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超流動ヘリウム3で
新しい現象を見いだす 河野公俊 |
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容器の中の液体が、まるで生き物のように 容器の壁をよじ登り、こぼれだす。超流動ヘリウムは、 このような不思議な現象を見せる液体だ。 ヘリウムを絶対零度近くの超低温まで冷やすと液体になり、 さらに冷やすと超流動状態になる。超流動は、 ミクロの世界の物理法則である量子力学的な現象が、 私たちの目に見えるマクロなスケールで現れた状態である。 河野低温物理研究室は、独自の手法で 超流動ヘリウム3の性質を調べている。 その知見は超伝導や宇宙誕生のメカニズムの理解にも役立つと 期待されている。さらにヘリウム表面などで一つ一つの電子を操り、 量子コンピュータの実現を目指す研究にも取り組み始めている。 |
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超低温で現れる量子力学の世界
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カマリング・オンネスは液体ヘリウムをさらに2.17K以下に冷やし、超流動らしき現象を記録している。ただし、液体ヘリウムに粘性がなくなることを実験的に認識し、“超流動”と名付けたのは、ロシアのピョートル・カピッツァ(1978年ノーベル物理学賞受賞)である。今からちょうど70年前、1938年のことだ。 粘性がなくなるため、超流動ヘリウムを容器に入れておくと、容器の壁をよじ登りこぼれてしまうという不思議な現象が起きる(図1)。また、超流動ヘリウムを円筒容器に入れて何らかの形で流れをつくると、いつまでも流れ続ける。普通の状態(常流動)の液体では、液体中の各粒子がばらばらに運動して容器の壁などにぶつかり、やがて流れは減衰して消えてしまう。しかし、超流動状態では、各粒子が勝手に動けず一つの状態となって運動するため、流れがいつまでも減衰しない。粘性がなくなるのも、各粒子が一つの状態となって運動するからだ。 超流動のように各粒子が一つの状態になるような現象を、“ボーズ・アインシュタイン凝縮”と呼ぶ。ミクロの世界の物理法則である量子力学によると、粒子は“ボーズ粒子”と“フェルミ粒子”に分かれ、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こすのは、ボーズ粒子に限られる。原子核をつくる陽子と中性子、そして電子の合計数が偶数の粒子はボーズ粒子、奇数の粒子はフェルミ粒子だ。普通のヘリウム4(4He)は、陽子2個+中性子2個+電子2個からなり、合計数6の偶数なのでボーズ粒子である。従って、2.17K以下に冷やすとボーズ・アインシュタイン凝縮が起きて、超流動状態となる。 「物質を超低温にすると、超流動のように量子力学が本質的にかかわる現象が、私たちの目に見えるマクロなスケールで現れる場合があります。そのような現象を見つけ、その性質を調べることが、私たちのメインテーマです」と河野公俊 主任研究員は語る。 |
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超伝導の謎を超流動ヘリウム3で解く
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ヘリウムには、中性子が1個少ないヘリウム3(3He)という同位体がある。ヘリウム3は陽子2個+中性子1個+電子2個からなり、合計数5の奇数なのでフェルミ粒子である。ところがこのヘリウム3も、0.001K以下にすると超流動状態になる。これはヘリウム3の原子が二つ一組の“クーパーペア”となることで、合成数5+5=10で偶数となり、ボーズ粒子として振る舞い、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こすからだと考えられている。
ヘリウム3の超流動の研究は、ある温度(転移温度)以下で電気抵抗がゼロになる超伝導現象のメカニズム解明にも貢献する。超伝導は、フェルミ粒子である電子がクーパーペアをつくり、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こすことで現れる現象だからだ。 超伝導はカマリング・オンネスによって1911年に発見された現象だ。カマリング・オンネスは、4K以下に冷やした水銀の電気抵抗がゼロになることを見いだした。マイナスの電荷を帯びた電子同士が、どのような力で結び付いてクーパーペアをつくるのか。水銀のような金属系の物質に起きる超伝導のメカニズムを説明する“BCS理論”が1957年に提唱され、その提唱者たち3人には1972年にノーベル物理学賞が贈られた。 しかしその後、従来のBCS理論だけでは説明し切れない新しいタイプの超伝導現象が発見された。一つは、1970年代後半から見つかり始めたセリウムやウラン化合物の超伝導、もう一つは1986年に発見された銅酸化物系の高温超伝導である。現在、転移温度の最高記録は、高圧下で160K(約−113℃)に達している。 これら新しいタイプの超伝導メカニズムを解明し、より高い転移温度で超伝導を示す物質を開発するための基礎研究が、世界中で盛んに行われている。低温に冷やさずに電気抵抗がゼロになる超伝導体を開発できれば、それを送電線や電子デバイス技術に応用して、エネルギー問題の解決に大きく貢献できると期待されているのだ。 最近、さらに新しいタイプの超伝導体が次々と発見されている。2001年、青山学院大学の秋光 純教授たちにより二ホウ化マグネシウム、2008年には東京工業大学の細野秀雄教授たちにより鉄系化合物が高い転移温度で超伝導になることが発見され、世界的に大きな注目を集めている。ウランよりも重い元素の化合物でも、超伝導体が発見され始めた。2002年には米国のグループがプルトニウム化合物で、2007年には東北大学や日本原子力研究開発機構のグループがネプツニウム化合物で超伝導体を発見した。 「このような新しいタイプの超伝導体の現象を理解するとき、ヘリウム3で起きる超流動が大きな手掛かりとなります」と河野主任研究員は語る。超伝導もヘリウム3で起きる超流動も、クーパーペアがつくられ、ボーズ・アインシュタイン凝縮が起きる点は共通だ。「ただし超伝導では、電子は物質を形づくる正イオンの格子から強い影響を受けます。一方、超流動ヘリウム3では、ヘリウム3の原子同士の相互作用だけでクーパーペアがつくられ超流動状態になります。それ以外に影響を与える要素が何もないので、現象を理解しやすいのです。またヘリウムが液化する温度ではヘリウム以外の元素はすべて固体になるため、液体ヘリウムには不純物がなく、極めて精密な実験ができます」。液体ヘリウムは量子力学的な現象を研究するための“最良の実験場”なのだ。
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2次元電子系で超流動ヘリウム3を探る
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液体ヘリウム表面に電子を近づけると、電気的な引力と反発力が同時に働いて、表面から約10nm(1nm=10-9m)のところに電子がとらえられる。このとき電子は、電気的な反発力で一定間隔に並んだ電子1個分の厚さの2次元平面層となる。それぞれの電子は表面と平行な方向にだけ動くことができる“2次元電子系” となる(記事冒頭の図・上)。河野低温物理研究室では、この2次元電子系を用いて超流動ヘリウム3の性質を調べる独自の実験を行ってきた。「このような実験ができるのは、世界でも私たちだけです」
ヘリウム3のクーパーペアには性質の異なる二つのタイプがあり、温度と圧力を変えることによりヘリウム3の超流動にもA相とB相という二つの状態が現れる(図2)。A相をつくるヘリウム3のクーパーペア自体に異方性があるため、A相全体として異方性が強い状態になる。つまり方向によって性質に違いがあるのだ。例えば温度を上げた場合、液体ヘリウム内でヘリウム3のクーパーペアが壊れる。そうすると一つずつになったヘリウム3原子はある方向に向かって動きだす。果たしてヘリウム3原子は、どの方向に動くのか? その謎を解くために、河野主任研究員らは2次元電子系を使った実験を行った。 液体ヘリウム表面上に2次元電子系があると、電子が上にある場所はへこんで、凹凸ができる。2次元電子系を動かすと、その凹凸も移動する。「私たちは、A相状態の液体ヘリウムの温度を次第に上げ、その際の2次元電子系の振る舞いを計測しました。その結果、液体ヘリウム内で一つずつになったヘリウム3原子がヘリウム表面に対して垂直な方向へ動きやすく、ヘリウム3原子が内側から凹凸のある表面に当たるため、2次元電子系が移動しにくくなることを突き止めました」 新しいタイプの超伝導体の中には、超流動ヘリウムA相をつくるクーパーペアと似た性質の電子のクーパーペアが超伝導状態をつくりだしている可能性がある。河野主任研究員たちの実験データは、新しいタイプの超伝導のメカニズム解明にも役立つはずだ。 ![]() |
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“超低温ミニチュア初期宇宙”で実験を行う
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「先日、ノーベル物理学賞を受賞された南部陽一郎博士は、超流動や超伝導現象からヒントを得て、“対称性の破れ”に関する理論を提唱しました」
対称性の破れは、宇宙誕生と物質創成にかかわる。物質をつくる粒子には質量などの性質が同じで電荷が反対の反粒子がある。超高温の火の玉宇宙として誕生した宇宙には光のみが存在した。その宇宙が膨張するとともに温度が下がる過程で、光から粒子と反粒子が生まれた。ほとんどの粒子と反粒子は衝突して光に戻ったが、対称性の破れによって粒子だけがわずかに生き残ったらしい。そのような宇宙誕生と物質創成のメカニズムを、河野主任研究員はヘリウム3の実験によって探ろうとしている。「宇宙の温度が下がり、光だけの宇宙から対称性の破れによって物質が創成された過程と、ヘリウム3を冷やして常流動から異方性を持つ超流動A相に変わる過程に、対応関係があるという仮説があるのです」 宇宙誕生の瞬間を説明できる究極の物理理論は確立されていない。その有力候補と期待されているのが、南部博士がもととなるアイデアを提唱した“超ひも理論”だ。河野主任研究員たちは、理研基幹研究所の“物質の創成研究推進グループ”の中に“宇宙初期の対称性と普遍性研究チーム”を立ち上げ、超ひも理論を研究している理研の川合理論物理学研究室(理研仁科加速器研究センター)と共同研究を始めた。「“超ひも理論によって初期の宇宙で起きたと予測される出来事”と対応する現象を、超流動ヘリウム3の中で起こせます。超流動ヘリウム3という“超低温ミニチュア初期宇宙”でさまざまな実験を行い、超ひも理論の確立や宇宙誕生の謎に迫る研究に貢献していきたいと考えています」 |
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液体ヘリウム表面で電子を操る
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河野主任研究員たちは、液体ヘリウム表面を使って、電子を1個ずつ操る研究も始めている。液体ヘリウム表面にとらえられた2次元電子系をつくる1個1個の電子は、陽子にとらえられた電子、すなわち水素原子の中の電子と状態が似ている。ただし、水素原子よりも電子をつなぎ止めているエネルギーが低いため操作しやすく、マイクロ波を電子に当てると励起状態となり、ヘリウム表面からの距離が大きくなる(記事冒頭の図・下)。「ナノテクノロジーのもともとの目標の一つが、一つ一つの電子を操ることです。液体ヘリウムの表面は、そのための“舞台”としても使えるのです」 河野低温物理研究室では、ガリウムヒ素(GaAs)という半導体に、“量子ドット”と呼ばれる微細構造をつくり、一つ一つの電子を操る実験もスタートした。「私たちは最近、独自の量子ドットを作製できるようになりました。その量子ドットを超低温に冷やして、一つ一つの電子を操り、電子が示す量子力学的な現象を探る研究を始めています(図3)」 一つ一つの電子を操る研究の先には、どのような応用が広がっているのか。「最終目標は量子コンピュータの実現です」と河野主任研究員は言う。量子コンピュータとは、量子力学的な現象を計算原理に応用して、従来のコンピュータが何世紀もかかってしまうような問題を、数時間で処理できるコンピュータだ。現在、さまざまな方法によって、その実現を目指した基礎研究が世界中で進められている。 低温物理の次の100年間も、超低温の世界から新しい現象が発見され、その現象を応用した思いもよらない装置が私たちの社会を支えていくことだろう。■
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関連情報
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河野低温物理研究室のホームページ
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道具を使う──
心と言語とヒトが生まれるとき 入來篤史 |
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入來(いりき)篤史チームリーダーいわく、 「ヒトの一番の特徴は、“いいかげんさ”かな」。 会話をしているとき、相手の心の中は分からない。 けれども、とりあえず“自分と同じ”として 話を進めてしまうことがあるだろう。 「他者と自分は同じという“概念”をつくり、 “いいかげんさ”、“あいまいさ”を認めること。 それが、ヒトの知性の源だと思っています」 では、ヒトの知性は、どのようにして生まれたのだろうか。 入來チームリーダーは、道具の使用がきっかけになったと考えている。 これまでに、ニホンザルやネズミの一種デグーが、訓練によって 道具を使えるようになることを実証。ヒトの知性へとつながる 脳機能の変化が見えてきた。 |
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関連情報
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『道具を使うサル』(入來篤史 著、医学書院、2004年)
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象徴概念発達研究チームのホームページ
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独立行政法人化5年を迎えて
世界ブランドになるために |
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理化学研究所が特殊法人から独立行政法人となったのは2003年10月。 それから5年、「野依イニシアチブ」を掲げ、野依良治理事長の強力なリーダーシップのもとで、新しい理研づくりに取り組んできた。独立行政法人 理化学研究所は何を目指し、どう変わったのか。 野依理事長は“理研はまだ世界ブランドになっていない”と指摘している。 世界の理研になるためには、何をすべきなのか。大熊健司理事に聞いた。 |
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独立行政法人のエッセンス、独立性と評価
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大熊:独立行政法人の特徴は二つあります。それは、名前の通り法人が独立性を持つことと同時に、第三者による評価を受けることです。この二つがセットになっていることが重要です。具体的には国が中期目標を設定し、法人はその目標を達成するための中期計画を作成します。それをもとに毎年、国の評価部会が目標への到達度を評価します。私たちは第1期中期計画(2003年10月〜2007年度)のもと、理研らしい独立行政法人をどうやってつくり上げるかを一生懸命に考え、取り組んできました。 ──最も重点を置いて取り組んできたことは? 大熊:法人の独立性を活かすためには、理事長が強いリーダーシップを発揮し、理研の所員、さらには外部の人も“なるほど、そうだ”と納得できる目標を掲げて、組織を運営していくことが重要です。それが、5項目からなる「野依イニシアチブ」です(図1)。さらに野依理事長は、年頭など節目ごとに、全所員に向けて一言一句ご自身が考えたメッセージを発信しています。関係者が共通認識を持つことは、リーダーシップを発揮する上で、非常に大事です。 理研には、5つの事業所と10を超えるセンター群があります。それぞれの長には、各組織でイニシアチブを取るとともに、理事長のリーダーシップを受け止めてもらわないといけません。そのために、毎月「所長・センター長会議」を開催して、双方向のコミュニケーションを絶やさないようにしています。「研究プライオリティ会議」では外部の有識者の声に耳を傾け、理研の今後を支える若手研究者の意見をすくい上げる努力もしてきました。 理事長を中心とするマネージメント側がいつも、一歩も二歩も先んじて問題をとらえて議論し、その結論を実現するように率先して手を打つことが大変重要です。また数々の議論をもとに、お金と人材という資源の配分を的確に、かつ公正に行ってきました。 ──理研ならではの取り組みもありますか。 大熊:理研には、研究者やテクニカルスタッフなど研究を担っている人と、事務職員など研究をサポートしている人がいます。その関係をどうするかが、研究所のマネージメントの一番重要なところです。野依理事長の言葉を借りれば、相互に尊敬し合い、感謝し合う関係をつくらなければなりません。幸い理研には両者が良い関係を築いてきたという伝統がありますが、組織が大きくなると相互の関係が希薄になりがちです。そのために、言葉や意識のギャップが取り返しのつかない不信感を招くことがあります。そうならないために、オープンな場で議論をして、必要な対策を速やかに取ってきました。 野依理事長は、“研究者がもっと元気を出せ”と常々主張しています。研究者の総意を組織運営に反映させるための「理研科学者会議」も、理研ならではの取り組みです。 ──独立行政法人になった理研に対する外部の評価は? 大熊:理研では、いち早く1993年から、世界の厳しい目で理研の研究とマネージメントを評価してもらう「理研アドバイザリーカウンシル(RAC(ラック))」を2〜3年ごとに開催してきました。RACで指摘を受けたことは次回のRACまでに何としてでも解決する。それをずっとやってきました。2006年6月に開催された第6回RACでは、「理研の研究の質は群を抜き、世界トップクラスと並ぶ」という評価を頂きました。とても誇らしいことです。 国の独立行政法人の評価部会からは、中期目標期間について、ほとんどの項目に対してS・A・B・C・Fの5段階の評価でSあるいはAという高い評価を頂きました。 ──自己評価はいかがでしょうか。 大熊:『理研ニュース』2008年4月号で、野依理事長が語っていることに尽きます。理研は、まだ世界的ブランド力が不足しています。本質的な科学研究をもっと進めることが、ますます大事になってきます。 |
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総合力を発揮し、世界ブランドに
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──この5年で組織も大きく変わりました。
大熊:2008年4月、横浜研究所のゲノム科学総合研究センターを再編し、また、和光研究所の中央研究所とフロンティア研究システムを統合して「基幹研究所」をつくりました。特に後者は、理研の歴史において画期的な出来事です。理研は、まるで老舗旅館のようでした。中央研究所という本館があり、その脇にフロンティア研究システムという中規模の別館がある。そして最近、センター群という高層ビルの別館が次々と建ち、本館より繁盛している。中心となる本館をしっかりさせるために、基幹研究所をつくったのです。 ──基幹研究所の役割は? 大熊:本質的な研究をリードすることです。基幹研究所の研究から新しいセンターが生まれたり、センターで生まれた研究が基幹研究所で新たに位置付け直されたりと、研究の循環システムの拠点になることを期待しています。 一方、センター群の総合力を活かせるかどうかが、世界的ブランド力のある理研になれるかを決めます。優秀な研究者が最先端の高い価値の研究をすることは当然です。加えて、異分野の研究者が組織を超えて連携し、その中から思いがけない成果を生み出す仕組みをつくることが必要です。 センターの歴史はまだ10年もありません。この5年間は、複数の組織間で連携して行う萌芽的な研究を積極的に推進するため「理事長ファンド」として資金を提供することで、総合力を発揮する基盤固めをしてきました。これからが本番です。私は研究室の主宰者の採用面接で、“理研内のほかの組織に共同研究したい人はいますか”と、必ず質問しています。研究者一人ひとりが理研の総合力を活かす努力をしたら、理研は必ず世界ブランドになりますよ。 |
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産業界の基礎研究所機能を持て
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──2008年4月から始まった第2期中期計画(2008〜2012年度)では、三本柱を掲げています(図2)。野依イニシアチブとの関係は。
大熊:野依イニシアチブは、いつも心掛けるべき永遠の課題です。三本柱は、それをベースにした戦略的課題です。 ──今後、理研はどうあるべきだとお考えですか。 大熊:もっと研究成果を社会に還元しなければなりません。理研には産学連携を進める伝統があり、最近も企業と一緒になって並走しながら研究を進める「バトンゾーン構想」の提唱や、「知的財産戦略センター」「産業界との連携センター」の開設など、さまざまな工夫をしています。さらに大きく進めて、産業界のあらゆる分野の基礎研究所としての機能を果たすべきです。 また、理研に対する誤解をぜひ解きたい。理研は人材を抱え込んでいるといわれますが、これは大きな誤解です。約3000人の研究者のうち、定年制は400人弱。約2600人は任期制で、理研で成果を挙げ、任期が終了したら国内や海外の大学や研究機関、企業に移って活躍する人たちです。しかし、本当に研究者が流動していくには、日本中の大学や研究機関で任期制研究員の枠をもっと増やす必要があります。理研は率先して、その基礎固めをしてきましたし、これからもしていかなければなりません。これは、日本の科学技術全体の発展にかかわる重要なことです。 ──理研がモデルとしている世界の研究所はありますか 大熊:モデルはありません。前例がないことをやることくらい、楽しいことはありませんよ。私たちは、理研らしい世界ブランドの研究所をつくっていきます。■ ![]()
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アルツハイマー病の脳では、「βアミロイド」と呼ばれるタンパク質が大脳皮質や海馬に凝集して、老人斑を形成する。遺伝性のアルツハイマー病患者では、βアミロイドの凝集が若年期に起こる。一方、大多数を占める非遺伝性のアルツハイマー病は、老年期に発症することから、脳の老化が最も大きな要因であるともいえる。脳科学総合研究センター アルツハイマー病研究チームは、埼玉大学と協力し、「βアミロイドの凝集」と「老化」の二つの要因を分離し検討するため、マウスで実験を行った。その結果、この二つの異なる要因がそれぞれ、「GABA抑制」を異常に促進し、記憶障害を引き起こすことが明らかになった。これは、記憶障害を改善する新たな治療方法の可能性を示すものである。この成果について、吉池裕二研究員に話を聞いた。 |
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どんな実験をしたのですか。
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吉池:ヒトでは、遺伝性の若年性アルツハイマー病、老化によるアルツハイマー病のいずれでも、老人斑が見られます。一方、老齢の野生型マウスでは、記憶障害になっても老人斑は見られません。「βアミロイドの凝集」と「老化」が、それぞれどのようにして記憶障害を引き起こすのかを調べるために、βアミロイドを過剰発現する若年期のアルツハイマー病モデルマウスと野生型老齢マウスの2種を、若い野生型マウスと比較してみました。その結果、モデルマウス、野生型老齢マウスの両方で、神経伝達物質GABA(ギャバ)の受容体を介した神経活動の抑制機構「GABA抑制」が働き過ぎて、記憶の形成をつかさどる海馬のシナプス可塑性が低下していることを発見しました。さらに、モデルマウスにGABA受容体の働きを妨げる薬剤(阻害剤)を投与すると、記憶障害が改善しました(図)。GABA受容体の阻害剤は老齢マウスの記憶能力を向上させることが、すでに知られています。つまり、GABA抑制の過剰な働きによるシナプス可塑性の低下が、βアミロイドの凝集と老化による記憶障害に共通する発症機構だったのです。モデルマウスの脳を解析した結果、“GABA受容体以外にも、シナプスのさまざまなタンパク質の量が変化していること”、“投与したGABA受容体の阻害剤がこれらを調整するように働いていること”が明らかとなりました。 |
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シナプス可塑性とは何ですか。
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吉池:シナプスとは、神経細胞間のシグナル伝達にかかわる接合場所のことです。シナプス可塑性とは、神経細胞間でシグナル伝達の効率を長期的に変えることのできる能力のこと。これまで「長期増強(LTP)」と「長期抑圧(LTD)」が知られていました。最近は、「恒常性維持のための可塑性」が注目されています。脳では、複雑な補償機構が働いて脳を守っています。脳の恒常性維持のための可塑性もその一つで、神経細胞が自らの興奮性を周りの神経細胞の活動に応じて制御しようとする調整能力です。ただ、LTPやLTDと異なり、調整には数日間かかります。
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臨床の現場でどのように応用できるのですか。
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吉池:現在検討されている治療戦略は、βアミロイドの異常凝集を阻害するような予防的なものと、ES細胞から誘導した新しい神経細胞によって失った細胞を補うものが主です。今回の結果は、薬剤によってGABA抑制のような恒常性維持のための可塑性を制御することで、神経ネットワークの異常を調整し記憶障害を改善するという、新たな治療戦略の可能性を示しています。■
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● 本研究成果は米国のオンライン科学雑誌『PLoS ONE』(8月21日)に掲載されたほか、毎日新聞・日本経済新聞(8月21日)など多数の新聞に取り上げられた。
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植物の枝分かれを制御する新しいホルモンが、理研植物科学研究センター 促進制御研究チーム(山口信次郎チームリーダー)と国内の共同研究チームによって発見された。植物の枝は少な過ぎると収穫が減り、多過ぎると品質が低下するなど、農作物の実り具合や園芸植物の観賞価値、栽培作業の効率化などに深くかかわっている。植物の枝分かれを調節するホルモンとして、「オーキシン」と「サイトカイニン」という二つの植物ホルモンが古くから知られていた。ところが1990年代半ば以降、枝分かれが過剰なイネなどの研究から、枝分かれに関係する第三のホルモンの存在が示唆されていたが、その正体は謎だった。 今回、研究チームは枝分かれが異常に多く、背丈が小さくなるイネの変異体に注目して解析した。その結果、「ストリゴラクトン」と呼ばれる物質が、枝分かれを抑えるホルモンであることを突き止めた。この変異体ではストリゴラクトンがほとんどつくられないが、ストリゴラクトンを与えると枝分かれが減った。ストリゴラクトンは未知の物質ではなく、農作物の根に寄生して養分や水分を奪い成長を妨げる植物(根寄生(ねきせい)雑草)の発芽を誘導する物質として、すでに知られていた。さらに研究チームは、ストリゴラクトンを体内では合成できず枝分かれが過剰になる突然変異体の周辺で、根寄生雑草が発芽しないことを、実験室レベルで示した。 根寄生雑草による被害は現在、世界各地に広がっており、特にアフリカでの被害は日本の耕地面積をはるかに超えている。今回の発見は、作物の収穫に直結する植物の枝分かれの制御技術に加え、成長を横取りする寄生植物の防除法の開発につながると期待されている。■ |
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● 『Nature』オンライン版(8月10日)掲載。
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波長300μm前後のテラヘルツ電磁波は、波長400〜800nmの可視光を通さない物質を透過できるため、セキュリティー検査(封筒内の毒物検査、建造物の欠陥壁検査など)、材料・生体検査(エレクトロニクス機器の部品検査、生体分子のイメージングなど)を非破壊、非接触で可能にする透視法として世界的に注目されている。今回、理研基幹研究所 石橋極微デバイス工学研究室の河野行雄研究員らが、その超高空間分解能の画像化に成功した。
空間分解能、つまり像の鮮明度は電磁波の波長に依存し、波長が長いほど像がぼやけてしまう。可視光に比べて、波長の長いテラヘルツ電磁波は、あいまいな像しか結ばない欠点があった。しかし、近接場光技術をテラヘルツ電磁波に適用することにより、波長に依存した空間分解能の限界を超えることを可能にした。具体的には、近接場光測定に必要なすべての要素を一つのチップにした特殊な半導体デバイスを開発し、9μmという超高分解能、かつ高感度のテラヘルツ電磁波のイメージングを実現した。今後、多様な応用に期待が寄せられている。■ |
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● 本研究成果は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 個人型研究「さきがけ」により行われたものです。
● 『Nature Photonics』オンライン版(8月10日)掲載。 |
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希土類ヒドリドクラスターで オンリーワンを目指す研究者
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理研基幹研究所に、希土類ヒドリドクラスターの研究でオンリーワンを目指す研究者がいる。侯(コウ)有機金属化学研究室(侯召民(ショウミン)主任研究員)の島隆則協力研究員だ。希土類金属*1化合物は、空気中で不安定なものが多いため、扱いが難しく研究対象になりにくかった。しかしその特別な性質に注目し、希土類金属同士をヒドリド(水素)で結合した集合体(クラスター)を開発し、それを新しい触媒や材料開発へつなげようとしているのだ。幼いころから音楽に親しみ、今は研究の合間にコンサートホールに通い、オペラも観るという島研究員の素顔に迫る。 |
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4歳からピアノを習い始めた島研究員。小学生のころは「ピアノ教室と警察署の剣道教室に通っていました。剣道の先生は厳しい人で、青あざが絶えないくらいでした(笑)。でも、精神面も鍛えられたし、とても楽しかったです」。中学生になると「音楽で生きていきたい! と思って、親や先生に相談したこともありました。やめておいてよかったと、今では思っています(笑)。弟も小さいころから音楽が好きで、彼はプロのジャズトランペッターとして活動しているんですよ」。高校では吹奏楽部と物理部に入部。「将来、数学者か科学者になりたいと考え始めました。数学の図形問題が好きで、パズルを解くような感覚がとても面白かったですね」 「化学に出会ったのは大学の時です。化学はいろいろと経験した努力が報われる学問、そこに魅力を感じます」。その後、ドイツへ。「ベートーベン、ブラームスが大好きで、ドイツ文化に魅力を感じていました。ドイツへはフンボルト財団から研究費の援助を受けて渡ったんです。滞在中はよくコンサートに行っていましたね」。ドイツでの研究に一区切りがついた2004年、理研へ。 |
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「学生のころから遷移金属*2を含むヒドリドクラスターの研究をしていました。希土類金属を扱うようになったのは、理研に来てからです」。なぜ希土類なのか?「重要なのは“電気的にプラスになりやすい”こと。水素原子と結合すると、相対的に水素がマイナスの電荷を帯びます。このマイナス電荷を帯びた水素が、有機物との反応に高い活性を示すんです」。どんなクラスターを開発したのか?「四つのイットリウム原子が複数の水素原子と結合したクラスターです。このクラスターは混合物をほとんど生じずに、短時間で一酸化炭素をエチレンに変えます」。エチレンは、ポリエチレンやポリ塩化ビニルのような化学製品になる物質として広い用途を持つため、この波及効果は大きい。さらに最近、希土類金属だけでなく遷移金属をも含む混合型多金属ヒドリドクラスターも開発。「イットリウム原子四つとタングステン原子一つが水素原子を介して結合したクラスターです。このクラスターは温和な条件下で水素を付加したり、脱離したりできます(図)」。エネルギー問題の解決につながる水素吸蔵合金などの材料開発は、世界が注目しているテーマだ。
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「これまでの触媒開発の主流は、一つの金属だけでした。多金属のクラスター触媒の研究は独創性が強いので、成功すればオンリーワンになれます。この研究ができるのも研究設備の整った理研だからこそです。まだ基礎研究ですが、これをベースにして新しい研究フィールドをつくり、大きく発展させていきたいですね」。最後に、「社会に貢献したい」と語った島研究員。この研究が、エネルギーや環境問題の解決につながる日を期待しよう。■
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「産業界との融合的連携研究プログラム」
研究課題の募集締め切り迫る! |
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9月1日から募集を開始した「産業界との融合的連携研究プログラム」の2009年度新規研究課題の募集が11月25日(火)で締め切りとなります。ご関心のある企業の方は早めにお問い合わせください。 このプログラムは、知的財産戦略センターが、産業界との新しい連携の試みとして2004年度から展開しているものです。企業主導のもとに研究課題の提案およびチームリーダーを受け入れて、理研内に時限的研究チームを編成するという開発側のイニシアチブを重視した研究プログラムです。
研究人材の情報提供として「研究者データベース」を公開していますのでご参照ください。 http://www.riken.jp/lab-www/icr/yugorenkei/html/search.html
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「サイエンスアゴラ2008」に参加!
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サイエンスアゴラは、“科学と社会をつなぐ”広場(アゴラ)をつくろうというイベントで、2006年から始まりました。サイエンスについて知りたいこと、考えていること、言いたいこと、訴えたいことがある一般市民から科学者・研究者まで、すべての方々に開かれた広場です。 各地で活動するNPO、企業、公的機関、大学研究室などの団体と、ボランティア活動や研究を行う個人とが、シンポジウム、ワークショップ、展示など多くの企画を出展します。いろいろな方法を通じて、サイエンス全般と、サイエンスが社会にもたらす影響やサイエンスにかかわるさまざまな問題について、共に考え、楽しむ双方向のコミュニケーションを行うイベントです。 理研もこのイベントにブースを出展するほか、「“へんてこ生物”が人類を救う?」「将棋棋士の“直観思考”を科学する!」などの講演会を開きます。ご来場をお待ちしています。
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「第4回X線自由電子レーザーシンポジウム」開催のお知らせ
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播磨研究所では、大型放射光施設SPring-8に隣接して、国家基幹技術であるX線自由電子レーザー(XFEL)施設の建設が着々と進行しています。先行して利用を開始したプロトタイプ機でも次々と新しい成果が生まれています。そこで、施設建設の進捗(しんちょく)状況と、XFEL完成後に備えて進められている利用推進研究の成果を報告し、期待される成果の創出につなげる場として、第4回XFELシンポジウム「世界が注目する日本の技術・コンパクトX線レーザー」を下記の通り開催します。研究機関の方にとどまらず、企業や一般の皆さまのご参加を心よりお待ちしています。
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新研究室主宰者の紹介
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新しく就任した研究室主宰者を紹介します。 |
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免疫・アレルギー科学総合研究センター 炎症制御研究ユニット ユニットリーダー 田中貴志(たなか たかし) |
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生年月日:1964年7月11日
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出生地:兵庫県
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最終学歴:大阪大学大学院医学系研究科博士課程
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主な職歴:大阪大学、兵庫医科大学、ハーバード大学
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研究テーマ:炎症反応を負に制御する分子機構の解明
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信条:独創的な科学技術は独創的な基礎研究からのみ生まれる
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趣味:子どもと遊ぶこと、クラシック音楽
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南極でお酒を! 地球一周見聞記 柴田 勉 SHIBATA Tsutomu |
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3月7日朝、目覚めると、船は揺れが激しい。昨日は、南米アルゼンチンの最南端に位置し、世界最果ての町といわれているウシュアイアで氷河まで登ってきた。船は昨夜のうちにウシュアイアを出港し、ドレーク海峡を航行中だ。このドレーク海峡は、南米大陸と南極半島との間に位置する約1000kmの海峡で、荒れる海として有名だ。われわれが乗っている船は3万1000トン、船内を歩くと千鳥足、寝ていてもベッドで勝手に寝返りとなる。3月8日朝、デッキに出ると、空はどんよりと曇って寒い。船の揺れも収まって、ドレーク海峡を渡り切ったようだ。いよいよ南極だ。見える島は、南シェトランド諸島。この地域には10ヶ国以上の観測基地があり、また、捕鯨の基地としても栄えたところだ。船内放送で「10時の方向にポーランドの基地が見えます」「1時の方向にクジラが見えます」などとアナウンスが流れる。クジラが2頭、潮を吹き上げ、時にはジャンプしてしっぽが最後に水面に残る。この悠々とした泳ぎは感動的だ。空は曇っているが、波は穏やか、気温0℃。毛糸の帽子に、厚手の防寒服が必要だ。小さな流氷が目立つようになり、午後になって初めて大きな卓状氷山に出会う。氷山に黒い点々が見える。双眼鏡で見るとペンギンの群れがこちらを見ている。船はゆっくりと南シェトランド諸島に沿って進み、この日はこの沖で停泊する。 3月9日、空は真っ青、風もなく素晴らしい天気だ。同乗している南極の案内を専門とするアイスパイロットも、「今年10回の航海のうち最高の天気。このような天気はめったにない」と放送で伝える。南極半島に沿ってさらに奥に進み、午後5時半パラダイス湾(南緯64度付近)に到着。真っ青な空、鏡のような青緑色の水面、険しい岩肌と真っ白な雪を載せた山々。そして、それらの山々が水面から聳(そび)え立ち、稜線(りょうせん)と青空のコントラストがくっきりとし、その雄姿が鏡のような青緑の海面に反映する。時折、アザラシが寝そべった流氷があり、ペンギンは水面をバタフライしながら飛び、鯨が潮を吹いて通り過ぎていく。 デッキでは、南極の氷を入れた「南極カクテル」を嗜(たしな)む者、写真を撮る者、絵を描く者、じっと景色を眺めている者、いろいろな楽しみ方をしているが、若者グループは半裸になって大縄跳びをし、ダンスをして大はしゃぎしている。この景色の中にいると、人は何かに憑(つ)かれたような行動をする。夕食の後、この景色の中で、昭和34年の第4次南極観測越冬隊に参加し、ブリザードに巻き込まれ無念の死を遂げた理研の福島紳研究員をしのび、そして南極の温暖化について考えながら、ずっと焼酎のお湯割りを飲んでいた。誰が名付けたか「パラダイス湾」、南極は素晴らしい。 今回の「地球一周」は、平成20年1月12日、横浜港出港、寄港地16ヶ国(うち南半球が12ヶ国)、5万9342km(約地球一周半)を航行し、4月28日横浜港着、108日間の旅であった。今度南極に行ったなら、焼酎ではなく、原酒にしよう。 ■
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