Press Release 理化学研究所
平成15年6月30日
関節リウマチへのかかりやすさに関わる遺伝子を同定

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 理化学研究所(小林俊一理事長)は、一塩基多型(SNP)を用いて、関節リウマチ(以下、RA)のかかりやすさに関わる遺伝子を見出しました。理研横浜研究所遺伝子多型研究センター(豊島久真男センター長)関節リウマチ関連遺伝子研究チームの山本一彦チームリーダー(東京大学医学部教授)、鈴木亜香里・山田亮研究員らの研究グループと、同センタータイピング研究・支援チーム(中村祐輔チームリーダー、東京大学医科学研究所教授)、三共株式会社(古川秀比古バイオメディカル研究所 所次長)、東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科(沢田哲治助手)との共同研究成果です。
 RAは、関節の中に炎症を起こす病気ですが、その原因は、十分にはわかっていません。研究チームは、RAとRAでない被験者の遺伝子の違いを調べ、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ タイプ4(以下、PADI4酵素)の遺伝子に違いがあることを突き止めました。このPADI4酵素は、体内のアミノ酸のアルギニンをシトルリンに換える酵素です。今回の発見で、PADI4遺伝子は2種類あり、RAにかかりやすさに関係していました。RAにかかりやすいPADI4遺伝子はRAにかかりにくいPADI4遺伝子に比べて、体内でのシトルリン化反応を起こしやすい傾向が認められました。RAの発病者の血液中にはシトルリン化されたタンパク質に対する自己抗体ができることが最近注目されていますが、この原因はわかっていませんでした。研究チームの発見は、この原因を説明するものと期待されます。
 今後、この発見をもとに、どうしてシトルリン化タンパク質に対する自己抗体ができるか、その自己抗体ができることとRAとはどのような関係にあるのかなどの解明を進め、さらに、RA・自己免疫疾患研究の新しい分野の開発へと大きく発展させることを目指します。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Gentics』ウェブサイト上のオンライン・パブリケーション(6月30日付)に発表されるとともに、8月号に掲載されます。



1.背景
 関節リウマチ(RA)は関節の滑膜に炎症が起きて、関節が腫れて痛み、病気が進行すると関節が変形をおこす病気です。RAは女性に多く、全世界的に人口の約1%の方が発症し、そのうち少なからぬ割合の方々が関節の変形・破壊による活動制限を受けており、病因・病態に即した治療法の確立が急がれています。RAの原因に関してこれまでに多くの研究がなされ、複数の遺伝子が、その他さまざまな環境要因などと複雑に影響しあっていることがわかっており、RA関連遺伝子を見つけることは、RAの病因・病態の解明・治療法の開発に不可欠であると考えられています。
 このようなRA関連遺伝子を見つけるために、理研遺伝子多型研究センター関節リウマチ関連遺伝子研究チームにおいて、平成12年度より一塩基多型(SNP single nucleotide polymorphism) を用いた、ゲノムワイド大規模ケース・コントロール関連解析アプローチによるRA関連遺伝子探索が進められてきていました。



2.研究手法と成果
 研究チームでは、ヒトの持つすべての遺伝子に対してRAと関連する可能性を考え、RAとRAでない被験者の遺伝子の違いを調べるために10万個以上のSNPを用いて解析しています。このようにして解析を進めていたところ、ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ(PADI) ※1のタイプ1、タイプ2、タイプ3、タイプ4の遺伝子(PADI遺伝子)が、並んでいる領域で、RAとRAでない被験者との遺伝子のパターンが異なることがわかりました。
 このPADIはいずれも、からだの中のタンパク質中に存在するアルギニンというアミノ酸をシトルリン※2という別のアミノ酸に換える酵素です。実は、RAの発病者は、病気にかかりはじめるときから、身体の中のシトルリン化したタンパク質に対する自己抗体(抗シトルリン化ペプチド抗体)を持っていることが近年の研究で解明されており、RAにかかったのかどうかを診断するために、この自己抗体の有無の検査が非常に役立つことがわかってきていました。
 さらに、本研究では、4タイプのPADI遺伝子のうち、どのタイプがRAに関わっているかを詳しく調べ、タイプ4の遺伝子(PADI4遺伝子)がRA関連遺伝子であることを突き止めました。
 PADI4遺伝子の詳しい解析の結果、RAにかかりやすいPADI4遺伝子とかかりにくいPADI4遺伝子の2種類が存在することがわかりました。どうして2種類の遺伝子の違いがRAへのかかりやすさに関連するのかを調べたところ、RAにかかりやすいタイプのPADI4遺伝子から作られるmRNAは、RAにかかりにくいPADI4遺伝子から作られるmRNAよりも細胞内成分により破壊されにくいがわかり、その違いが、RAにかかりやすさに関係があることがわかりました。
 PADI4遺伝子からPADI4酵素のmRNAが作られ、さらにこのmRNAからPADI4酵素(PADI酵素のタイプ4)が作られますが、RAにかかりやすいPADI4遺伝子をもっていると、mRNAが破壊されにくいためにmRNAがより多く存在し、そのため、PADI4酵素がたくさん作られます。PADI4酵素によるシトルリン化反応が活発に起こる結果、RAにかかりやすくなっているのではないかと予想しています※3



3.今後の展開
 現在、RAの正確な病因はいまだにわかっていない状況であり、また、治療法においても改善の余地が大いにありますが、この発見をもとに、PADI4酵素は身体の中でどのような役割を持つのか、どうしてシトルリン化タンパク質に対する自己抗体ができるか、その自己抗体はRAとどのような関係にあるのか、などを調べることによって、RAの病因・病態の解明が進むことが予想されます。また、その結果、RAの病因・病態により即した治療法の開発が可能になることが期待されます。



(問い合わせ先)
理化学研究所 横浜研究所 遺伝子多型研究センター
関節リウマチ関連遺伝子研究チーム
チームリーダー 山本 一彦
研究員 山田  亮
TEL: 045-503-9569  FAX: 045-503-9590
研究推進部 星野美和子

TEL: 045-503-9117  FAX: 045-503-9113
(報道担当)
理化学研究所 広報室 駒井 秀宏

TEL: 048-467-9272  FAX: 048-467-4715
三共株式会社 広報部 花島 弘樹

TEL: 03-5255-7044  FAX: 03-5255-7035




補足説明

※1 ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ(PADI)
タンパク質中にあるアミノ酸の1つであるアルギニンをシトルリンに換える酵素。ヒトでは4タイプが知られ、それらの遺伝子のすべてが、1番染色体の1p36という領域にならんで存在している。
※2 アルギニンとシトルリン
いずれもアミノ酸。
アルギニンは塩基性アミノ酸と呼ばれ、タンパク質の立体構造を決めるのに重要な役割を果たしたり、酵素タンパクの活性を左右することの多いアミノ酸。
シトルリンは、アルギニンの側鎖の一部が変化した、アミノ酸。タンパク質中のアルギニンはPADI酵素によって、シトルリンに変換される。
※3 PADI4遺伝子とシトルリン化、自己免疫反応、関節リウマチの関係を説明する仮説
PADI4遺伝子からPADI4mRNAが転写され、PADI4酵素に翻訳される。RAにかかりやすいPADI4遺伝子からは、壊れにくいPADI4mRNAが作られるために、PADI4酵素がより多くできる。その結果、自分の中の成分であるがよりシトルリン化され、それに対する自己免疫応答おきやすい。その結果、関節で炎症が持続する。
RAにかかりにくいPADI4遺伝子の場合も、PADI4遺伝子による酵素は作られて、シトルリン化もおきるが、その程度が比較的弱いために自己免疫応答までは至りにくい。






図1






図2