Press Release

理化学研究所
日本原子力研究所
名古屋大学
工学院大学
日立製作所
平成11年11月 2日

ナノ構造を立体観察する3次元電子顕微鏡の試作に成功
- 立体観察した“おしろい”の原料粉はテトラポッドの形 -

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理化学研究所は、日本原子力研究所、名古屋大学、工学院大学、日立製作所と共同で、固体内部のナノ(100万分の1ミリメートル)構造を立体的に観察することができる3次元電子顕微鏡の試作に成功しました。この電子顕微鏡は、X線による人体の断層撮影技術(X線CTスキャン)のように、電子線を試料に対してさまざまな角度から照射して撮影した数万倍以上の電子顕微鏡像を複数枚用い、それらを画像処理して立体化するものです。また、試料を透過した電子のエネルギーを分析することにより、ナノ領域の原子の種類や、結合の状態を解析することもできます。この3次元電子顕微鏡の開発は、科学技術振興調整費知的基盤整備推進制度によるものです。
 今回、この立体観察の機能を用いて、“おしろい”の主原料の一つである酸化亜鉛の微粒子を3次元画像で表示することに成功しました。まるでミクロの世界のテトラポッド(消波ブロック)のように非常に規則的な立体形状を持っていることが分かりました。
 今後、この試作装置を平成13年までにさらに高性能化することで、原子レベルでの新材料・新デバイス内部の立体観察や、分析が飛躍的に加速することが期待されます。




1.開発までの背景

 材料・先端デバイスの高性能化、あるいは新材料・新デバイスの創出は、原子レベルの微細構造を制御することによって達成されます。たとえば、大容量メモリ、超高速演算素子、耐熱高強度セラミックスなどは、結晶中の欠陥や不純物などの空間分布、元素の種類や結合状態によって特性が決定されます。それらの機能・特性などを含めた微細構造評価や新現象の発見には原子レベルでの3次元構造観察と、高精度な元素結合状態分析が必要不可欠です。このように微細構造の計測技術は重要であるにもかかわらず、従来の計測技術では内部構造の2次元的な観察しかできないことや、ナノ領域の元素結合状態を高精度で測定できないなどの問題があり、新しい計測技術と装置が必要とされていました。

 このニーズに応えるため、平成9年8月から科学技術振興調整費知的基盤整備「3次元電子顕微鏡の研究開発(平成9年度開始、代表者:岩木正哉(理化学研究所物質基盤研究部表面解析室・室長)、中核研究機関:理化学研究所)」により、研究機関・大学が共同で3次元電子顕微鏡の研究開発を推進、これまでの研究成果で3次元電子顕微鏡を試作し、立体観察の基本性能の確認に成功しました。

 

2.3次元電子顕微鏡の基本原理

 サブナノメートル(1000万分の1ミリ)単位に細く絞った電子線を加速して試料面に走査しながら照射します。電子線は試料を構成する原子と相互作用した後に突き抜けるので、その電子線の強度を検出器で測定し、試料面上での走査位置と同期させてモニターに表示すれば2次元の電子顕微鏡像が得られます。この操作を、試料を僅かずつ傾斜しながら繰返し、得られた多数の2次元像をコンピュータで画像処理することによって立体像を作ります。また、散乱した電子線のエネルギーを分析することにより、ナノ領域における原子の種類と原子間の結合状態を知ることもできます。

 

3.新たな技術の開発

3次元電子顕微鏡を構築するためには、従来の電子顕微鏡にはない、さまざまな技術の開発が必要です。そこで、プロジェクトチームを組み、以下のように開発を分担しました。

 @3次元電子顕微鏡の装置構成技術に関する研究およびシステムの開発(理化学研究所、日立製作所) 

 A画像処理技術に関する研究(理化学研究所、工学院大学)

 B3次元構造の観察・分析方法とデータ解析に関する研究(名古屋大学、日本原子力研究所)

 C3次元電子顕微鏡で観察する標準試料の作製技術に関する研究(理化学研究所)

 

 今回の立体観察の成功は、特に、試料の3次元構造を高分解能かつ高精度で観察するための電子光学系と試料傾斜ステージ、および試料の立体形状を正確に再現する画像処理技術がポイントです。

 1) 電子光学系と試料傾斜ステージの開発

     電子顕微鏡の分解能は、試料に照射される電子線の細さと明るさによって決まります。今回、試作した装置では、加速電圧が300kVの冷陰極型電界放出電子銃と高性能電子レンズを用いて、サブナノメートルの細さでも輝度の高い電子線が得られるようにしました。さらに、試料と相互作用して散乱された電子線のうち、ある一定角度以上に散乱された弱い電子線のみを広い開口角を持つ高感度検出器で捕らえるようにしました。これによって、立体構築の決定に対して誤った情報を与える像コントラストを低減し、3次元化画像処理に適した像が得られるようになりました。

    立体観察は、試料傾斜を1〜5度の間隔で繰返しながら多数の方向から電子顕微鏡像を撮影していきます。その際に、注目する構造が視野から逃げてしまったり、視野の細かい位置調整ができなくなったりしては、サブナノメートル・レベルの効率的な観察ができません。また、傾斜角度が大きくなったときに試料を保持する台が影を作ると観察不能になってしまいます。そこで大角度の試料傾斜に対しても、視野のずれを機械的に補正するユーセントリック機構と、試料保持台の面積を最小に抑え、かつナノメートルの微動精度を確保する全方向からの観察ができる立体観察用試料ステージを開発しました。

 2)立体形状を再現する画像処理技術

     2次元像に含まれる様々な情報から3次元構造の情報を正確に再現するために、2種類の画像処理方法を開発しました。一つは、微細構造表面の立体形状を構築するトポグラフィー法です。2次元像から輪郭の情報を抽出し、各試料傾斜すなわち各観察方向から得たそれらの情報を合成して立体化します。もう一つは、表面形状と内部構造を合わせて立体化するトモグラフィー法です。2次元像の全ての強度情報を用いて画像処理する点がトポグラフィー法と異なります。立体化の目的や2次元像の像質に応じて両者を使い分ける、あるいは融合することにより、高精度かつ正確な立体観察を実現しました。

 

4.3次元電子顕微鏡を用いた観察

 今まで説明してきた新しい技術によって3次元電子顕微鏡を試作し、立体観察の実験を行ないました。試料は、“おしろい”の主原料の一つである酸化亜鉛(ZnO)の微粒子ですが、これは、亜鉛を燃やした時に発生する煙に含まれる微粒子をメッシュで採取したものです。実験の結果、微粒子はナノメートル単位の太さの針状結晶が4本、テトラポッドの形に組み合わさった非常に規則的な立体形状を持っていることを、初めて3次元的に観察できました。従来の2次元の観察法では、特定の方向からの観察しかできませんでしたが、今回、新たに開発したシステムによって、あらゆる方向からの観察が可能となりました。

 

5.今後の展開

今回は表面形状に着目した立体観察を行ないましたが、内部構造の立体観察として先端デバイスにおける微細パターン中の欠陥分布や、生物試料への展開も進めていきたいと考えています。また、3次元電子顕微鏡の高性能化、すなわち、更なる高分解能化、エネルギー分析による元素結合状態解析機能の搭載、オペレーション自動化、サブナノメートル試料の作製により、原子レベルでの実用的な立体観察ができる3次元電子顕微鏡を目指していく予定です。

 

 



<問い合わせ先>

「理化学研究所」

  研究基盤ツール開発推進グループ 3次元電子顕微鏡研究開発チーム チームリーダー 
(物質基盤研究部・表面解析室 室長)
岩木 正哉 TEL:048-467-9356 Fax:048-462-4623
事務局:工学基盤研究部技術開発促進室   三橋 賢朗 TEL:048-467-9710 Fax:048-467-9711
報道担当:理化学研究所広報室       嶋田 庸嗣 TEL:048-467-9271 Fax:048-462-4715
                E-mail:koho@postman.riken.go.jp http://www.riken.go.jp/r-world/press

(研究分担機関)

 「日本原子力研究所」
   東海研究所物質科学研究部極限物性研究グループ・副主任研究員
倉田 博基 TEL:029-282-6474 Fax:029-282-6716

 「名古屋大学」 
   大学院工学研究科応用物理学専攻・教授
     田中 信夫 TEL:052-789-4457 Fax:052-789-3724

 「工学院大学」
   電気工学科電子顕微鏡研究室・教授
         馬場 則男 TEL:03-3342-1211(ex.2615)  Fax:03-3348-3486

 「日立製作所」
中央研究所・室長            柿林 博司 TEL:042-323-1111(ex.3901) Fax:042-327-7720
計測器グループ・主任技師       砂子沢 成人 TEL:029-276-6147(ex.2449) Fax:029-274-6771







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