刊行物

原酒

Negative Selection

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写真1 国際免疫学会議の野外ステージ。ボーカルが筆者。ほかのメンバーは本文参照。この様子はYouTubeでNegative Selectionで検索可。

写真:国際免疫学会議の野外ステージ。ボーカルが筆者。ほかのメンバーは本文参照。この様子はYouTubeでNegative Selectionで検索可。

5月末に「原酒」原稿依頼のメールが来た。少し悩んだ後、引き受けることにした。しかし、特に趣味もないし、どうしよう。まあ、今は目前の仕事に集中して後で考えよう……。その後、「原酒」のことは頭の片隅で気にしつつも、国内学会や国際学会など諸事に追われているうちに担当者からリマインドメール。締め切りを10日ほど過ぎていた。金曜日だったので、「週末に何とか書きます」と即返信。こんな感じで特にこの2〜3年、私の日常は常に何かに追われている。

さて、「原酒」の内容はどうするか。そういえば、同じ理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)免疫発生研究チームの河本 宏チームリーダー(TL)が以前「原酒」に寄稿したことを思い出し、参考に読んでみた。河本さんは、私も参加しているロックバンド「Negative Selection」の名実ともにリーダーなので、バンドについて書いているかと思いきや、「サブカルチャーを侮るなかれ」というタイトルで芸術・文化論を展開していた(2009年12月号)。よし、じゃあ私がNegative Selectionについて紹介しちゃえ。“人の褌(ふんどし) ”の感も若干あるが、私もバンドの一員だからいいだろう。

生物学や政治にもNegative Selectionという用語があるようだが、免疫学においては、Tリンパ球の教育・成熟の場である胸腺(きょうせん) という臓器において、自己反応性(自らを攻撃することで自己免疫疾患などの原因となってしまう)Tリンパ球が細胞死により除去される現象を指す。バンドの命名者はもちろん河本さん。胸腺外という「社会」に出ることなく、生まれてすぐに胸腺といういわば「学校」の中で淘汰(とうた) されていく儚(はかな) さ、無常さが、ロックの世界観とマッチするということだと思うが、いかにも胸腺の研究を専門とする河本さんらしい。

バンド「Negative Selection」の最初の活動は、2005年8月末のリトリート(研究交流を深めるためのRCAI所属員による合宿形式の発表会)であった。高校時代からバンド活動をしていた河本さんや清野研一郎氏(現・北海道大学教授)が中心となり、バンドをやろうとなったらしい。ボーカルは経験者がいなかったので、河本さんが歌の好きそうなTLをカラオケに誘って品定めし、お眼鏡にかなった人に話を持ち掛けたようである。こうして、ギター・河本さん、ベース・清野さん、キーボード・黒崎まりさん(連携促進室)、ドラム・田代卓哉研究員(免疫制御研究グループ)に、ボーカルは石井保之TL(ワクチンデザイン研究チーム)、谷内一郎グループディレクター(免疫転写制御研究グループ)と私が務めた。

その後もRCAI、さらには理研横浜研究所主催の行事で折に触れ演奏させていただいたが、最大のイベントは2010年8月の国際免疫学会議のパーティーである。神戸港メリケンパークの野外ステージで、外国人を含む数百人を前に全7曲演奏した(写真)。メンバーは、理研からリードギター・河本さん、サイドギター・石戸 聡TL(感染免疫応答研究チーム)、ボーカル・大野、そしてベース・高浜洋介教授(徳島大学)、ドラム・北村俊夫教授(東京大学)、さらにキーボードは河本さんの幼稚園来の親友・大久保博志氏であった。河本さん、石戸さんともに単身赴任だが、それぞれ京都と大阪からご家族も来場し、私も家内と息子を千葉から呼んでの勇姿(?)であった。

歌謡曲しか知らなかった私が、河本さんの厳しい指導でロックの英語をそらで歌えるまでになったが、河本さんは京都大学教授、石戸さんは昭和薬科大学教授が本務となった今、Negative Selectionの活動がいつまで続くか。50歳を過ぎての英語の歌詞の暗記から開放されホッとするとともに、寂しくもある。