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琥珀に秘められた生体機能調節活性 ヤマノビューティメイトとの共同研究で明らかになった二つの効果

共同研究を行っている(株)ヤマノビューティメイトの五十嵐則 夫 常務執行役員、佐藤希美 委託研究員と、理研基幹研究所ケミカルバイオロジー研究領域 ケミカルゲノミクス研究

共同研究を行っている(株)ヤマノビューティメイトの五十嵐則夫 常務執行役員、佐藤希美 委託研究員と、理研基幹研究所ケミカルバイオロジー研究領域 ケミカルゲノミクス研究グループ 分子リガンド生物研究チームの小嶋聡一チームリーダー(中央)。

今から数百万〜数千万年前の針葉樹の樹液が化石化してできた「琥珀(こはく)(図1左)
17世紀頃のロシアやヨーロッパでは、宝飾品に使われるほど美しい琥珀が、医療や美容に使われていたという。
この琥珀の美容効果に着目した(株)ヤマノビューティメイトは2004年、理研中央研究所 分子細胞病態学研究ユニットの小嶋聡一ユニットリーダー(現理研基幹研究所 分子リガンド生物研究チーム)と共同で、琥珀の生体機能調節活性に迫る基礎研究を開始。これまでに、琥珀には皮膚のターンオーバーの促進、ヒアルロン酸の産生促進という二つの活性があることが明らかになった。
この共同研究の詳細について、小嶋チームリーダーと(株)ヤマノビューティメイトの五十嵐則夫 常務執行役員、佐藤希美 委託研究員に聞いた。

図1:琥珀(左)と2009年1月に販売された「コハクセンチュリー」(右)

図1:琥珀(左)と2009年1月に販売された「コハクセンチュリー」(右)

写真提供:(株)ヤマノビューティメイト

琥珀を使った化粧品

――初めにヤマノビューティメイトについて教えてください。

五十嵐:日本の美容界のパイオニアである山野愛子を創始者とするヤマノグループの中核的企業で、化粧品の製造・販売、エステティシャンの教育、人材派遣などを行っています。「美容を通して人を幸せにする」、これが私たちの理念です。

――なぜ琥珀を美容に使おうとしたのですか。

五十嵐:私たちは、日本で初めて泥の美容効果に着目し、以来30年以上にわたって「どろんこ美容」を推進してきました。しかし、他社から似たような商品が出てきたため、他に主力となる商品を探していたのです。そんな折、ロシアから琥珀を輸入販売している会社から、琥珀の宝飾品を販売しないかという誘いがありました。ただ、宝飾品の販売は私たちの事業ではありません。そこで、山野幹夫社長が琥珀を化粧品に入れるという発想を思いついたのです。さっそく文献などで調べたところ、17世紀頃のロシアやヨーロッパでは、琥珀が医療や美容に使われていたことがわかりました。琥珀が美容に良いことがわかったので、ロシア産の琥珀をパウダー状にして配合した化粧水やクリームを商品開発し、2002年12月から販売を開始しました。

当時、社内では琥珀の美容効果を科学的に検証した上で独自の技術を確立してはどうかという意見もありました。しかし残念ながら、当社の研究所は商品開発が中心で、基礎研究はあまり行っていません。そこで、基礎研究を得意とする研究機関との共同研究の道を探ることにしました。そして、当社の会長の知り合いの方から理研の泉名英樹 実用化コーディネーターをご紹介いただきました。それをきっかけに先端技術開発支援センター(当時)の故岩木正哉センター長からの推薦もあり、小嶋先生と共同研究を始めることになったのです。

――理研では当時、どのような研究を進めていたのですか。

小嶋:このお話をいただいた2004年は、分子細胞病態学研究ユニットという研究室を立ち上げて間もない頃で、主にビタミンAが生体に与える影響について調べていました。ビタミンAの刺激によって、「TGF-β(トランスフォーミング増殖因子)」というタンパク質の産生や活性化が促進されます。そのメカニズムを分子レベルで解明しようとしていたのです。現在行っている化学物質を駆使して生物学に挑む「ケミカルバイオロジー研究」のさきがけです。

特に注目していたのは、肝臓と皮膚におけるビタミンAの影響です。肝臓ではビタミンAの刺激によりTGF-βが活性化し、それに伴い肝星(かんほし)細胞が活性化されます。すると線維タンパク質を異常産生するようになり、最悪の場合、肝硬変になってしまいます。一方、皮膚ではコラーゲンがたくさんつくられるようになるという良い効果があります。コラーゲンが増えることで、シワ伸ばし効果があることもわかりました。こうした研究がヤマノビューティメイトの狙いと近かったので、共同研究の話を引き受けたのです。

――ビタミンAと琥珀には何か共通点があったのでしょうか。

小嶋:琥珀は、針葉樹の樹液が化石化したものなので、主成分は天然化合物のテルペノイドなどです。共同研究を始める前、そのテルペノイドがビタミンAの受容体の仲間(核内受容体)のリガンドの一つであることがわかりました。リガンドとは、特定の受容体に特異的に結合する物質です。そして、ビタミンAに皮膚のシワ伸ばし効果があるなら、その仲間であるテルペノイドを含む琥珀にも同様の効果があるという仮説を立て、それを実証する研究から始めました。残念ながらこの仮説は立証できませんでしたが、琥珀に関していろいろなことがわかってきました。

皮膚のターンオーバーや潤いを促進

――具体的にはどんな研究をしたのですか。

小嶋:当時、ヤマノビューティメイトで使われていたのは琥珀の粒子です。しかし、研究をする上で粒子のままでは扱いにくい。そこで、最初に検討したのが琥珀の成分を細胞に行きわたらせる方法でした。琥珀粒子を詰めたティーバッグ状のフィルターを細胞の培養液の中に漬け込む「ティーバッグ法」、琥珀粒子から抽出液をつくってそれを細胞に与える「煮出し法」など、さまざまな方法を検討しました。その結果、細胞での変化が顕著だった煮出し法を使うことにしました。

煮出した琥珀抽出液を使ってみて最初にわかったことは、琥珀には皮膚の「ターンオーバー」、つまり新陳代謝を早める効果があることです(図2)。皮膚は、外側から表皮、真皮、皮下組織の三つに分けられます。表皮では、新しい細胞が古い細胞を表面に押し上げるようにして常にターンオーバーを繰り返しています。通常、ターンオーバーは2〜4週間くらいのサイクルで起こります。その進行スピードは体の場所や年齢によって異なり、生まれたての赤ちゃんほど速く、歳をとるにつれて遅くなります。

図2:皮膚の構造とコハクエキスによるシミの消失

図2:皮膚の構造とコハクエキスによるシミの消失
表皮では、基底層にあるメラニン細胞によってメラニン色素がつくられ、隣接する表皮角化細胞へと受け渡される。その際、コハクエキス(琥珀抽出液)がHB-EGFというタンパク質の産生を促進することでターンオーバーの進行が速まり、メラニン色素を含む表皮角化細胞がより早く表面に押し上げられる。その結果、シミの消失も速めることになる。

――どうしてターンオーバーが速まるのですか。

小嶋:皮膚のターンオーバーにはHB-EGFというタンパク質が関わっていて、これが増えるとターンオーバーの進行が速くなります。実験で、人工的にシミをつくったマウスの皮膚に琥珀抽出液と、溶媒であるエタノールを塗って比較してみたところ、琥珀抽出液を塗ったシミのほうがかなり早く消えました(図2右)。詳しく調べた結果、表皮角化細胞でHB-EGFの産生が遺伝子レベルで促進されていることがわかりました。

――他にわかったことはありますか。

小嶋:ヒアルロン酸の産生を促進させる効果があることです。ヒアルロン酸は水分をどんどん吸い込む力があり、皮膚をはじめ、生体において重要な保湿成分です。皮膚では、表皮角化細胞と真皮線維芽細胞でつくられたヒアルロン酸が、表皮や真皮の細胞と細胞の間に存在し、潤いを保つ役割を果たしています。しかし、ヒアルロン酸も加齢とともに減少し、皮膚の潤いが失われてしまいます。加齢によりヒアルロン酸が減少してしまうのは、年齢とともにヒアルロン酸が壊れやすくなると同時に合成能が落ちるからです。

――琥珀によりヒアルロン酸が増えるのはなぜですか。

佐藤:実験では、合成されたヒアルロン酸が茶色に染まるようにして、細胞のまわりに分泌される様子を目視できるようにしました。実際に、琥珀抽出液をマウスの皮膚に塗ったところは、ヒアルロン酸が増え、茶色に染まる様子をはっきりと確認することができました。そのメカニズムを調べたところ、琥珀抽出液がヒアルロン酸の産生を促進する酵素「HAS3」の産生を遺伝子レベルで促進することがわかりました。

ジーンチップで遺伝子発現を解析

――ヤマノビューティメイトの研究員はどのような形で共同研究に携わっているのですか。

五十嵐:研究員を小嶋先生の研究室に派遣し、研究に没頭させてもらっています。ここにいる佐藤研究員で4人目です。4人の研究員たちは実際に自分たちの手を動かし、データ解析や論文をまとめるなど、当社ではできない基礎研究に携わり、いい経験になっていると思います。

佐藤:理研に来た当時はわからないことばかりでしたが、小嶋先生や研究員の皆さんにいろいろご指導いただきました。企業の研究所ではあまりやらないような高度なデータ解析もやらせていただいています。会社員としては五十嵐が上司なのですが、今の私にとっては小嶋先生が本当の上司に思えてしまいます(笑)。

――こうした研究成果はその後どのように活かされましたか。

佐藤:理研での基礎研究の成果を元に、化粧品にするための処方開発を当社の研究所で行い、2009年1月に「コハクセンチュリー」(図1右)という美容液を販売しました。その際に名称登録した「コハクエキス」こそ、共同研究によってできた琥珀抽出液です。実際にエビデンスデータがあるので、お客様にもご好評いただいています。現在、コハクエキスを使った各種化粧品は当社の主力商品の一つになっており、今年2月に第二弾として泥と琥珀を合わせた「ヤマノ肌 美道 スキンケアシリーズ」を発売しました。

――今も研究を継続されていますね。

小嶋:今まではターンオーバーの促進、ヒアルロン酸の産生促進と、想定しうる効果に対して一つひとつ検証する方法でしたが、琥珀の可能性から考えれば皮膚の細胞で発現している遺伝子を網羅的に解析したほうが効率良い。そこで、2008年からジーンチップ解析という方法を用いることにしました。このチップを使うと、琥珀抽出液をかけた皮膚細胞で発現しているすべての遺伝子を解析することができます。同時に琥珀抽出液をつくる方法についても改めて研究を始めました。

五十嵐:ジーンチップ解析によって、発現量が増えている遺伝子とか、逆に減っている遺伝子がいくつかわかってきています。次の商品開発につながるものとして期待しています。こういった研究は一企業で行うには手法はもちろん、装置的にも限界があります。理研との共同研究だからこそできる研究ですね。

――共同研究で得られたのはどのようなことでしょうか。

佐藤:一つの材料でいくつもの効果が見られるということは、一般的にそう多くはありません。琥珀にはターンオーバーの促進とヒアルロン酸の産生促進以外にも、肌にとって有効な生体機能調節活性がいくつも見つかりそうです。そんな琥珀の魅力がわかったことが最大の成果です。また、理研では血管や肝臓など、皮膚以外を専門とする先生も多く、さまざまな面から勉強させていただいております。

五十嵐:化粧品メーカーだけでは踏み込めなかった基礎研究により、琥珀がもつ生体機能調節活性、美容効果のメカニズムが明らかになったことが一番です。また、4人の研究者が理研で勉強させてもらうことで、新しい研究ノウハウを身につけることができました。おかげさまで、私たちが独力で研究できる範囲も広がりました。その点も大きいですね。

小嶋:生物系の基礎研究において、医薬品など世の中に役立つ製品に結びつけようとすると、通常は実用化まで大変な労力と時間、そして費用がかかります。その点、化粧品は短期間に実用化できるというよさがある。ヤマノビューティメイトはいち早く化粧品にするために、基礎研究と並行して処方開発をしています。実際、コハクエキスに関しては2007年4月に特許を出願して、2009年1月には商品化されました。

今回の共同研究でお互いにいい刺激を受け、いい形で共同研究を進めることができています。また、夢を与えるような仕事なので、私も楽しみながら研究に打ち込んでいます。
(取材・構成/牛島美笛)

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