SPring-8の高輝度なシンクロトロン放射光を用いて、2.6Åという高分解能のX線回折データを得ることができました。精密に決定されたσ因子を含むRNAポリメラ−ゼの立体構造は、全体として「カニのはさみ」のような構造をとっていることが分かりました。さらに、得られた立体構造の解析結果から、ホロ酵素がDNAのプロモータ−配列に結合して転写を開始する以下のような一連のメカニズムが明らかになりました。
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遺伝子のプロモーター配列を認識・結合するσ因子の2つのドメインは、プロモーター配列2ヶ所を認識して結合するのに都合が良いように酵素の表面に配置されていることが分かりました。σ因子には両末端にある「N末端側ドメイン」と「C末端側ドメイン」、およびそれらを結ぶ「リンカードメイン」から構成されています。N末端側ドメインとC末端側ドメインはそれぞれ、DNAのプロモーター配列2ヶ所を認識します。決定された構造結果においても、RNAポリメラーゼの表面に存在する両ドメインの間隔がプロモーター配列の間隔とほぼ一致していました。
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2)
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DNAに結合して転写を開始する際、RNAポリメラーゼはDNAの一本鎖だけに結合することが分かりました。今まで、転写が開始する時には、RNAポリメラーゼが結合しているDNAの一定領域(転写開始点から、12塩基上流までの間)でDNAの二重鎖が解離して一本鎖になる「転写バブル」と呼ばれる構造を形成すると考えられてきました。今回解析したRNAポリメラ−ゼホロ酵素はσ因子を結合しているため、DNA結合部位の溝が二重鎖DNAを結合するには狭く、解離した一本鎖DNAのみを結合できる構造になっており、従来の説を裏付ける結果となりました。
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3)
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σ因子のリンカードメインは、合成されたRNAと鋳型DNAの二重鎖を不安定化させ、RNAの鎖を排出溝に向かわせる役割を果たしていると推測されます。明らかになった立体構造から、鋳型DNAと合成されたRNAの二重鎖は、σ因子のリンカードメインとコア酵素の間にある狭いチャネルを通ると考えられます。そして、この狭いチャネル内におけるσ因子のリンカードメインとRNAとの相互作用によって、RNAとDNAの二重鎖は不安定化され、RNAは一本鎖となって排出溝に向かうものと考えられます。
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4)
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さらに、合成されるRNA鎖はσ因子の解離を促すことが推測されました。σ因子は遺伝子の転写を開始させる役割がありますが、RNAポリメラーゼがDNAに沿って進みながらRNAを合成する「伸長ステップ」に移行するにはσ因子を解離する必要があります。興味深いのは、σ因子のC末端側ドメインがRNAの排出溝の出口をふさいでいるという点です。合成されていくRNA鎖の末端が排出溝の出口に到達すると、RNA鎖に押されてσ因子はRNAポリメラーゼからもプロモーターからも解離を余儀なくされ、転写は伸長ステップへと移行するものと考えられます。
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