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血液細胞分化の新モデルを提唱
教科書を書き換える大発見 河本 宏 |
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英国の科学雑誌『Nature』のNews & Views欄に 「教科書の書き換えを迫る成果」として、 免疫・アレルギー科学総合研究センターの 河本 宏チームリーダーの論文が紹介された。 「これまで、免疫機能で重要な役割を果たしている Tリンパ球とBリンパ球は、共通の前駆細胞からつくられる兄弟だと 考えられていました。しかし私たちは、Tリンパ球と共通の 前駆細胞からつくられるのはBリンパ球ではなく、 食細胞の一種であるマクロファージであることを明らかにし、 血液細胞の新しい分化経路図を提唱しました。 従来の説を覆す研究成果を日本から発信できたことが、 とてもうれしいですね」と河本チームリーダーは顔をほころばせた。 この成果は、白血病やがんの新たな治療法の 確立にもつながると期待されている。 |
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血液系の細胞たち
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「子どものころからマンガを読んだり描いたりするのが大好きで、大学院生のときにはコミック誌『ビッグコミックスピリッツ』のコンテストに応募して奨励賞を頂きました。最近は、免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)主催のイベントのポスターを描いたりしています」と語る河本 宏チームリーダー(TL)。記事冒頭のイラストは、血液系のさまざまな細胞が造血幹細胞からつくられる過程を描いた河本TLの作品だ。造血幹細胞は骨髄でつくられ、前駆細胞へと分化していく。前駆細胞の一部は骨髄で赤血球やBリンパ球、食細胞へと分化し、ほかは胸腺に運ばれてTリンパ球や食細胞へと分化する。「それぞれの細胞がどのように分かれてできてくるのかを示した“分化経路図”は、生物学においてとても重要な基本情報です。しかし、血液細胞は、詳細な分化経路図がないまま研究されてきました」と、河本TLは問題点を指摘する。「血液細胞の分化経路図を明らかにすることが、私たちの研究の主題です」 ここで、血液細胞の分化経路図の主な登場人物たちを紹介しよう。血液系の細胞は、赤血球・血小板系列と白血球に分けられる(図1)。白血球には、食細胞系列とリンパ球系列がある。白血球は免疫機構を担い、分業して病原体などの異物を排除する。食細胞は病原体を取り込んで消化し、キラーTリンパ球は病原体に感染した細胞を殺す。Bリンパ球は、ヘルパーTリンパ球からの指令を受けて抗体をつくり、病原体を攻撃する。「私のこのイラスト(図1)は、Bリンパ球の研究者には不評なんです(笑)。抗体はつばみたいに汚いものではないだろう、と言われてしまって。でも、分かりやすさも重要ですよね」 ![]() |
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Tリンパ球とBリンパ球は兄弟か
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「医学や生物学の教科書には、血液細胞の分化モデルとしてこの図が載っています」と河本TLが示したのが、図2上だ。造血幹細胞はまず食細胞─赤血球系共通前駆細胞とリンパ系共通前駆細胞に分かれ、前者から食細胞と赤血球、後者からBリンパ球とTリンパ球に分化する。「このモデルは30年ほど前から使われていますが、実験データに基づいたものではありません。“Bリンパ球とTリンパ球は形や働きが似ているから近縁に違いない”という、思い込みからつくられたモデルなのです」Bリンパ球とTリンパ球は形状が似ているだけでなく、どちらも特定の抗原だけに反応できる“抗原特異性”を持つ。“遺伝子再構成”という仕組みで多様な抗原に結合できる受容体をつくる点も同じだ。しかし、河本TLはこう指摘する。「ネコとトラのように、見た目が似ていれば近縁だという類推は、多くの場合正しい。しかし、モモンガとフクロモモンガのように、外見は似ていても遠縁の場合があります。思い込みにとらわれずに分化過程を見極めなければいけません」 河本TLは1994年、京都大学胸部疾患研究所(現 再生医科学研究所)の桂 義元教授の研究室で、血液細胞の分化過程を明らかにする研究に着手した。そして1997年、桂教授とともに、MLP(Multilineage Progenitor)アッセイという解析法を開発。これは血液系の前駆細胞を1個ずつ培養して、Tリンパ球、Bリンパ球、食細胞への分化能を調べることができる画期的な方法だ。胸腺組織とともに、さまざまなサイトカイン(細胞から分泌され情報伝達を行うタンパク質)を加えて培養する。分化した細胞の種類はフローサイトメーターという装置で調べる。 その結果を見た河本TLと桂教授は驚いた。「これはただ事ではない」と。「思い込みにとらわれないようにと心掛けていたとはいえ、従来のモデル通りになると思っていました。ところが、Tリンパ球と食細胞、Bリンパ球と食細胞へ分化する前駆細胞はあったが、Tリンパ球とBリンパ球へ分化する前駆細胞はなかったのです」。そこで河本TLは桂教授とともに検証、考察を重ね、血液細胞の新しい分化モデルを提唱した(図2下)。「赤血球、Bリンパ球、Tリンパ球のそれぞれに分化する直前まで、食細胞(ミエロイド細胞)に分化する能力も持っているという“ミエロイド基本型モデル”です。“分化はミエロイド系を土台としながら進む”という新しい概念に基づいています」 1997年、ミエロイド基本型モデルを支持する最初の知見を科学雑誌『International Immunology』に発表。ところがその少し後に、血液学の大御所、米国スタンフォード大学のアービング・ワイスマン教授のグループが、“マウス成体の骨髄にTリンパ球とBリンパ球の共通前駆細胞を見つけた”と、従来の分化モデルを支持する結果を『Cell』に発表した。一方で、河本TLたちの新しい分化モデルを支持する研究者もいた。しかし、河本TLがマウスの胎児から採取した前駆細胞を用いていたことから、“新しいモデルは胎児でのみ当てはまる”という限定で、主流は従来の分化モデルのままだった。 だが、河本TLに迷いはなかった。「胸腺でつくられるTリンパ球以外の血液細胞は、成体では骨髄で、胎児では肝臓でつくられるという違いはあります。しかし、細胞の分化プロセスは長い進化の過程で獲得されたものですから、胎児と成体で異なるはずがありません」。また、こうも語る。「論争的なサイエンスをしたがらない人も多いですが、論争相手がいるサイエンスは緊張感があって、いいものです。たとえ相手が大御所であっても、正しいと思うことは正しいと言い続けなければいけません」
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T前駆細胞はマクロファージに分化できる
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2002年、河本TLはRCAIで免疫発生研究チームを立ち上げ、ミエロイド基本型モデルの確立を目指した。「ワイスマン教授が骨髄で見つけたというTリンパ球とBリンパ球の共通前駆細胞が食細胞もつくれることを示すのも、一つの方法です。実際、そういうデータは得ていました。でも、“分離法が正しくないからだ”と言われたら、水掛け論になるだけです」。河本TLは戦略を練った。「胸腺にあるTリンパ球になる直前の細胞(T前駆細胞)が、Bリンパ球への分化能は失っているが、食細胞への分化能は持っていることを示そうと思いました」
そして、和田はるか研究員(現 聖マリアンナ医科大学 助教)と、独自に作製したストローマという細胞を土台にしてT前駆細胞を培養し、それがTリンパ球、Bリンパ球、食細胞の一種であるマクロファージへ分化できるかどうかを調べる方法を開発。T前駆細胞は、全身の細胞で緑色の蛍光タンパク質をつくるグリーンマウスの胸腺から採取した。それなら、培養中に生成した細胞数が少なくても、蛍光顕微鏡を使って検出できるからだ。 胸腺から採取したT前駆細胞192個を培養したところ、Tリンパ球のみに分化したのは123個、マクロファージのみに分化したのは1個、マクロファージとTリンパ球に分化したのは13個という結果が出た。Bリンパ球に分化したものはなかった。さらに実験を重ね、生体でもT前駆細胞がマクロファージへ分化することを明らかにした。「胸腺にあるT前駆細胞はBリンパ球への分化能はすでに失っているが、Tリンパ球と食細胞の一種であるマクロファージには分化できる。これは、従来のモデルが正しくないことの証拠です。そして、ミエロイド基本型モデルが正しいことを強く示唆しています」 河本TLは、その成果を2008年4月、『Nature』で発表した。『Nature』のNews & Views欄に「教科書の書き換えを迫る成果」と紹介されるなど、多くの研究者がミエロイド基本型モデルが正しいと考えるようになってきた。では、ワイスマン教授の反応はどうか。「彼は、ある雑誌の総説に“リンパ共通前駆細胞がないと確定したわけではない”と書いていますから、まだ納得していないようです」。より確固たるものにするために、今後すべきことは? 「B前駆細胞について、Tリンパ球へ分化する能力はないが、食細胞へ分化する能力はあることを示すこと。すでにデータはある程度得られています」 今回の成果は、血液細胞の分化経路図を書き換えただけではない。「分化は進化の過程を反映しますから、血液細胞の起源についても考察を加えられます。私たちは、血液細胞のおおもとは食細胞で、Bリンパ球は食細胞から直接、Tリンパ球は食細胞からキラー細胞の段階を経て、別々に進化したというモデルを提唱しています。また、日本から生物学の新しい説が発信されるのは非常にまれなことです。その点でも、重要な意味を持ちます」 |
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白血病やがんの新たな治療法へ
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今回の成果は、医療への応用も期待されている。その一つが白血病だ。ある種の白血病細胞はTリンパ球と食細胞両方の特徴を持つことが知られていたが、どの段階で白血病化したのかが分からなかった。「ミエロイド基本型モデルで考えれば、食細胞─T系共通前駆細胞由来であると推定できます。その段階をターゲットにした新しい治療法の開発につなげていきたい」。河本TLは、血液内科の臨床医の経験がある。「白血病は若い患者さんが多いので、医者として本当につらかった。どうにかして治療したいという思いは、今も強く持っています」
河本TLは、「私たちの細胞培養技術は世界トップレベル」と言う。その培養技術を活かし、血液細胞の再生医療に向けた研究も進行中だ。現在は白血病やがんに対して、ドナーから骨髄幹細胞を取り出して患者に移植する骨髄移植や、患者から採取した前駆細胞を体外で免疫細胞に分化させて患者の体内に戻す細胞療法が行われている。しかし、骨髄移植では“適合するドナーが見つからない”“ドナーの負担が大きい”、細胞療法では“前駆細胞の採取が頻繁に必要”といった問題がある。造血幹細胞や前駆細胞を自在に増幅することができれば、患者やドナーの負担は減る。しかし、それが難しい。造血幹細胞や前駆細胞は、さまざまな細胞に分化できる多能性を持ったまま自己複製によって増幅する一方で、分化した細胞にもなる。ところが培養では、自己複製に必要な因子を加えても、なぜか自己複製せずに、すべて分化してしまうのだ。 河本TLは逆転の発想でその問題を克服した。前駆細胞を増幅するには、自己複製を促進させるのではなく、分化を阻害すればいいのではないか……。河本TLが注目したのが、E2Aという転写因子だ。E2Aを持たないマウスでは、前駆細胞が分化せずに、多能性を残したまま自己複製によって増幅することを伊川友活(ともかつ)研究員が明らかにしていた。E2Aは、Idタンパク質と結合すると機能が抑制されることも分かっていた。Idタンパク質を強制的に過剰発現させればE2Aの機能を阻害し、その結果、前駆細胞が自己複製して増幅するはずだ。そう考えて実験してみると、前駆細胞は予想をはるかに超える勢いで、多能性を残したまま増幅した。増幅させた前駆細胞を生体に戻すと、Tリンパ球やBリンパ球、食細胞などを長期間つくり続けることも確認されている。「この前駆細胞増幅法は、細胞療法や骨髄移植などに広く応用できると考えています。今、生体外でTリンパ球をつくる技術の開発にも取り組んでいます。白血病やがんを根治できる新しい免疫療法を開発すること。それが私の夢です」■
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関連情報
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「血液細胞の新しい分化経路図」『メディカルバイオ』(2008年9月号)
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免疫発生研究チームのホームページ
http://www.riken.jp/rcai.lymdev/HOME.htm |
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ピンポイント触媒で
化学合成を革新する 眞鍋 敬 |
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医薬品、洗剤、化学繊維やプラスチックなど、 私たちの暮らしはさまざまな化学物質によって支えられている。 しかし、有用な化学物質は、数多くの合成工程を必要とするものが多い。 合成工程の数が多いほどエネルギー消費や廃棄物の量が増えてしまう。 また、合成工程の数が多いと時間もコストもかかるため、 まだ合成されずにいる有用な化学物質もたくさん存在するはずだ。 眞鍋 敬(けい) 独立主幹研究員は、合成工程の数を大幅に 減らすことができる、まったく新しい発想の「ピンポイント触媒」を 開発して、化学合成に革新をもたらそうとしている。 |
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「創造する機械」を目指して
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「大学生のころ、化学合成は面白くない研究だと思っていました」と眞鍋 敬独立主幹研究員は振り返る。「複雑な形の化学物質をつくるには、容易に手に入る単純な形の化合物からスタートして、少しずつ形を変えていくため、数十もの合成工程が必要です。なぜこんなに手間がかかるのか、もっと自在に合成できる方法はないのか、と思ったのです」 そして大学院生のときに、『創造する機械』(K. E. ドレクスラー)に出会った。1980年代にナノテクノロジーの世界をいち早く描いた著作だ。「この本の中に、分子の特定部分に別の分子を自在に取り付けられる “アセンブラー”という想像上の機械が出てきます。これはすごいと思いました。実は、この本の内容自体は専門家が見ると実現困難なSFの世界です。しかし私は、アセンブラーのようなものを実現するための研究をやりたいと考えるようになりました」 |
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ピンポイント触媒で合成工程を大幅に短縮化する
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従来の方法では、なぜ合成工程の数が増えてしまうのか。例えば、分子の特定の部分に目的の分子を結合させようとしても、そのまま反応させると、特定の部分ではなく反応しやすい部分に結合してしまう。
特定の部分に結合させるには、まず反応しやすい部分にいったん別のものを付けて結合しないようにしておき、次に特定の部分が反応しやすくなるように改変し、そしてその部分を触媒で活性化して目的の分子と結合させる、といった複数の合成工程が必要となる。 合成工程の数が多いほど、合成に時間がかかり、エネルギー消費や廃棄物の量も増えてしまう。その無駄をなくすため、合成工程の数を減らす取り組みが続けられてきた。「これまでさまざまな化学反応の手法が開発されてきました。その蓄積の中から適した方法を選んで組み合わせることで、合成工程の数を少しずつ少なくできるようになってきました。しかし、それでもまだ合成工程は多過ぎます」 合成工程の数をさらに減らすため、眞鍋独立主幹研究員は、まったく新しい発想の触媒を構想した。それは『創造する機械』のアセンブラーのように、分子の特定部分をピンポイントに活性化させ、そこに目的の分子を結合させる「ピンポイント触媒」だ。 「従来の触媒にも分子を活性化する仕組みはあります。しかし、分子をきちんと捕らえて反応させる部分を決めていないので、反応しやすい部分しか活性化できません。ピンポイント触媒には二つの要素が必要です。まず特定の分子を捕らえて反応させたい部分に触媒を近づける骨格を有すること。もう一つは、反応しにくい部分を活性化する強力な触媒作用です」 現在の技術では、特定の分子を捕らえることができる骨格の形をデザインすることは難しい。「最善の方法は、いろいろな形の骨格をつくって、その中から特定の分子をうまく捕らえられるものを選ぶことです」 そのような骨格をつくる際に参考となるのが、私たちの体で働く酵素だ。酵素は触媒の機能を持つタンパク質である。酵素は生体内にあるたくさんの分子の中から特定の分子を捕らえることができる高い識別能力を持つ。 タンパク質はアミノ酸がつながった鎖が折り畳まれてできている。タンパク質をつくるアミノ酸は20種類。そのアミノ酸が遺伝子の情報に基づきさまざまな順番や長さでつながり、折り畳まれることで多種多様な形がつくられ、その中の一部が高い分子識別能力を持つ触媒として働く。 それでは遺伝子工学などを使って酵素を改良し、それをピンポイント触媒として使えばいいのではないか。「酵素が触媒として機能する化学反応の種類は限られています。しかも、その触媒能力はあまり強力ではありません。また、高温では、タンパク質である酵素は壊れてしまいます。酵素の利用できる化学反応の範囲はとても限られてしまうのです。私はさまざまな化学反応に使える触媒をつくりたいと考えています |
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オリゴアレーンで骨格をつくる
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眞鍋独立主幹研究員は、アミノ酸が連なったタンパク質のように、ベンゼン環などが基本単位(モノマー)となり、それが鎖状につながった“オリゴアレーン”という分子を骨格に用いることを考えた。「いろいろな化学反応に耐えることができる安定性を持つこと。さまざまな形をデザインでき、その形が容易には崩れないこと。モノマーをつなげやすいこと。つなげる対象となる多くの種類のモノマーが存在すること。そのような観点から、オリゴアレーンが最適だと考えました」
このオリゴアレーンを骨格にして、特定の分子を捕まえる“分子識別部位”と分子の特定部分を活性化させる“触媒活性部位”を併せ持つものが、開発中のオリゴアレーン型ピンポイント触媒だ(記事冒頭の図)。 2005年、眞鍋独立主幹研究員は理研に研究ユニットを立ち上げた。独立主幹研究ユニットは、優れた若手研究者に独立して研究する機会を提供する5年間の期限付きプロジェクトである。眞鍋独立主幹研究員は東京大学助教授という定年制のポストを辞めて理研の任期制のポストに移籍した。 「無謀でしたね(笑)。でも、すでに40歳だったので、これから自分が研究に費やせる時間を考えると、“今しかない!”と思いました。それまでピンポイント触媒の研究はしていなかったので、面接ではアイデアだけでアピールしました。選考委員からは、“本当に何も実験データはないの?”と驚かれました(笑)」 |
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新しい反応を引き起こす触媒を開発
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眞鍋独立主幹研究員はまず、オリゴアレーン型ピンポイント触媒の基本単位となるモノマーをつなぐ新しい方法の開発から着手した。「モノマーの組み合わせや形を変えることにより、多種多様なバリエーションの触媒ができます。しかし、モノマーを効率よくつなぎ、多様な触媒を簡単につくる方法がなかったのです。私たちはその新しい方法を開発し、それを使っていくつかのオリゴアレーン型ピンポイント触媒をつくりました(図1)」
そして、その中の一つに、従来の触媒では結合できなかった部分で分子をつなぎ合わせることができるものがあった(図2)。「この触媒の骨格はまだ単純な形ですが、それでも今までできなかった反応を行うことができました。この方向で研究を進めていけば、もっと役に立つオリゴアレーン型ピンポイント触媒をたくさん見つけられると思います」
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創薬への期待
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「研究上のライバルは」との問いに、「思い当たりません」と眞鍋独立主幹研究員は答えた。ピンポイント触媒のような発想に基づいた研究は世界的にも例がない。この独創的な研究は、化学合成の世界にどんな変革をもたらすのか。
「私は薬学部の出身なので、ピンポイント触媒が新薬の開発に役立つとうれしいですね」と眞鍋独立主幹研究員。「医薬品開発では、たくさんの候補物質をつくり、その中から薬としての効果があるものを探し出していきます。ただし、比較的簡単につくれる化学物質、つまり合成工程が少ないものをたくさんつくります。合成工程が多く手間のかかるものは、コストと時間が膨大にかかってしまうのでつくらないのです。しかし合成工程が多い化学物質の中に、優れた薬があるかもしれません。ピンポイント触媒で合成工程が多い化学物質が簡単につくれるようになれば、その中から従来にない優れた効果を持つ医薬品が見つかるはずです」 もちろん、ピンポイント触媒の適応範囲は医薬品開発に限らない。ピンポイント触媒は、あらゆる化学物質の開発の手法を革新するだろう。 |
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勇気を与える研究
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オリゴアレーン型ピンポイント触媒の開発における重要課題の一つは、オリゴアレーン骨格のバリエーションを増やしていくことだ。「さらに効率よくモノマーをつなげていく方法を開発すれば、今後5年くらいで、オリゴアレーン触媒のバリエーションをもっとたくさん増やせると思います」
もう一つの大きな課題は、触媒の活性化能力の強化だ。「骨格が分子を捕らえて反応させる位置を決めることができても、触媒の活性化能力が弱いため、ほかの分子と結合できない場合があります。開発した触媒の活性化部位はこれまで既存の触媒をそのまま利用していました。最近、ほかの研究グループが強力な活性化能力を持つ触媒を開発しており、それを組み込むことを検討しています。オリゴアレーンの骨格は、いろいろな触媒を組み込んで、それをきちんと機能させることができる点が、大きな長所です。私たちも強力な触媒を独自に開発しようと考えています。ただし強力な触媒の開発にはどうしても時間がかかります」 ユニット設置期間のちょうど中間にあたる今年7月、眞鍋独立主幹研究ユニットの中間評価・業績報告会が開かれた。 「評価委員の方々からも良いコメントを頂いたのですが、理研の若い研究者たちから“元気をもらいました”と言われたことが、とてもうれしかったですね。近年、多くの若手研究者が短期間で成果をあげることが求められる研究環境にいますが、私のピンポイント触媒の開発は、短期的な成果を求めている研究ではなく、中長期的な目標を目指した研究です。それが若い人たちを勇気づけたのかもしれません。化学合成の未来に夢を持つ若い人たちが、私の研究を面白いと言ってくれたことで、私も勇気をもらいました」 眞鍋独立主幹研究ユニットは2010年で終了するが、眞鍋独立主幹研究員はピンポイント触媒の研究開発をライフワークとして続けていく決意だ。■
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関連情報
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「ピンポイント反応の方法論」『ファルマシア』(Vol. 43 No. 43 2007)
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特願2007-191526「カップリング用触媒およびそれに用いる配位子、ならびにクロスカップリング反応によるビアリール構造を有する化合物の製造方法」
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眞鍋独立主幹研究ユニットのホームページ
http://www.riken.jp/lab-www/manabeiru/index.html |
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アジア連携で「揺律機能」を創発、
従来の科学技術の限界を超える 原 正彦 国際連携研究グループディレクターに聞く |
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今年7月1日、韓国ソウル市の漢陽(ハンヤン)大学 フュージョン・テクノロジー・センターに、 基幹研究所 国際連携研究グループ 揺律(ようりつ)機能アジア連携研究チームの研究室が設置された。 理研が韓国に研究拠点を置くのは初めてのことである。 ここをはじめとして、アジア諸国との連携を強化していく計画だ。 なぜ今、アジア連携が重要なのか。そこで、どんな研究が行われるのか。 揺律機能アジア連携研究チームのチームリーダーを兼務する 原 正彦 国際連携研究グループディレクターに聞いた。 |
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「フロンティア」の経験をアジア連携に生かす
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原:私が理研に入ったのが1985年。翌年にスタートした国際フロンティア研究プログラム(1999年よりフロンティア研究システムに改称)で、20年以上研究を続けてきました。そして1989年ごろから漢陽大学の李 海元(リ ヘイワン)教授たちと、ナノテクノロジーや有機材料研究の分野で共同研究を行ってきました。それが今回の研究拠点の開設につながったのです。 ──フロンティア研究システム(FRS)とは。 原:FRSは、任期制研究者によって時限付きの研究プロジェクトを推進する組織で、そのような組織の日本における先駆けとなりました(FRSは2008年4月に中央研究所と統合し基幹研究所に改組)。FRSの大きな目標の一つが“国際化”でした。私が所属していた研究チームにも、欧米やアジア諸国からたくさんの研究者が参加しました。FRSは研究者の3分の1を外国人にすることが目標でしたが、私が所属した研究チームでは半数が外国人研究者でした。その中で、国際化が現場レベルでどれだけ難しいかを実感しました。 ──どのような難しさがあったのですか。 原:欧米の研究者や、欧米に留学経験のあるアジアの研究者が多かったので、「欧米ではこうやっている。日本ではなぜ違うのか」といった不平不満の対処に奔走する日々でした。欧米と日本では、事務のシステムや研究の進め方、ものごとの主張の仕方や同意の取り方などに違いがあるのです。 アジアの優秀な研究者が、欧米に行って素晴らしい研究をする例は数多くあります。逆に日本やアジアの国々に世界中から研究者が集まってきて研究を行うという仕組みは、いまだに確立されていません。アジアでその仕組みを築く際、欧米のスタイルをすべて取り入れる必要はないと思います。欧米からの輸入ではない国際化、日本やアジアの文化に根差した国際化が必要だと感じました。 実は、FRSに参加していた研究者とも、「欧米のスタイルをそのまま日本やアジアの国々に導入して国際化しようとしてもうまくいかない」と話し合っていました。その一人が漢陽大学の李教授です。 また李教授は、「FRSのように国際化を大きな目標に掲げている研究組織は、アジアにはほかにはない」と驚いていました。 ──FRSにはどのような特徴があったのですか。 原:FRSでは国際化をいち早く進め、多くの外国人を研究員やチームリーダーとして採用し、チーム内での議論やセミナーも英語で行いました。予算運用もとても自由で、随時、フォーラムを開いたり、海外へ発表に行ったり、期限付きで研究者を雇用するなど、人・物・情報の交流を柔軟に行うことができました。また、事務の人たちが研究者の身近にいて私たちの研究をよく理解し、強力に支援してくれたことも大きな特徴でした。 今回の漢陽大学との連携では、FRSで培われた研究プロジェクトの柔軟な運営手法のノウハウやアジアにおける国際化の経験を、フュージョン・テクノロジー・センター(FTC)の運営に生かすことが期待されています。そのために、理研とFTCの事務レベルでの人事交流も検討されています。 ──FTCが目指すものは何ですか。 原:FTCは、漢陽大学が国内外の研究機関との連携を推進するために建設した施設です(図1)。当時、ソウル市長だった李 明博(イ ミョンバク) 大統領が財政支援を決めて建設が進められ、今年5月に12階建ての建物が完成しました。そのスペースの半分が、国内外の研究機関との連携に開放される計画です。理研には5階の全フロアが提供され、私たち揺律機能アジア連携研究チームが入居しました(図2)。 このFTCを拠点にしたアジア連携には、漢陽大学だけでなく、韓国のさまざまな研究機関が参加します。さらに中国やインドなどのアジア諸国も連携に加わる予定です。特にインドが積極的ですね。今後、中国やインドなどアジア諸国の研究者がFTCや理研に来て、一緒に研究を進めることになるでしょう。 |
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東洋的な発想で新しい科学技術を生み出す
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──アジア連携は、科学技術の進展にとってどのような意義がありますか。
原:20世紀の科学技術は、欧米を中心に急速に進展しました。しかし今、従来の科学技術の限界が見えてきました。その限界を超えていくために、新しい発想に基づく科学技術を生み出すことが求められています。 新しいものを見つけるためには、それぞれの文化を生かしたサイエンスを進める方法があり得るのではないかと思います。もちろん私たちが欧米のやり方で研究を進めても、それなりの新しい展開があると思います。しかしアジアに住む私たちは、東洋的な発想に基づいて研究を進めることで、欧米とは違った新しい展開を拓くことができるはずです。 ──従来の科学技術の限界とは。 原:例えば、コンピュータは、半導体回路の微細加工によってトランジスタなどの素子をどんどん小さくして集積度を高め、記憶容量や計算速度を向上させてきました。しかし、さらに微細化を進めて素子が分子サイズになると、不安定性が大きく現れるようになり、従来の原理では装置がうまく作動しなくなってしまうのです。私たちは、そのような限界を乗り越える新しい科学技術をなんとかして生み出したいと考えています。 |
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「揺律」で限界を超える──世界最低速のコンピュータ
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──揺律機能アジア連携研究チームでは、どのような研究を進めているのですか。原:私たちは1980年代から、分子レベルの素子に機能を持たせるナノテクノロジーの研究を行ってきました。しかし、先ほど述べた“素子が分子サイズになると不安定性が大きく現れる”という問題を、どうしてもクリアできませんでした。そこで、発想を転換し、私たちは分子がもともと持っている不安定性や揺らぎを積極的に活用しようと考えたのです。不安定性や揺らぎを示す構成分子の間の相互作用から自律して生じる機能を見つけ、その機能の原理を用いた新しい情報処理の可能性を探ろうとしているのです。それが「揺律(ようりつ)」という私の造語のチーム名に込めた思いです。 ──どのような装置をつくろうとしているのですか。 原:今の装置が苦手な問題をうまく処理できる装置をつくりたいと思います。 20世紀の科学技術は、“人間ができないこと”を実現する装置を生み出してきました。例えばコンピュータは人間よりもはるかに速く、正確に計算し、たくさんの情報を記憶することができます。しかし今の装置は、“人間ができること”が苦手なのです。 例えばロボット研究では、2050年までにサッカーのワールドカップチャンピオンチームにロボットチームが勝つことが目標とされています。しかし、それはとても難しいことです。例えば相手ゴール前に味方が走り込んでくることを予測して送り出すスルーパス、それをロボットにやらせようとしたら、どんなに計算の速いコンピュータを使っても時間がかかり過ぎて間に合わないでしょう。 ──それはなぜですか。 原:今のコンピュータは“間違えてはいけない”という原理でつくられています。サッカーという複雑な状況の中で、瞬時に相手や味方の動きを予測して、間違いのない答えを導き出すには、どんなに速いコンピュータで計算しても時間がかかってしまうのです。ところが、人間は、とても複雑な状況でもすぐに答えを出すことができます。ただし、その答えは“だいたい正しい”答えです。時には間違えることもあります。スルーパスもいつも成功するわけではありませんよね。 今のコンピュータにとって難問の一つとされているのが巡回セールスマン問題(組み合わせ最適化問題)です。セールスマンが顧客の間を最短の経路で巡回するという問題です。これは、顧客の数が数十人になると、現在の最速のコンピュータでも答えを出すのに何世紀もかかってしまうという問題です。調べなければいけない経路の組み合わせが膨大な数になるからです。また、問題設定自体に不備があるような問題を解くことも苦手です。そのような今のコンピュータが苦手な問題でも、“だいたい正しい”答えを導き出せるような新しい原理を見いだし、その原理に基づいたコンピュータを開発したいと私たちは考えています。 ──どのようにしてその原理を見つけ出そうとしているのですか。 原:そのための研究対象の一つが、粘菌(真性粘菌)です(図3)。粘菌は単細胞生物で、体のあちらこちらを伸び縮みさせながら形を変えていきます。つまり、揺らぎや不安定性があるのです。FRSのバイオ・ミメティックコントロール研究センターと私たちのチームに在籍していた中垣俊之 准教授(北海道大学)は、粘菌が迷路の入口と出口を結ぶ最短経路を見つけ出せることを発見しました。迷路は経路が何通りもある巡回セールスマン問題のような問題です。今のコンピュータが解くことが苦手な問題を、粘菌は解くことができるのです。もちろん間違えることもあります。また、一つの答えを導き出すのに数時間から数日かかります。粘菌は、時々間違える“世界最低速コンピュータ”といえます(図4)。 私たちが今、とても不思議だと思って研究しているのは、粘菌は一つの答えを出した後も、もう一度、ほかの答えがないか、探し出すことです(図5)。今のコンピュータは、一つの答えを導き出すと、さらに別の答えがあっても、計算をやめてしまうケースがあります。粘菌は、一つの答えにとどまらず、次々に答えを見つけようとするのです。 時々間違える“世界最低速コンピュータ”の研究は、とても東洋的な発想の研究だと思います。そして、理研のような自由な発想に基づいた研究ができる研究所だからこそ可能な、ユニークな研究です。粘菌の研究のような、身近な自然の不思議な現象から本質的な原理を学び取ろうという研究の伝統が理研にはあります。その代表が、戦前に理研の主任研究員として活躍した寺田寅彦博士(1878〜1935年)です。寺田博士はコンペイトー(金平糖)の突起がどうやってできるのか、ひび割れの形はどうやって決まるかなど、ユニークな研究を行いました。小中学生の自由研究のテーマのようですが、それを突き詰めていくと自然の本質が見えてきます。しかも今は、寺田博士の時代にはなかった精密な計測技術があります。その技術を駆使して、身近な自然の不思議から本質的な原理を見いだし、それを科学技術に応用する、新しいサイエンスを切り拓いていくことができると思います。 今後は、FTCで、韓国はもちろんアジア諸国の研究者とともに研究を進めていくので、さらに新しい発想が生まれることが期待できます。
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理研、そして日本が世界に対してできること
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──新しい発想の研究をアジア諸国と連携して行おうとしているのですね。
原:そうです。しかしアジア連携の話をすると、「理研にとってどのようなメリットがあるのか」とよく聞かれます。そんなとき私は、J. F. ケネディが行った大統領就任演説の有名なフレーズを思い浮かべます。 “Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country. ” (国があなたのために何ができるのかを問うのではなく、 あなたが国のために何ができるのかを問うてください) アジア連携の推進には時間や労力がかかり、短期的に見ると理研にとってメリットばかりではないでしょう。しかし、理研は世界のために何ができるのかを問うてこそ、世界トップクラスの研究機関だといえるでしょう。 実は今、研究の世界でも国際化は日本よりもアジア諸国の方が進んでいます。日本の多くの人たちはそのことに気付いていません。目の前の損得を考えるのでなく、30年、50年という長期的な視野で、理研そして日本が世界に対して何ができるのかを問うことが、日本のサイエンス、そして世界のサイエンスを飛躍させることにつながると思います。■
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地球を覆い、生命をはぐくむ「水」。水素と酸素からなるこの単純な分子の性質には、いまだに謎が多い。約100年前、X線の発見者、W. C. レントゲンが「水は氷によく似た状態と未知の状態の二つからなる」というモデルを提唱して以来、「氷によく似た秩序構造を出発点にして連続的にひずんでいく」、あるいは「特定の構造の間を行ったり来たりしている」という論争がずっと続いていた。今回、理研放射光科学総合研究センター励起秩序研究チーム、ストックホルム大学などの研究グループは、水には「水分子間をつないでいる水素結合の腕が大きくひずんだ構造」と「氷によく似た秩序構造」の2種類があることを発見。この発見は、水溶液や生体内など、水に関係する現象の理解を深める上で重要な鍵となる。この成果について辛埴(しんしぎ)チームリーダーに聞いた。 |
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水の構造解析の歴史について教えてください。
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辛:1892年にレントゲン博士が、4℃で密度が最大になるという水の密度の温度変化を説明するために提唱した2状態モデルが、論争の始まりです。1933年になって英国ケンブリッジ大学のバーナル教授とファウラー教授が、水のX線回折のデータをもとに「正4面体の頂点に水の分子が配置しているひずんだ氷の構造で説明できる」と報告しました。これが、さまざまな分光学的実験などにより支持され、「氷の構造が連続的にひずんでできた」水のモデルとして広まりました。その後、電子計算機の性能の向上によって、分子動力学を使った水分子の3次元シミュレーションが行われるようになりました。そして、無数の水分子が正4面体ネットワークの中で、熱による揺らぎを受けて、1兆分の1秒以下という超高速度で結合・乖離(かいり)を繰り返す様子が可視化され、「氷に近い水」というモデルが説得力を持つようになりました。しかし、依然としてレントゲン博士のモデルを支持する研究者も多くいました。
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この論争に、どんな方法で決着をつけようとしたのですか。
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辛:私たちは、この問題に別の角度からアプローチするために、軟X線発光分光という手法を用いて、水の分子間に働く水素結合のひずみ具合を反映する電子の状態を調べました。軟X線発光分光装置の光源には、大型放射光施設SPring-8の理研高輝度軟X線ビームラインを使い、その“輝度” “単色性” “エネルギー安定性”という特徴を大いに活用し、私たちが開発した分光装置は世界最高の分解能を達成しました。また、試料を入れる特殊な容器(液体フローセル)を新たに開発し、装置と組み合わせて実験しました。
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その実験結果は。
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辛:これまでの分光装置では、一つの状態と見なされていたピークが、私たちが開発した装置から、実は二つの状態からできていることが分かりました。この二つの成分は、水蒸気(水分子)のピークに近いものと氷のピークに近いものに対応しています(図)。つまり、「水分子間をつないでいる水素結合の腕が大きくひずんだ水分子の海」と「この海の中に浮かぶ氷によく似た秩序構造」です。この二つのピークは、水の温度を変化させてもピークの高さの比が変わるだけで、中間状態が現れませんでした。この結果は、水の構造が連続的に移り変わっていくわけではないことを示しています。つまり、レントゲン博士のモデルが正しかったのです。
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今後の展開は。
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辛:水の正しい構造モデルが分かったことは、水溶液や細胞内など、水を含んでいるあらゆる物質中での水の役割を理解することに役立ちます。この発見は今後、水のまだ知られていない働きを見いだす重要なきっかけになると期待できます。■
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● 本研究成果は米国の科学雑誌『Chemical Physics Letters FRONTIERS article』オンライン版(6月11日)に掲載されたほか、東京新聞(6月17日)などに掲載された。
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立体フルデジタルドームシアター「シンラドーム」がオープン!
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理研は1996年から、科学技術館(東京都千代田区)に、コンピュータシミュレーションを用いてさまざまな自然現象を分かりやすく紹介する「ユニバース」を出展してきました。 今回、このユニバースを全面改装して、立体フルデジタルドームシアター「シンラドーム」を8月20日に公開しました。“シンラ”は、宇宙のすべてのものを表す「森羅万象」からとったものです。シンラドームでは、直径10mの全天を覆うスクリーンに12台のプロジェクターから映像を投影します。投影される迫力ある立体映像により、今までにない抜群の臨場感を体験できます。このシアターは、常時公開するドーム立体投影設備としては日本初となります。理研だけではなく、国立天文台などの研究機関や大学がコンテンツを提供し、宇宙の銀河や星の世界はもちろん、細胞の中のDNAやタンパク質の世界、地球の水と生命の世界をお楽しみいただけます。 毎週土曜日午後には、これまで理研の戎崎俊一主任研究員(基幹研究所 戎崎計算宇宙物理研究室)などが実施してきた「科学ライブショー“ユニバース”」を新しい形で上演しています。皆さまのご来場をお待ちしています。 *シンラドームは、(財)日本宝くじ協会の助成により、宝くじの普及宣伝事業として整備されたものです。 ![]()
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イベント・シンポジウムのご案内
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新研究室主宰者の紹介
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新しく就任した研究室主宰者を紹介します。 1:生年月日、2:出生地、3:最終学歴、4:主な職歴、5:研究テーマ、6:信条、7:趣味 |
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基幹研究所 Yu独立主幹研究ユニット ユニットリーダー Hsiao-hua Yu(シャオファ ユ) |
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1:
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1974年7月9日
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2:
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台北(台湾)
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3:
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マサチューセッツ工科大学化学科Ph.D.(米国)
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4:
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バイオエンジニアリング・ナノテクノロジー研究所(シンガポール)
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5:
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導電性バイオマテリアル
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6:
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よく働き、よく遊ぶ
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7:
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スポーツ、音楽、科学
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仁科加速器研究センター 原子核研究部門 実験装置開発グループ グループディレクター 若杉昌徳(わかすぎ まさのり) |
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1:
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1961年9月16日
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2:
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大分県
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3:
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広島大学大学院博士課程
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4:
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理化学研究所
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5:
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不安定核電子散乱装置の開発
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6:
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矛盾のない生き方
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7:
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釣り
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RCAIコーディネーション・オフィス 岩野はるかIWANO Haruka |
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理研横浜研究所で免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)が活動を開始してから4年半。現在、センターの規模は、学生やパートの方などを含め300名強である。2008年、センター内に“コーディネーション・オフィス”ができた。その活動とコーディネーターの日常をご紹介したい。 コーディネーション・オフィスは、RCAI全体のあらゆる活動をサポートしている。対外関係ではインターナショナルサマープログラム、日本免疫学会共催の国際シンポジウムと免疫ワークショップ、ハーバード大学サマープログラム、原発性免疫不全症ネットワーク、アレルギーネットワークなど。センター内では若手研究者の予算獲得支援、大型プロジェクト推進のコーディネーション、アドバイザリー・カウンシル(外部評価委員会)の運営やセンター評価のための報告書作成、奨励プログラムの企画運営など。 メンバーは、リサーチ・コーディネーターとして免疫記憶研究グループの竹森利忠グループディレクター(GD)と私、事務面では、センター全体の運営をサポートする崔(さい)結子さん、安芸(あき)かおりさん、山口寛子さん、志村瑞木(みずき)さん、黒崎真理さん、森泉亮子さんの6名を配置している。また、サイエンスアドバイザーとしてアラバマ大学のバロウズ教授が、研究者の研究・論文指導を行っている。そのためか、近年、若手リーダーの躍進が目覚ましい。2007年度は『Science』と『Nature』系列誌に13の論文が掲載された。また、全119報のうち1/3は知名度の高い学術誌に掲載されている。 「リサーチ・コーディネーターって何をするんですか?」と、しばしば質問を受ける。コーディネーターの仕事の定義は難しいが、私は上記全般の企画・立案と運営のための調整をしている。竹森GDが免疫の専門家として、精力的に進めてくださる中で、私はむしろ一般的な視点から円滑にプロジェクトが進むよう努めている。 私がこの仕事に就いたのは2年半前。神経科学のPh. D. を取った後、出版の経験を積み、研究と社会の懸け橋となれるような職種を探していた。たまたま理研のホームページで募集広告を目にし、具体的にどんな仕事か問い合わせてみた。早速、「センター長が説明するから来てください」との返答で「いったいどういう職場だろう。谷口 克(まさる)センター長とはどんな方だろう」とミーハー的な興味も半分でやって来た。その後、試験で世界的に著名なRCAIのリーダーやアドバイザリー・カウンシルの先生方とお話しし、心臓がつぶれそうなほど緊張した。以来、私の生活はマンネリ化という言葉と無関係だ。谷口センター長を筆頭に、リーダーたちは独創的で思いがけないことを提案するのが当たり前。「はぁ?」とあんぐり口を開けることもしばしばある。その奇抜なアイデアを実現するために、体当たりでぶつかっていく。分からないことはどんどん聞くしかない。常にハラハラしている捨て身の私に対し、ありがたいことに誰もが気さくに相談に乗ってくれ、これまでなんとか道は拓けてきた。RCAIのプロジェクトが役立っていると、理研外部の方が話すのをふと耳にすることがある。その喜びは何物にも替え難い。 まだ実現していないアイデアやプロジェクトがいくつもある。来月11月に第2子を出産予定だが、ここで歩みを止める気分にはなれない。RCAIのコーディネーション・オフィスは、人を飽きさせない刺激的な場所といえるかもしれない。■ ![]() |
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