Press Release

理化学研究所
平成13年11月30日

HETE-2により捕らえられたガンマ線バーストに残光を発見
− HETE-2の位置情報による即時追観測で得られた初めての成果 − 

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 理化学研究所(理事長:小林俊一)で開発した観測装置を積み、日米仏三国の国際協力※1によって打ち上げられたHETE-2(High Energy Transient Explorer:高エネルギートランジェント天体探査衛星・第2号機)はこのほど、“とかげ座”で起こったガンマ線バーストを捕らえ、位置を決定しました。この位置情報を基に、米国の研究チームが可視および電波望遠鏡で観測した結果、それぞれの波長域において残光があることを発見しました。HETE-2のもたらした位置情報によって得られた初めての成果です。日本では、理研・宇宙放射線研究室(牧島一夫主任研究員)が中心となり、本プロジェクトに参加しています。
 ガンマ線バーストは、数十億光年かなたの遠方で発生する巨大な爆発現象です。HETE-2は、全天のほぼ十分の一の領域を常に監視し、ガンマ線バーストが発生した場合、その位置を測定して地上に即座に通報します。バーストの位置情報は、インターネットを通じて全世界に伝えられ、地上からのガンマ線バーストの即時追観測に役立てられます。今後、HETE-2を中心とした観測ネットワークによって、多くのガンマ線バーストの残光が捕らえられ、謎につつまれたガンマ線バーストの起源に迫れると期待されています。
 本研究成果は、12月3、4日に理研・和光本所(埼玉県和光市)で開かれる理研シンポジウム「HETE-2衛星が拓くガンマ線バースト天文学の新たな地平」で報告されます。

 

1.背景


 ガンマ線バーストは、銀河形成、星形成が活発に行われていた太古の宇宙を探る貴重な現象です。ガンマ線バーストの物理機構やバーストが発生する深宇宙の研究を進めるためには、次の2点の要求を満たす観測システムの構築が求められていました。第1にガンマ線バーストは、宇宙空間の中で“いつ”、“どこで”起きるか分からないため、広い視野で常時バーストを観測する必要があります。第2にガンマ線バーストの可視光対応天体は、急速に減光するため、バースト発生直後のできるだけ早い時点でその位置を決定し、地上の望遠鏡と連携して精密観測を行うことが重要となります。
 HETE-2は、精密観測システムの最も大切な役割を果たす衛星で、搭載した3つの検出器(ガンマ線分光器、広視野X線モニター、軟X線カメラ)でさまざまなガンマ線バーストに対する正確な位置を機上処理で割り出し、10秒ほどで地上へ即座に伝達します。位置情報は、赤道に沿って配置された13カ所の副地上局で受信され、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)内に設置されたミッション・オペレーションセンターに集約され、NASAゴダード宇宙飛行センターが管理するガンマ線バースト位置情報ネットワーク(GCN)を通して全世界の観測拠点にすぐさま配信されます。さらに光学望遠鏡や電波望遠鏡などでバーストによる残光現象などを捕らえることにより、リアルタイムのガンマ線バースト精密観測が可能となります。

 

2.HETE-2について


 ガンマ線バースト即時追観測の中心的な役割を果たすHETE-2は2000年10月9日午後2時38分(日本時間)、マーシャル諸島共和国洋上よりペガサスロケットによって打ち上げられました。10月中旬には、搭載されている検出器が正常に動作していることを確認し、11月末から本年1月の第3週にかけて「かに星雲」からのX線を用いて各観測装置の位置較正用データを取得しました。本年2月には衛星が向いている方向を、恒星を撮影することで確認する「視野方向カメラ」による姿勢自動安定化制御が順調に機能し始め、本時点で“地上解析”に基づくガンマ線バーストの速報体勢が整いました。6月には衛星上のコンピューターの基本ソフトウェアを改善することで地上とのデータのやり取りがスムーズになり、衛星運用が安定して行われるようになりました。さらに、5月から8月にかけて銀河中心付近の既知のX線星からのX線バーストの観測を利用して、ガンマ線バーストが起こったことを即座に感知し、検出する「ガンマ線バーストトリガーソフトウェア」および、正確にガンマ線バーストの位置を算出する「ガンマ線バースト位置決定ソフトウェア」のアルゴリズムの改善を行い、設計精度10分角での位置決定を“機上処理”によって行えることを確認しました。この作業が終了した8月中旬から、当初の計画通りGCNを用いた定常的な速報体制に移行することができました。HETE-2は調整期間を含め、本年11月末現在までに10個のガンマ線バーストに対し位置速報を出しています。

 

3.ガンマ線バースト“GRB010921”


 ガンマ線バーストの速報体制が整い、地上の観測ネットワークとの連携によって初めて、9月21日にガンマ線バースト(GRB010921)が観測されました。バースト源の位置がHETE-2の検出装置の一つである広視野X線モニターの視野の端だったため、検出の速報はされたものの、一方向のみしか精度良く位置を決めることができませんでした。しかしながらHETEサイエンスチームのメンバーである米国・カリフォルニア大学バークレイ校のケビン・ハーレー博士は、惑星探査機と人工衛星による「惑星間ネットワーク(Inter Planetary Network:IPN)」のデータを用いて求めた位置情報を併せることによって、15時間後、ガンマ線バーストの発生位置を正確に決定しました。
 HETE-2とIPNによって求められた正確な位置情報を基に、カリフォルニア工科大学のシュリ・クルカルニ博士の率いるチームは翌22日、カリフォルニア州パサデナ近郊の1706mのパロマ山にあるパロマ山天文台に設置された200インチ望遠鏡でガンマ線バーストの発生したエリアを撮影、可視光による残光を発見しました。また22時間後には、ローレンスリバモア国立研究所(米国)のパク博士らによって運用されているロボット望遠鏡(LOTIS:http://hubcap.clemson.edu/~ggwilli/LOTIS)によっても残光が捕らえられています。クルカルニ博士の研究グループは、赤方偏移※2を測定することに成功し、ガンマ線バースト発生源までの距離を測定したところ、“とかげ座”の方向、約50億光年の距離で起きたことが明らかになりました。ガンマ線バーストの中には100億光年もの遠方で起きるものもあるため、今回起きたガンマ線バーストは比較的近い距離で起きたといえます。さらに同グループは、ニューメキシコ州ソコロの超大型電波干渉計アレイ(Very Large Array:VLA)を用いてガンマ線バーストの残光付近に新しい電波源を発見し、ガンマ線バーストを引き起こした天体と対応することを指摘しています。

 

4.今後の展開


 今回、GRB010921に対する連携観測の成功によって、HETE-2がもたらす迅速かつ正確な位置情報に基づく、地上の望遠鏡などを用いたさまざまな波長による追観測が可能であることが実証されました。HETE-2は、年間15から20個程度のガンマ線バーストの位置情報を配信する計画で、HETE-2の正確な位置情報を基にした観測によって、ガンマ線バーストの物理機構を解明するための貴重なデータを得られると考えられます。HETE-2は次世代の観測衛星「Swift」が打ち上がる2004年まで運用される予定です。
 一方、観測ネットワークの整備も進んでおり、理化学研究所では美星天文台、ぐんま天文台、宮崎大学、東京大学宇宙線研究所などと協力して、HETE-2の速報に対応して自動的に追観測を行う小型ロボット望遠鏡を開発しました。さらに、日本の国立天文台がハワイのマウナケア山頂に建設した大望遠鏡“すばる”においてもガンマ線バーストが起こった際には追観測を進める準備を整えつつあるほか、京都大学やぐんま天文台など国内の各研究機関でも速報体勢に応じた観測を行う予定です。
 また、HETE-2がもたらすガンマ線バーストの位置情報は、望めば世界中の誰でも電子メールやウェブ(http://gcn.gsfc.nasa.gov/)によって無償で得ることができます。HETE-2の速報に即時対応できる準備をしていれば、アマチュア天文家による中小望遠鏡で追観測行い、天文学史に残る大発見を成し遂げることも夢ではないのです。

 

 

(問い合わせ先)

理化学研究所 宇宙放射線研究室


研究員

玉川  徹

TEL:048-467-4651

FAX:048-462-4640


客員主幹研究員(東京工業大学教授)

河合 誠之

TEL:03-5734-2390

FAX:03-5734-2389


客員研究員(青山学院大学助教授)

吉田 篤正

TEL:03-5384-6110

FAX:03-5384-6100

(報道担当)


広報室

嶋田 庸嗣

TEL: 048-467-9272

FAX: 048-462-4715


補足説明

※1

日米仏による国際協力

HETE-2 は、日米仏三国の国際協力によって製作され、NASA(米航空宇宙局)が打ち上げた。日本では理化学研究所がプロジェクトに参加し、ガンマ線バーストの位置決めにおいて中心的な役割を担う観測装置、広視野X線モニター(WXM)を製作し、ミッション運用計画、衛星運用に携わっている。また、赤道付近に3カ所設けられる主地上局のうち、シンガポール地上局の設置・運用を担当するほか、同様に13カ所ほど設けられる副地上局のうちシンガポールとパラオ、マウイの3局を担当している。ガンマ線バーストの観測を行うHETEサイエンスチームには理研のほか、マサチューセッツ工科大学(米)、ロスアラモス国立研究所(米)、CESR(宇宙線研究所:仏)、カリフォルニア大学(バークレイ校、サンタクルズ校:米)、シカゴ大学(米)、ブラジル、インド、イタリアの研究グループが参加している。なお、理研が運用しているシンガポール地上局の設置に関しては、シンガポール国立大学理学部の、パラオ地上局に関してはパラオ通信公社の、マウイ地上局に関しては東京大学ビックバン宇宙国際研究センターおよびハワイ大学の協力を得ている。


※2

赤方偏移

天体から発生されるスペクトル線の波長が、宇宙の膨張のために長波長側にずれるため、そのずれた量を正確に測定することによって、天体までの距離を推定できる。


 


HETE-2は高度約610km、傾斜角約2度の赤道軌道を飛んでおり、100分で地球を一周します。どこでガンマ線バーストを検出してもすぐ連絡がとれるように、HETEチームは赤道に沿って13ヶ所の主・副地上局を配置しています。黄色の円で囲まれている赤い四角は主・副地上局、その他の赤い四角は副地上局をあらわしています。赤い円は、それぞれの地上局が衛星からの電波を受信できる範囲を示しています。理化学研究所は、シンガポール主・副地上局、パラオ副地上局、マウイ副地上局を担当しています。


 

2001年9月21日に発生したガンマ線バーストは、HETE-2の視野の端で起きたため、一方向のみ精度よく位置を決めることができました。この位置情報と、惑星間空間探査機ネットワーク(Inter Planetary Network; IPN)により求められた位置情報を合わせることにより、ガンマ線バーストの発生位置を、より精度良く決定することができました(下図参照)。斜線部分がHETE-2とIPNによって決定された位置です。この情報にもとづいて、発生直後から数多くの地上および軌道上の望遠鏡による追観測がおこなわれました。


 

 HETE-2が2001年9月21日にとらえたガンマ線バーストGRB010921に、可視光残光と母銀河が発見されました。パロマー天文台の200インチ望遠鏡を用い、カリフォルニア工科大学(米)のシュリ=クルカルニ博士らのグループが発見しました。彼らはさらに分光観測をおこない、母銀河までの距離を約50億光年(赤方偏移 0.45)と求めました。下の図は、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、GRB010921の残光と母銀河の画像です。バースト源を含む銀河がぼんやりと広がって見えています。母銀河の見かけ上の大きさは約0.5秒角です。ガンマ線バーストの謎に迫るには、数多くのバーストの残光観測や、母銀河の詳しい観測がぜひとも必要です。