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理化学研究所(理事長:小林俊一)で開発した観測装置を積んだHETE-2
(High Energy Transient Explorer:
高エネルギートランンジェント天体探査衛星・第2号機)
が、マーシャル諸島共和国洋上より日本時間2000年10月7日午後2時45分[現地時間:同日午後5時45分](予定)に打ち上げられます。HETE-2
の主目的は、宇宙ガンマ線バーストの観測です。全天のほぼ十分の一の領域を常に監視し、ガンマ線バーストが発生した場合、その位置を測定して地上に即座に通報します。バーストの位置情報は、インターネットを通じて全世界に伝えられ、地上からのガンマ線バーストの即時追観測に役立てられます。
宇宙ガンマ線バーストは、数十億光年のかなたの遠方の銀河で発生する巨大な爆発現象です。HETE-2
は、年間約50個(予定)のガンマ線バーストの観測を行います。HETE-2によって、地上天文台からのバースト発生直後からの精密な追観測が初めて可能になり、謎につつまれた宇宙ガンマ線バーストの起源に迫れると期待されています。
HETE-2
は、日米仏三国の国際協力によって製作され、NASA(米航空宇宙局)が打ち上げます。理化学研究所は、ガンマ線バーストの位置決めにおいて中心的な役割を担う観測装置、広視野X線モニターを製作しました。また、赤道付近に3カ所設けられる主地上局のうち、シンガポール地上局の設置・運用を担当するほか、同様に13カ所ほど設けられる副地上局のうちシンガポールとパラオの2局を担当します。
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1. 背 景
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ガンマ線バーストとは、宇宙の一点から突然多量のガンマ線が爆発的に放射される現象です。しかし、「どのような天体が、いつ、どこでガンマ線バーストを起こすのか?」。現在、これは天文学の大きな謎となっています。
ガンマ線バーストは、銀河形成、星形成が活発に行なわれている太古の宇宙を探る貴重な現象であり、多数の例を詳しく観測することが現在強く求められています。また、バースト発生直後の精密観測は、バーストの物理機構を研究する上で非常に重要であります。しかしながら、現状の観測装置では、バースト発生後、精密観測が可能なバースト位置が得られるまでに時間がかかってしまい、このような観測は非常に困難です。この現状を打ち破る突破口をつくるのがHETE-2の役割です。
HETE-2
は、ガンマ線バーストに対して最も高感度なガンマ線分光器(CESR:仏宇宙線研究所担当)、10分角程度のバースト位置決定能力をもつ広視野X線モニター(検出器を理化学研究所、符号化マスクを米ロスアラモス国立研究所が担当)および、高密度の符号化マスクを備えた軟X線カメラ(米MIT担当)を搭載します。軟X線カメラは、統計が良いバーストに対して広視野X線モニターの得た位置の精度をさらに数秒角まで改善することができます。
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2. HETE-2計画で期待される成果
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HETE-2 は、機上処理によりバースト発生後
10秒で位置を決定し、即座にその位置を地上に向けて発信することができます。また、放射線帯の影響が小さい赤道軌道に打ち上げられることで観測効率も向上します。地上には、赤道に沿ってほぼ等間隔に13個の地上受信局が配置され、衛星から発信される位置情報を必ず受信し、インターネットに接続されたコンピューター間のホットラインで、バースト情報をあらかじめ登録してある観測所などに高速配信をします。また希望すれば、通常の電子メールによる連絡も可能です。同時に、NASAゴダード宇宙飛行センターが管理しているガンマ線バースト位置情報ネットワーク(GCN)のホームページ(http://gcn.gsfc.nasa.gov/)で一般に公開されます。
HETE-2は、年間50個程度のガンマ線バーストの位置を10分角程度の誤差で決定し、さらにそのうち16個ほどに対しては数秒角の精度で位置を決定できると試算されています。現状では、イタリア・オランダのX線天文衛星、BeppoSAXによって年間10個程度のバースト位置が報告されていますが、いずれもバースト発生後6〜8時間後に通報されるものです。このため追観測の始動が遅くなります。ガンマ線バースト中には、可視光フラッシュが発見されており、ガンマ線、X線以外の波長でも、できる限り早い観測の開始が重要です。HETE-2の正確かつ迅速な位置速報によって初めて、あらゆる波長により、リアルタイムのガンマ線バースト精密観測が可能となります。
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3. HETE-2計画における理化学研究所の役割
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(1)
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理化学研究所宇宙放射線研究室は、主要研究機関としてHETE計画の当初より参加しており、広視野X線モニター(WXM)の開発・製作を担当しています。これは約1.5ステラジアンの視野を持ち2〜25キロ電子ボルトのX線に感度を有する観測装置で、米国ロスアラモス国立研究所の開発・製作した符号化マスクと組み合わせることで、約10分角の精度でガンマ線バーストの位置を決定できます。WXMはHETE-2衛星におけるバースト源位置決定の中心的な役割を担う装置です。
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(2)
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理化学研究所宇宙放射線研究室は、HETE-2計画の観測方針決定の議論、および地上での解析・運用に主要研究機関として参画しています。同時に地上での解析ソフトウェアの開発も行っています。
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(3)
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さらに、宮崎大学工学部、シンガポール国立大学と共同で、HETE-2シンガポール主地上局の建設・設置を行いました。また同局の運用を担当しています。
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(4)
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また、理化学研究所宇宙放射線研究室は、パラオとシンガポールに副地上局を設置、その運営を担当しています。
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4.打ち上げ・運用スケジュールと国内外の他の観測機関との協力について
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HETE-2は、NASAによってマーシャル諸島共和国洋上から、日本時間2000年10月7日午後2時45分(現地時間:同日午後5時45分)に打ち上げらる予定です。打ち上げには米国オービタル・サイエンス社のペガサスロケットが用いられます。このロケットは、マーシャル諸島共和国クウェジェリン島から飛び立つ飛行機(ロッキードL1011)から射出されるものです。衛星は軌道投入後1〜2ヶ月程度の基本機能試験を経て、本格的な定常観測運転に入ります。観測運用期間は太陽活動の強弱に左右されますが、2〜3年程度が見込まれます。
HETE-2
の速報に対応するための準備が各国で進んでいます。たとえば米国の大型X線天文衛星チャンドラはHETE−2によって検出されたガンマ線バースト源に対して、緊急観測を行う予定です。バーストとほぼ同時の可視光フラッシュについていえば、ヨーロッパと米国でHETE-2の速報に対応して自動的に即応観測を行なう望遠鏡がいくつか建造されています。それに対してアジアでは、ガンマ線バーストに対する即応観測体制は整っていません。日本は、天候などの関係で欧米の望遠鏡と比較して観測条件は決して良くありませんが、9等の可視光フラッシュが検出された例もあり、HETE-2の速報に即時対応できる準備をしていれば、国内の公共天文台や学校、アマチュアの中小望遠鏡でも、天候次第では、バースト全体の1/3程度を西半球に先駆けて発見できる可能性があります。理化学研究所では、美星天文台、ぐんま天文台、宮崎大学、東京大学宇宙線研究所などと協力して、HETE-2の速報に対応して自動的に追観測を行う小型ロボット望遠鏡を開発しています。
日本が持つ各種の天体観測装置がHETE-2
の位置速報によって大きな成果をあげることも期待されます。東京大学、国立天文台がハワイに建設したMagnum
望遠鏡、東京大学宇宙線研究所を中心とするグループがオーストラリアに建設した超高エネルギーガンマ線望遠鏡
Cangaroo II
など、ガンマ線バースト観測に威力を発揮できそうな観測装置がちょうど、HETE-2の打ち上げと期を同じくして稼働し始めます。国立天文台の大望遠鏡「すばる」は、今まで
Keck
望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の独占だった残光と母銀河の精密観測をさらに大きく前進させる可能性をもつものです。
HETE-2の位置速報は、望めば世界中の誰にでもインターネットで配信されるものです。この情報に対しHETEチームは何ら代償を求めることをしません。わが国の天文学者やアマチュア天文家が、HETE-2の成果を生かして大発見をすることも夢ではないのです。
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(問い合わせ先)
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理化学研究所 宇宙放射線研究室
河合 誠之 副主任研究員 tel:048-467-9336
吉田 篤正 先任研究員 tel:048-467-9446
fax:048-462-4640
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(報道担当)
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理化学研究所 広報室
嶋田 庸嗣 tel:048-467-9272 fax:048-462-4715
E-mail:koho@postman.riken.go.jp
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☆謎につつまれた「ガンマ線バースト」
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ガンマ線バーストは、1960年代後半の発見以来、典型的には数秒から数十秒といったごく短い時間しか継続しない突発的天体現象とみなされてきました。しかし、1997年春に起こったガンマ線バーストには、数ヵ月から一年にも及ぶ長い残光現象がともなうことが発見され、バースト天体の位置をより詳細に追観測することが可能であることが分かりました。この発見以来、世界中の多数の望遠鏡がガンマ線バースト方向に向けられるようになり20例を超える残光現象がみつかっています。その結果、ガンマ線バーストという現象は、数十から百億光年もの遠方で起こるらしいということ、そして、その時にガンマ線で放射されるエネルギーは、実に超新星爆発の千倍も大きい値(1054エルグ)に達する可能性があることなどがわかってきました。また、1999年1月23日に起きたバーストでは、大視野をもち、ガンマ線バースト追観測に特化した専用光学望遠鏡ROTSE(米・ロスアラモス国立研究所、ミシガン大学、ローレンス・リバモア国立研究所)によって、ガンマ線バースト中に9等級にもおよぶ可視光フラッシュが検出され世界中の研究者を驚かせました。
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☆ガンマ線バーストの検出能力が飛躍的に向上するHETE-2衛星
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現在、ガンマ線バーストの検出に活躍しているX線天文衛星は、イタリアとオランダが打ち上げたBeppoSAX衛星です。1997年春に起こったガンマ線バーストに残光現象が伴うことを発見しました。BeppoSAX衛星は、20度×20度の比較的広い視野をもつX線カメラを2台搭載し、視野内で発生したガンマ線バーストの位置を数分角の精度で決定することができますが、汎用のX線天文衛星であるため、その情報を発信するのに6時間程度を要します。
一方、HETE衛星は、搭載されたマイクロプロセッサによって自動的にバーストの位置を決定し、専用の副地上局ネットワークとインターネットを通して全世界の観測者に10〜20秒程度で連絡することが可能です。またバーストに対する感度もBeppoSAXより高く、数倍のガンマ線バーストの検出が期待できます。
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