位相シフトディジタルホログラフィ装置
■光干渉計測と非破壊検査
山口:私が理研に入所したのが1967年です。大学院からホログラフィ研究を始めていまして、そのうちに光干渉計測への応用に一番惹かれたんですね。それは粗面 の干渉計測といって、以前はできなかった精密で非接触な計測を可能にしたからです。理研でもすぐにホログラフィ干渉法の研究に着手しました。
山口:例えば光弾性法があります。プラスチックに力がかかると分子が特定の方向に並ぶので、偏光方向で光速度に違いが起きます。試料を偏光子で挟んで観察すると干渉縞が出るので、それを解析することによって、その中での応力の分布が求まります。例えばプラスチックで機械部品や構造物のモデルを作って、それに力をかけたときに生ずる縞を観察すると破壊しやすい位 置がわかります。ただ、光弾性法の問題はモデルの製作の手間と難しさです。
山口:ええ。1965年に提案されています。これによりモデルを作らなくても、実際の機械や部品や構造物に力をかけた時の変形を光弾性法と同じように干渉縞として見ることができるようになりました。
山口:航空機のタイヤの試験や自動車の振動測定などへの応用が有名です。これにより自動車のエンジンやドアの開閉音が小さくなりました。それは干渉縞の分布から、振動振幅の分布が眼で見えるようになったからなのです。干渉法というのは光の波長を物差しとしていますから、ごくわずかな圧力の変化で生じる、人の眼には見えないような微小な動きでも、干渉縞にはそれがはっきりと現れ、その異常箇所として欠陥を見つけることができます。
山口:モデルを作る手間はなくなりましたが、ホログラムの記録と縞の解析に手間がかかりました。まず物体にレーザーを当ててホログラムを写 真に記録し、現像定着の後でホログラムにレーザーを当てて干渉縞を出し、それをテレビカメラで撮影して肉眼あるいは計算機で解析する。つまりホログラムの撮影と像の再生が別 になっていたわけです。また定量性と自動測定の機能にも欠けていました。
山口:写真でなくテレビ記録とコンピュータ処理を使う方法としてスペックル干渉法が70年代の中頃に開発されました。スペックルというのは粗面 をレーザーで照らした時に必ず現れる粒状模様をいい、これを表面に付けられた自然の目印として変形を測ることができます。ただし、これはホログラフィではなく物体をレンズで結像しており、深い物体の測定はできませんでした。ホログラフィ干渉ではレンズを使わないので任意の深度の測定ができます。しかし、ホログラムの干渉縞は細かいので、テレビ記録してコンピュータで再生すると再生像の画質は大幅に低下します。この手法をディジタルホログラフィといい、1967年にアメリカで最初の実験が行われました。しかし、注目されるようになったのはテレビカメラが真空管から小型の半導体のCCDとなって解像度が上がり、コンピュータの性能が飛躍的に向上した90年代に入ってからです。
──ディジタルホログラフィの応用例を教えて下さい。 山口:前述した表面 の変形や形状の干渉測定が簡単な光学系で自動化され、しかもその精度を上げることができます。これは、これまで直接見ることのできなかった再生像の位 相分布が直接計算できるためです。1度記録すれば任意の深さの分布が再生できるので、レンズの焦点深度を超えるような奥行きの深い対象の測定にも適しています。さらに、このディジタルホログラフィではコンピュータがレンズの働きをしますので、レンズを使わずに拡大像が得られます。これらの機能はマイクロマシンなどの非常に細かい部品の形状や変形の測定や、生物に多い透明物体の測定で特に威力を発揮することが期待されます。これまで透明物体は特殊な顕微鏡を使わなければ見えなかったのですが、ディジタルホログラフィでは簡単に観察、定量 化ができます。またインターネットを使って3次元情報をわずか2枚の画像として世界中のどこにでも送って、必要な分布を求めることが可能です。
山口:1967年当時は再生像を出すのに5分もかかっていました。4年前に私たちが研究を開始した時には、記録に1秒、再生に10秒かかりました。現在では記録に0.1秒、再生に2秒となっています。再生が1秒を切るのも時間の問題です。最終的にはテレビと同じように0.03秒で記録・再生できるようになれば、動く物体の3次元像も見られるようになるわけですね。また、これまでの実験は単色ですけれども、カラー化することにも成功しています。
幾何学的厚さおよび屈折率測定装置は、積層板や液晶セルのように多層構造を持っている物体の断層構造を非破壊で計測するものです。従来の共焦点顕微鏡などでは、屈折率と厚みの積で与えられる光学的な厚みしか測定できませんでしたが、本方法は各層の屈折率と厚みを分離して求めることができます。
山口:干渉縞を高速で解析して高さや厚みの分布をビデオレートで表示する「縞位
相分布解析方法および縞位相分布解析装置」があります。専門家は干渉縞を見るだけで表面
形状がわかりますが、素人はそうはいきません。コンピュータで処理して形状を数量
的に把握するには数秒を要しますが、本装置ではその処理を0.03秒で行うことができます。 ●主な関連特許 特開平10-268740「位相シフトディジタルホログラフィ装置」
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