Press Release 理化学研究所
平成15年6月30日
B細胞の分化機構を解明

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 理化学研究所(小林俊一理事長)と関西医科大学(日置紘士郎学長)は、細胞内のある分子群の働きに着目することで、リンパ球の分化メカニズムを解明しました。理研横浜研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫細胞機能制御研究チーム黒崎知博チームリーダー及び関西医科大学肝臓研究所山崎哲男助手による共同成果です。
 免疫制御に重要な役割を担っているリンパ球は、幹細胞から分化・増殖を重ねながら成熟B細胞となり、外界から侵入した抗原に対して適切に反応できるように末梢リンパ節を循環しています。最近ではB細胞への分化は、多くの分子が互いに制御し合う複雑な過程を経て行われていると考えられています。
 今回の研究は、これまで考えられていた核内転写因子が細胞質シグナル分子を制御しているという様式とは逆に、細胞質シグナル分子であるBCAPが核内転写因子c-Relを制御することにより、B細胞の最終分化を決定していることを明らかにしました。今までのデータを考慮すると、B細胞の分化決定は細胞質及び核内シグナル分子が両方向に制御し合うことにより行われているものと思われます。これら分子間の制御機構を解き明かすことはリンパ球からB細胞への分化過程を明らかにし、ひいてはリンパ球の人為的制御も可能にします。
 本研究成果は米国の科学雑誌『Nature Immunology』(6月30日号)に発表されます。



1.背景
 Bリンパ球の細胞表面上に発現している抗原レセプター(BCR)は多様な外界進入物、例えば細菌・ウイルス成分、を認識して免疫系全体を活性化する司令塔のような役割をしています。事実BCRを欠損させると末梢のB細胞の数が激減するため、B細胞の分化にはBCRが細胞表面に発現してシグナルを細胞内部に伝達することが必須であることがこれまでに示されていました。しかし、細胞内シグナル分子をどのような制御機構で用いているか、という分化のメカニズムについては不明な点が多く残されており、その本質を明らかにすることは免疫基礎研究にとって極めて重要な課題でした。
 分子自身はシグナル分子として酵素活性を有しないが多種のシグナル分子と結合することによりシグナルの“場”を作るアダプター分子の機能が近年注目を浴びています。本研究で用いたアダプター分子BCAP※1は、岡田、黒崎らが2年前に世界に先駆けてBリンパ球特異的アダプター分子として単離・同定に成功した分子です。(Immunity, 13, 817-827, 2000)。
 BCAP分子を欠損したマウスではB細胞の最終分化に障害が起きますが、何故このような障害が引き起こされるのかは疑問のまま残されていました。本研究では、細胞内シグナルの詳細な検討を行い、BCAPが核内転写因子c-Relを制御しているというコンセプト提出に至りました。



2.研究手法と成果
 Bリンパ球の細胞内シグナル分子群の機能およびこれらの分子群によって形成されるシグナルネットワークの解析には、それぞれのシグナル分子の遺伝子を特異的に破壊してその機能検定を行う遺伝学的アプローチが有力です。アダプター分子群は、その分子自体に内在的酵素活性が存在しないため、従来の生化学的研究手法では機能検定が難しく、遺伝子自体をノックアウトして直接的に機能を検定するという、遺伝学的アプローチが唯一の研究手段といっても過言ではありません。
 BCAPノックアウトマウスはB細胞の最終分化過程に障害がありますが、その障害はどのようなメカニズムで説明できるのかというのが、本研究の出発点です。BCAPノックアウトマウスから調整したBリンパ球を用いて、シグナルの異常を詳細に検討した結果c-Relという核内転写因子が特異的に減弱していることを見出しました。c-Relは細胞の生存を支配している遺伝子群のマスター遺伝子とみなされ、事実、BCAP欠損B細胞は細胞死に陥りやすいという現象をよく説明できます。又一番重要な点は、BCAPノックアウトB細胞にc-Relを導入することにより、B細胞の細胞死に陥りやすい性質のみならず、B細胞の最終分化も正常に戻すことができた点です。このことは、BCAP→c-Rel→B細胞分化というメカニズムが働いている直接証明となりました。



3.今後の展望
 細胞内シグナルネットワークの伝達機構の解明は、基礎研究として重要なのは言うまでもありませんが、応用研究としてもその人為的制御方法の開発に新規な視点を与えるものと期待されます。従来はNF-κB等の転写因子を用いて遺伝子治療・薬剤開発が行われてきました。この研究においてアダプター分子が転写因子を制御できる可能性を示されたことで、今後、免疫・アレルギー疾患の新しい治療法開発の分野にも新たな可能性がもたらされるものと期待されます。



(問い合わせ先)
理化学研究所 横浜研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター
免疫細胞機能制御研究チーム
チームリーダー 黒崎 知博
TEL: 06-6993-9445  FAX: 06-6994-6099
研究推進部 星野美和子

TEL: 045-503-9117  FAX: 045-503-9113
(報道担当)
理化学研究所 広報室 駒井 秀宏

TEL: 048-467-9272  FAX: 048-467-4715




補足説明

※1 アダプター分子BCAP
Bリンパ球に特異的に発現している分子で、細胞内シグナルネットワークを形成するのに重要な役割を担っている分子
※2 NF-κB
細胞の増殖・生存・細胞死という運命決定に重要な役割を担っているマスター転写因子。






図1