ロシアの科学者メンデレーエフが1869年に唱えた元素周期表。現在、全部で114種類の元素が発見されているが、発見者はすべて欧米の科学者だ。その周期表に「日本発の名前を書き込む」という夢が実現に近づいた。理研和光研究所 仁科加速器研究センターの研究グループが2004年、2005年に続き3個目の113番元素の合成に成功したのだ。自然界に安定して存在する元素は原子番号92番のウランまで。超ウランと呼ばれる93番以降の重い元素は、加速器を使って人工的に合成することで、初めてその存在を確認できる。また104番以降の重い元素は超重元素と呼ばれている。今回、合成に成功した113番元素は、前回の2個とは異なる崩壊経路をたどり既知の原子核に到達し、113番元素合成のより確かな証拠となる。この成果について、森田超重元素研究室の森田浩介 准主任研究員に聞いた。
― 2個目の合成から3個目までに時間がかかりましたね。
森田:はい。ようやくという思いです。加速器を使って原子番号30の亜鉛(Zn)を光速の10%まで加速してビームにし、原子番号83のビスマス(Bi)に衝突させると、核融合が起きて113番元素が合成されます。しかし、その確率は約100兆分の1ととても低いのです。実験を開始したのは、2003年9月。延べ80日間ビームを照射して2004年7月、1個目の合成に成功しました。さらに、100日間ビームを照射して2個目を合成しました。2005年4月のことです。しかし、それからが長く3個目までに延べ350日かかりました。丸9年です。
― 超重元素の合成はどのように証明するのですか。
図 113番元素の崩壊過程
2004年と2005年に合成した113番元素は、アルファ崩壊を4回起こして原子番号105のドブニウム(Db)に到達し、その後、自発核分裂を起こし二つの原子核に分裂した。今回、合成に成功した113番元素は合計6回のアルファ崩壊を繰り返し、最終的に原子番号101のメンデレビウム(Md)に到達した。
森田:超重元素は、原子核内の陽子同士の電気的反発が大きいため、合成してもすぐに崩壊を繰り返して安定な原子核に変わります。その連続して起こる崩壊を観測して、その崩壊過程ですでに存在が確認されている既知の原子核に到達しているかを調べます。
前回の2個はいずれも、アルファ崩壊※を4回起こして原子番号105のドブニウム(Db)に到達し、その後、自発核分裂を起こし二つの原子核に分裂しました(図)。ドブニウムは約33%の確率で自発核分裂を起こし、約67%の確率でアルファ崩壊することが知られています。今回は、ドブニウムは自発核分裂を起こさず、さらに2回アルファ崩壊し、合計6回のアルファ崩壊が起きました(図)。その過程で、既知の原子核であるボーリウム(Bh)、ドブニウム、ローレンシウム(Lr)を経て、最終的にメンデレビウム(Md)に到達していることを確認できたのです。
― 2004年と2005年の実験では既知の原子核を確認できなかったのですか。
森田:前回の2個でも、崩壊過程でボーリウムになっていることを確認しました。しかし、当時はボーリウム自体が既知の原子核として確定されていませんでした。また、測定例が2個と少ないことも問題だったようで、結局、113番元素の合成が国際的に認定されるまでには至りませんでした。
私たちは2008〜2009年にボーリウムの直接合成に成功しています。それによって2004年と2005年に観測したものが113番元素の崩壊であることの確証を得ました。そして今回、3個目となる113番元素を合成し、前回と異なる6回の連続したアルファ崩壊を確認し、その中の5回目と6回目のアルファ崩壊において、崩壊を始める時間とそのとき放出された崩壊エネルギーが、別途報告されているドブニウムとローレンシウムの崩壊にそれぞれよく一致していることを観測しました。これらのことから私たちは、113番元素の合成を科学的にほぼ100%証明できたと考えています。あとは国際機関の判断です。国際純正・応用化学連合(IUPAC)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)が推薦する6名で構成される合同作業部会で審議されます。
―周期表にアジア初、そして日本発となる名前を書き込むという夢の実現が近いですね。
森田:今回、日本物理学会の英文誌『Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ) 』に掲載した論文では、東日本大震災で被災された方々に対する謝辞を述べさせていただきました。電力事情が悪く、国民の皆さんが節電なさっているときに「われわれだけが実験を継続していいのか」と、悩みながら実験していました。何とか結果を出せて本当にホッとしています。
※ アルファ崩壊:アルファ粒子(ヘリウム4の原子核で、原子番号2、質量数4)を放出してより安定な核に崩壊すること。

