エネルギー問題を解決する切り札と期待されている太陽電池。しかし、 現在一般に普及している太陽電池は、光のエネルギーを電力に換える 効率が十数%と、とても低い。その効率を理論上100%にした新しい 太陽電池をつくろうとしている研究者が、理研基幹研究所にいる。 交差相関超構造研究チームの中村優男 基幹研究所研究員(以下、研究員) だ。従来の太陽電池に、一定以上のエネルギーを持つ光の粒子(光子)が 1個当たると、マイナスの電荷を持つ電子とプラスの電荷を持つホール (正孔)が1対できる。それぞれを負極と正極に集めることで、電圧が生じて 電力が生まれる。しかし、高いエネルギーを持つ光子1個を当てたときにも 電子とホールは1対しかできない。そのとき光エネルギーの一部は熱となり 無駄になっている。中村研究員は、その無駄をなくし、光子のエネルギーに 応じて電子とホールの対がたくさんできる太陽電池をつくろうとしている。
「子どものころ、カマキリのつがいを飼っていました。生きた餌しか食べないので、バッタなどを捕まえて与えていたのですが、面倒になってしまいました。そこで本を参考に、かごを2段にして一方に果物を入れたところ、果物にハエが集まり、それを餌にカマキリが成長して卵を産ませることがでました。工夫したことが成功につながり自信になりましたね」。将来の夢は?「小学校の文集に、発明家になりたい、と書きました。エジソンの伝記を読み、人の役に立つ新しいものを生み出すことに憧れたのです」
やがて東京大学工学部に進んだ中村研究員は、光による物性測定が専門の宮野健次郎 教授の研究室へ進んだ。「たくさんの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団のことを、強相関電子系といいます。研究室が強相関電子系物質の薄膜をつくる装置を導入した時期で、その担当になりました。基板の上に原子を1層ずつ積み重ねて、自然界にない組成の薄膜をつくるのですが、最初は、簡単な薄膜をつくるのに4〜5ヶ月もかかりました。でも、失敗を繰り返しながらもコツコツと積み重ねることが、苦しいとは感じませんでした。新しい薄膜ができたとき、世界で自分しかつくれない、という喜びがあるからです」。今までつくった中で一番うれしかったものは?「博士課程のとき、何種類か取り組んでいた薄膜が、どれもうまくいきませんでした。そこで、どうせなら一発当てようと、不可能といわれていたとびきり難しい薄膜に挑戦しました。考えられる限りのことを試して、実際にその薄膜ができたときには体が震えました。学会で発表すると、“就職先は決まっているの?”と声を掛けてきた人がいました。それが今の所属チームを率いる川﨑雅司チームリーダー(TL)です」
中村研究員は川﨑TLのもとで、強相関電子系物質の薄膜をつくるとともに、その物性を光で計測する研究に取り組み始めた。「2007年に川﨑TL が理研に研究チームを立ち上げ、私は2008年に理研に来ました。それから、光測定と薄膜作製の両方の技術を生かして、新しい太陽電池をつくる研究に取り組み始めたのです。昨年、強相関電子系物質の薄膜でつくった素子に光子を当てると電子とホールの対ができること、つまり太陽電池として機能することを確かめました(図)。数年以内に、光子のエネルギーに応じて、たくさんの電子とホールの対ができることを実証したいと思います」
「小学校の文集には、楽器屋さんになりたい、とも書きました。音楽が好きで、子どものころピアノを習い、高校からはヴィオラを始めました。今も休日は市民オーケストラでヴィオラを弾いています」。今後の目標は?「強相関電子系だけでなく、いろいろな物質の薄膜に挑戦して、エネルギー問題の解決に貢献する新しいものを生み出していきたいですね」
(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)


