPE-6 は2002 年に完成し、 64 Tflops (Tflops は1秒に1兆回の演算を行なう速度)と2004 年現在でも、理研のMDM(75Tflops)とともに世界最速の計算機である。(次は 40 Tflops の地球シミュレータ)
※8 緩和時間
星団の中では、星同士の重力的な相互作用で一つ一つの星の軌道が次第に変わっていく。その変わるのにかかる時間尺度のこと。緩和時間は星の密度が高いと短いが、星の速度が大きいと急激に長くなる。一般に軽い(星の数が少ない)星団よりも重い(星の数が多い)星団のほうが、密度は高いが速度も大きく、結果的に緩和時間が長くなる。


図1.高密度星団における恒星の衝突
スターバースト銀河M82の高密度星団MGG-11の中心においては、恒星同士の衝突による巨大星が形成されることが星団のシミュレーションにより明らかになった。挿入図は、太陽の53倍と18倍の重さを持つ二つの恒星の合体のシミュレーション結果である恒星の衝突のシミュレーション結果を可視化したものである(米国Vassar大学のJames Lombardi博士によって行われたシミュレーションをもとに、武蔵野芸術大学の三浦均助教授によって可視化されたもの)。


図2.M82(右)とM81(左)


図3.スターバースト銀河M82


図4.M82のX線星と高密度星団
X線天文衛星チャンドラによるM82の中心部のX線画像(オレンジ色)。丸印と四角印はすばる望遠鏡によって観測された星団の位置を表している。MGG-11の位置の近くにX線星がある。これが中間質量ブラックホールと考えられている。MGG-9の近くには何もない。


図5.星団の中心における巨大星の成長
星団のシミュレーション結果。数百万年ぐらいの時間で、暴走的な合体により星団の中心に巨大星が形成される。


図6.暴走的合体が起こる条件
緩和時間(横軸)と半径における、暴走的な合体が起こる条件がシミュレーションの結果からはっきり分かった。MGG-11は緩和時間が十分短いので大質量星が次々と中心に落下して暴走的な合体が起こる。MGG-9では、緩和時間が長いので、大質量星が落下する前に進化してしまう。


図7.GRAPE-6
星団のシミュレーションに使われた重力多体問題専用計算機GRAPE-6の写真

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