Press Release

  理化学研究所
平成13年 10月11日

フラーレンを使った新しい耐熱感光性樹脂を開発
− 特殊環境で使用できる有用な新材料 −

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 理化学研究所(小林俊一理事長)は、フラーレンを触媒として用いることで高い耐熱性を持った新しい感光性樹脂※1を開発しました。理研ナノ物質工学研究室(武内一夫主任研究員)の田島右副研究員らによる研究成果です。
 新しく開発した樹脂は、光照射によって硬化するネガ型の感光性を持つとともに、300度以上の高温にも耐えることができ、従来の耐熱感光性樹脂のような露光工程後の高温処理を必要としないのが大きな特徴です。これは、炭素原子がサッカーボール状に結合したフラーレンの光増感能による硬化機構(POP機構)を、熱安定性に優れるポリイミド樹脂に適用することで実現しました。本樹脂は、次世代の高密度半導体素子製造に不可欠な層間絶縁膜※2などを作製するのに適しているほか、耐放射線性にも優れているため、航空宇宙材料や原子力周辺材料など、さまざまな応用分野での活躍が期待できます。
 本研究成果は、応用物理学会の英文論文誌「JJAP(Japanese Journal of Applied Physics)」(10月15日発行)に発表されます。

 

1.背景

   

 フラーレンは、カーボンやダイヤモンドに次ぐ第3の炭素同位体として注目されている物質です。1985年に米英の科学者によって初めて、炭素原子が60個集まったサッカーボール状の分子C60が発見されました。その後、フラーレン状分子の研究は積極的に行われ、C70やC82などが見つかっているほか、C60の2量体(C120)や3量体(C180)も作り出されています。フラーレンの特徴として、π電子共役系の球状分子であることから、高い安定性や光に対する相互作用があります。さらに、“有機溶媒に可溶”、“高い電子親和力”、“エネルギー準位の縮退”、“低いイオン化ポテンシャル”、“高い酸素増感能”などの特徴も併せもっており、ナノテクノロジーの観点からも注目されています。
 一方、感光性を持った耐熱性樹脂(耐熱感光性樹脂)は、軽薄短小化の進む半導体パッケージ材料※3などに必要不可欠であり、近年、研究開発が盛んに行われています。従来の感光機構によって感光性を与えた場合、導入する感光基の耐熱性が不十分なため、感光プロセス※4の後に、高温処理(高温アニーリング)による感光基の除去が必要でした。このような方法では、高温処理によって他の構成部品に不要な熱履歴を与えてしまうほか、パッケージ材料から発生する揮発成分により汚染を引き起こすなどのさまざまな問題が生じるため、耐熱感光性樹脂が使用できる場所は限定されていました。今後、さらなるエレクトロニクス製品の小型化、高密度を達成するためには、高温アニーリングを必要としない耐熱感光性樹脂が熱望されています。

 

2.研究の成果

  

 今回、開発に成功した耐熱感光性樹脂は、光酸化誘起重縮合(Photo-Oxidation Induced Poly-Condensation:POP)機構をポリイミド樹脂に適応したものです。POP機構は、フラーレンの光機能を活用するもので田島研究員らが発見しました。POP機構とは、フラーレンを増感剤(光に対する感度を上げる成分)として、光照射下で励起した一重項酸素(1O2)を多量に発生させ、それによってフラン誘導体を酸化重縮合するものです(図1)。したがって、従来の感光機構のように酸素分子による反応阻害を受けることはありません。また、フラン基を導入できる樹脂であれば、どのような樹脂系にも応用することができます。
 一方、ポリイミドは、熱安定性に優れた樹脂として知られますが、有機溶媒への溶解性が低いことがしばしば問題となります。半導体素子製造のように感光性樹脂(フォトレジスト)として利用するには、未露光部を溶解除去するため、有機溶媒に対する高い溶解性が必要となります。本研究で用いたポリイミド樹脂は、ポリイミドにPOP機構による酸化縮重合をうながすフラン基を導入するとともに、耐熱性を維持しながらガラス転移点(Tg)※5を下げることで、溶解性を高める工夫がされています。また、感度を向上させるために、フラーレンとの光相互作用を考慮した分子設計もなされています。具体的には、フラン基を持ち、ガラス転移点を下げる効果を持たせた“ジアミンモノマー(p-BABF)”(研究室によるオリジナル)と、有機溶媒に解けやすい“酸無水物モノマー(6FDA)”(市販物)とを縮重合させて“ポリアミド酸”とし、さらにイミド化によって“ポリイミド”を合成しています。
 このポリイミドとフラーレンを組み合わせた樹脂は、期待通りの感光性(図2)と高い耐熱性(図3)を示しました。特に、高温処理を行わない条件で、5%重量減少温度は約370℃に達しています。これは従来の感光性ポリイミド樹脂に較べ、2倍近い温度でも安定であることを示しています。

 

 

3.今後の展開

 本研究で開発した新しい耐感光性樹脂は、絶縁層を幾層にも重ね、高密度に半導体素子を製造するチップ・サイズ・パッケージ(CSP)などには必要不可欠なキーテクノロジーです。今までの層間絶縁膜の製造法では、耐熱性を持たせるために絶縁層を設けるたびに高温処理が必要となり、熱に弱い半導体素子への悪影響が懸念されていました。本樹脂は、高温処理せずに高い耐熱性を持ち、容易に積層化することが可能であることから、電子機器のダウンサイジング化に大きく貢献するものと期待されます。
 さらに、本研究で見出した樹脂組成物は、フラン基やフラーレンの効果で、耐熱性だけでなく耐放射線性も優れていると考えられます。このことは、半導体素子製造以外にも航空宇宙材料や原子力周辺材料など、さまざまな応用分野での活躍が期待できることを意味しています。特に、高い線量の宇宙線にさらされる電子機器や原子力発電所周辺機器では金属やセラミックに代わり、高レベル放射線に耐え、加工しやすい有機材料が強く望まれており、そのような特殊環境においても本耐熱感光性樹脂は有望な材料となります。

 

 


(問い合わせ先)    

理化学研究所

 ナノ物質工学研究室 研究員  田島 右副
 TEL:048-467-9309 FAX:048-462-4702

(報道担当)

広報室             嶋田 庸嗣
                仁尾 明日香
 TEL:048-467-9272  FAX:048-462-4715



補足説明

※1 感光性樹脂

 半導体用のフォトレジストをはじめ、印刷用製版材料、成形材料、コーティング材料、情報記録材料、インキ材料など幅広い用途をもつ。いままでの感光性樹脂は、熱に弱く、使用される用途が限られていた。


※2 層間絶縁膜

 導電帯層および半導体層との間にはさまる絶縁層のこと


※3 半導体パッケージ材料

 半導体素子を封止するための材料。従来の周辺リード型パッケージではエポキシ樹脂が主に使われているが、素子全体の軽薄短小化に有効なBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)といった表面実装型では、より高い耐熱性とともに感光性を有する材料が求められている。


※4 感光プロセス

 高圧水銀灯やレーザーによって必要な部分を露光し、その後の現像処理によって未露光部分を除去する工程(ネガ型の場合)。フォトリソグラフィと呼ばれる。


※5 ガラス転移点

 高温度では液体である物質が温度の降下により、ある温度範囲で急激にその粘度を増し、ほとんど流動性を失って非晶質固体となる温度。

 


 

<図1>

光酸化誘起重縮合機構の概念図

解説
最初に、光励起したフラーレンC60から、近傍の酸素分子へエネルギーが移動し、一重項酸素(1O2)が発生する。その1O2が、ポリイミド分子の一部を酸化して過酸化物中間体を形成し、次いで、高分子どうしの重縮合架橋が起こる。

 

 


<図2>

耐熱感光性樹脂の露光感度評価

解説
上図は、耐熱感光性樹脂のフィルムに高圧水銀灯を照射した時の照射エネルギー量に対する膜の硬化度を示している。この樹脂は、露光後に120℃の低温加熱(PEB)をすることで同エネルギー照射時の硬化度が増すことが分かった。

 


<図3>

耐熱感光性樹脂の熱安定性測定

解説
今回開発した耐熱感光性樹脂(POP Polyimide実線)は高温処理前に300℃以上に加熱してもほとんど熱分解による重量減少を起こさなかった。それに対し、従来型の感光性ポリイミド樹脂(PSPI破線)は200℃程度で15%以上減少している。

 


<参考>

フラーレンの主な特徴

カーボン、ダイヤモンドに次ぐ第三の炭素同素体

π電子共役系の球状分子 → 高い安定性, 光相互作用 (~680nm)

有機溶媒に可溶

高い電子親和力

エネルギー準

低いイオン化ポテンシャル

高い酸素増感能

 

 

 


<参考>

○半導体素子の軽薄短小化

DIP: Dual In-line ackage

SOJ: Small Out-line J-leaded Package

SOP: Small Out-line Package

TSOP (LOC): Thin Small Out-line Package (Lead On Chip)

QFP: Quad Flat Package

PGA: Pin Grid Array

BGA: Ball Grid Array

CSP: Chip Size (Scale) Package

 

○多層化半導体素子の断面構造