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計算科学研究機構
写真1 計算科学研究機構設立式典にて(2010年10月1日、左から3人目が筆者)

写真1:計算科学研究機構設立式典にて(2010年10月1日、左から3人目が筆者)

写真2 計算科学研究機構に飾られている「京」のタペストリーの前にて

写真2:計算科学研究機構に飾られている「京」のタペストリーの前にて


2010年10月1日、計算科学研究機構(AICS)の設立式典が開催され、スーパーコンピュータ「京(けい) 」の命名者7名に野依良治理事長より記念品が贈呈されました(写真1)。その7名の中に理研職員である私がいました。二人目に私の名前が読み上げられると、理事長は目を見開いてびっくりされ、「おおっ」と私の顔をご覧になりました。私が命名者の一人であることに初めて気付かれ、満面の笑みで「おめでとう」と言葉を掛けてくださいました。そのときのまなざしが今でも目に焼き付いています。会場ではその光景に笑いが起きていましたが、理研関係者以外の方には意味不明だったでしょう。式典終了後、会場外で理事長に再びお会いしたときにも、「君かっ!」とにこやかに一喝? をいただきました。この後、「京」は世界のスーパーコンピュータ計算性能ランキング「TOP500リスト」の第37回(2011年6月)と第38回(同年11月)で連続して1位を獲得しました。このときの喜びも、設立式典とともに忘れ得ない思い出になっています。

私がAICS設立準備室に配属されたのは2009年12月15日。あの事業仕分けの真っ最中で、次世代スパコン開発事業については“来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減”という決定がなされていました。しかしその直後、“開発者視点から利用者視点へ”と開発方針が転換され、事業は継続されることになりました。これにより、一般の方々にプロジェクトの意義をきちんと理解してもらうことの重要性がいっそう高まり、広報業務も多岐にわたり拡大していくことになったのです。

そのような中、一般の方々に「次世代スパコン」を理解してもらう取り組みの第1弾として、分かりやすく親しみやすい名称とロゴを考えようということになりました。しかし、なかなかいい愛称がありません。開発はすでに始まっており、いったいいつまで「次世代」を使えるのか、となります。「ペタコン」では、目標性能の10ペタフロップス(1秒間に1016回=1京回の計算を行う)とは1桁も違う上に、すでにペタ級のスパコンは世に存在していました。こうして、理研の次世代スーパーコンピュータ開発実施本部(スパコン本部)により、「次世代スパコンの愛称」の公募が開始されたのです。私も二つの愛称を応募し、そのうちの一つが「京」でした。そもそも私の中では、純国産らしい日本名にしようと決めており、「京」なら桁も10ペタぴったりであり、日本人の心に共鳴します。外国人にとっても「ケイ」は発音しやすいので、国際性という点でも魅力的です。応募総数1529件から理研職員の無記名投票で14件に絞られ、さらに愛称選考委員会(山根一眞委員長)で最終候補二つに絞られました。そして野依良治理事長が本部長を務めていたスパコン本部での最終選考で、「京」に決まったのです。こうして、私は「京」のゴッドファーザー(名付け親)の一人となりました。

最後に、いろいろな場所で目にすることになった「京」のロゴ(写真2)の誕生について紹介します。当初、公募にかける案もあったのですが、“毛筆による書”にするとし、書道家の武田双雲氏に揮毫(きごう)をお願いしました。武田氏による書は2案あったので、スパコン本部とAICS内で人気投票を行いました。その結果、圧倒的支持が現在のロゴに集まりました。実は、平尾公彦AICS機構長はもう一方の書を気に入っておられたのですが、この民主的な決定を快く尊重していただき、現在のロゴが誕生したのです。