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理研
パテント情報
RIKEN
PATENT
INFORMATION
October 2000
No.16
目 次
発明紹介
公開された主な発明
権利化された主な発明

パルスレーザー照射による半導体材料の加工
●発明者
レーザー物理工学研究室
基礎科学特別研究員
茜 俊光
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青色レーザーダイオード作製に不可欠な窒化物半導体の加工や、表面が化学的に不安定な半導体の表面保護にパルスレーザーの技術は大いなる可能性を持っている。今回はレーザー物理工学研究室を訪問し、パルスレーザーによる半導体の加工法を研究開発している茜
俊光基礎科学特別研究員に話を聞いた。(表紙写真はエキシマレーザーを照射したサファイア基板上GaNの走査型電子顕微鏡像。右の写真はエッチング部分全体)
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■パルスレーザー研究のきっかけ
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中央部の濃い部分がエッチングされた部分で基板が見えている
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――そもそもパルスレーザープロセシングに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
茜:大学4年生の時に研究室に入り、「パルスレーザーを用いた半導体の加工」というテーマを与えられました。そこで半導体への不純物のドーピング実験をやっていました。パルスレーザーですから、瞬間的に何回もレーザーを照射できるわけで、他の分野の実験とは異なり、レーザーを当てた結果をすぐに目の前で見ることができます。とにかくたくさんのサンプルを作り、その結果を発表する機会を多く持つことができました。それが結構楽しかったのですね。
博士課程ではレーザープロセシングとは全然違うことをやっていたのですが、従来のプロセスとはまったく違う次元の加工が可能なレーザープロセシングのポテンシャルに今一度触れ、世に問う研究をしたいと考えました。そして「日本でレーザープロセシングの研究をやるのならば理化学研究所がいいだろう」と当時の指導教官に紹介をいただいて、今の研究室に来ることになりました。
■新しい半導体材料にレーザーの光をあてる
――今回、特許出願した技術において、具体的にはパルスレーザーを使ってどういったものを加工しているのでしょうか。
茜:特に新しい半導体、注目されている材料に関して、従来の手法ではできないようなレーザーによる高精度の加工を目指しています。まず1つめの出願「III-V族窒化物半導体のエッチング方法」では、GaN(窒化ガリウム)を扱っています。日本の企業が世界で初めて青色発光ダイオードを光らせたことで注目されている材料です。
数年前までは、青色発光ダイオードや青色レーザーダイオードというのは「光電子分野の暗黒大陸」でした。つまり、当時の技術では明るい緑色や青色の発光ダイオード、レーザーダイオードはまったくできない状況だったのです。
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1パルスのKrFエキシマレーザーを照射して塩酸処理を行ったGaN表面の原子間力顕微鏡像
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そこで、いろいろな材料が試されたのですが、結局GaNが一番良好に発光するということがわかってきました。技術の進歩は早くて、今では青色発光ダイオードに関しては秋葉原でも売られています。
しかし、青色レーザーダイオードについては、サンプルが出回っているとはいえ、値段は非常に高く、寿命も短いです。そこでこの技術を使うことにより、値段も比較的安く、高効率に寿命の長い青色レーザーダイオードが作れると考えました。
GaNは非常に硬く、化学的に安定です。硬いGaNの表面を高精度にエッチングするには、広く用いられているプラズマエッチングや反応性イオンエッチングでは不十分です。そこで、レーザーを使っていろいろやってみたところ、良好な結果が得られたので、特許を出願する運びとなりました。きれいに削れたGaN系結晶面を共振器面にして、青色レーザーダイオードに応用することができるのです。
■削りながら平らにする技術
――その技術を使うとどれくらいきれいに削ることができるのですか。
茜:普通は半導体をどんどん削っていくと、削った表面が荒れてきてしまいます。ところが、レーザービームの波形をきれいにして、まわりに窒素ガスを充填させたGaNの表面にあてると、荒れるどころか逆に平らになっていくという現象が見えました。
また、GaNは青色発光ダイオードなど、光らせて使うための半導体なので、結晶にダメージがあっては良くありません。そこで、エッチング表面の発光特性も調べました。測定は理研の半導体工学研究室と協力して行いました。その結果、赤などのダメージに特有な光の成分は出てきませんでした。つまり、結晶にはほとんどダメージを与えずに、平坦にできるということがわかりました。
現在は、記録密度を上げるなど、記録用の光源として短波長の青色レーザーダイオードが求められています。一般にCDなどに使われる赤色レーザーダイオードは、GaAs(砒化ガリウム)で作られています。GaAsならば、結晶を劈開させてレーザー共振器面を出せばいいのですが、青色レーザーダイオードに必要なGaNの場合、それは非常に難しいのです。GaNの結晶成長に用いられているサファイア基板とGaNの劈開特性が異なるため、きれいな共振器面が出ないからです。そこで、パルスレーザーによるエッチングで、共振器面を平らにするわけです。
パルスレーザーをあてた直後は、表面に少しダメージを受けた層が残るので、塩酸で洗い流してやります。そうすると、きれいなGaN表面が出てきます。1J/cm2のエネルギーを入れてやりますと、だいたい50ナノメーターという深さが掘れます。この深さを掘ることで、結晶の元の表面荒さは約半分になります。
■広がる青色レーザーダイオードの用途
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レーザー照射システム
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――どういったものに応用できるのでしょうか。
茜:何と言っても青色レーザーダイオードへの応用でしょうね。また、発光ダイオードはディスプレイなどの表示機器用の素子として活用が期待されます。
たとえばディスプレイのRGBを考えてみます。従来よりR(Red)はかなり輝度の高い赤色ができています。G(Green)は暗いけれども何とか緑色は作れました。ところが、B(Blue)だけはまったくだめだったのです。そこへ高輝度の緑色と青色発光ダイオードが登場すれば、明るいRGBが揃い、発光ダイオードで平面ディスプレイを作れるようになるということです。
また、高密度記録用の素子にも応用できます。今は、CDやDVDについては赤色レーザーダイオードが使われていますが、それを青色レーザーでやると波長が短いので、記録密度の高いものができることになります。単純には波長が2分の1になったら記録密度が4倍になります。今よりずっと小さいサイズのDVDを作ることもできます。
青色レーザーダイオードが実用化されれば、表示機器や高密度記録機器にとどまらず、あらゆる種類の民生用電子機器に組み込まれていくことでしょう。例えば、偽札などの真贋判定装置の光源にも使えるかもしれません。もちろん、赤色よりも高い分解能を持ったホログラムを作ることもできます。さらに、医療への応用なども考えられます。
我々の技術を使うことによって青色レーザーダイオードをはじめとする短波長発光素子の市場が、全世界を包含する巨大なものになることが予想されます。
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茜基礎科学特別研究員
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■新材料生成も可能な保護膜形成技術
――次に出願された「半導体保護膜の形成方法」について詳しく教えてください。
茜:パルスレーザーを使ってInP(リン化インジウム)を窒化し、保護膜を形成するのが、今回出願した技術です。カナダのNRC(国家研究評議会)とコラボレートしながら研究を行いました。InPは非常に重要な材料です。光ファイバーのレーザーダイオードは、高出力で安定していないと通信も安定しないのですが、その発光素子にInP系の材料が最適だと言われています。
InPを放っておくと、自然酸化膜が付いて、酸化物でありながら導電性の物質になります。
従来の技術では、InP系材料に保護膜を付けるために、InP系材料の積層構造の上にSiO2の薄い膜を積んでいました。しかも、成長炉の中で同時にできるものではなくて、炉から1回取り出し、SiO2を積むための別な装置に持っていく必要がありました。
そこで今回提案した方法は、InPの中に窒素原子を導入して保護膜にするというものです。窒素を多量に結合させることで、酸素の吸着をブロックするというのが基本的なアイディアです。また、この方法だと、成長炉からInPをいちいち取り出す手間も省け、炉内で保護膜を形成することも可能です。
問題は、保護膜となるInN(窒化インジウム)の生成温度と分解温度が近いということです。InNが生成される温度が約550度、それを600度に上げてしまうと今度は分解してしまいます。分解してしまうと、InNの表面が荒れてきます。ですから、できるだけ低温で形成する必要があります。
低温で窒化する方法は他にもあるのですが、われわれはパルスレーザーで瞬間加熱て、その間に反応させる方法を採りました。温度はかなり上昇しますが、一瞬なので低温プロセスというカテリーに入ると思います。
一瞬の反応なので、窒素原料のガスとして反応性の高いアンモニアを使用しました。結果、InNの生成によって、InP表面の酸化物形成を抑えることができました。窒素の導入量に関しては世界一だと思います。
また、InPの保護膜形成には「硫黄溶液処理」も広く用いられていますが、基本的に硫黄がInPに混入すると、電気的な特性が変わり、また重金属汚染の恐れがあります。その点、本保護膜形成プロセスは乾式で行われますので、溶液処理による重金属汚染もありません。
さらなる応用例として、新しい材料の生成が考えられます。混ぜる窒素の量を調節して、高品質な結晶ができる工夫をしてやれば、InPNやGaAsN、GaPNなどの新しい材料(窒化物半導体)を作るテクニックにも使えると思います。
●主な関連特許
特開2000-260742号「III-V族窒化物半導体のエッチング方法」
特願2000-018612号「半導体保護膜の形成方法」
本発明にご関心のある方は、知的財産課までご連絡下さい。

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