Press Release

  理化学研究所
平成13年 3月29日

遺伝子突然変異の大規模高速検出システムの開発について

プレス発表情報一覧




 

 理化学研究所(小林俊一理事長)はこのほど、宝酒造株式会社(大宮久社長)と「標的遺伝子におけるENU誘発突然変異※1の大規模高速検出システムの開発」に関する共同研究を行うことで合意しました。理研横浜研究所ゲノム科学総合研究センター(GSC)が作製した、突然変異マウスの特定遺伝子およびゲノム領域の対象塩基配列領域を選定し、宝酒造(株)がDNA塩基配列解析を行います。それらのデータをもとに、共同で遺伝子突然変異部位の大規模高速検出システムを開発していきます。研究期間は、平成13年3月15日より平成14年3月31日まで。本システムの開発により、病気の原因解明に新たな道を切り拓き、オーダーメイド医療を具体化する重要な足がかりになると期待されています。
 当研究所では今後も、ポストゲノム研究を推進していく上で得られた研究成果を効率的に産業界に移転するため、産業界との共同研究を積極的に進めていきます。

1.遺伝子突然変異の大規模高速検出システムについて

 ヒトのゲノムは30億塩基対からなり、遺伝子の総数は約3万個といわれていますが、遺伝子の相互作用はその組み合わせとなり全容を解明するには天文学的数量の分子レベルのデータが必要となります。さらに、ポストゲノムプロジェクトでは、ヒトの塩基配列の個人差(ヒトSNP:Single Nucleotide Polymorphism)とヒト疾患とを相関付け、オーダーメイド医療を実現していく計画も進行しています。ヒトSNPの同定において、その病態あるいは体質を遺伝要因と環境要因に分けて解析することは、実験のできないヒトにおいてはこれからの大きな課題であります。そのためにもモデル動物においてSNPを含む遺伝子変異と個体表現型を効率良く対応づける方法が大変重要な要素と考えられています。特に生活習慣病のようなヒト疾患モデルとして重要な劣性突然変異の大規模スクリーニング法は、モデル動物の代表格であるマウスでさえも確立されていないというのが現状です。
 当研究所では、モデル動物がこれらの課題を解明する鍵を握る手段と想定し、さまざまな1塩基の違い(SNP)を有する突然変異マウスによるモデル動物を作製し、さまざまな表現型を検出解析する方法論を確立してきました。一方、宝酒造は、DNAのシーケンス解析に本格的に取り組んでおり、かつ独自にゲノム解析技術を開発するなどのノウハウを有しています。本システムを共同で開発することにより、マウス突然変異体の変異箇所を効率的に検出することができ、ヒトのがん、糖尿病、高血圧症などの病気の原因解明と、診断法および治療法の開発に拍車をかけるものと期待されています。

2.共同研究の概要

1) 

当研究所では、GSC動物ゲノム機能情報研究グループおよび、ゲノム情報科学研究グループ個体遺伝子情報研究チームが中心となり、1.突然変異マウスのサンプル提供、2.特定遺伝子およびゲノム領域の対象塩基配列領域の選定、PCRプライマー※2の選定−を行っていきます。

2)

宝酒造(株)は、当研究所から提供されるサンプルから抽出する特定遺伝子およびゲノム領域塩基配列上のDNA配列の決定・解析を行います。

3)

両者は、宝酒造(株)によって得られた塩基配列情報に基づき、突然変異部位の大規模高速検出システム化の開発を目指します。

4)

研究期間は約1年間(平成13年3月15日〜平成14年3月31日)。

5)

共同研究に必要な経費は両者で負担します。

6)

共同研究実施中に得られた知的財産権は両者が共有します。

7)

共同研究の成果は原則、公表しますが、その時期および方法などについては両者協議のうえ、決めるものとします。

 

 

 

 


(問い合わせ先)    

理化学研究所

研究業務部 実用化推進課    根本 嘉之 
  TEL:048-467-9762 FAX:048-462-4609

横浜研究所 研究推進部     鈴木 美香
  TEL:045-503-9117 FAX:045-503-9112

(報道担当)

広報室              嶋田 庸嗣
  TEL:048-467-9272   FAX:048-462-4715

 

 


補足説明

 

※1ENU誘発突然変異

化学変異原ENU(N-ethyl-N-nitrosourea)をマウスに投与すると、高率にアミノ酸置換型の点突然変異が誘発される。ENUで処理したマウスを多角的に検索することにより、突然変異マウスを体系的に開発する大型プロジェクトが各国で進められている。


※ 2PCRプライマー

突然変異を検出する遺伝領域をPCRで増幅するために用いる2種類のオリゴヌクレオチド。マウスのゲノムDNAを鋳型(テンプレート)にして、このプライマーと耐熱性DNA合成酵素により必要箇所を増幅して塩基配列を解析する。