40年ほど前、難燃性や電気絶縁性に優れるポリ塩化ビフェニル(PCB)が、電気機器の絶縁油や熱交換機の熱媒体などに広く使われていた。しかし、PCBには毒性があり、がんや皮膚疾患、肝機能障害などの原因となることが指摘され、国内では1975年に生産・輸入が禁止された。それ以来、その保管・処理が課題となっている。現在、脱塩素化分解法などの化学処理が行われているが、濃度が10〜1000ppm(1ppmは100万分の1)になると化学反応の速度が遅くなり、分解しにくくなってしまう。今回、理研基幹研究所 グリーンナノ触媒研究チームは高分子パラジウムナノ粒子触媒膜を使って、超低濃度の PCBを分解するマイクロチップの開発に成功。この成果について山田陽一 副チームリーダーに聞いた。
― PCBについて教えてください。
山田:PCBやポリ臭化ビフェニル(PBB)は、芳香族(ほうこうぞく)有機ハロゲン化物と呼ばれる物質で、熱に強く(難燃性)、電気絶縁性に優れ、化学的に安定していて分解されにくいという性質があります。また、人体への毒性が強いため、現在では生産・輸入が禁止されています。しかし処理施設の設置が進まず、そのほとんどが長期保管されたままとなっており、PCBのにじみ、漏れといった問題が起きています。
― 現在、どのような処理が行われているのですか。
山田:PCBやPBBの高濃度溶液は、焼却したり、爆発性のある水素ガスを用いた脱塩素化分解法などの化学処理が行われています。しかし最近、本来はPCBが含まれるはずのない絶縁油などに、数ppmレベルの超低濃度のPCBが含まれていることが分かってきました。この処理にも焼却などによる方法が検討されていますが、未分解物が灰に含まれる可能性があり、ダイオキシンの発生が懸念されます。そこで、安全、簡便、安価、瞬間的、そして完全に処理する方法が望まれているのです。
現在、超低濃度のPCBの化学処理法として注目されているのが、ギ酸ナトリウム水溶液を使い、PCB分子中の塩素原子を水素などに置換して安全な物質にする「水素化脱ハロゲン化反応」です。しかし、濃度がppmレベルになると反応速度が遅くなってしまうという問題がありました。
― その問題をどのように解決したのですか。
山田:ポイントは、① 化学反応を促進するため新たな触媒として高分子とパラジウム粒子の複合体を開発したこと、② マイクロチップを使用したことです。低濃度溶液の場合、ごく限られた場所に閉じ込めることで反応物質の密度が上がり、化学反応が速くなります。そこでマイクロチップを使うことにしたのです。
私たちは2006年、マイクロチップ内に長さ40mmの高分子パラジウム錯体(さくたい)触媒膜をつくることに成功しました。しかし、錯体(配位結合や水素結合で形成された分子)を用いた触媒膜では水素化脱ハロゲン化反応に対する触媒活性が乏しく、反応を思うように進めることができませんでした。そこで今回、触媒活性を上げるために、この膜作製方法を応用してパラジウムを粒径6nm(1nm=10億分の1m)の粒子にして高分子内に凝集した、高分子パラジウムナノ粒子触媒膜をつくったのです(図)。
― 分解処理能力はどうでしたか。
山田:流入口から濃度1000ppmの芳香族有機ハロゲン化物の溶液を、もう一方からギ酸ナトリウム水溶液を流したところ、芳香族有機ハロゲン化物は2〜8秒で完全に分解され、流出口から安全な脱ハロゲン化物が100%の収率で得られました。また、数ppmレベルの超低濃度の場合でも 8秒で完全に分解されました。
― 実用化が期待されますね。
山田:このチップを多数積み上げたり、流路の形状を工夫したりすることで、年間数トンも処理できる装置の開発が期待できます。しかし、実現には産業界のノウハウが必要です。産学連携によって壁を乗り越え、社会に貢献したいと考えています。


