理研パテント情報

  

October 2001 No.20


目  次

発明紹介
公開された主な発明
権利化された主な発明



位相シフトディジタルホログラフィ装置

●発明者
光工学研究室
主任研究員 山口一郎


レーザー光で照射された3次元物体のホログラムをCCDで記録し、コンピュータによって像を再生し、その表面 形状・変形を簡単に解析したり、3次元拡大像を表示・解析することができる位 相シフトディジタルホログラフィ装置。その他の関連特許も含めて、光干渉計測の現状と未来について光工学研究室の山口一郎主任研究員に話を聞いた。
(表紙写真は表面形状の測定結果)


山口一郎主任研究員

光干渉計測と非破壊検査

──ホログラフィの研究にはいつ頃から取り組み始めたのでしょうか。

 山口:私が理研に入所したのが1967年です。大学院からホログラフィ研究を始めていまして、そのうちに光干渉計測への応用に一番惹かれたんですね。それは粗面 の干渉計測といって、以前はできなかった精密で非接触な計測を可能にしたからです。理研でもすぐにホログラフィ干渉法の研究に着手しました。


──ホログラフィ干渉法以前にはどのような方法が使われていましたか。

 山口:例えば光弾性法があります。プラスチックに力がかかると分子が特定の方向に並ぶので、偏光方向で光速度に違いが起きます。試料を偏光子で挟んで観察すると干渉縞が出るので、それを解析することによって、その中での応力の分布が求まります。例えばプラスチックで機械部品や構造物のモデルを作って、それに力をかけたときに生ずる縞を観察すると破壊しやすい位 置がわかります。ただ、光弾性法の問題はモデルの製作の手間と難しさです。


──そこへホログラフィ干渉法が出てきたというわけですね。

 山口:ええ。1965年に提案されています。これによりモデルを作らなくても、実際の機械や部品や構造物に力をかけた時の変形を光弾性法と同じように干渉縞として見ることができるようになりました。


──ホログラフィ干渉計測は具体的にどういったことに使われたのでしょうか。

 山口:航空機のタイヤの試験や自動車の振動測定などへの応用が有名です。これにより自動車のエンジンやドアの開閉音が小さくなりました。それは干渉縞の分布から、振動振幅の分布が眼で見えるようになったからなのです。干渉法というのは光の波長を物差しとしていますから、ごくわずかな圧力の変化で生じる、人の眼には見えないような微小な動きでも、干渉縞にはそれがはっきりと現れ、その異常箇所として欠陥を見つけることができます。


改良進む光干渉計測

──ホログラフィにはどのような問題点が出てきましたか。

 山口:モデルを作る手間はなくなりましたが、ホログラムの記録と縞の解析に手間がかかりました。まず物体にレーザーを当ててホログラムを写 真に記録し、現像定着の後でホログラムにレーザーを当てて干渉縞を出し、それをテレビカメラで撮影して肉眼あるいは計算機で解析する。つまりホログラムの撮影と像の再生が別 になっていたわけです。また定量性と自動測定の機能にも欠けていました。


──そのような問題点はどう改善されてきたのでしょうか。

 山口:写真でなくテレビ記録とコンピュータ処理を使う方法としてスペックル干渉法が70年代の中頃に開発されました。スペックルというのは粗面 をレーザーで照らした時に必ず現れる粒状模様をいい、これを表面に付けられた自然の目印として変形を測ることができます。ただし、これはホログラフィではなく物体をレンズで結像しており、深い物体の測定はできませんでした。ホログラフィ干渉ではレンズを使わないので任意の深度の測定ができます。しかし、ホログラムの干渉縞は細かいので、テレビ記録してコンピュータで再生すると再生像の画質は大幅に低下します。この手法をディジタルホログラフィといい、1967年にアメリカで最初の実験が行われました。しかし、注目されるようになったのはテレビカメラが真空管から小型の半導体のCCDとなって解像度が上がり、コンピュータの性能が飛躍的に向上した90年代に入ってからです。


ディジタルホログラフィの可能性

──「位相シフトディジタルホログラフィ」は普通のディジタルホログラフィとどこが違うのでしょうか。

形状測定のための光学系
 山口:ディジタルホログラフィの機能を大幅に拡大するような特許です。CCDで解像度が上がったといっても、写 真に比べると2桁は低いので、従来の光学系では十分に良い像が得られませんでした。そこで干渉縞の密度を下げるために物体光と参照光を同じ方向からCCDに入射させ、そこで生ずる像の重なりの問題を干渉計測でよく使われる位 相シフト法で解決して、画質を大幅に改善しました。従来の方法では、例えば512×512の素子を持つCCDを使っても、再生像に使われる画素の数がその9分の1程度に限られていました。しかし位 相ソフト法を使うと、512×512の素子すべてが再生像に使われますので、非常に高画質が得られ、しかもより大きい物体をとることができます。

──ディジタルホログラフィの応用例を教えて下さい。

   山口:前述した表面 の変形や形状の干渉測定が簡単な光学系で自動化され、しかもその精度を上げることができます。これは、これまで直接見ることのできなかった再生像の位 相分布が直接計算できるためです。1度記録すれば任意の深さの分布が再生できるので、レンズの焦点深度を超えるような奥行きの深い対象の測定にも適しています。さらに、このディジタルホログラフィではコンピュータがレンズの働きをしますので、レンズを使わずに拡大像が得られます。これらの機能はマイクロマシンなどの非常に細かい部品の形状や変形の測定や、生物に多い透明物体の測定で特に威力を発揮することが期待されます。これまで透明物体は特殊な顕微鏡を使わなければ見えなかったのですが、ディジタルホログラフィでは簡単に観察、定量 化ができます。またインターネットを使って3次元情報をわずか2枚の画像として世界中のどこにでも送って、必要な分布を求めることが可能です。
豆電球の3次元表面 形状の測定結果


──ディジタルホログラフィの未来はどうなっていくのでしょうか。

 山口:1967年当時は再生像を出すのに5分もかかっていました。4年前に私たちが研究を開始した時には、記録に1秒、再生に10秒かかりました。現在では記録に0.1秒、再生に2秒となっています。再生が1秒を切るのも時間の問題です。最終的にはテレビと同じように0.03秒で記録・再生できるようになれば、動く物体の3次元像も見られるようになるわけですね。また、これまでの実験は単色ですけれども、カラー化することにも成功しています。


他の光干渉計測関連特許

──その他の光干渉計測関連の特許についても用途などを中心に聞かせてください。まず「干渉計測装置」(光フィードバック干渉計)とはどういったものなのでしょうか。

3次元顕微鏡のための光学系
 山口:光干渉計測は感度が高いので、干渉縞が揺れないように空気ばねの上に乗せた金属製の光学定盤に干渉計を固定して測ります。ところが、この光フィードバック干渉計は、普通 の木の机など振動の多いところでも使うことができます。半導体レーザーを光源として使う小型な干渉計です。従来の干渉計と違うところは、干渉計からレーザーに光を戻して生ずる光フィードバック効果 を利用して干渉縞の揺れを止めていることです。この効果は実験中に戻り光を抑えるために入れていたアイソレータを偶然取り外したときに見出されました。この素子は戻り光により半導体レーザーの発振が不安定になるのを防ぐためにこれまで常に使われていました。その後の研究で原因は戻り光によってレーザーの波長が変わることにあることがわかりました。面 白いことに、レーザーが自動的に干渉縞が動かないように波長を変えてくれる、生き物のような働きをするのです。この光フィードバック干渉計は、物体の表面 の形状を高精度で測りたい時に役立ちます。例えば、鏡や結晶などの滑らかな面 を測定したい時ですね。また、製造している段階で、加工装置に付いたまま取り外さずに試料を測定したい場合にも使えます。定盤の上に乗せられないような大きな物体も測定できます。これまでの干渉計測では試料を光学定盤に持ってきていましたが、これからはこのような小型の干渉計を試料のところに持っていって測定するようになるでしょう。


──「膜特性値分布の測定方法および測定装置」と「試料の幾何学的厚さおよび屈折率測定装置およびその測定方法」とはどういうものなのでしょうか。

タマネギの3次元顕微鏡像(再生位 置を変えた時の強度像と位相像)
 山口:膜特性値分布の測定方法は、半透明膜の断面形状を測るものです。例えばシリコンの上にできた酸化膜の任意の線上での厚み分布を高速で測定できます。干渉計に較べて値の曖昧性なしに数nmから数百mmの厚さに適用できます。これも生産現場での測定に使える方法です。
幾何学的厚さおよび屈折率測定装置は、積層板や液晶セルのように多層構造を持っている物体の断層構造を非破壊で計測するものです。従来の共焦点顕微鏡などでは、屈折率と厚みの積で与えられる光学的な厚みしか測定できませんでしたが、本方法は各層の屈折率と厚みを分離して求めることができます。


──その他にどのような特許がありますか。

 山口:干渉縞を高速で解析して高さや厚みの分布をビデオレートで表示する「縞位 相分布解析方法および縞位相分布解析装置」があります。専門家は干渉縞を見るだけで表面 形状がわかりますが、素人はそうはいきません。コンピュータで処理して形状を数量 的に把握するには数秒を要しますが、本装置ではその処理を0.03秒で行うことができます。
物体にレーザービームを当てたときに反射光の中に生ずるスペックルの移動を光電相関により検出し、表面 の変位やひずみを測定する装置は「変形の測定方法」「熱膨張係数の測定方法と装置」として特許化され、完全な非接触・遠隔・高感度測定を可能にしています。
同じ原理で移動体を測る場合は「移動体の測定装置および測定方法」があります。例えばロボットが床を走り回る時に、それがどれだけ動いたかを知るためには、普通 は床にマークを付けておきます。本方法では、床に何のマークも付けずに現在位 置を測ることができます。

●主な関連特許

特開平10-268740「位相シフトディジタルホログラフィ装置」
特開平2000-180135「干渉計測装置」
特開平2000-275016「膜特性値分布の測定方法および測定装置」
特開平2000-180124「試料の幾何学的厚さおよび屈折率測定装置およびその測定方法」
特許第2538435「縞位相分布解析方法および縞位相分布解析装置」
特許第1273728「変形の測定方法」
特許第2107973「熱膨張係数の測定方法と装置」
特開平2000-275011「移動体の測定装置および測定方法」
本発明にご関心のある方は、知的財産課までご連絡下さい

 


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