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一般に、リガンド*4と受容体の関係を検証する直接的な方法として結合実験があります。
本実験では、放射活性同位元素で標識したリガンドを指標として、リガンドと受容体BRI1の特異的結合量を測るため、測定限界に耐えることができる高い放射活性を持つリガンドが必要です。しかし、BRの活性本体と考えられているブラシノライド(BL)は、複雑な構造をしている天然化合物であり、それを化学的に修飾・加工することは技術的に困難でした。従来の放射活性体の合成方法では、合成の行程が長い、あるいは放射活性が低いなどの問題があることから、これらを打開する新たな方法の開発が待たれていました。
今回、生長制御物質研究チームは、放射性同位体トリチウム(3H)で標識し高い放射活性を持たせたBLを化学合成する方法を開発しました。BLの側鎖に効率良く二重結合を導入し、得られた25(26)-ジヒドロ-BL
をトリチウム化するこの方法では、短工程で高い放射活性を示すBLを合成することができます(図3)。
これをリガンドとしてソーク生物学研究所では、BRI1がブラシノライド受容体であることを証明するために、以下の証明実験を行いました。
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1)
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シロイヌナズナの野生株と、BRI1-GFP融合タンパク質を高発現する遺伝子組み換え体のミクロソーム分画*5について、BLとの結合実験を行いました。組み換え体の結合活性が大幅に上昇したことから、高発現したBRI1にBLが結合し、高い結合活性を示したことが分かりました。
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2)
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BLがBRI1に直接結合していることをさらに証明するために、GFPタンパク質に対する抗体で両ミクロソーム分画を免疫沈降させ、結合実験を行いました。BRI1-GFP組み換え体の沈殿には高い結合活性が観察されましたが、野生株では観察されませんでした。これは沈殿したGFP融合BRI1に標識BLが直接結合したことを示しています。
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3)
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活性度が異なる代表的なブラシノステロイド類縁体を用いて、BLとBRI1の結合に対する阻害効果を検証しました。その結果、類縁体それぞれの活性度に応じてBLとBRI1の結合が阻害されました。
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これらの結果により、BLがBRI1に直接結合すること、すなわち、BRI1はBLの受容体であることが証明されました。
続いて、BRI1のBR結合部位について検証するために、BRI1遺伝子上で変異点が異なる数種のBRI1突然変異体のミクロソーム分画についてBLとの結合実験を行いました。その結果、BRI1の細胞外のLRR領域(ロイシンに富んだ繰り返し領域)に挟まれて存在する「70-アミノ酸アイランド」という部分に変異を持つものだけが結合活性を示しませんでした。この結果は、BLの結合部位が70-アミノ酸アイランドに存在することを示しています。
さらに、BRI1がBLの情報を伝達する際に起こる、BRI1の自己リン酸化について検証しました。野生株、70-アミノ酸アイランドとキナーゼ領域に変異を持つBRI1突然変異体、及びBRの生合成変異体それぞれについて、BLによるBRI1の自己リン酸化実験を行ったところ、BRI1突然変異体には自己リン酸化が起こらないという結果になりました。このことから、BRI1によるリン酸化には70-アミノ酸アイランドへのBLの結合と細胞内キナーゼ領域の活性化が必須であることが言えます。
以上の実験結果から、BLの情報は、まず膜受容体BRI1の70-アミノ酸アイランド領域にBLが結合することによって、細胞内キナーゼ領域の自己リン酸化を誘起、この活性化を経て細胞内にBL情報が伝達されることが明らかとなりました(図4)。
ステロイド化合物は、多細胞生物の分化・成長、さまざまな生理現象の情報伝達に重要な役割を担っています。植物のステロイド受容体については、昨年完全解読されたシロイヌナズナのゲノム解析により、動物でスーパーファミリーを形成している核内受容体に類するタンパク質はコードされていないこと、およびBRI1を含む174個のLRR-S/T-RLKの存在が明らかにされています。したがって、今回の成果から、植物ではステロイド等の低分子生理活性物質の情報伝達には、細胞膜上のLRR-S/T-RLKファミリーが重要な役割を演じていることが示唆されました。
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