理研と埼玉大学は今年1月24日、東レエンジニアリング(株)、黒金化成(株)など5社と共同で「新世代塗布型電子デバイス技術研究組合」を設立し、その理事長に私が就任しました。技術研究組合とは、複数の企業、大学、独立行政法人を含む公的研究機関などが、産業活動で利用される技術を共同で研究開発したいときに設立できる法人の一種です。各組合員は、研究者、研究費、設備などを出し合って共同研究を行い、その成果を共同で管理します。技術研究組合から株式会社などへの組織変更が容易なので、研究開発から事業化までの移行が迅速にできるという利点があります。このような組合に理研が参加するのは初めてのことです。
この組合で私たちが実用化に取り組んでいるのは、電子材料をインク化して印刷することで電子デバイスを製造する「塗布型電子デバイス技術」。大量生産が容易で、製造エネルギーが少なくて済むなど、多くのメリットを持つ次世代エレクトロニクス技術です。例えば、次世代太陽電池として開発が進んでいる有機薄膜太陽電池(OPV)は、結晶シリコンなどに比べて軽量であり、室内光など弱い光に対して高い発電効率を示すという特徴があるため、携帯端末や電子ブックなどの補助電源としての利用が検討されています。このOPVを印刷プロセスで大量に生産できれば、紙のように軽量で安価な太陽電池が現実のものになります。また、現状ではまだ研究開発段階ですが、軽量・柔軟で環境にも優しい資源循環型のエレクトロニクス技術が実用化されれば、近い将来エコフレンドリーかつヒューマンフレンドリーな電子情報化社会が到来すると考えられています。
このような塗布型電子デバイスを開発するには、①高性能な有機半導体インク、②静電スプレー式の印刷技術、③デバイス評価・解析・シミュレーション技術など、克服すべき課題がいくつかあります。組合ではこれらの課題に取り組み、高性能で安価なOPVをはじめとする有機エレクトロニクスの早期実現を目指します。
この組合の特徴は、組合員となる企業や研究機関がそれぞれの得意分野で自前の要素技術や技術シーズ、ノウハウを持ち寄り、ボトムアップ式にデバイス開発のための設計、試作、評価、解析を行うことにあります。特に独自技術を有する中小企業の参画を促したいと考えています。例えば、有望な材料を持っていても、デバイスを試作する技術、測定装置、評価手段などを持たない企業や、装置を購入することはできてもノウハウや測定結果の解釈などに経験が少ない企業に対して、積極的に参画を促します。中小企業の技術力を高めることで、地域活性化にも貢献できると考えています。
基礎研究から製品を産み出し、それが市場に出るまでには多くの障壁があります。基礎研究と応用研究の間には「魔の川」、応用研究と製品化の間には「死の谷」、その製品で市場が育つまでの間には「ダーウィンの海」と呼ばれる障壁があります。組合の使命は、「魔の川」を渡り「死の谷」を越えてきた武器(技術)をもって、「ダーウィンの海」に挑み、財宝(市場)を探す勇猛果敢な海賊船のようなものかもしれません。人気漫画『ワンピース』にも描かれているように、航海を成功させるには、船に乗る仲間(組合員)を集め、仲間と助け合い、仲間との信頼関係を強化することが大切だと考えています。この船の初代船長(理事長)を任された私の身体は、残念ながら『ワンピース』の主人公、ルフィのようにゴムのようには伸びません(どちらかというと硬い)が、信頼する仲間と共に荒波を乗り越えて産学官連携による新産業創出を目指します。

写真:祝賀会であいさつする筆者(左)と、
理研和光研究所の第一食堂で開催された設立祝賀会風景(右)
■新世代塗布型電子デバイス技術研究組合 問合せ先
・理研連携推進部 イノベーション推進課
TEL:048-462-5475 FAX:048-462-4718
・埼玉大学 地域オープンイノベーションセンター
TEL:048-858-3849 FAX:048-858-9419


