Press Release 理化学研究所
NECソフト株式会社
平成15年9月2日
シロイヌナズナの突然変異体データベース公開
― 理化学研究所とNECソフトが共同で開発 ―

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 理化学研究所(小林俊一理事長)とNECソフト株式会社(東京都江東区、関 隆明社長、以下NECソフト)は、高等植物の実験モデルとしてよく用いられるアブラナ科の一種であるシロイヌナズナの突然変異体のデータベース「アクティベーション・タグライン・データベース」を共同で構築しました。理研ゲノム科学総合研究センター(和田昭允センター所長)植物ゲノム情報機能研究グループの松井南チームリーダー、中澤美紀、市川尚斉研究員らとNECソフト VALWAYテクノロジーセンターの武藤周研究員らによる研究成果です。データベースの内容は、理化学研究所の専用ウェブサイト(http://rarge.gsc.riken.go.jp:8080/activationtag/)で9月3日より一般公開されます。



1.アクティベーション・タグライン・データベースとは
 理化学研究所とNECソフトは、平成14年9月より、シロイヌナズナの突然変異体のデータベース構築に関する共同研究を開始しました。今回、信頼性のあるデータと多機能なシステムを備えたアクティベーション・タグライン・データベースを開発し、公開することになりました。
 本データベースはアクティベーション・タギング法※1で作成されたシロイヌナズナ※2の突然変異体のデータベースです。目に見える異常を示す突然変異体の表現型が、画像とキーワードで登録されたほか、異常の原因と考えられる候補遺伝子の情報と結びつけられているのが大きな特長です。また、利用者の便宜を図るため、種子管理機能、共同研究者への種子の分譲に関する情報を管理する機能、公開用のデータを編集する機能なども備えており、植物の遺伝子機能研究を支援する優れたデータベース(図1)となっています。また、本データベースを構成するシステムは、理研とNECソフトで共同開発した複合検索機能と実験データ入力支援機能(後述参照)という、他のデータベースにない画期的な機能を備えています。この機能により約1,000種類に及ぶ突然変異体の解析が可能になりました。
 本データベースに関する論文※3は、The Plant Journal誌(2003年36巻発行)に掲載されるほか、その内容を9月3日から英国ヨーク市で開催される第2回ヨーロッパ植物ゲノム会議(The Second Plant-GEMs / Fourth GARNet Meeting)において発表します。この会議での発表にあわせてデータベースを公開します。さらに研究グループは、この共同開発したシステムを用いて、完全長cDNA高発現植物体(FOX Line) についても、アクティベーション・タグラインと同様のデータベース構築を行う予定です。



2.アクティベーション・タグラインについて
 アクティベーション・タギング法を用いて約5万種類の突然変異体を作成し、そのうち、形態、成長速度、色、花芽形成、稔性などの目に見える異常を示す突然変異体約1,000種類を選び、データベースに登録しました。さらに、登録した突然変異体を解析して、アクティベーション・タグ※1の挿入位置や異常の原因となった遺伝子の候補を同定しました。このことによりアクティベーション・タギング法の優位性、特性が確認されました。
 詳細は、理研ゲノム科学総合研究センター植物ゲノム機能情報研究グループのウェブサイト(http://pfgweb.gsc.riken.go.jp/projects/actv_j.html)を参照してください。
 現在、候補遺伝子をシロイヌナズナへ再導入して原因遺伝子の確認作業を行うとともに、未解析の突然変異体について共同研究しています。



3.複合検索機能と実験データ入力支援機能について
複合検索機能:
 キーワード検索、相同性検索、タンパク質ドメイン検索、遺伝子発現制御配列検索などを組み合わせて、データベースに格納されている各種情報を横断的に検索し、多角的な閲覧が可能な検索機能です。

実験データ入力支援機能:
 アクティベーション・タグの近傍のゲノム塩基配列を計測してデータベースに入力すると、アクティベーション・タグが挿入されたゲノム上の位置やその近傍にある遺伝子を検索して自動的にデータベースに登録する、原因遺伝子の候補を同定するための機能(近傍遺伝子検索機能)※4を持ちます。その他、原因候補遺伝子の増幅用プライマー作成機能やPDAを用いて植物を観察しながら無線LANを通じてデータベースに表現型を入力していく機能などを有します。



4.公開用ウェブサイトについて
 本データベースの内容の一部を公開用に編集し、突然変異体の検索サービスを備えたサイトを別途構築、理研ゲノム科学総合研究センター・植物ゲノム公開ウェブサイトからリンクしました。(URL:http://rarge.gsc.riken.go.jp:8080/activationtag/
 検索サービスでは、遺伝子情報による突然変異体の検索ができます。また、検索結果から突然変異体の表現型、画像、遺伝子情報を含む、詳細なデータを要求することが可能です。
 本データを要求するには、本ウェブサイト上での要求手続の中で詳細データの入手に関する契約書「RIKEN Material Transfer Agreement」をダウンロードし、署名後、理化学研究所に送付することが必要です。また、近日中に検索サービスの強化を行い、表現型による突然変異体の検索を可能にする予定です※5



5.本成果の意義
 アクティベーション・タギング法で得られたこのようなリソース及びそのデータベース情報は、植物に機能付加を起こさせるため、基礎研究のみならず、種々の環境耐性や、二次代謝産物の産成能など植物の機能向上といった育種面からも応用的に重要なものです。環境問題や食物生産に関する植物科学の研究への応用が期待されております。



(問い合わせ先)
理化学研究所 横浜研究所 ゲノム科学総合研究センター
植物ゲノム機能情報研究グループ
植物変異探索研究チーム
チームリーダー 松井  南
TEL: 045-503-9585 FAX: 045-503-9584
研究推進部 星野美和子
TEL: 045-503-9117 FAX: 045-503-9113
NECソフト株式会社 VALWAYテクノロジーセンター

武藤  周

TEL: 03-5569-3258 FAX: 03-5569-3326
(報道担当)
理化学研究所 広報室 駒井 秀宏

TEL: 048-467-9272 FAX: 048-467-4715
NECソフト株式会社 総務部 広報室

増尾 謙一

TEL: 03-5569-3255 FAX: 03-5569-3273




<補足説明>

※1 アクティベーション・タギング法/アクティベーション・タグ
突然変異体を作成する手法の一つ。アクティベーション・タグと呼ばれる遺伝子の発現を増強させる既知の塩基配列をゲノム上にランダムに導入する手法。(図2)ゲノム上に挿入されたアクティベーション・タグは、その近傍にある遺伝子の発現を増強する。この手法によって作成された突然変異体は、優性の突然変異を持ち、突然変異処理を行った次の世代で表現型を観察することが可能。従来の遺伝子破壊型の手法における、劣性の表現型を持つためにさらに次の世代まで表現型を観察できないこと、同様の機能を持つ他の遺伝子によって破壊した遺伝子機能が補完されてしまうことなどの欠点を克服した。
※2 シロイヌナズナ
高等植物の実験モデルとしてよく用いられるアブラナ科の一種。ゲノムの解読が完了しており、遺伝子の配列、位置、アノテーションもよく記述されている。
※3 本データベースに関する論文(The Plant Journal誌:2003年36巻発行)
Title: Sequence database of 1,172 T-DNA insertion sites in Arabidopsis activation tagging lines that showed phenotypes in T1 generation.

Authors: 1) Takanari Ichikawa 2) Miki Nakazawa 3) Mika Kawashima 4) Shu Muto 5) Kazushi Gohda 6) Kumiko Suzuki 7) Akie Ishikawa 8) Hiroko Kobayashi 9) Takeshi Yoshizumi 10) Yuko Tsumoto 11) Yumi Tsuhara 12) Haruko Iizumi 13) Yukiko Goto 14) Minami Matsui

※4 近傍遺伝子検索機能
挿入されたアクティベーション・タグの近傍など、計測したゲノムの塩基配列をキーにして相同性検索を行い、ゲノムにおける位置とその近傍にある遺伝子の一覧を表示する機能。本機能に係る技術は、理研及びNECソフトから共同で特許出願中である。(特願2002-301875「近傍遺伝子情報検索装置及び方法」。)
※5 公開用ウェブサイトにおける検索結果の閲覧
遺伝子情報による検索結果では、遺伝子情報と突然変異体名が、また、表現型による検索結果では、表現型と突然変異体名が閲覧できる。検索結果では、遺伝子情報と表現型が関連付いていない。遺伝子情報と表現型が関連付いたデータを入手するには公開用ウェブサイト上で詳細データの要求手続、および「詳細データの入手に関する契約書」の締結が必要である。






図1
(図1)アクティベーションタグラインデータベースの構成イメージ






図2
(図2)アクティベーションタギング法