私は、人事発令に基づいて2012年4月から学生となり、1年間限定で政策研究大学院大学(GRIPS)に国内留学している。人事部の資料では、その目的は「理研の運営のために必要な専門的知識・技能を職員に習得させ、優れた人材を育成・確保すること」と記されている。GRIPSは、政策研究に興味を持つ社会人を受け入れる大学院のみの国立大学法人であり、港区六本木の国立新美術館のすぐ隣にある。勉学の合間に美術鑑賞をしかも学割で楽しめるのが、ちょっとうれしい。受付の方に「学生です」と言うとけげんな顔をされることはあるが。
私が在籍しているのは知財プログラムという修士課程で、1年間で「法と経済学」の視点から知財政策、知財戦略を学ぶ。通常であれば2年かけて学ぶ内容を1年に短縮しているため、思った以上にスケジュールはタイトで、講義のペースは速い。経済学の知識がまったくなかったので、本当に基礎の基礎から勉強した。専門書を何度も読み、なじみのない用語を覚え、繰り返しグラフを描いた。知らない分野を一から勉強するのは、つらいと同時に楽しくもある。少しずつ自分の理解が深まっていくことを実感できるからだ。同プログラムには私を含め6名が在籍しており、皆それぞれにバックグラウンドが異なっている。試験やレポート提出の後に、よく6人で夜の六本木へ飲みに行く。高級店が多い六本木の中で数少ないリーズナブルな居酒屋情報は、過去問と同様に学生間に共有されている。
学生になってあらためて感じたことは、勉学と仕事の違いだ。仕事は必ず相手がいる。研究者や上司であったり、他部署や他機関の人だったりする。しかし、勉学は違う。勉学はあくまでも自分が理解できているかどうかが鍵になる。説得や交渉を試みたり、信頼関係の構築を考えたりすることがない分、気は楽かもしれないが、「孤独」である。一度社会人を経験してから学生になって、そのことにあらためて気付かされた。とはいえ、孤独な勉学ばかりでは不健全だろう。せっかく学生になったのだから、学生らしいことをしたいと考えた。修士課程の学生は約300名で、うち外国人留学生が200名、日本人が100名である。それぞれに学生組織である院生会を設けており、さまざまなイベントの企画・運営をしている。そこで私は2012年度の「日本人院生会会長」に立候補して就任した。
6月に文化祭(写真2)、8月に夏祭り、9月にフェアウェルパーティー、10月のウェルカムパーティーと、勉学と同時並行でイベントを開催し、慣れない英語での司会やあいさつもこなした。院生会のメンバーと協力し、限られた時間と予算の中での工夫を重ねた活動は、苦労も多い反面、達成感もあった。非常に優秀な仲間に恵まれ、何とか任期を満了できそうで、頼りない会長の私としては安堵している。会長に就任したこともあり、多くの日本人学生や外国人留学生から名前と顔を覚えてもらうことができた。専門知識だけでなく、こうした人的ネットワークも、これからの貴重な財産になると思う。
さて、この原稿は、勉学から研究へとフェーズが移り、修士論文執筆が佳境に入った時期に書いている。無事に卒業させていただくために、このあたりで筆をおき、修士論文に戻らせていただく。



