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ES細胞やiPS細胞から
安全な赤血球を無限につくる 中村幸夫バイオリソースセンター細胞材料開発室 室長 |
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感染症のリスクがない赤血球を大量につくり、輸血に使う ──そんなことが現実になろうとしている。 細胞材料開発室では、マウスのES細胞(胚性幹細胞)から、 赤血球に分化する直前の細胞株をつくることに成功。 この成果を2008年2月にプレスリリースしたところ、 朝日、読売、毎日、産経、日本経済新聞など多数の紙面を飾り、 大きな反響を呼んだ。この赤血球前駆細胞株をもとに、 赤血球を無限につくり出すことができるからだ。 中村幸夫室長らは、ヒトのES細胞あるいは iPS細胞(人工多能性幹細胞)から赤血球、さらには 白血球や血小板をつくり、臨床へ応用することを目指している。 また、2008年3月からマウスのiPS細胞の分配を開始した。 細胞材料開発室は今後の医療や創薬研究など ライフサイエンス分野にどんな貢献をするのだろうか。 |
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感染のリスクがない安全な輸血を
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「ES細胞から赤血球のもと─マウスでの実験 理研チーム成功 献血不要になる?」「赤血球 無限に作製─マウスで理研めど 輸血用供給へ道」。そんな見出しが、今年2月6日、7日の新聞各紙を飾った。「想像以上に反響が大きかったですね。ちょうど血液製剤によるC型肝炎の感染が報道されていた時期で、皆さんの関心も高かったのでしょう」と、この画期的な成果を発表した細胞材料開発室の中村幸夫室長は言う。「私たちは、人工的に赤血球をつくりたいと、ずっと考えてきました。その背景には、少子高齢化による輸血用赤血球の不足、輸血や血液製剤によって肝炎などに感染するといった薬害の問題があります。不特定多数からの献血に頼っている限り、輸血などによる感染のリスクを100%排除することは難しいでしょう。今回の私たちの成果は、マウスのES細胞(胚性幹細胞)から赤血球前駆細胞株をつくることに成功した、というものです(図1)。これにより感染のリスクのない赤血球を無限につくり、それらの問題を解決できると期待しています」 細胞材料開発室では、以前から赤血球を大量につくり出す研究に取り組んできた。「2006年には、臍帯(さいたい)血に含まれる造血幹細胞から大量に赤血球をつくる技術を開発しています。これも画期的なものでした。しかし……」 臍帯血とは、胎盤や赤ちゃんのへその緒に含まれる血液で、赤血球や白血球、血小板など血液系の細胞のもとになる造血幹細胞が多量に含まれている。中村室長らは、臍帯血に含まれる造血幹細胞に複数の増殖因子を加えて培養することで、1個の造血幹細胞から70万個の赤血球をつくり出すことに成功したのだ。「赤ちゃん1人分の臍帯血から200〜400ccの輸血用赤血球をつくることができます。この技術によって感染のリスクのない赤血球を大量につくることは、理論上可能になりました。しかし、コストがとても高い。これでは献血に代わることはできません」 そこで中村室長は考えた。「造血幹細胞から赤血球をつくろうとするから、たくさんの増殖因子が必要でお金も時間もかかるんだ。しかも、幹細胞には寿命がある。赤血球になる直前の細胞をつくっておき、それを培養して増やすことができれば、効率よく赤血球をつくり出せるはずだ」と。「まずは、マウスのES細胞から赤血球前駆細胞の細胞株ができないか、試みることにしました」 “ES細胞”とは、受精卵が数十回分裂した胚盤胞から細胞の塊を取り出し、特殊な方法で培養したもの。ES細胞は、あらゆる種類の細胞に分化する能力を持ち、その性質を保ったまま増殖もできる。もう一つのポイントが“細胞株”だ。細胞は培養を続けると、増えなくなったり、性質が変わったりしてしまう。細胞株とは、元の性質を保ったまま、半永久的に培養して増やすことができる特殊な細胞のことである。 中村室長らは、8種類のマウスES細胞を使って、血液系の細胞に分化誘導させる実験を63回行った。そして、最終的に3種類の赤血球前駆細胞の細胞株をつくることに成功した。「3種類の赤血球前駆細胞株は、1年以上培養しても増え続けています。性質も変わらず、分化させるとヘモグロビンを産生して赤くなり、核が抜けて成熟した赤血球になります(図2)」 成功の要因を聞くと、「寛山(ひろやま)隆研究員の培養技術」と即座に返ってきた。「寛山研究員は、マウスやサルのES細胞の培養を6年ほど前から行っています。その中で習得してきた技術と知識、経験のたまものです。細胞培養は、誰でも同じようにできるものではないんです。例えば、培養液も頻繁に変えればよいわけではなく、細胞の“顔”を見ながらタイミングを図る必要があります。それは教えられてできるものではなく、センスですね」 ![]() |
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iPS細胞の登場で期待も大きく
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今回の成果の意義を、中村室長はこうまとめる。「実は、なぜ赤血球前駆細胞株ができたのか、そのメカニズムは分かっていません。分化誘導実験を63回行いましたが、加えた増殖因子などの条件はすべて同じです。つまり、理由は分からないが、何度もトライすればES細胞から赤血球前駆細胞株ができることが分かった。それが、一番大きな意義でしょう。マウスでできたのですから、ヒトのES細胞からも赤血球前駆細胞株ができる可能性があります。私たちは、すでにその実験を始めています」
ES細胞からつくった細胞を移植すると、その細胞ががん化するケースがあり問題となるが、中村室長は「その心配はない」と断言する。「ES細胞から赤血球前駆細胞株をつくっておき、それを必要なだけ増やし、試験管の中で赤血球に分化させます。それを輸血すればよいのです。成熟した赤血球は核がありませんから、分裂しません。がん化する心配はないのです」 しかし、別な危惧もあった。「マウスのES細胞から赤血球前駆細胞株ができる確率は63分の3でした。ヒトのES細胞からできる確率は、もっと低いでしょう。ES細胞は細胞ごとに性質が違うのでいろいろな種類で試したいのですが、現在日本で樹立されたヒトES細胞は3種類だけ。そこからは、できないかもしれません」 ところが、その心配は突然吹き飛んだ。2007年11月、京都大学の山中伸弥教授がヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立に成功したという報(しら)せが舞い込んできたのだ。“iPS細胞”とは、ES細胞と同じようにあらゆる細胞に分化する能力を持ち、その性質を保ったまま増殖もする。山中教授は、ヒトの皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入して培養することで、iPS細胞をつくり出すことに成功(図1)。受精卵からつくられるES細胞に比べ倫理的な問題が少なく、患者さんの細胞からiPS細胞をつくり、それを目的とする細胞に分化させれば拒絶反応のない移植が実現できると、期待が高まっている。 「iPS細胞は皮膚細胞からもつくることができるので、たくさんの人から比較的容易に試料を提供してもらうことができ、由来の異なるものをつくりやすい。何十種類、何百種類のiPS細胞があれば、その中から赤血球前駆細胞株ができる可能性は高まるでしょう」
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1300種類の細胞株を即時提供可能
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細胞材料開発室は、二つの顔を持つ。一つは、ここまでに紹介した“研究開発”の顔。もう一つが、“細胞バンク”としての顔だ。
実験にはたくさんの細胞が必要だが、細胞を長期培養していると、増えなくなったり、性質が変わったりしてしまう。そこで研究者は、元の性質を維持したまま半永久的に培養で増やすことができる“細胞株”をつくる努力をしてきた。「細胞を不死化させる遺伝子を導入したりするのですが、細胞株の樹立はとても難しいんです」と中村室長は言う。一度できた細胞株は貴重で、それを譲ってほしいという研究者も多い。これまでは、その細胞株を樹立した研究者が保存し、依頼があれば個人的に分けていた。しかし、その研究者が退官などで研究をやめてしまうと、貴重な細胞株が失われてしまうこともある。理研では1985年から、細胞などの実験材料の収集、保存、提供を組織的に行うバイオリソースバンク事業を行ってきた。2001年にはバイオリソースセンター(BRC)が設立され、細胞材料開発室は文部科学省の“ナショナルバイオリソースプロジェクト”において、動物培養細胞とヒト細胞のバイオリソース事業の中核機関にもなっている。 細胞材料開発室が即時提供可能な細胞は、ヒト細胞約600種類、ヒト以外の細胞が約700種類。中村室長らが樹立した赤血球前駆細胞株もその一つだ。「世界最大の細胞バンク、米国のATCC(American Type Culture Collection)でも即時提供可能なヒト細胞は約700種類ですから、決して引けをとっていません」と中村室長は胸を張る。造血幹細胞を多く含む臍帯血や、骨や筋肉の細胞に分化する間葉(かんよう)系幹細胞も扱っているのがBRCの特徴だ。 しかし、「まだまだ不十分」だと言う。「同じ肝臓細胞の細胞株でも、AさんとBさんの肝臓から取った細胞では性質が違います。細胞ごとに10種類くらいずつは集めたいですね」。例えば、肝臓細胞は、製薬会社が薬剤の代謝の研究に使うことが多い。代謝は個人個人で異なるため、性質の違うさまざまな肝臓細胞を使って効果や副作用を確認する必要があるのだ。 細胞材料開発室では、提供可能な細胞の種類を増やすため、全国の大学などの研究室で眠っている細胞株を発掘する努力を続けている。また中村室長は、細胞株をつくる研究者が減ってきている現状を嘆く。「細胞株を樹立しただけでは論文にならないので、誰もやりたがらない。国が資金を提供して、研究者に細胞株の樹立を促進していくことも必要でしょう」 細胞材料開発室は、BRCの微生物材料開発室とともに2007年8月、「ISO(アイソ) 9001」の認証を取得した。これは、国際標準化機構(ISO)が設定する品質管理マネジメントの国際規格である。「細胞バンクでは、ドイツのDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zel)が最初に取得し、私たちは2番目です。米国のATCCは2007年12月に取得したので、私たちの方が先輩です」 細胞材料開発室では現在、マイコプラズマなど微生物の汚染がないことを検査し、さらに遺伝子配列を調べて取り違えがないことを確認した上で、細胞を提供している。また、長期培養によって本来の性質が変わってしまうことがある。ES細胞であれば、あらゆる細胞に分化できる能力が失われていたら、その価値はゼロだ。本来の性質が維持されていることも確認し、その結果を付随情報として提供している。「汚染がなく、取り違えがないというのは、品質管理の基本中の基本。これからは、遺伝子の発現プロファイリングなどさまざまな付随情報を付け、細胞の価値を高めていく必要があるでしょう」 |
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マウスiPS細胞の分配開始
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細胞材料開発室では2008年3月から、京都大学から委託を受けたiPS細胞の分配を始めた(図3)。iPS細胞の培養は、普通の細胞よりも難しいという。「自分がつくった細胞株は、かわいいんですよ。いいかげんな人には任せたくないものです。山中先生もきっとそうでしょう。高品質な細胞であればあるほど、リソース事業に携わる人にも高度な技術が要求されます。私たちは、リソース事業だけをやるのではなく、自らも研究開発を行うことで知識や技術を取り入れ続けています。研究開発とリソース事業は両輪なんです。私たちが行っている研究とリソース事業が信頼されたからこそ、iPS細胞の分配を任せていただいたのだと思います」
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次は白血球や血小板を
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中村室長は以前、血液内科の臨床医だった。「白血病など血液の病気は若い人に多いので、何とかしたいと思って血液内科の医師になりました。でも、臨床現場にいると基礎研究が必要だと感じて、1990年に理研に来ました。2〜3年のつもりだったのですが(笑)。今でも白血病などの患者さんを救いたいという想いは変わりません。まずはマウスのES細胞から赤血球前駆細胞株をつくりましたが、ヒトのES細胞やiPS細胞から白血球や血小板をつくりたいと思っています」。白血病では、治療の後に白血球が極端に減少し、そのままでは重篤な感染症を起こしてしまう。白血球の輸血が効果的なため、家族に提供してもらうのだが、提供者の負担が大きく頻繁にはできない。白血球を大量につくることができたら、白血病の治療に革命をもたらすことだろう。
「赤血球でできたのだから、白血球や血小板もできる可能性は絶対にありますよ」。そう語る中村室長の顔は自信に満ちていた。■
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分子で電子を操る
加藤礼三 基幹研究所加藤分子物性研究室 主任研究員 |
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パソコンや携帯電話、デジタルカメラなど、 さまざまな電子機器の機能を生み出している物質中の電子は、 私たちの日常感覚とはかけ離れた量子力学の原理に従って動いている。 「量子力学は数学の言語で書かれています。 それを理解することは決して楽ではありませんが、 その先にはとても面白い世界が広がっています。私たちは、 そのことをもっと多くの人に知ってもらうよう 努力しなければいけません。皆さんは 宇宙誕生やブラックホールの理論にロマンを感じるでしょう。 そのような現象でも量子力学が中心となって働いています。 身近な電子機器の中にも、宇宙に負けないくらい不思議な現象、 ロマンが潜んでいます。最近、分子化合物の結晶の中に 素粒子ニュートリノと同じ振る舞いをする電子を、当研究室の 田嶋尚也 専任研究員が発見しましたが、これもその一例です」 こう語る加藤礼三 主任研究員たちは、新しい超伝導体や 電子機器の材料を、有機物を中心とした分子化合物により 生み出している。 |
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新しいタイプの超伝導体を発見
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「物質中の電子が見せる量子力学の不思議な現象、その代表が超伝導です」と加藤主任研究員は言う。超伝導は、物質をある温度(転移温度)以下に冷やすと、電子が電気抵抗を受けることなく流れるようになる現象である。1911年に水銀で初めて超伝導現象が発見されて以来、長い間、この現象は電気を通しやすい金属や合金でのみで発見されてきた。ところが1980年、絶縁体の代表であった有機物で超伝導体(有機超伝導体)が発見された。さらに1986年、やはり電気を通しにくい銅酸化物で超伝導体が発見され、その転移温度は30K(約−243℃)と、当時の最高記録23Kよりも “高温”で超伝導状態を示した。こうして“高温超伝導フィーバー”が世界中に巻き起こり、より転移温度が高い超伝導体を開発する競争が始まった。現在、転移温度の最高は銅酸化物で160K(約−113℃)に達している。「銅酸化物と有機物の超伝導のメカニズムには共通部分があると考えられています。その仕組みの解明が世界中で20年以上続けられ、研究は進展してきましたが、誰もが納得のいく理論はまだ登場していません」 超伝導が起きるには、電子がペア(クーパーペア)を組む必要がある。しかし、マイナスの電気を帯びて、近づけると反発し合う電子同士がどのようにしてペアを組むのか、それが超伝導メカニズムの最大の謎だ。 金属では、一部の電子が原子から離れてプラスの電気を帯びたイオンが並んだ結晶格子(こうし)がつくられている。そのプラスの電気を帯びた結晶格子が振動してのりの役目を果たし、電子同士が結び付くという「BCS理論」が1957年に発表され、その提唱者たち3人には1972年にノーベル物理学賞が贈られた。しかし、銅酸化物や有機物の超伝導は、このBCS理論では説明できないと考えられている。「超伝導になる銅酸化物と有機超伝導体のもととなる物質は、どちらも電気を通さない絶縁体です。ここで重要なのは、そのもととなる物質が磁石の性質を持つことです」。この場合の磁石の性質は、電子のスピンという地球の自転に似た運動に由来する。スピンは上向きか下向きかのいずれかの状態を取る。電子は小さな棒磁石のように働き、そのN極が上か下を向いているのだ。 銅酸化物と有機超伝導体のもととなる物質では、この電子スピンの向きが低温で互い違いの状態で安定している(図1 |
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フラストレーションで電子がペアを組む
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ところが2007年、これとは別の状態からも超伝導が現れることを、加藤分子物性研究室の田村雅史 元 副主任研究員(現 東京理科大学 教授)、清水康弘 元 基礎科学特別研究員(現 名古屋大学高等研究院 特別講師)、田嶋陽子 協力技術員たちが発見した。
新しい現象が発見されたのは、Pd(dimt)2という分子からできた化合物だ。この化合物もスピンの向きが互い違いになろうとする性質を持つ。しかし、その結晶格子は三角形が敷き詰められた構造になっている(図1 Pd(dimt)2化合物で驚くべき現象が起きた。「温度を下げると結晶格子が自発的にひずんで、電子が近づいてペアをつくり、二つの電子のスピンが打ち消し合って、スピンが見掛け上なくなりました。これは水素原子二つが共有結合で結ばれ、水素分子ができるのと同じ仕組みです。スピンを消すことでフラストレーションを解消したのです。この状態は絶縁体ですが、これに少し圧力を掛けて分子同士を近づけ電子が分子の間を跳び移りやすくすると、超伝導が現れました(図1 スピンの向きが互い違いの状態から超伝導へ至るルートとは別に、スピンが打ち消された状態から超伝導へ至る新しいルートが発見されたのだ。「銅酸化物や有機物の超伝導の仕組みを説明する理論では、新しいルートからの超伝導も説明しなければいけなくなりました。理論家たちは困っているかもしれませんね。私たち実験家は、理論家が困るような現象を見つけるのが楽しみです。そのような発見が、理論を大きく進展させることにつながります」 超伝導の理論の進展は、より高い転移温度の超伝導体を開発することに役立つ。現在、高温超伝導体を利用して、よりエネルギー効率の高い送電線や超伝導磁石の開発が進められている。ただし、現在の転移温度は最高でも160K。この温度以下に冷やさなければ超伝導状態にならない。もし、室温で超伝導を示す室温超伝導体が発見されれば、エレクトロニクスに一大変革をもたらし、エネルギー問題の解決にも大きく貢献する。「高温超伝導体の発見で転移温度が1桁、つまり10倍近く上がりましたが、160Kから室温(300K程度)へはわずか2倍の向上です。私は、室温超伝導の実現は不可能だとは思っていません。今回、私たちが示した“電子スピンのフラストレーション解消”が、そのきっかけになることを期待しています」 |
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100ペタバイトのメモリーをつくる
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2008年1月、加藤分子物性研究室はエレクトロニクスに一大変革をもたらす可能性を秘めた、もう一つの研究成果を発表した。山本浩史 専任研究員たちが、絶縁体で包まれたナノワイヤの合成に成功したのだ(図2)。
さまざまな電子機器の高性能化や小型・軽量化は、メモリーの大容量化によって支えられている。そのメモリーの大容量化は、記憶素子と配線の微細化によって実現している。現在、半導体に刻み込むことができる配線の幅は数十nmのレベルに達しているが、さらにその先の微細化のための材料として注目されているのが、直径1nm(10−9m=10億分の1m)程度のナノワイヤだ。現在、炭素からなるカーボンナノチューブや半導体ナノワイヤが開発されているが、それを絶縁体で包む技術は確立されていないので、回路をつくったときにショートしてしまうという問題がある。 山本専任研究員たちは、伝導性の有機分子と絶縁性の有機分子を組み合わせることで、絶縁体に包まれたナノワイヤを合成することに成功した。このナノワイヤは、それぞれの有機分子が自発的に集まり、弱い力で結び付いて複雑な構造をつくり出して機能する。要素が自然に集まり複雑な構造をつくることを「自己組織化」という。 「例えば、複数の分子の形が鍵と鍵穴のような関係になっていて、それらを混ぜると自然に結び付いて、複雑な構造ができる場合があります。私たちは有機分子などを用いて、電気を通す分子化合物を自己組織化でつくる実験を続けてきました。その成果の一つが、絶縁体に包まれたナノワイヤです」と加藤主任研究員は語る。「最初から狙って複雑なナノワイヤの構造をつくった、と言ったらうそになりますね(笑)。いろいろ試してみて偶然に原型となる構造ができ、それを改良していったのです」 従来の半導体回路には、2次元の平面上に素子や配線が微細に刻み込まれている。山本専任研究員たちが開発したナノワイヤを3次元的に組み上げて回路をつくることができれば、1cm3当たり100ペタバイトという膨大な記憶容量を持つメモリーができる可能性がある(図3)。 100ペタバイトとは、いったいどのくらいの記憶容量だろう。現在のUSBメモリーやDVD、ハードディクスの容量はギガ(109=10億)単位、その上がテラ(1012=1兆)、さらにその上がペタ(1015=1000兆)だ。100ペタバイトとは、1ギガバイトのUSBメモリー1億個分、次世代DVD“ブルーレイディクス”(50ギガバイト)の200万枚分の記憶容量に相当する。「このような大容量メモリーが実現すれば、メモリー容量による動作の制約がなくなり、これまで想像もしなかったような機能を持つ電子機器が生まれることでしょう」 大容量メモリーの実現に向けた最大の課題は、どのようにしてナノワイヤを組み上げるかだ。ここでも、自己組織化が重要な手段となる。「これからの研究なので、いつごろ実現できるかは予測できませんが、何らかのブレークスルーがあれば、自己組織化によって簡単にできてしまう可能性があります」と加藤主任研究員は展望を語る。
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生体分子の機能メカニズムに学ぶ
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「もし、半導体の現在主流となっているシリコンのような無機物を用いてヒトの脳と同じような機能を持つコンピュータができたとしても、それは巨大なもので、膨大な電力を消費するでしょう。一方、私たちの脳はコンパクトで、エネルギーもあまり使いません。現在の太陽電池も、光エネルギーの利用効率で植物の光合成にはかないません」なぜ、生物の機能は効率的なのか。生物の材料であるタンパク質などの生体分子も、有機物を中心とした分子化合物である。その特徴は、柔軟で、無数の種類があることだ。「そして生体分子は、わずかな条件の変化で性質を大きく変えることにより、効率的に機能すると考えられます。それは、例えば有機超伝導体において少し圧力を加えただけで絶縁体から超伝導体へ大きく性質を変えることに似ています」 タンパク質はほかのタンパク質やDNAと弱い力でくっついたり離れたりしながら、分子の形を変えたり電子を受け渡したりしながら機能する。「弱い力で複数の分子が相互作用して機能する点でも、私たちが研究している電気を通す分子化合物と似ています。その機能は化学反応によるもので、電子の運動によって駆動されています。生体分子の機能を本質的に理解するには、電子状態を理解する必要があるのです」 加藤分子物性研究室では、物性研究やタンパク質の構造・機能解析、タンパク質に働く低分子の開発を進めている理研内の研究チームと、「分子アンサンブル研究推進グループ」をつくり、生体分子の機能メカニズムを電子レベルで解明する研究に取り組んでいる。 「実は、電気を通す分子化合物の電子状態はとても分かりやすいのです。例えば鉄の中を動き回っている電子の状態をきちんと計算するには、とても大掛かりなコンピュータが必要です。一方、電気を通す分子化合物では、もともと分子にとどまっていた電子が、無理やり動かされて分子の間を跳び移るような状態にあります。そのような電子状態はパソコンや、簡単なものなら筆算でも計算可能です。生体分子で働く電子も同じような性質を持つと考えられ、私たちが分子化合物の電子状態を調べている解析手法が有効であることが分かり始めてきました」 新しい視点の研究により、生体分子の機能メカニズムが電子レベルで解明されるとともに、それにヒントを得て、分子化合物を材料に用いた高性能・高効率・省エネルギーの電子機器が開発されることだろう。■
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新産業創出の拠点
「和光理研インキュベーションプラザ」 |
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2008年2月、理研和光研究所の隣接地に 「和光理研インキュベーションプラザ」が開所し、 活動を開始した(図)。 研究開発型のベンチャー企業や新事業の展開を図る 中小企業にスペースを提供し、 インキュベーション・マネージャー4人が常駐して、 入居した各企業の課題に応じて情報提供や 経営上の支援など総合的なサポートを行う。 このプラザに入居した2社の代表に話を聞いた。 |
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このプラザは、(独)中小企業基盤整備機構、埼玉県、和光市と理研の4者連携により設立され、理研の研究成果を企業と緊密に連携して技術移転する「バトンゾーン」としての役割も期待されている。入居に当たっては25社から応募があり、審査の結果、17社が選ばれた。入居期間は最長5年。入居企業はその間に大きく事業を発展させ、プラザを“卒業”することが求められている。17社の事業分野は、「ナノテクノロジー」「精密加工」「光・中性子・電子応用」「ITソフト(ものづくり支援)」「医薬・医療機器」「環境(省エネ)」の6分野にわたり、17社のうち11社が、理研の研究者が自らの研究成果を中核技術として起業した「理研ベンチャー」となっている。 |
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プラザの存在が理研の研究者の好奇心を刺激する
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まず、理研ベンチャーの1社、FLOX(株)の田島右副 代表取締役社長(理研基幹研究所 田島ナノ統合化材料研究ユニット 研究ユニットリーダー)に話を聞いた。──理研ベンチャーにとって、プラザに入居するメリットは何ですか。 田島:何といっても地の利です。理研ベンチャーは、理研の研究室と共同研究しながら技術の産業応用を図っています。私の研究室がある和光研究所のすぐそばにFLOXの活動拠点ができたことは、とても大きなメリットです。顔を直接突き合わせて議論しなければ解決できないことがたくさんあります。これまでは活動拠点が神奈川県川崎市にあったので、研究室との間で定期的にしか会議を開けませんでした。これからはいつでも情報交換ができます。FLOXで受けたユーザーからの要望を、すぐに研究室へ伝えることも可能になりました。 ──FLOXは、どのような事業を行っているのですか。 田島:C60に代表されるフラーレンという物質には、産業に役立つ要素がたくさんあります。それも見越して、フラーレンの発見に対して1996年にノーベル化学賞が贈られました。しかし、フラーレンはいまだに普及していません。それは、フラーレンの性質に扱いにくい部分があるからです。FLOXでは、私が理研で生み出した技術をもとに、フラーレンを扱いやすいように加工したナノカーボン材料を開発・製造、販売しています。その用途は多岐にわたります。その中で、私たちが提供した材料を使って今までにない特長を持った製品が一つでも二つでも生まれれば、私たちの事業は一気に拡大するでしょう。それを狙っています。 ──理研にとってプラザはどのようなメリットがありますか。 田島:産業界の立場から理研の研究を間近に見ることができる環境が整いました。ユーザーからの要望に応えるためにこの技術が使えそうだ、といった視点で理研の研究を見ることができるのです。産業界で応用できる理研の技術をすくい上げる拠点として、プラザがその役割を果たせば、理研の目標の一つである「世の中の役に立つ理研」の実現に大きく貢献するでしょう。 ──理研の研究テーマにも影響を与えそうですか。 田島:理研、特に基幹研究所は、研究者個人の好奇心に基づき新しい科学の芽を生み出すところです。その好奇心は、研究者の頭の中に何があるかによります。プラザの開設により、産業界と理研の日々の交流が活発になると、産業界の情報が研究者の頭の中にどんどんインプットされていきます。それが刺激となって理研の研究者の好奇心が大きく広がり、新しい視点からの研究が生まれてくることでしょう。
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プラザを拠点に理研との連携を図る
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次に、理研ベンチャーではない入居企業の1社、(株)ERCテクノロジーの山崎和俊 代表取締役社長に話を聞いた。──プラザに入居応募した理由は何ですか。 山崎:広いスペースが確保できること、そして理研との連携に大きな期待を持って応募しました。 ──ERCテクノロジーの事業内容を教えてください。 山崎:私たちは、抗菌効果を持つ安全性の高い界面活性剤を開発しました。洗剤に入れて抗菌効果が落ちない物質は、これまで存在しませんでした。この新しい界面活性剤の開発が業界紙で報道されたところ、世界各国の十数社から連携の打診が来ました。すでに大手メーカーと連携して、この界面活性剤を用いた化粧品や洗剤、医薬品の共同開発を進めています。 もう一つ、私たちは新しい独自技術を持っています。オゾン水を利用したメッキ技術です。この技術を使えば、従来メッキすることが難しかった材料、例えばフレキシブル基板として用いられるポリイミドにもメッキ処理が可能となります。従来にない優れた機能を持つ新しい材料ができるはずです。しかし、私たちはメッキ処理が専門ではないため、どのような用途があるのか、どのような事業展開が可能か、調査・検討している段階です。プラザに入居している理研ベンチャーと連携して、この新しいメッキ処理技術を生かしてどんな面白い展開が可能か、探っていきたいと考えています。 ──理研本体よりも、まずは理研ベンチャーとの連携をお考えですか。 山崎:そうですね。理研は基礎研究を行っているところなので、いきなり共同研究を進めるのは難しい気がしています。まず、私たちと近い存在である理研ベンチャーと連携を図り、そこを糸口にして理研本体と共同研究できることはないか、探っていくつもりです。このプラザでは理研ベンチャーとの交流会も定期的に開かれることになっています。とても楽しみにしています。 当社は上場を目指しています。そのためには、急成長できる事業を生み出す必要があります。このプラザを拠点に、理研やメーカーなどと連携し、私たちの独自技術を生かした新事業の創出を図っていきます。 和光理研インキュベーションプラザの開所により、理研と産業界の交流が加速し、新しい産業、新しい技術が次々と生み出されていくことだろう。■
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大切な命を乗せ、生活に欠かせない物資を運び続けるタイヤは、悪路にもスピードにも急なストップの繰り返しにも耐え、安全・安心で、環境に優しく低燃費という社会的な要請にも応えなければならない。こうしたさまざまな条件を満たす次世代の合成ゴムの研究・開発には、ゴムの分子レベルでの研究成果を活用することが不可欠だ。現在の合成ゴムの代表格の一つが、反発弾性、耐久性などに優れている「ポリブタジエン」で、その持っている機能を最大限に発揮させることが大きな目標となっていた。今回、理研知的財産戦略センター 産業界との融合的連携研究プログラム エラストマー精密重合研究チームと(株)ブリヂストン、JSR(株)は共同で、高性能のポリブタジエンを高い効率で合成することができる画期的な触媒の開発に成功。この成果について、同チームのオリビエ・タルディフ研究員に聞いた。 |
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ポリブタジエンとは、どんなものですか。
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タルディフ:「ブタジエン」は、炭素と水素がつながった炭化水素の一種です。現在は原油を熱分解し精製されます。1934年、ドイツは金属ナトリウム触媒を用いて、このブタジエン分子同士をいくつも結び付けた高分子「ポリブタジエン」の合成に成功しました。しかし、そのポリブタジエンは成形しにくく応用には不向きでした。その後、1960年にカール・チーグラー(ドイツ・マックス・プランク研究所)とジュリオ・ナッタ(イタリア・ミラノ工科大学)らが発見したチーグラー・ナッタ触媒を使って、合成ゴムとして高性能なポリブタジエンをつくることができるようになりました。日本でも1960年代、古川淳二 教授(京都大学)の指導のもと、独自のニッケル触媒が開発・工業化され、現在でも合成ゴム製造の主流になっています。
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高性能なポリブタジエンはどうやってつくるのですか。
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タルディフ:ブタジエン分子同士を結合させるといっても、結合の仕方にはシス型、トランス型、そしてビニル型の3種類があります。実際に製造されるポリブタジエンには、その3種類が混在しています。このうちシス型構造のものが、合成ゴムとして優れた性能を持つことが知られています。チーグラー・ナッタ触媒などを使うと、92〜97%がシス型のポリブタジエンを製造することができます。
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92〜97%というとかなり高いように思えますが、問題があるのですか。
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タルディフ:残りのわずか3%がとても重要です。その3%が不純物として邪魔者なのです。シス型構造の純度をさらに高めると、ゴムの性質が決定的に変わります。近年、実験室のレベルでは、その不純物を限りなく0に近づけることができるようになったのですが、触媒が低温でしか性能を発揮しない、触媒の使用量が多く分解しやすいなど、実用化するまでには至らない状況が続いていました。
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今回、その難題を解決したわけですね。
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タルディフ:2003年に理研が開発した錯体触媒「ガドリニウムメタロセン錯体触媒」をもとに、チーグラー・ナッタ触媒を凌駕(りょうが)する新たな触媒をつくりました。低温で成功しても高温では失敗するなどの試行錯誤を繰り返して、ようやく70℃という高温条件で機能する新触媒を完成させることができたのです(図)。この触媒は使い方も非常に単純で、混ぜるだけでよく、しかもガドリニウム原子1個に対してブタジエン分子を100万個も反応させるという驚異的な反応力を持ちます。これまでは200個程度でした。また、シス制御率が99%、これはすごいことなんです。 |
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開発した触媒への期待はどうですか。
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タルディフ:2008年度には、ブリヂストンとJSRと共同で、タイヤとして実用化したときの性能評価を行うなど、製品化検討を着実に進めていく予定です。今回の成果が実用化されれば、耐久性がアップするのでタイヤに使用するゴムの量が減り、資源の節約となるばかりか、車両の軽量化、低燃費化を通してCO2排出量の削減につながるでしょう。■
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*参考 『理研ニュース』2006年9月号「FACE」
● 本研究成果は日刊工業新聞(2/11)、日経産業新聞(2/14)などに掲載された。 |
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細胞は細胞周期に従って細胞分裂を繰り返して増殖する。一周期が進む過程でDNAが複製され、それを二分するように分裂するのだ。生物の発生や再生では、増殖と分化が見事に絡み合うことで組織、器官、そして個体が形成される。この制御が破たんして細胞の増殖が盛んになると「がん」になる。細胞分裂の周期を制御するメカニズムを知ることは、生命現象を知る上で不可欠だが、これまで周期の進行をリアルタイムでとらえることはできなかった。今回、理研脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チームは、(独)科学技術振興機構、(財)東京都臨床医学総合研究所、(財)癌研究会癌研究所などと共同で、生物個体内で進行する細胞分裂の周期をリアルタイムで観察できる蛍光イメージング技術の開発に世界で初めて成功した。この成果について、宮脇敦史チームリーダーに聞いた。 |
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細胞周期について教えてください。
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宮脇:細胞周期は、分裂が起きる「M(Mitosis)期」とDNAの複製が起こる「S(Synthesis)期」、その間をつなぐ「G1(Gap1)期」、「G2(Gap2)期」に分けられ、G1→S→G2→M→G1……の順で進みます。生体サンプルを固定・染色することによって、それぞれの段階を顕微鏡で観測することは従来技術でもできました。でも、生きた細胞でその変化の様子をリアルタイムで見ることはできませんでした。
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今回、リアルタイムで見ることに成功したポイントは。
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宮脇:細胞周期の特定の時期に限って核内に蓄積する二つのタンパク質、「Cdt1」と「Geminin(ジェミニン)」に着目しました。Cdt1はG1期、つまり分裂を終えた細胞がDNA複製の準備をする時期に最も増え、G1期以外の時期には分解されてしまうため存在しません。逆にGemininは、DNA複製から細胞分裂に至るS〜M期に存在し、G1期には存在しません。このような分解のメカニズムを利用したのです。
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もう少し詳しく教えてください。
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Fucciを使ってどんなことが分かったのですか。
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宮脇:拒絶反応を示さないヌードマウスに、Fucciを発現する良性腫瘍(しゅよう)と悪性腫瘍の細胞を移植してみました。移植後半月ほどたって、良性腫瘍の細胞核はすべて赤い蛍光色を発していました(図C)。細胞の増殖が止まり、G1期で落ち着いていることを示しています。一方、悪性腫瘍の細胞塊は、赤と緑の核が混在して全体的に黄色く見えます(図E・F)。細胞分裂が盛んに繰り返されている状況を示しています。さらに、浸潤・転移の様子を模擬する実験も行いました。悪性腫瘍細胞が血管壁をすり抜けて組織内に浸潤する際の、細胞周期の進行を詳しく観察することができました。この技術は、がんの悪性度の判定やがん治療薬の評価、移植後のES細胞や人工多能性幹細胞(iPS細胞)の増殖のモニタリングに役立つものと期待されています。■
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● 本研究成果は米国の科学雑誌『Cell』(2月8日号)に掲載され、読売新聞・日本経済新聞・日経産業新聞(2/8)などに掲載された。
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植物メタボロミクスで 地球環境への貢献を目指す研究者
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スウェーデンで黎明(れいめい)期のメタボロミクスと出会い、その魅力に取りつかれた研究者がいる。植物科学研究センター(PSC)メタボローム基盤研究グループ メタボローム解析研究チームの草野都研究員だ。“メタボロミクス”とは、すべての代謝物(メタボローム)を対象とした解析研究のこと(図)。メタボロミクスによって、植物についての理解が進むだけでなく、乾燥や塩害に強いといった植物の有用な機能を強化したり、フラボノイドなど健康に役立つ代謝物を効率的に生産したりできるようになると期待されている。しかし、20万種を超えるといわれる植物の代謝物を相手にするのは、容易ではない。多様で複雑な、植物メタボロミクスに挑む草野研究員の素顔に迫る。 |
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「わらしべ長者みたいですよ」。これまでの経歴を尋ねると、そんな言葉が返ってきた。理科が大好きで、小学生のころから研究者になろうと決めていたという草野研究員。出身は滋賀県だ。「水質が悪化していく琵琶湖を目の当たりにしていたので環境への関心がとても強く、地球のために何かしたいと思っていました。鳥取大学を選んだのは、砂漠の緑化に興味があったから」 しかし入学早々、雨の降らないところに植物を生やすのは困難と教官に言われ、天然物化学に路線を変更。農学博士号を取得し、秋田県立大学にポスドクの職を得た。2年の任期が終わるころ、「スウェーデン農業科学大学でガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)を使える化学者を探しているけど、行かない?」という誘いがあった。「そこに行けば次が広がるという可能性を信じて飛び込みました」。まさに、わらしべ長者。「GC-MSはあまり使ったことがなかったのですが……」 |
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スウェーデンで待ち受けていたのは、メタボロミクスの研究室の立ち上げだった。2002年、メタボロミクスはまだ黎明期。「天然物化学では、最も重要だと考えられる一つの物質に注目します。一方、メタボロミクスは全体を把握し、その中でそれぞれの役割を評価していく。なぜ今までそういう考え方をしてこなかったのかと、衝撃を受けました」
もう一つ驚いたのが、スウェーデンの研究者たちの仕事スタイルだ。「議論の途中でも、5時になると帰ってしまうんです。家庭と休みを大切にして、仕事だけをがむしゃらにすることはない。それでいて、非常に優れた成果を挙げる。私もそのスタイルを心掛けていますが、難しいですね」 その後、ドイツで開催された植物メタボロミクスの国際学会でPSCメタボローム基盤研究グループの斉藤和季(かずき)グループディレクター(当時、千葉大学教授)と出会ったことがきっかけで、千葉大学、そしてPSCへ。 草野研究員は、PSCの2007年度報奨金受賞者だ。「どうして私が? 恐縮しています」。とはいえ、2007年12月には“メタボローム解析によって植物代謝ネットワークを解明”という研究成果を発表している。「まず、植物の生育条件を厳密に管理しました。それから今まで計測エラーとして処理していたデータは、実は個体の個性だったといえるほど解析精度を上げました。この個性の部分を詳細に調べることで、複雑な植物の代謝物のネットワークの一端を明らかにできました」。メタボローム情報ユニットの福島敦史リサーチアソシエイトとの共同研究だ。「メタボロミクスは、バイオインフォマティクスとの融合が不可欠ですが、専門用語も考え方も違うので、福島さんとはけんかばかり(笑)。でもその分、うまくいったときの喜びは大きいですね」 |
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PSCに来て4年。「こんなに長く1ヶ所にいたのは初めて。ゆくゆくはフィールドにも出たいなあ。植物の乾燥耐性にも代謝物がかかわっているんです」。砂漠緑化の夢、一度はあきらめた夢にまた挑戦する日が近いかもしれない。■
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淡い黄色のサクラ「仁科蔵王」、開花!
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2007年10月31日にプレスリリースし、多数の新聞に掲載されるなど大きな反響があった新品種のサクラ、「仁科蔵王」。仁科蔵王は、理研仁科加速器研究センター 生物照射チームの阿部知子 チームリーダーらが開発したものです。緑がかった花を咲かせるサクラの品種「御衣黄(ぎょいこう)」に理研の加速器「リングサイクロトロン」から発生する重イオンビームを照射して突然変異を誘発させてつくり出したもので、淡黄色の花を咲かせます。その花は、黄色がかったピンクの縁に明黄緑色の筋が入り、咲き始めるころには淡黄緑白色で、終わりのころに淡黄ピンクが広がり、美しい色の変化が見られます。通常、開花時期は4月中旬ごろで、約2週間と長期間にわたり花が楽しめます。「仁科」は理研の加速器の父・仁科芳雄博士、「蔵王」は共同研究者のJFC石井農場が山形の育種家であることに由来し、野依良治理事長が命名しました。また、仁科博士生誕の地である岡山県里庄町に苗木3本を、和光市に5本を寄贈しました。2008年内には市販される予定です。 |
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「理研文化の日」で中村紘子さんが特別講演
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理研は野依良治理事長が提唱する「野依イニシアチブ」の五つの基本方針のもとで、研究所運営を進めています。その中の「文化に貢献する理研」に関連した行事として、自らが文化的な環境の中で研究を進めることができるように、毎年、「理研文化の日」を定めています。5回目となる今回は、3月26日、世界的なピアニストであると同時に著書『チャイコフスキー・コンクール』(中央公論新社)で「第20回大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞されるなど、文筆家としても活躍されている中村紘子さんをお招きし、ご講演いただきました。中村さんは、社会主義体制下のソ連で行われたチャイコフスキー・コンクールでの経験など、これまで参加された世界の数々のコンクールでの見聞をお話しくださり、集まった100人以上の聴衆は、最後まで熱心に魅力的な講演に聞き入っていました。 |
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「第2回理研男女共同参画推進大賞」授賞式を開催
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![]() 理研は2006年6月に男女共同参画推進委員会を設け、男女共同参画の推進に積極的に取り組んでいます。「個別支援コーディネート」の実施や、『男女共同参画だより』の定期的な発行に加え、昨年から「理研男女共同参画推進大賞」を選出し、職員の意識向上を図っています。4月3日には、第2回目となる理研男女共同参画推進大賞の授賞式を行いました。大賞に選ばれたのは、理研横浜研究所植物科学研究センター(PSC)の男女共同参画部会の皆さんです。 部会メンバーは、榊原均グループディレクター、高橋秀樹チームリーダー、平井優美チームリーダー、杉本慶子ユニットリーダーの4人で、PSC内の女性研究者30%、女性PI(研究室主宰者)が20%という数値目標を盛り込んだ提言内容や、活躍する女性研究者を紹介する所外向けホームページの公開などの取り組みが評価されました。 |
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植物科学研究センター 男女共同参画部会 部会長
榊原均 グループディレクター(生産機能研究グループ) PSCは発足して9年目に入り、30歳代のスタッフが大半を占めるため、子育て支援や採用・転出に際して、男女不平等が実際に問題になってきています。ほかのセンターなどでも状況は似ていると思いますので、今回の受賞が理研内のほかの部署での議論のきっかけになれば、私たちとしてはうれしい限りです。今回の議論で、男女不平等の根底にあるものの多くはライフ・ワーク・バランスの問題であることが見えてきました。理研に限らず日本特有のシステムによる無用な雑用を極力なくすことも、みんなが楽しく働ける環境づくりにつながると思います。 |
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新研究ユニットリーダーの紹介
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新しく就任した研究ユニットリーダーを紹介します。 |
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基幹研究所 守屋バイオスフェア科学創成研究ユニット 研究ユニットリーダー 守屋繁春(もりや しげはる) |
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生年月日:1969年2月25日
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出生地:東京都
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最終学歴:横浜市立大学大学院(理学博士)
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主な職歴:理研工藤環境分子生物学研究室 専任研究員、(独)科学技術振興機構バイオリサイクルプロジェクト 研究員などを経て現職(横浜市立大学大学院 客員研究員 兼務)
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研究テーマ:環境微生物生態系のメタオミックス解析による解明とそれによる新規バイオマス利用技術開発
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信条:ドグマにとらわれるな、フィールドに出よ
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趣味:散歩、島巡り、スクーバダイビング
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理研広報室を体験 木村 真 KIMURA Shin |
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理研といったら“ひたすら研究”というイメージがあったが、最初の仕事は、『パラサイト・イヴ』の著者・瀬名秀明氏を招いて行われた講演会への参加。毎年桜が咲くころに、「理研文化の日」として、文化人を招いて講演会が行われる。研究だけでなく、「文化に貢献する理研」として活動していることに驚き、初日から理研に対するイメージが大きく変わった。 そして研修が本格的にスタートし、まずは見学対応を担当した。さまざまな方が理研に見学に来ていたが、私は高校生を中心に対応した。“高校生が相手となれば、自分のテリトリーだ!”と思い、久しぶりに見る高校生を前に張り切って理研の概要説明をしたが、最初はなかなか説明が板につかず、緊張したものだった。夏休みに毎年行われる2泊3日の体験合宿プログラム「サイエンスキャンプ」も、高校生が対象ということで私が担当した。どこまで生徒たちが先端科学についていけるか、教員として大変興味を持って見ていたが、見事に発表会までこなしていた。担当してくださった研究者の方々の指導があってのことだが、“全国にはこんなにもハングリー精神を持った高校生がいるものなのだ”と驚かされた。もう一つ感激したことは、野依良治理事長に高校生との懇親会に出席していただき、ノーベル賞のメダルを見せていただいたことだ。野依理事長と直接話せただけでなく、私も目の前でメダルを拝見できた。生徒だけではなく、私も活力を頂いたひとときだった。“理研に来て本当によかった”と思った瞬間である。 その後、出版や報道対応の仕事も経験した。この冊子『理研ニュース』の編集作業もその一つである。『理研ニュース』は高校生でも読める内容で編集されている。それならば“高校教員である私が編集できないようでは”と思い、読み始めるのだが、なかなかページが先に進まない。“自分は数学の教員だから”と思いたいところだが、原稿を書くサイエンスライターも広報室の編集担当者も、すべての内容について精通しているわけではない。いかに国語力が必要であるか、ということを思い知らされた。報道対応の仕事は、特に神経を使った。自分のやっていることが、そのまま翌日の新聞やテレビに反映されるからだ。自分の担当した研究成果が、新聞のトップ記事になったときやテレビニュースで放映されたときは、相当の充実感があった。私も研究に携わっていたような気になってしまったのは、私が単純な性格であるからだろう。 この1年間の研修の財産は、何といっても、業務を通じて超一流の研究者に出会え、考え方を聞けたこと、そして、本物の研究施設を見られたことである。どの分野でも、世界の先端とじかにかかわっている仕事なんて、そうあるものではない。それをうらやましく思う。このような広報室で1年間勤務できたことは大変光栄であり、支えてくれた広報室の皆さんに感謝したい。この『理研ニュース』が発行される5月、私はまた大宮高校で数学を教えていることだろう。未来で活躍する子どもたちを支える仕事も、世界で活躍している研究者を支える仕事も、共にやりがいがある。私の教えている生徒の中から、理研のような世界の先端にかかわれる子どもたちが多く育ってくれればと願いながら、今日も授業をする。■ |
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