Press Release

理化学研究所
平成14年4月4日

新魔法数(マジックナンバー)が出現する原因を解明
− 中性子過剰核の理解を加速させる新理論 − 

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 理化学研究所(小林俊一理事長)は、原子核が安定に存在する新魔法数(マジックナンバー)「16」が安定に存在する原因を世界で初めて解明しました。理研RIビーム科学研究室の谷畑勇夫主任研究員を中心とした研究グループによる成果です。
 研究グループでは2000年5月、中性子過剰核では新しい魔法数が出現することを発見しています。今回、この魔法数に関連した原子核
23Oの反応を理研の重イオン加速器施設を用いて詳しく調べたところ、魔法数「16」が出現する原因となる中性子軌道の変化を特定することに成功しました。本研究成果は、新魔法数という物理学上の新たな知見に対する理解を深めるものです。
 今後は、新たな魔法数が予測されている「50」や「82」の存在を、実験および理論的に確かめるため、全元素にわたってRI(不安定同位元素)ビームを発生できる「RIビームファクトリー(RIBF)」の早期の完成が必要不可欠となります。RIBFの稼働によって現施設の実験限界である原子番号「20」程度の中性子過剰核を超え、より重い元素合成に関与したマジックナンバーの研究を行うことができます。
 本研究成果は、米国の物理学の世界的な学術誌「Physical Review Letters(4月8日号)」に掲載されます。

※Rituparna Kanungo、千葉雅美、西村俊二、小沢顕、須田利美、山口貴之、Tao Zheng、谷畑勇夫(以上、理研RIビーム科学研究室)、岩佐直仁(東北大学)、鈴木健(新潟大学)、Chhanda Samanta

 

1.背景


 原子核は陽子と中性子からできており、陽子数や中性子数は、ある決められた数の場合、特に安定になります。このような数は、魔法数(マジックナンバー)と呼ばれ、「2」、「8」、「20」、「28」、「50」、「82」、「126」があり、この数は、陽子、中性子ともに同じです。世の中のすべての元素は、宇宙の進化とともに生成されてきましたが、元素の存在比は魔法数のところで多くなっています。「2」はヘリウム、「8」は酸素、「20」はカルシウム、「28」はニッケル、「50」はスズ、「82」は鉛など、陽子の魔法数に対応した元素はみな、おなじみのものであり、人間の生存にとって大切なものばかりです(図1)。
 魔法数はまた、原子核が殻(シェル)構造を持っていることの反映です。このことは、同じような粒子が集団で結合状態をつくったとき、ある秩序が現れることを示しており、さらに原子核の性質を決定しています。魔法数は、原子や金属のクラスターにもあり、それを発見し、理解することは、物理学研究の中でも基本的で重要なものなのです。
 これらの魔法数は、マイヤーとイェンセンにより新しい相互作用(軌道・スピン相互作用)を導入することにより理解されました(1963年・ノーベル物理学賞受賞)。それ以後、魔法数は陽子と中性子の混合比によっても変化しないものと考えられてきました。すなわち陽子の魔法数は、中性子数によらず先に述べた値を持ち、また中性子の魔法数も陽子数によらないと考えられてきました。しかし、RIビームを用いた実験によって、不安定原子核、特に陽子数に比べて中性子数の大きな中性子過剰核では変化することを、理研の谷畑勇夫主任研究員(RIビーム科学研究室)を中心とした研究グループは発見しました。その成果の1つが中性子数「16」に新しい魔法数が現れること、もう1つは「20」の魔法数が消滅してしまうことです(図2)。魔法数「16」は、炭素、窒素、酸素の中性子過剰核のRIビームを用いた実験により、中性子数「15」と「16」の核の半径が急激に増加することを発端として発見されました。今回の実験は、これら異常半径を持った核の1つである23Oを詳しく研究することで得られた研究成果です。

 

2.研究手法と成果


(1)魔法数と軌道運動

研究グループでは、理研の重イオン加速施設を用いて、23O核を炭素核に衝突させ、破砕して飛び出してくる22Oや21O核の測定し、衝突後放出される22Oや21O核の運動量の揺らぎが通常の予測と異なることを見出しました。魔法数の存在は、原子核の中で陽子や中性子が、ほぼ円形の軌道を描いて運動していることの反映です(図3)。核子のとる軌道は、飛び飛びの半径を持っており、おのおのの軌道には決まった数の粒子しか入れません。そのため、軌道の切れ目で結合エネルギーにジャンプが起こります。この軌道の切れ間が魔法数となり、安定核では図3の左側に示したようになっています。核子が運動している軌道は内側(エネルギーの低い方)から1S1/2、1P3/2、1P1/2、1D5/2、2S1/2、1D3/2、1F7/2・・・となっており、おのおのの軌道には各2、4、2、6、2、4、8・・・個の中性子が入ることができます。1S1/2と 1P3/1軌道の間は開いており1S1/2軌道だけで1つの殻を作ります。この殻が中性子で満たされたのが魔法数「2」です。次にある軌道の1P3/2と 1P1/2は互いに接近しており、この2つで1つの殻を作っています。この殻には6個の中性子が入るため、先の2個とあわせて、「8」が魔法数となります。その次は、1D5/2、2S1/2、1D3/2が接近しており、3つの軌道で殻を作り、その殻が中性子で満たされたのが魔法数「20」です。すなわち、軌道の間隔がいく通りかある場合、大きな隙間ができたところが魔法数となります。

今回の研究では、2S1/2軌道が大きく変化し、1D5/2軌道の内側にシフトしてしまったことが魔法数「16」が作られた理由であることを実験的に確かめました。エネルギー準位でいえば2S1/2軌道の方が低いエネルギーを持つようになったということになります。つまり、もともと2S1/2軌道が1D5/2と1D3/2の間にあったため、これらの3個の軌道が接近して一つの殻を作っていたのが、間にあった2S1/2軌道が下がってしまったために、1D5/2と1D3/2の間に隙間ができ、2S1/2と1D5/2だけで殻を作ってしまうようになったのです。そのため、その殻には8個の中性子が入るため、その内側の8個とあわせて、「16」という魔法数が作られることになります。

(2)測定原理

異なった軌道にある中性子は、違った運動量分布を持っており、2S1/2軌道の中性子と1D5/2軌道の中性子では運動量の分布は大きく違っています。今回の理論を導くに当たり、運動量分布を正確に測定することによって軌道の情報を得ました。

23O核の中性子は15個あるため、内側から1S1/2が2個、1P3/2が4個、1P1/2が2個と詰まっていき、ここで一応閉殻になります(図4)。通常では次に、1D5/2に6個、2S1/2に1個が詰まっていると考えられます。このような場合には、最後の1個の中性子の運動量分布は、S軌道を反映した広がりの狭いものになります。さらに2個目の中性子は、D軌道の中性子を取り出すことになるため、運動量分布は拡がったものになるはずです。

ところが、実際中性子を1個取り出す反応(23O → 22O)および、2個取り出す反応(23O →21O)を観測し、運動量分布を調べたところ、2個の中性子は両方ともS軌道を反映した狭いものであることが分かりました。この結果は、最終殻の中性子のうち2個が2S1/2軌道に入っていることの証拠であり、軌道の順序が換わって2S1/2軌道のエネルギーが1D5/2より低くなることを示しています。このことは、上述したような理由で、中性子数「16」の新しい魔法数ができる原因となったと考えられます。

 

3.まとめと今後


 今回の研究成果により中性子過剰な原子核で、新しい魔法数が出現する機構(メカニズム)を理解することができました。これは、粒子軌道が変化することにより起こるものであり、より重い原子核の領域でも同様に起こることも予想されます。魔法数「28」、「59」、「82」の変化や、その呟辺での新魔法数の出現は、核構造の見地だけではなく、世界の原子核物理学者が研究を進めている元素合成のルートを探る意味でも重要な発見となります。今後は、理研・和光本所で建設が進められているRIビームファクトリーを活用することによって、新しい魔法数に対する理解が急速に進むものと期待されます。

 

 

 

(問い合わせ先)

理化学研究所 

RIビーム科学研究室 主任研究員  谷畑 勇夫

TEL:048-467-9471  FAX:048-462-4689

(報道担当)

  

広報室           嶋田 庸嗣

TEL:048-467-9272   FAX:048-462-4715


 

=図1=

 

 


 

=図2=

 


 

=図3=

 

  


=図4=