刊行物

研究最前線

世界最高水準の深紫外発光ダイオードを開発殺菌、公害物質の分解処理など広範囲の応用に向けて前進

省エネルギーで長寿命、そして小型な光源として知られる発光ダイオード(LED)。
LEDには赤外線、可視光線、紫外線などの光を発するものがあるが、特に220〜350ナノメートル(1nm=10億分の1m)と波長が短い深紫外(しんしがい)領域の光は殺菌能力が高いことから医療分野での用途や、ダイオキシンなどの公害物質の高速分解処理への用途など、さまざまな応用が期待されている。しかし、現状では深紫外光を発するための光源が大型・短寿命・高価なため、普及があまり進んでいない。
深紫外LEDの熾烈な開発競争が繰り広げられる中で、実用化に向け大きな成果を次々と発表しているのが、テラヘルツ量子素子研究チームチームの平山秀樹チームリーダーだ

タイトル図:AIGaN深紫外発行LED

タイトル図:AIGaN深紫外発行LED

平山秀樹

技術開発はやり始めると面白くてやめられません。目指すのはもちろん世界一です。 平山秀樹 基幹研究所 テラヘルツ量子素子研究チーム チームリーダーイノベーション推進センター 深紫外LED研究チーム副チームリーダー

ひらやま・ひでき。1966年、茨城県生まれ。工学博士。東京工業大学 大学院電子物理工学専攻博士課程修了。94年に半導体工学研究室 研究員として理化学研究所に入所、石橋極微デバイス工学研究室 先任研究員を経て、2005年より現職。埼玉大学連携教授兼務。05年に文部 科学大臣表彰若手科学者賞、10年に第24回日本IBM科学賞(エレクトロニクス分野)、11年に第43回市村学術賞 功績賞を受賞。

市場規模数千億円の深紫外LED

省エネルギーで長寿命、そして小型・軽量化を可能とする光源“発光ダイオード(LED)”。その基本構造は、マイナスの電荷を持つ“電子”が多いn型半導体と、プラスの電荷を持つ“正孔(せいこう)”(ホール)が多いp型半導体を接合したものだ(図1)。このn型側に負電圧を、p型側に正電圧をかけると、電子とホールが移動し電流が流れる。そして、発光領域で両者がぶつかって結合すると、電子とホールがもともと持っていたエネルギーを失い、そのときに生じる余分なエネルギーが光エネルギーとなり発光する。

図1:深紫外発光ダイオード(LED)の基本構造

図1:深紫外発光ダイオード(LED)の基本構造
LEDは、電子が多いn型半導体と、ホールが多いp型半導体を接合した構造をしている。このLEDのn型側に負電圧、p型側に正電圧をかけると、電子とホールが移動し電流が流れる。移動の途中で電子とホールがぶつかって結合すると、電子とホールがもともと持っていたエネルギーを失い、そのときに生じる余分なエネルギーが光エネルギーとなり発光する。

この原理が発見されてから50年ほどが経過し、近年は、青色や緑色など、さまざまな波長の光を発するLEDが開発されている。しかし、まだフロンティア領域の波長が残っている。それが、波長220〜350nmの深紫外線だ。深紫外線を発光させるには現在、紫外レーザーやガスランプなどを使う方法があるが、発光が弱い上に、光源が大型で寿命も短く、しかも高価で実用的ではない。そのため、深紫外を発光するLEDの実用化が強く望まれている。

なぜ、深紫外LEDが望まれているのか。「それは、応用範囲が広いからです。例えば、波長270nmの深紫外線は、医療現場はもちろん、一般家庭の冷蔵庫や空気清浄機などの小型殺菌灯に使えます。波長250nm以下の深紫外線は、現状の光ディスクの3〜4倍の容量を実現する高密度光記録レーザーに利用できます。1枚のディスクに高画質の映画が3〜4本分記録できるイメージです。また、波長270〜320nmならダイオキシンなど分解が難しい公害物質の処理に、波長340nmなら蛍光灯に代わる高輝度白色光に利用できます。深紫外LEDの市場規模は、殺菌関連だけでも年間数千億円と試算されています」と平山秀樹チームリーダー(TL)。

外部量子効率を2ケタ改善

「LEDは発光する半導体素子なので、材料によって発光する光の波長が変わります。深紫外LEDの材料として、最適とされているのは窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)です。このAlGaNは、窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)を混ぜ合わせた結晶で、その中のアルミニウムとガリウムの組成比を変化させることで深紫外線を含む波長200〜360nmの広い領域で発光させることができます。また、高硬度かつ長寿命、p型n型両方に対応可能、さらにはヒ素・鉛・水銀を含まないため環境に無害といった、たくさんのメリットがあります。私も1997年からAlGaNを使った深紫外LEDの研究開発に取り組んできました」。当時、AlGaNで開発された深紫外LEDの出力はわずか20マイクロワット(1μW=100万分の1W)と低く、かろうじて発光する程度だった。

「そのAlGaN深紫外LEDの“外部量子効率”は約0.01%程度で、実用化には程遠かったのです。この効率を上げることが、エネルギーの高い光を発光することにつながります。外部量子効率とは投入する電気エネルギーのうち、外部に取り出せる光エネルギーの割合のことで、LEDの発光効率の尺度として使われます。外部量子効率は、“電子注入効率”“内部量子効率”“光取り出し効率”、この三つの掛け算で導きます」。電子注入効率は、全電子のうち発光層に注入された電子の割合を、内部量子効率は、発光層に注入された電子のうちホールと結合して光エネルギーを発した電子の割合を示す。そして、光取り出し効率は発光層で発した光エネルギーのうちLEDの外部に取り出せた光エネルギーの割合を示す。

図2:2007年以降の主な成果

図2:2007年以降の主な成果

「先ほどの外部量子効率、約0.01%は、電子注入効率(20%程度≒0.2)×内部量子効率(1%以下<0.01)×光取り出し効率(8%程度≒0.08)から求めた数字です。私たちが2010年に開発したAlGaN深紫外LEDの電子注入効率は最大80%、内部量子効率は50%、光取り出し効率は8%です。外部量子効率は約3%にまで達しています」(図2)。0.01%から3%、どのようにして2ケタの改善に成功したのか、詳しく見ていこう。

新しい結晶成長法で内部量子効率を50〜80%に

まず、実際のAlGaN深紫外LEDの構造を紹介しよう。「半導体素子は一般に、高品質な基板結晶表面に数nm〜数μmの性質の異なる半導体層を何層か積み重ねることによって、さまざまな機能を実現します。AlGaN深紫外LEDも(タイトル図)のように多層構造をしており、サファイア基板上にガス化した材料を噴きつけ熱分解させて結晶化(気相成長)させていき、順に“バッファー層”“n型半導体層”“発光層”“p型半導体層”“コンタクト層”をつくります」

なぜ、AlGaN深紫外LEDの内部量子効率が低いのか。その理由の一つが、AlGaN結晶の品質だ。高品質な結晶は、①貫通転位(結晶成長時に生じる原子配列のずれが結晶表面にまで達したもの)の密度が低く、②クラック(ひび割れ)が無く、また、③結晶表面の平坦性が原子1層レベルに維持される。一方、①〜③の条件が満たされない低品質の結晶では、発光せずに電子とホールが結合してしまう割合(非発光再結合)が増え、内部量子効率が著しく低下してしまう。

「それは、サファイアとAlGaNの結晶格子間隔の違いに問題があります。両者の格子間隔が異なるため、両者を重ね合わせようとしても、原子同士がうまく重ならないのです。その状態のままサファイア基板上でAlGaNを結晶成長させていくと、貫通転位密度が大きくなったり、クラックが生じやすく、低品質な結晶しかできません。そこでAlNバッファー層を介在させて格子間隔の違いを緩和させるのですが、それでも十分な品質が得られません。私たちは2007年、新たに“アンモニアパルス供給多層成長法”を考案し、その問題を解決しました」と平山TL。アンモニアパルス供給多層成長法は、高品質な結晶を成長させられる画期的な方法だ。

図3が、その原理を説明したものです。従来はサファイア基板の上にAlNバッファー層をつくるとき、アルミニウムガスとアンモニアガスを同時に連続供給してAlNを結晶成長させていました。私たちが開発した手法では、従来の同時に連続供給する“連続供給縦高速成長法”と、アルミニウムガスは連続供給するがアンモニアガスをパルス供給する“パルス供給横エンハンス成長法”、この二つを交互に組み合わせて使います」

まず、サファイア基板上に高品質なAlN結晶の核をつくる(図3①)。次に、パルス供給横エンハンス成長法によって結晶を横方向に成長させ、核のすき間を埋めていく(図3②)。この過程で第一の条件である貫通転位密度を大幅に低くすることができる。次に、連続供給縦高速成長法によって結晶を縦方向に高速成長させる(図3③)。この過程で第二、第三の条件である原子1層レベルでの平坦性の維持とクラックの防止を実現する。以後も、パルス供給横エンハンス成長法と連続供給縦高速成長法を交互に繰り返し、結晶を成長させていく(図3④)。

「アンモニアパルス供給多層成長法によって、AlNバッファー層の貫通転位密度を従来の80分の1にまで低減できました。その上にn型半導体層、発光層など各層を形成したところ、260nmの波長の光を2mW程度の強さで出力できました。内部量子効率は従来の50倍も強くなりました」

さらに平山TLらは、電子を閉じ込める“量子井戸”効果を持つ極めて薄い層を発光層の中に3層導入し、電子とホールの両方を閉じ込めて両者を結合しやすくしている(タイトル図)。翌2008年には、AlGaNにインジウム(In)を加えることでさらに内部量子効率を向上させ、またp型半導体層のホール濃度の向上にも成功、殺菌や公害物質処理に欠かせない波長280nm帯のInAlGaN深紫外LEDを開発した。そのLEDでは内部量子効率80%、出力10mWを実現した。これらの成果により、1%以下だった内部量子効率は50〜80%になった。


図3:アンモニアパルス供給多層成長法によるAlNバッファー層の高品質化
①サファイア基板上に高品質なAlN結晶の核をつくる。②パルス供給横エンハンス成長法によって横方向に結晶を成長させ、核のすき間を埋めていく。③連続供給縦高速成長法によって結晶を縦方向に高速成長させる。④パルス供給横エンハンス成長法と連続供給縦高速成長法を交互に繰り返し、多層構造の結晶を成長させていく。これによりAlNバッファー層における貫通転位密度は低く、クラックは少なくなり、表面の平坦性が原子1層レベルに維持される。

図3:アンモニアパルス供給多層成長法による AlNバッファー層の高品質化

多重量子障壁で電子注入効率を80%に

次に、平山TLらは電子をブロックする“多重量子障壁(MQB:Multiquantum Barrier)”をAlGaN深紫外LEDに世界で初めて導入(タイトル図)。そして2010年、電子注入効率を80%以上と飛躍的に向上させ、波長250nmの光を15mWという高出力で出すことに成功した。

「電子注入効率が低かったのは、発光層に注入された電子がp型半導体層へすり抜けてしまう割合が高かったからです。本来、発光層に注入された電子は、プラスの電荷を持つホールと結合して発光するはず。すり抜けてしまっては、注入した電子がもったいないですよね。そこで、私たちは電子をブロックするMQBを、p型半導体層に導入しました。MQBに入ってきた電子を反射し、再び発光層に戻してやるのです」。

平山TLらは最初、1層のシングルバリアを試した。シングルバリアの場合、電子の持つエネルギーがバリアのエネルギーより低いものは反射されて発光層に戻るが、高いものは反射されずp型半導体層へすり抜けてしまう。「そこで、MQBによってバリアを多重にしてみました。すると、量子力学的な電子の多重反射効果によって、電子のエネルギーがバリアのエネルギーより高いものまで反射され、発光層に戻ったのです」。透過型電子顕微鏡でMQBを見てみると、6層になっており、層の厚さが発光層側ほど厚く、p型半導体層側ほど薄くなっているのがわかる(タイトル図)。MQBに入ってきた電子のうち、MQBよりもエネルギーの低いものは厚い一層目で反射される。それよりエネルギーの高い電子は一層目をすり抜けるが、二層目以降で反射される。「MQBの電子ブロックの高さは、最大でシングルバリアの2倍程度まで増やせます」

MQB導入の結果、電子注入効率は、20%以下から80%以上へ飛躍的に向上。外部量子効率は0.4%から1.5%に改善された。出力は室温連続動作において15mWを達成している。いずれも現時点で世界最高値である。

「MQBのすごいところは電流をたくさん流しても、電子を反射して発光層へと戻すバリア効果が弱まらないということ。つまり、電流の量が増えても、効率は落ちないのです。これは半導体素子の実用化において大切な要素です」。このMQBの理論は深紫外以外のLEDにも応用できる。青色LEDでは電流の量が多くなると、出力が下がることが課題になっていた。MQBを導入すれば大電流でも出力を維持できるので、出力確保が必要な電灯用LEDなどに応用できる可能性がある。MQBは既存のLED製造装置でもつくれるのも特徴だ。

光取り出し効率70%を目指す

内部量子効率は製造プロセスの見直しなどによって向上し、電子注入効率はMQBの導入によって改善された。残るは、光取り出し効率だ。問題は、発光層で発した光のうち、発光層の真下に進む光しか取り出せないこと。それ以外の層に散乱した光が無駄になっている。そのため、光取り出し効率は最大でも8%に過ぎなかった。

「散乱光の多くはp型半導体層の上にある“コンタクト層”で吸収されるので、この層を薄くしました。また、p電極を反射率20%程度のニッケル金電極から反射率80%以上のアルミニウム系電極に置き換える方法や、サファイア基板にフォトニック結晶を形成して光取り出しを多くする方法なども検討中です。光取り出し効率は現在8〜15%ですが、これらの手法を複合的に導入すれば40%までは実現できそうです」と平山TL。さらに、p型半導体層に導入する新しい光取り出し構造の研究も進めていて、これが成功すれば効率70%も夢ではない。

「現在、外部量子効率3.8%、出力30mWというレベルにまで到達できました。ただ、青色LEDの外部量子効率は80%以上です。電子注入効率、内部量子効率、光取り出し効率、それぞれの効率が90%以上にならないと、外部量子効率は80%を超えません。深紫外LEDもこのレベルに近づけたいと思っています。残された課題は、光取り出し効率の改善。一刻も早く当面の目標である70%にして、幅広い分野での実用化を実現させたいですね」

最短波長でも最長波長でも世界一を

平山TLは最短波長の深紫外光と並行して、テラヘルツ光(波長3mm〜30μm)も研究している。テラヘルツ光は電波(透過性)と光(集光分解能)の二つの性質を持つので、さまざまなものを透視して内部をチェックするような応用が可能だ。深紫外とテラヘルツは波長がちょうど1000倍違うが、どちらも世界トップの性能を目指すことは同じだ。「技術開発はやり始めるとおもしろくてやめられません」と語る平山TLの目は常に世界を見つめている。

このページの上にもどる