Press Release

  理化学研究所
平成13年 10月3日

巨大ブラックホール誕生の謎 解明へ
− 宇宙進化の歴史をひもとく大きな一歩 −

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 理化学研究所(小林俊一理事長)は、東京大学および京都大学などの研究グループとともに、銀河の中心部に位置し、銀河の活動エネルギーをまかなう「巨大ブラックホール」誕生に対する新理論モデルを提案しました。理研情報基盤研究部の戎崎俊一基盤研究部長、東京大学大学院理学研究科の牧野淳一郎助教授、京都大学理学部の鶴剛助教授らによる共同研究チームによる成果です。
共同研究チームは、今まで得られた観測事実などの研究結果に基づき、超高速専用計算機による重力多体シミュレーションで理論的研究を進めました。その結果、爆発的星形成で生まれた星団の中で「中質量ブラックホール」が誕生し、それらが星団に抱かれつつ銀河中心へ落下し、互いに合体することで巨大ブラックホールへと成長することを突き止めました。このシナリオは、銀河の形成進化や活動銀河核の形成までにおよぶ宇宙全体の進化の歴史に新た知見を与えるものであり、今までの定説を書き換える可能性を秘めています。
本研究成果は10月4日から姫路市で開かれる「日本天文学会」秋季年会において特別セッションが組まれ、発表されます。

※戎崎俊一(理化学研究所)、牧野淳一郎(東京大学)、鶴剛(京都大学)、川辺良平(国立天文台)、松下聡樹(ハーバード・スミソニアン天体物理学研究センター)、松本浩典(大阪大学/マサチューセッツ工科大学)、船渡陽子(東京大学)、舞原俊憲(京都大学)、原島隆(ミノルタ)、岩室史英(京都大学)、サイモン・ポルトギース・ツワート(マサチューセッツ工科大学)、スティーブ・マクミラン(ドレクセル大学)、ピート・ハット(プリンストン高等研究所)

 

1. 背 景

   

 ブラックホールは、強大な重力のために光さえその中から脱出できない天体です。20世紀前半の一般相対論の確立により理論的に予言され、20世紀後半のX線天文学の台頭により宇宙における実在が確かめられました。
 従来、宇宙には2種類のブラックホールがあることが知られていました。ひとつは、星がその進化の果てにすべての核エネルギーを消費し尽くしたのち、自らの重力で潰れてできる小質量ブラックホールです。小質量といっても重さは太陽質量の10倍から20倍程度もあります。もう一つは、銀河の中心に住む巨大ブラックホールです。その質量は、少なくとも太陽の百万倍程度、大きいものでは太陽の十億倍を超えます。巨大ブラックホールは、活動的銀河核の中心エンジンとして仮定されており、活動的銀河核が放出する膨大なエネルギーをまかなうためには、巨大ブラックホールに1年間に恒星が一個ぐらい飲み込まれなければなりません。巨大ブラックホールは、ほとんどすべての銀河の中心に存在することが分かってきました。
 巨大ブラックホールがどうやってできたかはこれまでまったくわかっていませんでしたが、今回の新理論構築で中質量ブラックホールを経て形成されるらしいことが明らかになってきました。この中質量ブラックホールは1999年、共同研究チームの松本浩典研究員(マサチューセッツ工科大学/大阪大学、元・理研基礎科学特別研究員)、京都大学の鶴剛助教授らによって初めて発見されたものです。松本研究員らは、宇宙科学研究所のX線天文衛星「あすか」および米国のX線天文衛星「チャンドラ」を用いて、爆発的な銀河形成で有名なM82銀河(図1)に明るいX線天体を発見し、その最大光度変化や明るさの時間変化とM82銀河内での位置から、このX線源が中質量ブラックホールである結論づけています。この中質量ブラックホールの発見が今回の理論構築の出発点となりました。

 

2.新理論形成につながる研究成果

  

 中質量ブラックホールの発見は、巨大ブラックホール形成の謎を解く大きな手がかりとなりました。共同研究チームの松下聡樹学術海外特別研究員(ハーバード・スミソニアン天体物理学研究センター)を中心としたグループは、国立天文台野辺山電波観測所のミリ波干渉計を用いた観測により、中質量ブラックホールの周りに巨大膨張分子雲を発見し、これが爆発的星形成に伴い約1000万年前に形成されたことが明らかにしました(図2)。この巨大膨張分子雲の中心に中質量ブラックホールが存在することは、爆発的星形成と中質量ブラックホール誕生が深く関係していることを物語っています。さらに共同研究チームは、岩室史英京都大学助手らを中心として、国立天文台がハワイ・マウナケア山頂に建設した「すばる」望遠鏡により、中質量ブラックホールの位置に、爆発的星形成により誕生した若い星団を発見しました(図3)。これは爆発的な星形成の結果つくられた星団の中で中質量ブラックホールが育ちつつあることを強く示唆しています。
 これらの観測のほか、共同研究チームの牧野淳一郎助教授らが中心となり開発した重力多体専用計算機「GRAPE−4」を用いて、重力多体シミュレーションを行いました。その結果、高密度の星団内では、質量の大きな星が中心に沈み、互いに合体して、太陽の数百倍の質量にもおよぶ大質量星が作られることを見いだしました(図4)。シミュレーションの結果では、大質量星は速やかに進化し、重力崩壊して中質量ブラックホールとなります。これは、高密度の星団における中質量ブラックホールの形成が定量的に十分可能なことを示しています。

 

 

3.巨大ブラックホール誕生のメカニズム(説明図参照)

 今までの研究成果から巨大ブラックホール誕生のメカニズムのモデルが姿をあらわしました。巨大ブラックホールの形成のドラマは2幕に分かれます。第1幕で高密度星団中に中質量ブラックホールが、第2幕で中質量ブラックホールから巨大ブラックホールが形成されます。


第1幕:高密度星団中における中質量ブラックホールの形成(図5)

1.

銀河同士の衝突などにより爆発的な星形成が起こり高密度の星団が一度に大量に作られる。

2.

高密度の星団では、力学的摩擦(重い星の運動エネルギーが軽い星に奪い取られる)により重い星が中心に落下し、それらの合体により、短時間に大質量星(太陽質量の100倍以上)が誕生する。

3.

大質量星は速やかに重力崩壊し、星団の中心に太陽質量の数百倍のブラックホールができる。このブラックホールはさらに周りの星を呑み込みながら成長を続け、X線源として輝き始める。

4.

さらにブラックホールは成長を続け、ついには星団の中心に太陽の数千倍の質量を持つ1個の中質量ブラックホールが誕生し、明るいX線源として観測される。


第2幕:銀河中心における巨大ブラックホール形成(図6)

1.

中質量ブラックホールを抱えた星団は、母銀河の中での力学的摩擦により銀河中心に沈む(図7)。

2.

母銀河の潮汐力などで星団を形成する恒星が散逸させられ、中質量ブラックホールのみが母銀河の中心付近に取り残される。

3.

多くの星団が中心に落ち、中質量ブラックホールが銀河の中心に集まる。それらは重力波を放出しながら合体し、1つの巨大ブラックホールへと成長する。同時に回りの星やガスを飲み込むことで活動的銀河核として活動する。

 

4.宇宙進化論に対するインパクト

  

 今回、提案する理論シナリオは、単に巨大ブラックホールの形成を説明するにとどまりません。これまで別々に議論されてきたいくつかの観測事実を統一的に説明することが可能となります。まず、銀河のバルジの質量と銀河中心巨大ブラックホールの質量の間にある正の比例関係を説明することができます。バルジとは、円盤銀河の中央部の膨らんだ部分です。この比例関係は、巨大ブラックホールの成長と銀河の進化との密接な関連を意味します。なぜブラックホールのように極めて局所的な天体と、銀河全体に関するバルジの間に関係があるのか、その原因は不明でした。本研究チームのシナリオでは、中質量ブラックホールを抱えて沈降する星団の普通の恒星は、やがて母銀河の潮汐力などで星団から剥ぎ取られて、銀河中心付近に広く拡がります。さらに、銀河円盤部の恒星の軌道も星団の重力でかき乱されます。これらの恒星がバルジを形成するとすれば、バルジの質量と巨大ブラックホールの関係を自然に説明できます。
 次に、これまで別々に議論されてきた爆発的星形成銀河から、高光度赤外線銀河、セイファート銀河、クエーサーに至る一連の天体を、ブラックホールの成長という進化軸で統一的に捉えられる可能性があります。物質密度の高かった初期の宇宙では、銀河同士の衝突が盛んに起き、衝突による爆発的な星形成と、それに続く巨大ブラックホール形成が激しく進んだはずです。実際、宇宙が現在の3分の1の大きさだった頃に、クエーサーなどの巨大ブラックホールをエンジンとする活動銀河核がその活動のピークを迎えています。また、活動銀河核の周りには、これから合体するであろう中質量ブラックホールが多く存在することが予測されます。それによる重力レンズ効果や、降着円盤への重力的擾乱が活動的銀河核の時間変動の原因になっている可能性が高いのです。
 さらに、宇宙初期にはかなり頻繁にブラックホール同士の合体が起こったはずです。100万太陽質量程度のブラックホール同士の合体では、数ミリヘルツの振動数の宇宙重力波バーストが発生します。宇宙の果てで発生したものでも、現在、米国で計画中の重力波アンテナ「LISA」で十分観測可能です。その検出頻度は、少なくとも1ヶ月に1回程度はあるので、LISAの重要なターゲットになると思われます。
 最後に、本研究成果は、日本が世界に誇る「あすか」衛星、「すばる」望遠鏡、野辺山電波観測所の「ミリ波干渉計」などの観測機器と重力多体問題専用計算機「GRAPE」など、それぞれが一見すると独立に進めてきた日本の研究が、自然にしかもダイナミックに繋がり一つの理論シナリオに結集、さらに大きな展開を見せようとしているところに大きな意義があります。今後も、新モデルの確立を目指し、多くの研究者が協力していくことになるでしょう。

 

 


(問い合わせ先)    

理化学研究所

情報基盤研究部 部長   戎崎 俊一
 TEL:048-467-9414    FAX:048-467-4078
 e-mail:ebisu@atlas.riken.go.jp

(報道担当)

広報室           嶋田 庸嗣
 TEL:048-467-9272   FAX:048-462-4715



参考となるホームページ

1.天文学会 記者発表記事:

http://atlas.riken.go.jp/~ebisu/smbh.html


2.「新種ブラックホール発見」(記者発表記事〔2000〕):

http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/research/xray/press200009/


3.「銀河の巨大な爆発から誕生する新種ブラックホール」(記者発表記事2〔2000〕):

http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/research/xray/press200010/


4.重力多体専用計算機 GRAPE:

http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/grape/


5.宇宙科学研究所宇宙圏研究系(「あすか」衛星):

http://www.astro.isas.ac.jp/index-j.html


6.国立天文台野辺山宇宙電波観測所:

http://www.nro.nao.ac.jp


7.国立天文台「すばる」望遠鏡:

http://www.subaru.naoj.org/j_index.html


8.「チャンドラ」X線衛星:

http://chandra.harvard.edu/


9.LISA:

http://lisa.jpl.nasa.gov/