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カジメン  サイエンティスト宣言 佐藤 正晃  脳科学総合研究センター シナプス機能研究チーム 研究員

佐藤 正晃

筆者近影

私は2009年の春、それまで研究していた米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校から日本に戻って以来、埼玉県和光市にある理研脳科学総合研究センターの研究員として働いています。もともと埼玉で生まれ、高校を卒業するまで埼玉で過ごしました。京都の大学に進学するために初めて親元を離れたときには、自分が理研で脳の研究者として働くことになるなど考えたこともありませんでした。人生とは不思議なものです。

現在、私が行っているのは、行動中の動物の脳の神経回路の活動を「二光子レーザー顕微鏡」で観察する研究です。一般に、生物体の構造や機能を光学的に画像化する研究手法を「イメージング」と呼びますが、「百聞は一見に如(し)かず」ということわざにもあるように、生物学の疑問の中には「見る」ことで解決するものは意外に多いのです。また、このように「一見」することで得られた成果は、さらに多くの科学的疑問を生み出し、後続の研究の発展を刺激することが多いため、イメージングは現代の生物学において強力な研究手法となっています。

二光子レーザー顕微鏡の特徴を簡単に説明すると、“生きた脳の深いところにある神経細胞を、細胞から出ている突起の枝の細かな部分まで鮮明に観察することができる”ということです。顕微鏡の焦点を脳の奥深くへと進めながら、蛍光で光る神経細胞を見つけたときの興奮を研究以外の経験で例えるならば、沖縄の海で初めてシュノーケリングをしたとき、青い水面の下に、海面からは想像もできないほどの色とりどりの魚たちをたくさん見つけたときの驚きに似ています。事物を表面的にではなく注意深く見ることの大切さについて、作家の大江健三郎氏は、四国での少年時代の記憶を綴(つづ)った書籍『私という小説家の作り方』の中で次のように回想しています。学校の理科の短編映画で、風もないのに絶えず小きざみに揺れる桜の小枝を見たとき以来、<自分が自然のなかの事物の細部をまともに観察してはいなかったことに、私は驚きをこめて気づくことを繰り返した。私はこれまで自分を取り囲んでいるこれだけの樹木や草を、じつは見ていなかった!>。イメージングの面白さとは、まさにそのような自然の細部を克明に描き出すことによって、私たちの既成概念をひっくり返すような像(イメージ)が得られるところにあると思います。

さて、そんな私が最近、研究の他に大きな関心をもっていることは、夏に生まれる予定の私たち夫婦の初めての子どものことです。理研では、さまざまな男女共同参画や子育て支援の取り組みが行われていますが、妊娠中の妻のつわりがひどく、仕事を休んで家で安静にしなければならない日などには、私が出勤前と帰宅後に家事の大部分を担当することもあります。料理(=手順に従い、材料を計って混ぜて加熱する作業)や食事の後の食器洗いなどの家事には、実験とその後片付けに共通する要素も多い(?)ので、男性科学者は、家庭では意外と良い「主夫」になる素質をもっているのかもしれません。また夫として、大きくなった妻のお腹の胎動を感じたり、妊婦検診の経腹(けいふく)エコー検査に立ち合って、母の胎内で手足を伸ばして元気に動きまわる赤ちゃんの姿を画面で見るのは(これは素晴らしいイメージング技術です!)、生命の神秘を感じることのできる、かけがえのない経験です。私たちは、この子が無事にこの世に生まれてきてくれることを願っています。そして、この子が母の胎内にいる間、私たちの国が経験した未曾有の大震災のことも、いつか大きくなったら話してあげたいと思っています。

※カジメン:かっこいい男子の意味で使われる「イケメン」をもじり、家事を積極的に楽しむ男性を指す造語。

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