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世界で初めて
宇宙の彼方90億光年に暗黒銀河団を発見

平成9年 7月 10日
理化学研究所


 理化学研究所(有馬朗人理事長)は、国内外関係機関と共同で、 X線天文衛星「あすか」と「ローサット」 により重力レンズ効果を受けたクェーサー MG2016+112 を観測し、 その手前に可視光では見えなかった銀河団を初めて発見した。 AX J2019+1127と命名されたこの銀河団は、 MG2016+112 の重力レンズ効果を引き起こしている天体と考えられ、 これまで知られている銀河団の中で最も遠い(90億光年)ものである。
 この銀河団の発見は、ビッグバン(約130億年前)からほぼ40億年後に、 すでに銀河団が形成されていたことを意味し、 その形成は比較的最近であるとする 現在の標準宇宙論モデルに見直しを迫る重要なものである。
 本成果の詳細は、平成9年7月10日号の英国ネイチャー誌に掲載される予定。

1.研究の経緯

(1) この研究は、1994年、理化学研究所(宇宙放射線研究室)の 基礎科学特別研究員らの共同研究グループ(後掲の論文発表者)により、 理化学研究所とマックスプランク研究所(ドイツ)を舞台に行なわれた。
(2) 今回の成果は、 分光性能に優れた文部省宇宙科学研究所のX線天文衛星「あすか」と、 結像性能に優れたマックスプランク研究所のX線天文衛星「ローサット」 双方の長所をうまく使い、 ほぼ2年がかりの綿密な解析により導かれた。

2.研究の背景

遠方のクェーサーなどの手前に別の天体があると、その天体の及ぼす重力によって 光の進路が曲げられる。その効果は「重力レンズ効果」と呼ばれ、クェーサーの 像が複数に分離して見えることがある。そのような天体はすでに多数見つ かっているが、その天体の手前にある重力レンズ効果を引起す天体(レンズ天体)が 光学望遠鏡で見つかっていないケースがいくつかある。 この未知のレンズ天体は、光学望遠鏡では見えないことから「ダークレンズ天体」と 呼ばれており、その正体を突き止めることは、宇宙の進化を解明する上で 重要な課題となっている。

3.研究の成果

(1) 今回ダークレンズ探査を行った MG2016+112 と呼ばれるクェーサーは、 重力レンズ効果で可視光像が三つに分離している。 この方向をX線で観測したところ、クェーサーからのX線よりはるかに強い X線が検出された。 このX線は、手前に存在する銀河団の約1億度の高温ガスから発生している ことがわかった。 高温ガスは、銀河団の強い重力で銀河団に閉じ込められているので、 重力レンズ効果を引き起こすに足る強い重力を持つ銀河団の存在を 世界で初めて確認したわけである。 これが「ダークレンズ天体」の正体である。
(2) この銀河団までの距離は、「あすか」衛星で求められた(注1)。 観測されたX線スペクトルに見られる 約1億度の高温ガスから出る鉄原子の輝線が、エネルギーの小さい方にずれ ている(赤方偏移)ことが発見された のである[ 図1 (14kB 白黒) ]。 ハッブルの法則を用いて赤方偏移量から距離を求めると、 このX線源は90億光年の彼方にあることが突き止められた(注2)。 さらに「ローサット」衛星で X線源の空間的な広がりを検出したことで [ 図2a (14kB 白黒), 図2b (60kB カラー) ]、 光学望遠鏡では見えなかった銀河団の存在を決定付けることができた(注3)。 今回発見された銀河団の距離や質量は、 重力レンズ効果から理論家が予想したものとほぼ一致するものであった。
(3) 鉄原子の輝線の強さから鉄の総量を計算すると、 銀河団 AXJ2019+1127 にも我々近傍の 銀河団と同程度の鉄が存在していることがわかった。 このことは、現在の銀河団の高温ガスの性質は、90億年前という大変昔 からほとんど変化していないことを意味し、 今回の AXJ2019+1127 の発見は、 銀河団の形成は比較的最近であるとする標準宇宙論モデルに見直しを迫る重要なもの である。
(4) なお今回の結果でミステリアスな点がある。
 第1点は、X線を放出している高温ガスを重力的に閉じ 込めている銀河団の質量は通常の銀河団と同程度(数千個の銀河質量)であるのに、 光学望遠鏡で詳細に観測しても、 この銀河団を構成する銀河はたった二つしか見つかっていない点である。 光学望遠鏡では銀河はほとんど検出されていないという意味で今回発見した銀 河団 AXJ2019+1127 は「暗黒銀河団」ということになる。 それでは、「暗黒銀河団」に存在する、重力は及ぼすが見えない天体とは 何であろうか?
 またこのような「暗黒銀河団」が、クェーサーと我々観測者を結ぶ 視線上にある確率は非常に小さいことを考慮すると、 宇宙初期にはこのような「暗黒銀河団」が大量に存在していた可能性があり、 それは初期宇宙に対する現在の認識を変えることになるかも知れない。
 第2点は、鉄の生成である。 鉄原子は、銀河にある星が超新星爆発をすることによって 供給されると考えられている。それでは このような銀河の少ない「暗黒銀河団」ではどうやって鉄原子が生成され たのであろうか?
 これらのことは、今後「暗黒銀河団」の観測が進むにつれて 解明されていくと期待される。

(注1)
「あすか」衛星による観測は、1994年10月24日から2日間行なわれた。
(注2)
ここでは年齢の計算に、Ω0=1 (臨界密度にある平坦な宇宙), ハッブル定数として H0=50 km/s/Mpc を使った。すると宇宙年齢は133億年(約130億年)、 赤方偏移 z=1は、86億年前(今から約90億年前、ビッグバンから約40億年後)になる。
(注3)
「ローサット」衛星による観測は、1995年11月15日、1996年4月19日、 1996年10月22日に行なわれた。

[論文発表者]

服部 誠   元 理化学研究所 基礎科学特別研究員 (現 東北大学 助手)
池辺 靖   同 (現 マックスプランク研究所 研究員)
竹島敏明   同 (現 NASAゴダード飛行センター 研究員)
三原建弘   理化学研究所 研究員
H.Boehringer マックスプランク研究所 研究員
朝岡育子        同
S.Schindler        同
D.Neumann        同
鶴  剛   京都大学理学部 助手
田村隆幸   東京大学理学部 大学院

(問い合わせ先)
東北大学 理学部
   服部 誠     Tel: 022-217-6509     FAX: 022-217-6513
理化学研究所 宇宙放射線研究室
   三原建弘     Tel: 048-462-1111 (ex3227) FAX: 048-462-4640
報道担当: 理化学研究所 広報室
   越間・佃・吉垣  Tel: 048-467-9270     FAX: 048-462-4715

図1 (14kB 白黒)
図2a (51kB 白黒)
図2b (385kB カラー)