理研
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RIKEN PATENT INFORMATION

January 2000 No.13




目  次
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発明紹介
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公開された主な発明
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権利化された主な発明






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腸管内微生物を検出する自動システムへの展開

●発明者:生物基盤研究部微生物分類室
室長 辨野 義己

特許を取ることに対して生物学者の足取りは重いという。その学問的性質上、人類共有の財産であるという認識があるためだ。生物基盤研究部微生物分類室の辨野室長の場合、化学工学(現生化学システム)研究室の遠藤主任研究員との共同研究を通して特許へのつながりを深めた。辨野室長はそれらによって改めて「特許の重要性を学び、研究領域を超える事の大切さを知りました」と語る。理研には、50を超える研究室とさらに50を超える研究チームがあり、それぞれ独立した要素もある。しかし、「研究室間の、さらには企業との横のつながりを充実していくことで、非常に大きな研究の展開がある」と辨野室長は語る。(表紙写真はビフィドバクテリウムアドレスセンテイス(Bifidobacterium adolescentis))

■社会的要請が背景

──今回の一連の特許について、その背景を教えてください。

辨野:まず、サンプル中の微生物の菌数測定において、寒天培地上にサンプルの希釈物を塗沫し、培養して菌数を確認する作業があります。これを自動的に菌数測定することができないか、と常々考えておりました。
そこで、96穴のマイクロプレートを用いて、対象とする微生物の菌数測定をその生育濁度で調べることができるプロトタイプをつくりました。これは、1985年にドイツから留学されていたビュックス(Buchs)さん(現アーヘン大学教授)が遠藤主任研究員の研究室に来ており、私が当時所属していた動物薬理研究室で開発を始め、遠藤主任の強力な指導のもと、約1年後に完成したものです。さらにこの研究は、より発展させた形で「生菌数測定装置」に繋がり、化学工学研究室と日立電子エンジニアリングと共同で特許出願することができたのです。当時、O-157などの出血性大腸菌感染症が大きな社会問題となっており、大腸菌の食品への汚染を測定できるような自動システムが求められていたのです。

■求められた簡便な菌検出

──先生の研究は、微生物そのもの、生き物の研究ですね。

辨野:私自身の研究は、ヒトの腸内に常在している微生物の構造と機能を解明することでした。そのために、微生物を生きたまま測定できないか、ということに大変興味がありました。既に、糞便中に約100種類いる微生物の中から特定の微生物を分離・計測するため、他の微生物の生育を抑制する抗生物質や色素などを駆使した「選択培地」が、当時の動物薬理研究室主任研究員光岡博士により作製されていました。その選択培地には、大腸菌であれば特異的に抑制されず、他の腸内細菌は抑制されるという胆汁酸などがよく使われています。私たちの12指腸や小腸では消化された食べ物が入ってくると胆汁が分泌され、口から入った微生物や口腔内常在微生物の大部分はその胆汁で抑制されますが、大腸菌は胆汁に抵抗性があるため、難なく腸管に侵入してくるのです。胆汁などを含んだ改良培地に大腸菌を接種培養して増殖曲線の自動測定を可能にしたのが「生菌数測定装置」です。
微生物は目に見えませんから、従来の方法では寒天培地上に微生物を塗沫し、24時間以上培養後、培地上に生育した集落(コロニー)を測定して菌数を確認していたわけです。新しく開発した測定装置の用途として、例えば、まな板を拭った布の液を絞り、それを測定装置に入れ、菌数を測定できるようにしたいと目論んだわけです。従来から使われている寒天培地による培養系に頼らず、溶液中で微生物の生育速度を調べ、その生育速度の立ち上がりで菌数を測定するわけです。大腸菌の生育過程では、大腸菌を培地に接種した後6時間を「定常期」といい、菌数変化はありません。しかし、培養後6時間から9時間で急激に菌数は増えてきます。これを「対数期」といい、大腸菌にとって最も生育できる時間帯なのです。その対数期の菌数変化を自動測定するのです。

■プライマーによる同定・検出

これまで、選択的な菌種の検出、つまり選択的に他の菌を抑えるといった培養系を確立させてきました。これを基本に、大腸菌を含む特定の微生物検出の自動化をめざしたのです。私が最初に微生物の検出に用いたのは培養系によるものであり、次いで、自動システムに発展させました。 最近では、有効な菌数測定技術と考えられる菌種特異的プライマーによる微生物の検出・計測に力を注いでいます。これには、菌種特異的プライマーの作成と検出系の確立が重要で、微生物のリボゾームRNA分子から特異的プライマーを作成し、それを用いてリボゾームRNAを増幅させ、「リアルタイムPCR法」で菌数を測定する方法です。従って、今後は菌種の特異的なプライマーをいかに作成することができるかにかかってきます。これまでに、腸内最優勢菌種である偏性嫌気性菌コリンゼラ アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens) および8種類のEubacterium菌種や歯周病疾患に関連性が深く極端に酸素に感受性が高い偏性嫌気性菌トリポネーマ・ソクランスキー(Treponema socranskii)の菌種特異的プライマーを作成しました。現在、それらを用いた菌種検出系を特許出願しています。

辨野室長

 

コリンゼラ アエロファシエンス
Collinsella aerofaciens

トリポネーマ ソクランスキー
Treponema socranskii

 

■培養できない菌に適用可能

──遺伝子を使うメリットは。

辨野:リボゾームRNA分子より作成した菌種特異的プライマーを用いた場合、約40分以内に特定の微生物の同定ならびに菌数計測が可能となっています。これまで、微生物を含むサンプルを培養後、検出された微生物を同定するまでにも約2週間以上を必要としていました。さらに、いくら完成度の高い嫌気性培養装置を用いても、培養できない微生物も存在することが知られています。

すなわち、ヒトの腸内には1g当たり10の11乗から12乗個の腸内細菌が存在していますが、そのうち培養できるのは、せいぜい10の10乗から11乗個です。10の11乗から12乗個の間の菌は培養できていないのです。そして、培養できない腸内細菌がヒトにどうような働きをしているのか?大変興味のあるところです。

このような微生物の検出には菌種特異的プライマーを用いるととても容易なのです。一方、通常の培養系では、腸内での菌数が低いために優勢に出現してくる腸内細菌に抑えられ、検出できない細菌も存在します。生きているが培養できない腸内細菌、菌数は低いが機能の高い腸内細菌の検出・計測には、菌種特異的プライマーの応用が不可欠であり、将来、それを用いた自動システムに開発が必要となります。分離・培養に熟練を要した時代から、誰もが複雑な腸内細菌を解析できる時代が来たといえるでしょう。

■微生物と発ガンのメカニズムの解明へ

──胃潰瘍を起こすピロリは、培養できなくてわからなかった。

辨野:一番いい例がヘリコバクターピロリですね。いないはずの細菌が存在した。それは強酸性の環境下で、うまく胃粘膜に入りこんで隠れていたのです。そして、ピロリの存在が胃潰瘍の発症に直結し、ガン化へと進ませるのです。「微生物がガンを作っていく」と言えば、多くの研究者は驚かれるかもしれませんが、ピロリが促している胃潰瘍から胃ガンへの進行いう事実は将来、「細菌よる慢性的な感染症が実はガンである」という概念に変えていくかもしれません。ピロリが胃内から発見されたよりも20年も前、60年代の後半に、光岡博士は大腸の常在細菌と大腸ガンは関係があると提案しました。しかし、74年の細菌学会のシンポジウムで「腸内細菌は大腸ガンと関係があり、困難だが取り組むべき重要課題である」との提案に、“腸内細菌とガンは関係ない”とあっさり否定されたように記憶しています。

当時、腸内細菌といえば腸管感染症が重要課題でした。大腸ガンの発症に腸内細菌が関係していようとは誰も考えてもいなかった時代でした。その後、その研究室では着実にその証明を積み重ねてきました。将来、発ガン物質や発ガン促進物質を産生する腸内細菌が解明され、それらの遺伝子を用いた検出系も確立されるものと思います。

■微生物との出会いを大切に

──研究に対するスタンスは。

辨野:研究していく中でいろいろな微生物との出会いを大切にしながら、私たちが微生物の持っている能力を引き出すことです。それを引き出すにはすばらしいアイデアと自動システムが不可欠でしょう。多くの方が、私の研究テーマを乳酸菌やビフィズス菌の研究だとお思っていらっしゃいますが、私が興味あるのは有害物質の産生する腸内細菌なのです。悪い側面を解明すれば、有効な側面はより活かされると思います。ですから、病気に関連する微生物の検出・計測等には大変ファイトが涌いてきますね。

──装置の開発はお好きですか。

辨野:研究室を訪問された多くの方が、「ここは微生物自動測定装置を開発する部屋ですか」と尋ねられたことがあります。確かに装置を作ったり、改良したりすることは好きですね。このような装置は培養困難な微生物の存在があればあるほど、その装置機能はどんどん進化するものです。特に700kgもあるような嫌気性培養装置などはその代表のようなものですね。これまでこのような装置を幾度となく試作し、費用がかさみました。作りかえの連続で、上司には本当によく我慢していただいたと感謝しております。

■系統保存施設という財産

これまでの研究で、約4万5000株もの偏性嫌気性菌をヒトや動物の腸管から分離してきました。そのうち、約3分の1である1万5000株がいまだ未分類のままです。この中には新しい菌属・菌種が眠っているものと確信しています。事実、この3〜4年でその埋もれた宝から3新菌属そして11種類の新菌種を命名提案してまいりました。これらの新鮮分離株は今後の研究推進に重要な働きをしてくれるものと思います。そして、理研・微生物系統保存施設(JCM)では数多くの微生物を有し、いつでも研究に供することができることも大切な研究推進力となっています。 最近、パプアニューギニア高地人から分離し、保存しておいたアンモニア利用菌の一つを、「カテニバクテリウム・ミツオカーエ」として命名提案することにしました。今までわからなかった菌に名前を与えることで、世に広く知ってもらおうというわけです。これを使って何か有効利用できる技術の開発に結びつくかもしれませんね。

──今後の実施化計画は。

辨野:有害物質を産生する腸内細菌、嫌気性培養を使っても培養できない微生物を最優先にして、分類学的研究と平行しながら、菌種あるいは菌株特異プライマーを作成し、その生態学を解明することにしています。

●主な関連特許
特許第2588113号「生菌数測定装置」
特開平11-127898号「アエロファシエンス菌用プライマー」

本発明にご関心のある方は、知的財産課までご連絡下さい。