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理研発生・再生科学総合研究センター システムバイオロジー研究プロジェクトの上田泰己(ひろき)プロジェクトリーダー、機能ゲノミクスユニットの粕川雄也(かすかわ たけや) 専門職研究員らは、ヒトの体内時計が示す「体内時刻」を、採取した血液から簡単に測定する方法の開発に成功した。時差ぼけや不眠に見られる体内時計の異常の診断や、最適な時間に投薬することで最大の治療効果を得る「時間治療」などへの貢献が期待される。慶応義塾大学、国立精神・神経医療研究センター、北海道大学との共同研究の成果。

ヒトやマウスなどの哺乳類は、約24時間周期の体内時計を持ち、体内時計が刻む体内時刻に従って睡眠を取ったり目覚めたりする。このリズムが崩れると、社会的に望ましい時間帯に活動することが困難になったり、質の良い睡眠が十分に取れなくなったりする。また、心・血管障害といった特定の疾患の症状や、抗がん剤など薬剤の主・副作用は、1日のうち特定の時間帯に現れやすく、体内時刻を考慮して治療を行う時間治療の実現が期待されている。しかし、体内時刻の測定には長時間の拘束や連続した組織の採取が必要といった課題があった。

 

図:分子時刻表 被験者3人から血液を採取し、24時間周期で変動する代謝産物を同定した。陽イオンと陰イオンに分け、縦軸のタイル1行が同定した代謝産物一つに対応し、横軸が体内時刻を示している。紫のタイルはその時刻での代謝産物の血中量が多く、緑のタイルは少ない。

分子時刻表

被験者3人から血液を採取し、24時間周期で変動する代謝産物を同定した。陽イオンと陰イオンに分け、縦軸のタイル1行が同定した代謝産物一つに対応し、横軸が体内時刻を示している。紫のタイルはその時刻での代謝産物の血中量が多く、緑のタイルは少ない。

研究グループは2009年、マウスを用いて体内時刻を判定する手法の開発に成功しているが、今回はヒトでの判定に取り組んだ。3人の被験者に、食事や生活サイクルの影響を受けない環境下に36時間滞在してもらい、2時間置きに血液を採取して、血液中に含まれるアミノ酸や脂質などの代謝物質を網羅的に解析。その結果、24 時間周期で増減する数十種類の分子の特定に成功し、それらの量と時刻の関係性を示す分子時刻表()を作成した。その分子時刻表の有用性を検証するため、強制的に体内時刻をずらした6人の被験者の血液を採取して代謝産物量を測定し、分子時刻表に照らし合わせたところ、従来法で調べた体内時刻とほぼ同じ時刻を推定できることが分かった。

今後、睡眠障害などの患者の協力を得て調査人数を増やし、より正確な分子時刻表の作成を目指す。


米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences』オンライン版(8月27日)掲載