写真1(左):東京宝塚劇場
写真2(右):気分はタカラジェンヌ(筆者)

写真3:筆者近影
まだ就職売り手市場であった学生時代、勤務地が東京宝塚劇場のある有楽町駅を経由することを、職場選びの一つの条件にしました。それは子どものころから“ヅカファン”だった私にとって、帰りに劇場に立ち寄れるのが魅力的だったからです。そして、念願がかなって地下鉄有楽町線・和光市駅にある理研に就職しました。入所以来、放射線や遺伝子組換え実験などの管理や安全衛生に関する業務に携わっています。働く前はモノ相手の業務だと思っていたのですが、実際に働いてみるとほとんどが人相手の業務で、人付き合いの苦手な私には最初はストレスのたまるものでした。
宝塚観劇は、主役を演じるトップスターの背負う大きな羽や衣装に代表される華やかさ、現実離れした世界にどっぷりと浸ることができ、私にとってストレス解消にとても効果があります。しかし、魅力はそれだけではありません。ここで、現在に至るまで40年間も観劇を続けることになった魅力の一つを紹介します。
宝塚歌劇団は、阪急電鉄の創始者・小林一三(いちぞう)(1873〜1957年)が1913年に兵庫県宝塚市につくった劇団で、現在、約400名のタカラジェンヌが5組に分かれて公演をしています。毎年、18歳前後の約40名が入団する一方で、ほぼ同じ数の方が退団されます。そのほとんどが入団から5〜15年目です。退団理由は結婚や新たな道の模索などさまざまですが、一度退団したら二度と宝塚の舞台を踏むことはできません。
公演の千秋楽には、トップスターだけでなく、すべての退団者が一人ずつ舞台上であいさつするのが恒例となっています。いろいろな方のあいさつを聞くうちに、ある共通点に気付きました。実際には苦しいこと、つらいことがたくさんあったはずですが、今幸せであること、そして出演者、裏方のスタッフ、観客に育て支えられたことへの感謝です。入団後、トップスターになれるのは100分の1以下の確率です。トップスターへの夢が破れた多くのタカラジェンヌがどうしてそのような心境になれるのでしょう。きっと、自分なりの答えを見つけ、満足を得たからこそだと思います。実際、退団者の姿は輝いて美しいのです。
それぞれが見いだした答えに観客も拍手で応じ、劇場内全体が暖かい空気に包まれます。トップスターが必ずしも、ほかのタカラジェンヌより歌、ダンス、芝居、すべてにおいて勝っているとは限りません。一人一人の得意な部分を活かし、脇で支えるタカラジェンヌの存在も大きいのです。また、背や声の高さ、年齢もさまざまな人がいるからこそ、厚みのある作品に仕上がっている。そう感じるのは私ばかりではないはずです。こういう空間にいると、ちょっと大げさですが、「人生、答えはない。人それぞれでよいのだ」と感じ、その充実感を共有できます。舞台と客席の一体感、高揚感はその場にいるからこそ体感できるものです。
ここでは千秋楽の退団あいさつについて紹介しましたが、宝塚には新人公演や、座付(ざつき)の演出家兼脚本家、組長など、システムとしても面白いものがいろいろとあります。宝塚と理研、まったく違う世界のようですが、“人こそ財産”という点では共通だと思っています。宝塚観劇で感じたことを日々の業務に照らし合わせて考えてみると、ストレスがスーッと消える、そんな観劇メリットも活かしていきたいと思います。


