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陽子スピンの謎を解く最大の可能性は、グルーオンがスピンを担っていることです。グルーオンが陽子スピンを担うことを“グルーオンは偏極している”といいます。PHENIXを用いるとグルーオン同士の散乱や、グルーオンとクォークの散乱を選び出すことができるので、グルーオンの偏極度を直接測定することができます。もしグルーオンとクォークの偏極で陽子のスピンが説明できれば、その時点で陽子スピンの謎は解決されることになります。さらに陽子のスピンが説明できない場合は、クォークやグルーオンの軌道角運動量(すなわち公転運動)も陽子のスピンを担っていると考えられます。
RHICの偏極陽子衝突のもうひとつのハイライトは、弱い相互作用を媒介する粒子「Wボソン」の生成です。Wボソンが生成された時には、アップ・クォークと反ダウン・クォーク、もしくダウンクォークと反アップ・クォークの組み合わせが散乱を起こしたことが分かります。すなわち、クォークの種類(反クォークを含め
の4種類)を同定し、その偏極度を測ることができます。この測定は、RHICで陽子を250GeV同士で衝突させることにより可能となります。クォーク・反クォークの種類を識別した偏極度の計測は世界で初めてのものとなります。クォークやグルーオンの偏極度がわかると、相互作用の対称性を調べることができます。パリティを破るような未知の相互作用に対しては、米国で稼働している陽子・反陽子衝突型加速器「テバトロン」※5や欧州で建設が進む大型陽子・陽子衝突型加速器「LHC」※5のような偏極していない加速器よりも感度のよい探索ができる可能性も指摘されています。
このような研究が最終的に目指すものは、われわれの世界をつくっている陽子、中性子、さらにはそれが集まってできる原子核に働いている力である「強い相互作用」を理解することです。われわれ研究者は、「強い相互作用」は量子色力学(QCD)※5で説明できると信じていますが、量子色力学を用いて陽子の重さを説明することも、陽子のスピンを説明することもいまだにできていません。今回の実験で陽子のスピン構造が明らかになると、「強い相互作用」の統一的理解に向けて大きなステップが踏まれることになります。このことは、物質がどのように形成されているかを解く、大きな手がかりをつかむことになるのです。
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