この研究結果には大きく分けて、学術的に2つの重要な点があります。
| (ア) | 非常に広範囲な中枢神経系組織に分化する前駆細胞をES細胞から分化させることに世界で初めて成功 |
| (イ) | 末梢神経系の前駆細胞およびニューロン分化に世界で初めて成功 |
【非常に広範囲な中枢神経系組織に分化する前駆細胞をES細胞から分化させることに世界で初めて成功】 以前より、ES細胞から分化させた神経前駆細胞は培養条件によって異なる中枢神経系細胞に分化することは知られていました。例えば、昨年米国のコロンビア大学のグループは、胎児発生で運動神経などの腹側の神経組織を分化させるShhという増殖因子を作用させると、レチノイン酸処理したマウスのES細胞から運動神経細胞が高効率で分化することを報告しています。しかし、この方法で分化させた細胞は、中枢神経系のほんの一部の組織にしか分化しないこともわかっていました。例えば、中枢神経系の一番腹側には「底板」と呼ばれる組織があり、中枢神経系の回路をつなぐ上での道路案内(ニューロンの軸索の伸展誘導などを指示する)の様な役割としています。しかし、この腹側組織は従来のES細胞からの神経分化誘導法では分化させることが出来ませんでした。
今回、理研研究グループは短い日数のみPA6細胞と共培養したマウスES細胞は、非常に未分化な中枢神経系前駆細胞の性格を有している事実をもとに、これらの細胞にShhを作用させることで、3割の細胞を底板細胞に分化させることに成功しました。また、大阪大学の村上富士夫教授との共同研究でこの底板細胞が実際に中枢神経ニューロンの軸索の伸展誘導を指令できることを証明しました。
さらに胎児脳発生で背側の中枢神経組織の形成に必要な誘導因子BMP4を低濃度で作用させることで、ES細胞から蓋板などの背側の中枢神経組織を産生することにも成功しました。さらに、ShhやBMP4の濃度を変えることで、「最も腹側から最も背側までのすべての中枢神経組織」をマウスやサル(京大再生研中辻研究室と共同研究)のES細胞から分化させることができることを証明しました。
【末梢神経系の前駆細胞およびニューロン分化に世界で初めて成功】
笹井グループでは以前に、SDIA法(PA6細胞とES細胞の共培養法)でES細胞が中枢神経系前駆細胞に分化してゆく途中で、高濃度のBMP4を作用させると皮膚細胞に分化することを報告していました。今回、分化開始4日後の細胞に中程度の濃度のBMP4を作用させることで、末梢神経系前駆細胞(神経堤細胞)が分化することに成功しました。さらにBMP4の濃度を微調整することで、末梢神経ニューロンである知覚神経ニューロンと自律神経ニューロン(交感神経など)を分化させることも可能になりました。ES細胞からのこれらの末梢神経系ニューロンの選択的な分化誘導は世界に先駆けるものです。また本報告ではマウスのみならずサルのES細胞からも末梢神経ニューロンを分化させることにも成功しています。
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