| □ プレス発表情報一覧 □ |
理化学研究所(有馬朗人理事長)は、国内外関係機関と共同で、X線天文衛星
『あすか』と『ローサット』により球状星団 M28 を観測し、
周期1000分の3秒のX線パルサーと、正体不明の微弱で広がったX線源を
星団中に発見した。このパルサーはX線で検出されたパルサーの中では最
も高速に回転しており、このことは、一旦活動を停止した後よみがえった
「再生」パルサーであることを示している。
今回の成果は、銀河系内で最も古い星の集団である球状星団と、その中
に生まれる高速回転のパルサーなどのX線源の起源と進化の謎を解く大き
な手がかりになる重要なものである。
本成果の詳細は、平成9年8月21日発行の英国ネイチャー誌に掲載される
予定。
1. 研究の経緯
| (1) | 1995年から1996年にかけて、理化学研究所(宇宙放射線研究室)河合誠之副主任研究員および斎藤芳隆前基礎科学特別研究員等を中心とするグループが、『あすか』衛星を用いて球状星団 M28 の観測を行ない、X線パルサーを発見した。この成果は、1997年3月に米国天文学会誌アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに発表された。 |
| (2) | さらに、カリフォルニア工科大のクルカルニ教授とダナー研究員と協力して、結像性能のよいローサット衛星(ドイツのX線天文衛星)によるデータを分光能力に優れる『あすか』のデータと組み合わせて解析し、パルサーとは異なる微弱X線源を検出し、初めてそのX線スペクトルを明らかにした。 |
| (3) | この研究は主に日本で行なわれた研究が土台になって、理研とカリフォルニア工科大を中心とする日米共同研究に発展したものである。 |
2. 研究の背景
| (1) | 球状星団は宇宙の年齢に近い大変古い星が数十万個集まった球状の天体であり、形成されたばかりの初期の銀河の情報を今に保存している重要な天体である。 |
| (2) | 球状星団中にはミリ秒パルサーと呼ばれ、千分の数秒(数ミリ秒)の周期で回転するパルサーが数多く分布する。大部分の普通のパルサーは、1秒前後の周期を持ち、星表面で地球上の1兆倍以上の磁場を持つ強力な磁石となっている中性子星であるとされて いるが、ミリ秒パルサーはこれより3桁から4桁ほど磁場が弱く、普通のパルサーとは異なる経歴を持つと考えられる。普通のパルサーは超新星の爆発後数百万年までは活発にパルスをだしているが、それより古くなると我々の視界から消えてゆく。ミリ秒パルサーは球状星団の中にあるため、数億年以上の年老いた中性子星が、恒星と連星を組んで、恒星 のガスを吸着する過程で回転エネルギーを得たものだという説が有力で、リサイクルド・パルサー(再生パルサー)と命名されているが、ミリ秒パルサーの前身のX線連星は球状星団中に十分な数が発見されていなかった。ミリ秒パルサーの存在する球状星団中の中性 子星連星を探すことは、球状星団とミリ秒パルサーの起源と進化を探る上で重要な課題となっている。 |
| (3) | また、多くのパルサーは電波によって発見されているが、少数の若いパルサーはX線パルスも出すことが知られている。しかし、X線パルスがどのような機構で発生するのかはまだ定説がない。これを研究するためには、若いパルサーだけではなく、回転速度と磁場強度が全く異なるミリ秒パルサーからのX線パルスを検出して、その性質を調べることが重要である。 |
3. 研究の成果
| (1) | 理化学研究所宇宙放射線研究室の河合誠之副主任研究員と斎藤芳隆元基礎科学特別研究員(現:宇宙科学研究所助手)は、いて座に位置する球状星団 M28 を日本のX線天文衛星「あすか」によって観測し、ミリ秒パルサー PSR B1821-24 から初めてX線のパルスを発見した。このパルサーは、かに星雲にある年齢1000 年の若いパルサーと同様の鋭いX線パルス波形を示す。また、X線スペクトルも、パルサーの電磁気活動によって、X線が放射されていることを示しており、極めて古く磁場が弱い「再生された」パルサーが極めて活動的で、磁場が強い若いパルサーと同様の放射機構をもつことを明らかにした(1997年3月、米国の天文学会誌に発表)。 |
| (2) | さらに、この「あすか」の観測データをドイツのX線天文衛星「ローサット」の画像データと組み合わせることによって、球状星団中にミリ秒パルサー以外にも微弱で広がったX線源が存在することを、米国の研究者ダナー氏およびクルカルニ氏との共同研究によって明らかにし、そのX線スペクトルを測定した。
この微弱な天体の正体はまだ完全には明らかでないが、一つの可能性は、古い中性子星と古い普通の星との連星がいくつか集まっているというものである。この解釈が正しければ、ミリ秒パルサーの揺りかごである球状星団中でミリ秒パルサーの”卵”を発見したことになる。この結果は 平成9年8月21日の Nature誌 に発表される。 |
| (3) | これらの一連の研究は、一旦視界から消えたパルサーが再生される進化の道筋を知ったり、磁場が弱くなったパルサーから強力なX線パルスが発生する機構を解き明かす貴重な情報を提供したものである。 |
論文発表者
[X線ミリ秒パルサーの発見]
斎藤芳隆 元 理化学研究所基礎科学特別研究員(現宇宙科学研究所助手)
河合誠之 理化学研究所 副主任研究員
釜江常好 東京大学理学部 教授
柴田晋平 山形大学理学部 助教授
堂谷忠靖 宇宙科学研究所 助手
S.R. Kulkarni カリフォルニア工科大 教授
[球状星団中の微弱X線源]
R. Danner カリフォルニア工科大研究員
S.R. Kulkarni カリフォルニア工科大 教授
斎藤芳隆 元 理化学研究所基礎科学特別研究員(現宇宙科学研究所助手)
河合誠之 理化学研究所 副主任研究員
(問い合わせ先)
理化学研究所 宇宙放射線研究室
河合 誠之 Tel: 048-462-1111(ex3226) FAX: 048-462-4640
報道担当: 理化学研究所 広報室
越間・佃・吉垣 Tel: 048-467-9270 FAX: 048-462-4715
図1 日本のX線天文衛星『あすか』の GIS 検出器(撮像型螢光比例計数管)
によって初めて得られた球状星団 M28 中のミリ秒パルサー PSR B1821-24 の
X線パルス波形を2周期分示す。
1パルス周期(1000 分の3秒)中に、幅が1万分の1秒以下の鋭いパルス
(左から1番目と3番目の矢印)と、それよりはやや広がったパルス(左から
2番目と4番目の矢印)の2つのパルスが見られる。波形の鋭さと、X線スペ
クトル情報からパルサーの電磁気活動によってパルスが発生していることがわ
かる。
図2 ドイツのX線天文衛星『ローサット』によって得られた球状星団M28
のX線像。ミリ秒パルサーPSR B1821-24のX線パルスが出ている時間のデー
タを集めた画像(左: ON)と、X線パルスが出ていない時の画像(右: OFF)
を示す。
左の図にだけ、ミリ秒パルサーが図中右下に現れている。
図の大きな目盛りの間隔は、10秒角(360分の10度)で、球状星団内の実距離
の 0.8 光年に相当する。