|
Press Release |
理化学研究所 |
|
脳新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥・高品質のGaN結晶薄膜基板作製に成功 |
(1) 背景 窒化ガリウム(GaN)に代表されるIII族窒化物半導体は、現在の高密度集積回路(LSI)、移動通信体、光磁気ディスクの読みとり装置(半導体レーザー)等へ応用されている半導体素材とは異なり、いわゆるワイドギャップ半導体と呼ばれているものです。ワイドギャップ半導体は、緑、青、紫外域で発光することが可能な半導体で、種々の次世代のデバイス分野への応用が期待されています。近年の緑〜青色・短波長発光ダイオード(LED)の成功は、このIII族窒化物半導体を用いて行われ、高輝度LEDフルカラーディスプレイの実現や次世代照明灯の可能性を切り開いてきました。また、光情報処理の分野における光ディスクの記録密度向上、通信速度の高速化を目指して、短波長発光半導体レーザーの開発も急ピッチで進められています。 しかしながら、こうしたIII族窒化物半導体を結晶成長するにあたって、現在格子定数が合致する適当な下地基板が存在せず、サファイア(Al2O3)、炭化シリコン(SiC)などが主に利用されています。その結果、形成されたIII族窒化物半導体には、基板との格子定数差に起因した非常に多くの結晶欠陥(転位)が発生します。これらの欠陥は、特にレーザー素子の寿命、信頼性、生産性を大きく損なうものであり、これまでは結晶成長技法と同時に複雑な外部プロセスを用いて、欠陥の低減をはかってきました。
(2) 研究の成果 図1は、低欠陥(転位)化技法を用いずに成長されたGaN層の平面透過電子顕微鏡写真を示しています。基板に用いたものは炭化シリコンで、GaNとの格子定数差は約3.5%です。像中に見られる小さな黒い点がGaN層中に走る結晶欠陥(転位)を上から見たものです。このように格子定数差を持った結晶成長においては、結晶欠陥(転位)は高密度(109~1010 cm-2)に発生します。 一方、本手法によって形成されたGaN層の平面透過電子顕微鏡写真を図2(a)に示します。先ほどの図1と比べて、結晶欠陥(転位)が大幅に低減されている(< 5 エ 107 cm-2)ことがはっきりと示されています。また、図2(b)は本手法によって形成されたGaN層の断面透過電子顕微鏡写真を示しています。炭化シリコン基板上に形成されたGaN第1層中を縦に走る多数の黒い線が結晶欠陥(転位)です(ちなみにこのGaN第1層のみを仮に上から覗いたとすれば、図1の平面図と同等のものが得られることになります)。GaN第1層と、第2層の間の界面では、結晶欠陥(転位)終端物質が供給されており、結晶欠陥(転位)がこの界面で終端されている様子がはっきりと示されています。このGaN第2層を上から見た図が、図2(a)の平面像であるわけです。この結晶欠陥(転位)終端物質の供給は、結晶成長装置内で行われます。
(3) 結晶欠陥(転位)低減のための従来技法と本手法のプロセス面での比較 図3左部に、図1で示したような高密度な結晶欠陥(転位)を抑制するための従来技法の代表としてEpitaxial Lateral Overgrowth (ELO)法のプロセスを示します。結晶欠陥(転位)を抑制するには、いったんGaN バッファー層をサファイア、もしくは炭化シリコン基板に適当な厚みで形成した後、結晶ウエハーを結晶装置外部に取り出します。そしてその後、「SiO2マスク形成」、「レジスト塗布」、「リソグラフィ」、「マスクエッチング」といった4過程の外部プロセスを経て、再び結晶成長装置にウエハーを導入し、GaN層を再度成長させなければなりません。このGaN層再成長過程では、結晶成長が通常の縦方向だけでなく、マスクを覆い隠すような形で横方向に成長するため、縦に走っていた結晶欠陥(転位)が横方向に曲げられ、マスク中央部あたりで左右から来たものがぶつかり合い、消滅します。しかしながら、このマスク中央部の合わせ目やマスク開口中央部で結晶欠陥(転位)が残留することが多くあり、それらを低減することは非常に困難です。そのため、高品質なデバイス作製には結晶欠陥(転位)が低減された部位(マスク上部で中央の合わせ目を外した両翼部)を選別する必要がありました。また、結晶欠陥(転位)低減部位の占有度を増やすために、さらに複雑なプロセスを組み合わせる試みもなされています。しかし、そうしたプロセスの精度、ステップ数を増やすことは、それだけ生産性を悪化させ、コストの増大へとつながってしまいます。
一方、図3の右側に本手法のプロセスを示します。いったんGaN バッファー層をサファイア、もしくは炭化シリコン基板に形成するところは同じです。しかし、その後結晶成長装置外にウエハーを取り出す必要はなく、結晶欠陥(転位)終端物質を結晶成長装置内の結晶成長雰囲気下で供給します。GaN第2層の形成は、その後引き続いて行われます。こうした結晶成長雰囲気下で行われるプロセスのことを、“その場”プロセスと呼びます。ELO法と比べますとプロセスの簡便さは一目瞭然で、結晶欠陥(転位)を低減するうえでの生産性は飛躍的に向上します。また、プロセスコストも大幅に低減されることになります。 さらに本手法による結晶欠陥(転位)の低減は、ウエハー全面にわたって起こります。そのためELO法での結晶欠陥(転位)低減部位の選別といった副次的なプロセスの必要は全くありません。つまり、本手法によって形成された結晶欠陥(転位)が低減されたGaN層を結晶薄膜基板として供給すれば、購入者は特別なプロセスを全く必要とせずに高品質なGaN層、及びIII族窒化物半導体によるデバイス形成を行えることになるわけです。
(4)研究成果の意義 低結晶欠陥(転位)GaN基板は、短波長発光素子、特にレーザー寿命を飛躍的に改善する方法として待ち望まれたものです。短波長レーザーは、光ディスクの記録密度の向上、微細加工装置の小型化・高精度化など様々な工業分野において有望視されています。低欠陥・高品質の基板を低コスト、かつ生産性良く供給することは、短波長レーザーの開発を大いに進歩させることにつながります。
(問い合わせ先) 理化学研究所 半導体工学研究室 主任研究員 青柳 克信 TEL:048-462-1111(内線3361)FAX:048-462-4659 (報道担当) 理化学研究所 広報室 嶋田 庸嗣 TEL:048-467-9271 FAX:048-462-4715 E-mail:koho@postman.riken.go.jp URL:http://www.riken.go.jp/r-world/press
|
|||||||||||||||