■気軽に接触できるような 技術移転の仕組みをつくる ──CIPSは、どんな組織ですか。 丸山:組織的には、事務部門と研究部門の2つがあり、一体化して活動しています。事務部門は「知的財産戦略グループ」といい、理研の知的財産支援のすべてを取り仕切っています。例えば、特許セミナーを開催して、研究者の特許への認識や意欲を高め、出願にあたってはパテントリエゾンスタッフが取得の戦略を練ります。取得後は、実用化コーディネーターなどを通 して、企業への技術移転を図ります。もちろん特許データベースの充実化にも努め、公開されている特許については、誰でもホームページからアクセスできます。自治体や総合商社などとも連携し、技術移転の場を広げようとしています。 昨年11月には、理研の今後の研究計画や未公開特許を、個別の商談形式で企業に紹介するという「技術移転懇話会(RIKEN Techno Conference 2005)」を開催しました。企業21社がエントリーし、連携の実績も出つつあります。従来、理研は外部の方から見ると、敷居が高いと思われていたようです。やはり、企業の方に気軽に来ていただけるようなシステムやイメージをつくることが大事だと思っています。 ■企業の提案に最適な 研究資源を連動させる ――知財を扱う部署に研究部門があるのは大変珍しいと思いますが、どんな活動をしているのですか。 丸山:知財本部に技術移転の研究部門があるのは、日本でもこのCIPSだけではないでしょうか(下図参照)。大学や公的研究機関が、自分たちの成果を産業界に移転しようと方々で努力していますが、なかなか結果を出せていません。私たちもCIPSを立ち上げるのにあたり、「どういうシステムなら企業に興味をもってもらえるのか、技術移転をスムーズに図れるのか」という点で知恵を絞りました。その結果、知財を扱う部署に研究部門を設置するということになったのです。 研究部門には3つのプログラムがあり、「産業界との融合的連携研究プログラム」が、研究部門設置の意味合いを最も色濃く反映しています。 このプログラムは、発想の転換の上に成り立っています。今までの大学や公的研究機関の技術移転はシーズ・オリエンテッドで、「私たちはこんなにいい技術シーズをもっているので、これを製品化しませんか」という参加要請型でした。しかし、これでは企業はなかなか乗りません。シーズがよくても製品化が成功するかどうかは分かりません。企業としては、そう簡単には判断できないのです。 一方、企業には「こういう製品をつくりたい、それにはこんな技術開発が必要だ」という技術ニーズがあります。これを理研に伝えてもらい、理研の研究資源と連携させる参加申請型のプログラムを考えました。
――「産業界との融合的連携プログラム」では、どのようにプログラムづくりを進めているのですか。 丸山:まず、企業側が研究テーマを理研に提案します。理研側の窓口であるCIPSでは、その提案にふさわしい理研の研究者を紹介します。そして企業と理研の研究者が協力しあって研究テーマの提案書をつくり、CIPSに提出します。ちなみに、理研の研究者のこのプログラムへの参加希望は登録制になっています。 提出された研究テーマは、私を含めたCIPSの限られたスタッフで評価し、採用するかどうかを決めます。企業側には、「独断と偏見はありますよ」と最初に言ってありますが、じつは限られた人間で評価することが大事です。競争的資金を得る場合、研究テーマの評価は委員会形式で行われるのが普通ですが、企業は非常に嫌がります。情報漏れを恐れるのです。また、委員会方式で公正を期そうとすると、面白いテーマを見逃す面もあります。 さて、研究テーマが採用されると、研究チームがつくられます。チームリーダーには企業の方が就任し、理研の研究者は副チームリーダーや研究員を務めます。規模は、1チーム5〜6人から7〜8人です。チームリーダー以外の企業の方も、出向や非常勤の客員研究員という形で、理研の所員になります。ですから、大型放射光施設「SPring-8」など理研のどのような実験装置も、プロパーの理研所員と同じように使うことができます。もちろん研究室も理研に設置されます。 開発期間は3年から5年です。2006年4月現在で9チームが研究を行っていますが、期間5年というのが多いですね。 ――開発状況はどうですか。 丸山:非常にうまく行っており、「フォトレジストの保護材」と「耐久性に優れた光触媒コート剤」では、新聞発表に至る成果も出ています(下欄参照)。 企業の文化と理研の文化との違いから摩擦が生じることもありますが、何が問題なのかを互いにはっきり認識し、早期解決を図ることが大事です。信頼こそが連携成功の鍵です。 私たちはこの面でもお手伝いをしており、「研究推進するうえで問題があれば、早めに相談してほしい」と喧伝しています。「産業界との融合的連携研究プログラム」に限らず、理研の全ての産学官共同研究において、CIPSはこのような支援を行っています。
――CIPSの研究部門の他の2つは、どのようなものですか。 丸山:「VCADシステム研究プログラム」と「特別研究室プログラム」です。後者は、優れた研究者を招聘し、企業が資金を出して研究を進めてもらうというプロジェクトです。現在、阿部岳博士をリーダーとするスズメバチ由来の生理活性物質の研究を行う「阿部特別研究室」があります。 この特別研究室プログラムの数も増やしたいと思っています。しかし、最近景気が回復しつつあるといっても、まだ依然として企業の目は厳しいですから、「投資の見返りは何か」について、非常にクリティカルな質問を受けます。リーダー選びを始め、これに応えるような体制を整えねばと考えています。 「VCADシステム研究プログラム」は、3次元CADのボリュームCADを中心に、設計、解析、シミュレーション、加工、テストを一貫して扱える情報システムの構築を図っています。現在は、約30社とコンソーシアムをつくっています。皆さんの関心は高いのですが、「我が社で実用化しよう」というところまでには至ってはいません。4月からは、コンソーシアム形式を保ちながら、実用化に結びつく新しい体制をとっていきます。 ■理研ベンチャーの負担を軽くしつつ、ビジネスにつなげる CIPSは理研ベンチャー(右欄参照)の支援も行っています。
■理研を日本企業の “共同基礎研究所”にする ――CIPSの今後の展開をどのように考えていますか。 丸山:戦前の理研は「理研コンツェルン」といわれるくらい、研究成果 から多くの企業が生まれ、産業界に大きく貢献していました。CIPSが「基礎研究と企業化との間に壁をつくらない」という理研文化、理研精神の復活のトリガーになればと思っています。理研が世に役立つためのひとつの道は、日本企業の“共同基礎研究所”として活用されることです。現在、企業は基礎研究部門をどんどん縮小しており、将来の製品につながる研究の芽を保持できません。そんな中で、「理研に行けば何かしら新しい研究の種がある、それを利用すれば画期的な製品の開発に結びつくのでは」と企業の方に意識されるようになれば、産学官連携の新しい地平が自ずと開かれるでしょう。 |
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| 知的財産戦略センターのホームページ http://r-bigin.riken.jp | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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