Press Release

  理化学研究所
平成13年 7月18日

環境に配慮した新しいタイプの殺ダニ剤を開発

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 理化学研究所(小林俊一理事長)は、環境に配慮した新しいタイプの殺ダニ剤を開発しました。微生物制御研究室(山口勇主任研究員)の有本裕先任研究員らによる研究成果。本研究で開発した殺ダニ剤は、食品添加物である「プロピレングリコール脂肪酸エステル」を高濃度で油滴化することでダニの気門をふさぎ、効果的に駆除できることが大きな特徴です。また、このような物理的メカニズムに基づく薬剤は、ダニに対する薬剤抵抗性が起こりにくく、持続して殺ダニ効果を得ることができます。本殺ダニ剤は、当研究所がライセンス許諾を行った農薬メーカーにより製品化され、近日中に販売が開始される予定です。

  

1.背 景

 わが国における農作物への病害虫被害は、高温多湿となる夏季に集中しており、 特にカンキツ類、ナスにおいては、ダニ類の発生による被害が顕著となっています。これらは、夏から冬に至るまで収穫期が長期間に及ぶため、迅速かつ効率的な駆除の必要があり、農薬の使用が不可避となっています。一方、農薬の継続的使用は、病害虫の薬剤耐性が生じ、使用回数の増加及び高濃度散布をもたらすこととなり、短期、長期的に生態系や環境に対する影響が心配されております。
 当研究所では、農薬開発のコンセプトを“自然環境への配慮(SaFE:Safe and Friendly to Environment)”として研究を進めています。農薬として登録するには厳しい安全性評価を受けなければなりません。それでも長期間使用すると、時としてこれまで経験のない影響が現れることがあります。微生物制御研究室ではこの点を考慮して、これまで長期間使用し続けても強い影響の報告されていない化合物は比較的安全ではないかと考えました。そして農薬の有効成分として食品や食品添加物に注目して研究を進めています。
 これまでのSaFEの成果としては、ぶどう酒の発酵調整に使用する炭酸水素カリウムを有効成分とした“うどんこ病”の防除剤など4種類(そのうち3種類が現在も市販されている)の農薬の開発に結びついています。

2.研究成果

 今回、有本先任研究員らが開発した殺ダニ剤は、ケーキの起泡剤(日本での使用量は1000トン/年)などに用いられている食品添加物「プロピレングリコール脂肪酸エステル」を有効成分としています。「プロピレングリコール脂肪酸エステル」は、体内に摂取しても、容易にプロピレングリコールと脂肪酸に分解され、最終的には炭酸ガスと水に変換されることが知られています。
 食品や食品添加物の植物病害虫に対する効果は高いものではありません。そこで特殊な製剤方法を用いました。この方法では、有効成分をグリセン脂肪酸エステルの膜に包まれた高濃度な油滴として散布溶液中に存在させることができます。その結果、高濃度の有効成分を直接病原菌や虫体に付着させることができ、有効成分を均一に溶解している溶液を用いるよりも高い防除効果を得ることができます。
 本殺ダニ剤を散布すると、高濃度の有効成分がダニの体に効率よく付着します。高濃度の有効成分は、気門を封鎖してダニを窒息させることによって駆除すると考えられます。従来の気門封鎖型薬剤は、高濃度(40倍〜100倍の希釈濃度)で使用することが求められていますが、本剤は高濃度のまま油滴化する製剤技術により1000倍に希釈しても高い防除効果が得られることが確認されています。化学合成によって作られた農薬は、頻繁に使用することで薬剤に対する耐性が強まり、効果が低下することから散布回数に制限があります。本剤は、気門封鎖という物理的作用から、ダニに対して抵抗性がつきにくいことも実証されています。
 本剤は、各種ハダニに効果がありますが、特にナスやミカンなどに害を及ぼすナミハダニやミカンハダニ類に優れた効果が認められています。

 

3.今後の展開

 環境問題が大きくクローズアップされるなか、農薬の使用を制限した有機栽培が注目されています。今回開発した殺ダニ剤は、ミツバチやチリカブリダニなどの有益な昆虫等には影響はほとんどありません。さらに、ライセンス許諾を受けた農薬メーカーでは、米国において有機栽培に使用できる農薬として申請することも検討しており、環境に配慮した農薬として注目されています。
 研究室では今後もSaFEの考え方を進め、さらに食品や食品添加物などから害虫駆除に有効な成分を見つけ出し、効果的でなおかつ環境に配慮した農薬開発を進めていく予定です。

 

 

 

(問い合わせ先)    

理化学研究所

微生物制御研究室 先任研究員   有本  裕
TEL:048-462-1111(ex5513) FAX:048-462-4677

(報道担当)

広報室               嶋田 庸嗣
TEL:048-467-9272       FAX:048-462-4715

 

 

 

1952年から使用が始まった有機水銀は、1965年に米穀中への残留が指摘された。また、ペンタクロロフェノール(PCP)は水田で使用する除草剤として1957年に使用が開始されたが、1962年に有明海や琵琶湖でPCPによる魚の大量死が報告されている。最近では、工場廃液中の成分が河川で分解されて生じたノニルフェノールが魚の雌化作用を有する可能性が報告された。