独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)のナノ物質工学研究室(武内一夫主任研究員)が開発した世界最高レベルの分析能力を持つ、ナノ粒子測定技術をベースに、理研ベンチャーのワイコフ科学株式会社(武内一夫代表取締役社長、東京都東久留米市)と株式会社島津製作所(服部重彦代表取締役社長、京都市中京区)は、測定装置の量産に関する業務提携を締結することとしました。
ナノ物質工学研究室は、ナノ粒子(直径が1ナノメートル〜数百ナノメートルの粒子)の測定法として、微分型電気移動度測定装置(differential mobility analyzer, 略称DMA)の原理を元に、独自の技術で、気相中のナノ粒子の高感度、高性能計測用DMAを開発しました。この技術は、7件の理研の特許として登録されています。ワイコフ科学は新産業創出促進法※1に基づき、2003年6月に設立され、理研は“理研ベンチャー”として認定しています。現在、主に学術研究を目的として、カスタムメードDMAの製造販売を行っています。理研は1998年より、理研ベンチャー制度を設け、理研で開発された独自技術の社会還元を図っています。
今回の合意は、島津製作所が理研の特許や、ワイコフ科学が独自で取得した特許とノウハウに基づいて、自動車排ガス中に含まれる、人間に悪影響を及ぼすとされる100ナノ以下の微粒子の計測を主な目的とする量産型DMAの製造販売を行うことをめざしたものです。なおこの合意にはカスタムメードDMAの販売も含まれており、島津製作所は今月17日から19日に東京ビッグサイトで開催される国際ナノテクノロジー総合展で同社ブースに装置展示を行います。
ワイコフ科学(株)と(株)島津製作所は3月19日業務提携を締結します。
| 1. |
DMA技術 |
微分型電気移動度測定装置(differential mobility analyzer, DMA)とは、ナノ粒子(直径1〜数百ナノメートル)を荷電して、図1のような2重円筒の内筒と外筒に電圧を加え、粒子の大きさの違いで電気移動度※2が異なることを利用して分級する方法です。
この原理は、1970年代にアメリカで初めて装置化されたが、測定法として、 |
| (1) | 1桁のナノメートル領域での校正ができないこと。 |
| (2) | 低圧での運転ができないこと。 |
| (3) | 腐食性ガス雰囲気で運転ができないこと。 |
| (4) | 測定上の感度や安定性に難があること。 |
などの問題がありました。
理研ナノ物質工学研究室では、この問題を新しい装置設計コンセプトや高感度検出部の開発などによって解決しました。
ワイコフ科学は、この理研ナノ物質工学研究室の成果に、さらに独自の技術を加えて、DMAを商品化し、後述の自動車排ガス中のナノ粒子を測定することが可能な技術開発を行ってきました。 |
| 2. |
自動車排ガス中のナノ粒子測定 |
欧米では、ナノ粒子が人体に悪影響を及ぼすと考えて、2007〜2010年頃に、自動車排ガスに含まれる100ナノメートル以下のナノ粒子を規制しようとしています。ところが、この領域の粒子の測定技術は、DMAを用いる方法しかないとされています。さらに、この自動車排ガス中のナノ粒子測定法の目的には、現在のDMAをそのまま用いることはできず、自動車の加速・減速などの過渡現象に追随できる、応答速度の速いDMAを開発する必要がありました。
ワイコフ科学は、理研の技術と独自の自社技術を合わせて、応答速度の速いDMA(図2:ワイコフ科学で試作した自動車排ガス用DMA)を開発する目途をつけました。 |
| 3. |
業務提携 |
(株)島津製作所とワイコフ科学(株)は、自動車排ガス中のナノ粒子測定用など、量産型DMAの製造販売に関して業務提携をすることに合意しました。
ワイコフ科学はカスタムメードのDMAの製造販売に特化していて、自動車用などの量産型DMAの製造設備や品質管理技術、販売網、規制作りに対する技術的アドバイス能力などが不十分であるので、業務提携先を求めていました。
一方、(株)島津製作所は、ライフサイエンス、半導体液晶とともに、環境分野を注力市場として選択し、2003年より分析計測事業部の体制を一新、環境ビジネスユニットを設けて、環境計測分野の事業拡大に力を入れようとしています。特に、気相中のナノ粒子計測の分野では、世界最高レベルのナノ粒子計測技術を持つワイコフ科学と業務提携して、自動車排ガス中のナノ粒子測定を環境ビジネスの中核に位置づけたいと考えました。
この業務提携に基づき、数年後に(株)島津製作所において環境計測用DMAが量産されれば、この分野で国産技術が実用化されます。技術が確立すると、この自動車用DMAは国内市場のみならず、世界標準用として海外市場でも活用されることになります。 |
| 4. |
理研ベンチャー制度 |
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は1998年に、理研ベンチャー制度を設けました。
この制度の骨子は次の通りです。 |
| (1) |
制度趣旨 |
| 理研の職員自らが理研の研究成果の実用化を目的として設立した(する)企業に対し、理研として支援する制度 |
| (2) |
認定の要件 |
| 1) |
理研の研究成果の普及を主たる事業とすること |
| 2) |
理研の研究者が出資していること |
| 3) |
既存企業では困難な実用化を目指していること、など |
| (3) |
支援措置 |
| 1) |
特許権等の優先的実施権を認める |
| 2) |
理研との共同研究において、研究スペース、研究設備の使用を認める |
| 3) |
理研の職員の兼業を認める |
| 現在、理研ベンチャーは、15社あり、ナノテク材料加工から、DNA情報、脳の計測にいたるまでさまざまな分野で起業が行われています。 |
| (問い合わせ先) |
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独立行政法人理化学研究所 中央研究所 |
| ナノ物質工学研究室 主任研究員 |
| ワイコフ科学株式会社 | 代表取締役社長 |
| 武内 一夫 |
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| Tel | : |
048-462-9506 |
| Fax | : |
048-462-9506 |
|
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独立行政法人理化学研究所 |
| 研究調整部 調査役 前川 治彦 |
|
| Tel | : |
048-467-9762 |
| Fax | : |
048-462-4609 |
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|
株式会社島津製作所 |
| 分析計測事業部 環境ビジネスユニット |
| 部長 木林 昌男 |
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| Tel | : |
075-823-1077 |
| Fax | : |
075-823-4614 |
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| (報道担当) |
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独立行政法人理化学研究所 |
| 広報室 駒井 秀宏 |
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|
株式会社島津製作所 |
| 社長室 広報・IRグループ(東京) |
| 課長 五十嵐 多鶴子 |
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| Tel | : |
03-3219-5535 |
| Fax | : |
03-3219-5712 |
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<補足説明>
| ※1 |
新産業創出促進法 |
| 新産業創出促進法は、地域に蓄積されている産業資源を活用し、個人や中小企業における新産業の創出を促進するため、平成10年度に制定されたものである。法律は、「創業等の促進」「中小企業者の新技術を利用した事業活動の支援」「地域産業資源を活用した事業環境の整備」の3つの柱からなり、これまでの産業立地政策などの成果を活用して地域の独自性を活かした新産業創出を促進しようとするものである。平成11年にはベンチャー企業支援のための一層の基盤整備として、商法上の特例や投資事業組合を通じたリスクマネー供給促進などを加えた改正を行っている。 |
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| ※2 |
電気移動度 |
| 粘性流体の中を外部場から力を受けて移動する粒子では、定常状態で外力と抵抗力がつり合い、等速νrで運動する。外力が静電気力の場合は、νrは電場 E(Vm-1)に比例し、比例定数Zを電気移動度と呼ぶ。 |
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| 図1 DMA動作原理の概念図 |
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| 図2 ワイコフ科学(株)のナノ粒子計測用DMA |
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