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播磨の生き物たちを撮って思うこと 松本武久

横浜研究所 生命分子システム基盤研究領域w
左側に播磨で撮影した動物たちを、右側には3年ほど前から本格的に撮り始めた動物たちの写真を貼り合わせました。マイブログ「生き物たちに乾杯 A Toast to Wildlife! (http://omoriohi.exblog.jp)」では、播磨の動物たちだけでなく、各地で出会った動物たちも紹介しています。最も思い出深い動物は、写真中央の厳冬の知床で姿を見せてくれたシマフクロウです。
左側に播磨で撮影した動物たちを、右側には3年ほど前から本格的に撮り始めた動物たちの写真を貼り合わせました。マイブログ「生き物たちに乾杯 A Toast to Wildlife! 」では、播磨の動物たちだけでなく、各地で出会った動物たちも紹介しています。最も思い出深い動物は、写真中央の厳冬の知床で姿を見せてくれたシマフクロウです。

最近、理研の所内ホームページのコーナー「理研の四季」に、播磨研究所の敷地内とその近辺で見られる動植物の写真を頻繁に投稿しています。横浜研究所に勤務して10年余りになりますが、播磨を訪れたのは今年5月が初めてでした。以降、月1〜2回ペースの播磨出張ではいつも、出張用のバッグとは別に、一眼レフカメラや望遠レンズ(通称サンニッパ)などもろもろの撮影グッズを押し込んだリュックを背負い、トレッキングシューズを履いた姿で、播磨研究所内の中央管理棟前バス停に降り立ちます。そんな姿の私を見た方は、出張目的は写真撮影ではないか、まるで『釣りバカ日誌』の浜ちゃんみたいと思われるかもしれませんが、そうではありません。大型放射光施設「SPring-8」でのタンパク質結晶のX線回折測定というれっきとした業務のための出張です。業務時間内は、真面目に仕事に専念していますので、くれぐれも誤解なさらないように。

そもそも出張用バッグに加え、石のように重たいリュックをわざわざ担いでいこうと決意させたのは、播磨をよく知る同僚の「播磨の敷地内で早朝にはシカを近くで見られますよ」という悪魔のささやきでした。SPring-8での測定日前日の夕方、バスから降りると、遠くにはコシアカツバメが飛遊し、中央管理棟の屋上ではイソヒヨドリがさえずり、芝生にはセグロセキレイやヒバリが闊歩(かっぽ)しているではありませんか。なんともうれしいお出迎えです。日没前まで隅々を散策してみると、キジ、キセキレイ、キビタキ、モズなどさまざまな野鳥に、さらにはシカにも出会うことができました。木の数も種類も少ない殺風景な敷地とのギャップに驚きました。翌朝は日の出前に起き、軽い朝食を済ませ、総重量4kgのカメラを首からぶら下げ、リュックを背負ったら、シカの群れを求めて、いざ出発です。早朝の朝靄(あさもや)の中、X線自由電子レーザー施設「SACLA(さくら)」付近でさっそくシカの群れを発見しました。遠くから歩み寄る私にシカはすぐに気付き、一頭が発した警戒音に反応して、全頭が私に注目します。間近まで寄れるエゾシカとは違い、播磨のホンシュウジカはとても警戒心が強いようです。シカが背を向ける前にまずは1枚カシャッ。うーん、靄でシカの顔が見えません。なんとか近づこうとしますが、シカは逃げ足を速めて逆に遠ざかるばかりです。その後、出張を重ねるうちシカの習性を学習し、今ではシカに接近できるようになりました。というか、シカが私に慣れただけなのかもしれません。

一方、初夏の敷地内で確認される野鳥は20種類余りです。雑木林や草原に棲息(せいそく)する鳥だけでなく、本来なら海辺や川原に棲息するイソヒヨドリやコチドリが、川も湖沼(こしょう)もない敷地内で繁殖していることが面白いですね。敷地には、SPring-8で囲まれた三原栗山の山頂のほか、芝生や鬱蒼(うっそう)とした草に覆われた平地や急斜面、草もまばらな礫地(れきち)、さらにそれらを囲む雑木林があり、鳥たちはうまく棲み分けています。

正門斜め向かいの花畑に足を踏み入れたとき、美しく咲く花の根元にシカのふんが一面堆積していることに気付き驚きました。シカが草花の芽を食べ排せつしたふんは、やがて肥料になって食べ残された芽を育て、きれいな花を咲かせます。シカがこれ以上増えたら、芽は食べ尽くされて花は咲かないでしょう。今や天敵であるオオカミも絶滅し、法令でも保護されているため、年々増えるシカによる食害が深刻化しています。理研が率先して播磨研究所およびその周辺地域のシカ対策も含めた環境保全対策に取り組んでもよいのではないかなと、ふと思いました。