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抗生物質を不活化する酵素遺伝子の開発
コムギが被る赤かび病対策に有用な「Tri101」を中心に、微生物が作る抗生物質を不活化する酵素遺伝子について微生物制御研究室の山口主任研究員に話を聞いた。これはトランスジェニック植物を作る際に必要な新規選択マーカー遺伝子としての応用や植物病原菌の作る毒素に耐性を示す植物の育種など、人類が直面する食糧不足の問題に、直接的で大きな可能性を持つもので、これからその需要が見込まれる。また、近年話題の遺伝子組み替え食品についても触れた。(表紙写真は最も赤かび病菌の感染被害を受けやすい開花直後のコムギの穂。)
■抗生物質を不活化 山口:不思議なことに、きっかけはそれぞれ違うのですが、結果として3つとも同じようなものを見つけたことになりました。つまり、微生物が作る抗生物質を不活化してしまうような遺伝子にたまたま3回ともぶつかったわけです。
――では最初に、BSDとBSRについて教えてください。 山口:微生物源農薬ブラストサイジンSの自然環境中での変化を調べているうちに、この物質を分解するカビとバクテリアを見つけました。両者を詳しく調べていくと、ブラストサイジンSを不活化する酵素を作っていることがわかりました。カビ由来の不活化酵素(ブラストサイジンSデアミナーゼ)をコードする遺伝子をBSD、バクテリア由来のものをBSRと名付けました。BSRの方は共立薬科大学の遠藤豊成先生との共同研究で、開発しました。 ――それ以外にも用途はあるのでしょうか。 山口:応用として、遺伝子組み換え時の選択マーカー遺伝子としてBSDとBSRを使うことを思い付きました。ブラストサイジンSの入ったシャーレにBSDやBSRを導入した細胞を播くことで、効率よく細胞を選別することができます。
■毒素耐性タバコを作る ――次に、タブトキシンを不活化する酵素遺伝子について教えてください。 山口:タバコに感染するタバコ野火病菌という菌があります。タバコの葉に黄色病斑を作るものです。これは、タバコ野火病菌が作る毒素タブトキシンによって引き起こされます。日本ではあまり大きな病気ではありませんが、トルコやブルガリア、バルカン半島一帯といった地域では非常に重大な病気です。 ――実用化の話などはないのでしょうか。 山口:最近ブルガリアから「是非実用化したい」ということで、共同研究の要請がありました。タブトキシンの被害が一番大きいのはバルカン半島の近くですからね。国で既にラインを完成して安全性のテストに入っているそうです。おそらく実現すると思いますが、共同研究にしろ、実用化にしろ大変うれしいことですね。
■コムギを守る「Tri101」 ――続いて3つめの特許、つまり最新の研究である、トリコテセンを不活化する酵素遺伝子「Tri101」について教えてください。 山口:トリコテセンはマイコトキシンの一種で、マイコトキシンというのは、カビが生産する二次代謝物で、温血動物に生理障害を引き起こすような毒素です。いくつかあるマイコトキシン生産菌のうちのひとつの種が、ムギ類に感染して、毒素を植物体内に蓄積させます。牛や豚の飼料として、あるいは人間がムギから毒素を体内に取り入れてしまうこともあります。
――「Tri101」が働くメカニズムをご説明いただけますでしょうか。 山口:既にアメリカ農務省などの研究所でトリコテセンの生合成経路が研究されていましたが、ここで見落とされていた点を当研究室の木村
真研究員が見つけました。
■減農薬目指すGMO ――「Tri101」の用途としてはどのようなものが考えられますか。 山口:トリコテンセンを不活化することで、病害を制御できるようなコムギを作ろうとしているところです。ただ、植物は育成するのにある程度の年月が必要です。作ったものが効果があるのかを知るのにしばらく時間がかかり、目的のコムギを作るのには最低でも3年ぐらいかかります。その3年というのも、毒素に耐性のあるものはできるかもしれないということであって、本当に意味のある――つまり市場に出せる――コムギを作ることはそんなに簡単なことではありません。 ――遺伝子組み換え食品が世間で問題になっていますね。 山口:除草剤耐性作物や虫に強い作物など、GMO(遺伝子組み換え作物)は今世界的に「そういうものは使いたくない」という流れになっていますね。遺伝子を導入したものがどういう影響を与えるかわからないので、できれば大豆でもトウモロコシでも、遺伝子改変しないものを食べたいという傾向があります。 ――GMOとの上手なつき合い方というのが今後ますます重要になってきますね。 山口:私の個人的な認識として、今後の人口増加と食糧難を考えると、やはりGMOは必ず必要になってくると思います。人体などに安全な食品を病害や悪条件の中でも大量に生産することが求められます。こうした研究が、農薬やバイオテクノロジー関連の企業に興味を持っていただければうれしいですね。
●主な関連特許 特開2000−032985号「トリコテセン3−O−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子」
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