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ものつくりから医療まで
VCADシステムの実用化へ 小野謙二 |
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「機能情報シミュレーションチームの目標は、 ものつくりを支援するツールを開発し、 それを実際に企業で使ってもらうこと」。 そう語る小野謙二チームリーダー(TL)は日産自動車(株)の研究所に 1年間勤務した後、東京大学を経て、2004年に理研にやって来た。 小野TLは、ものつくりの現場にいたときから一貫して、 “社会への貢献”という 強いこだわりを持ち、研究開発に取り組んでいる。 「企業で現場の問題点を肌で感じ大学で多様な技術の “シーズ(種)”を見てきました。理研では、これまでの経験を 活かしてものつくりが直面する問題を解決する技術を開発し、 社会に還元していきたいと思っています」。 日本のものつくりを支援するポテンシャルを持つ VCADシステムを使ったシミュレーションの最前線を紹介しよう。 |
VCADシステムを使ったシミュレーションや可視化の例![]() |
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VCADシステムでモデル化が高速に
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小野TLは、自動車開発を例に、ものつくりの現場が抱える問題点をこう指摘する。「今、コンピュータがなければ自動車はつくれません。まず、設計図はCAD(キャド)(Computer Aided Design)を使って描かれます。設計図をもとに、自動車の複雑な形状を再現した幾何モデルをコンピュータの中につくり、そのモデルをもとにして、コンピュータシミュレーションを繰り返します。シミュレーション結果は、コンピュータのデータベースで管理され、設計図やモデルへとフィードバックされます。現在、新車の開発期間は早いものだとわずか10ヶ月ほど。試作品をつくって実験し、また試作品をつくり実験して……を繰り返していた時代と比べると、時間もコストも大幅にダウンしました。しかし、市場のトレンドをいち早く製品に反映し、なおかつ品質や魅力を向上させて競争力を高めるため、さらに開発期間の短縮が求められています。そのために、シミュレーションの精度向上と時間短縮、加えてシミュレーション自体のコストダウンが大きな課題になっているのです」シミュレーションの精度向上と時間短縮に大きく効いてくるのが、モデルを作成する作業だという。例えば、非常に複雑な形状をしている自動車のエンジンは、CADデータから計算モデルを構築するのに1〜2週間を要する。現在のCADデータの多くは“ソリッドモデル”といって、3次元の形を表現しているが、外側の皮だけで形状情報しか持たないため、そのままではシミュレーションに使えない。シミュレーションが可能な形式に変換した上で、メッシュと呼ばれる細かい要素に区切って、境界条件や物性値などの情報を加えていかなければならず、時間がかかるのだ。しかも、変換などの過程で誤差が蓄積し、シミュレーションの精度が低下してしまうという問題もある。 「私たちが提案しているVCAD(ブイキャド)というシステムは、従来のCADとはコンセプトがまったく違います。VCADのVは“ボリューム”です。VCADでは、“ボクセル”と呼ばれる立方体の中に材質や位置などの情報をすべて入れて、そのボクセルを組み合わせて全体の3次元モデルを表現しています。さらに、立方体の角を斜めにすることで、より細かい形状も表現できるようになっています。VCADは、設計から加工まで、ボリュームデータを中心としてものつくりの全過程を一気通貫に動かすことができるようにしよう、というアイデアに基づくシステムです。時間も短縮され、変換などによる誤差が出ないので、シミュレーション精度も高まります。このような方針の研究活動は、世界中を見渡してもほかにありません。VCADシステムを使うと、80億セルもの自動車のエンジンのモデル化が、わずか3分程度でできてしまうのです(図1)。これは、世界最高水準の技術です」 形状が単純あるいは機能にとって重要ではない場所は大きな立方体、複雑あるいは重要な場所は小さな立方体で表現することで、データ量を減らしているため、一般的な速度のコンピュータでシミュレーションができることも、VCADシステムの利点の一つである。またVCADシステムで扱うことができる対象は、人工物だけではない。人体などの自然物が扱えることも、大きな特徴だ。自然物など設計図がないものは、CTやMRIなどで断層データを取り、それを利用できる。 ![]() |
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ものつくりを支援する
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機能情報シミュレーションチームの守備範囲は広い。まず、CADデータからモデルをつくるためのシステムの開発を行っている。モデル化の作業をできるだけ自動にすることで、時間の短縮を狙う。次に、モデルを使って熱や流体などさまざまなシミュレーションを行うためのソフトウエアの開発。さらには、シミュレーションの結果を解析するためのシステムの開発。そして、実験を行ってシミュレーション結果と比較し、合わない場合はモデルやソフトウエアへフィードバックし、修正する。
「普通は、モデルをつくる、シミュレーションのソフトウエアをつくる、シミュレーション結果を解析する、実験をする、それぞれの領域を専門とする優れた研究者やシステムエンジニアがいて、分業されています。でも私たちは、すべての開発を行っています」 それは、なぜなのか。「ボクセルベースのアプローチはユニークな手法であり、周辺技術を含めたシステム開発は理研以外では行われていないのが最大の理由です。ボクセルデータを衝(しょう)として、最初から最後まですべてを見渡して、全体としてうまく動くシステムを設計することが、現在のものつくりを支援するには重要だと考えているからです」 小野TLがソフトウエアやシステムの開発で気を付けているのが、ユーザーインターフェースである。「ユーザーインターフェースとは、ソフトウエアやシステムの操作性のことで、使いやすいかどうかです。ユーザーインターフェースが悪いと、その一つ一つに対する時間的損失は小さくても、蓄積すると大きな損失になります。市販のソフトウエアやシステムでは、ユーザーインターフェースにとても気を配っています。しかし、研究者が開発する場合は気にしません。ユーザーインターフェースを整備しても、論文は書けませんから。でも、市販品と競合して、企業に使ってもらうには、そこまでやらないと駄目です」 このような考え方は、企業でものつくりの現場にいた11年間の経験から生まれたものだ。「自分がつくったソフトウエアやシステムが実際に企業で使われ、優れた製品がつくられること。それが一番うれしいのです」 小野TLが「いま一番頭を悩ませている」というのが、データ解析のシステム開発だ。「計算の規模がどんどん大きくなり、出てくる結果のデータ量が増えています。膨大なデータ量から必要な情報を取り出し、どう解析するか。そのために重要度を増しているのが、可視化のシステムです」 可視化というと、画像に表すことをまず思い浮かべるだろう。画像といっても、正確かつ詳細に表現することがすべてではない。例えば、デッサン風に表現することで、全体のイメージがつかみやすくなることがある。また、一部を強調することで、必要な情報が得やすくなったりもする(記事冒頭の図)。 また、可視化という言葉は、画像に限らずデータを分析して、その中に含まれている知識を抽出するという、もっと広い意味で使われることも多い。膨大なデータからいかに短時間で正確に結果を理解できるように示すか、それが可視化の重要な課題であり、その成否が製品開発全体のスピードアップとコストダウンにも直結する。
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結石や腫瘍の治療を支援する
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機能情報シミュレーションチームでは、人体を対象にしたシミュレーションシステムも開発中だ。「腎臓結石や胆石、腫瘍などの治療の支援を目指したものです」と、小野TL。東京大学の松本洋一郎教授、理研次世代計算科学研究開発プログラムの高木周TL(臓器全身スケール研究開発チーム)らとの共同研究だ。
腎臓結石の最近の治療法には、ベッドに寝た患者さんの背中から衝撃波を当てて結石を破砕するというものがある。破片は尿管から自然に排出される。手術で摘出する場合より体への負担は小さいが、衝撃波は腎臓全体に影響を与えるので、出血も多くなりがちだ。また、結石の破片には大きく、そしてとがったものもできるため、尿管を通るときに激痛が走る。 そこで、小野TLらが考えているのが、超音波を使った方法だ。「超音波は波長が短いため、まるで針の先で石を突っつくように、結石を細かく砕くことができます。破片も小さくなるので、尿管を通るときの痛みも軽減するでしょう」 超音波をおわん型の装置から発振すると、1点に集まる。焦点では圧力と温度が非常に高くなるので、結石を破壊したり、腫瘍を焼いたりすることができる、という原理だ(図2)。超音波はすでにエコー検査などに使われ、体への影響が少ないことが確認されている。しかし、すべての問題がクリアされているわけではない。「超音波の焦点を、結石や腫瘍など狙い通りの場所にもっていく。それが難しいのです。通常、呼吸とともに体の内部も動くので、その場合はさらにダイナミックな制御が必要です」と小野TLは言う。 人体には、皮膚、脂肪、筋肉、骨などさまざまな組織がある。それぞれ超音波の反射や屈折が違うため、なかなか狙い通りの場所で超音波が焦点を結ばないのだ。そこで、VCADシステムを用いたシミュレーションの出番だ。「まず超音波やCT、MRIで患者さんの内部情報を取り、VCADシステムによって体内のモデルをつくります。そのモデルを使って、超音波がどのように反射、屈折するかシミュレーションを行います。医者は、どのように超音波を制御すればよいか、その結果に基づいて事前に検討することができます。最終的には、これをリアルタイムで行うことを考えています」 実用化の目処(めど)は5、6年後だという。「生体のシミュレーションは非常に複雑で、現在のコンピュータの性能では不十分です。2012年の完成を目指して理研で開発中の次世代スーパーコンピュータを使ってシミュレーションし、その結果をもとに実用化につなげたいと思います」 小野TLは、理研次世代計算科学研究開発プログラムにも所属し、次世代スーパーコンピュータ用のソフトウエアの開発を行っている。「ぜひ皆さんに知っていただきたいことがあるのです」と小野TL。「次世代スーパーコンピュータが目標とする計算速度は10ペタフロップス(1秒間に10ペタ[1016]=1京回の計算を行う)。完成時点で世界最速となるでしょう。しかし、コンピュータを使ったシミュレーションの性能は、ハードウエアの計算速度だけで決まるわけではありません。そこで使うさまざまなソフトウエアによって、シミュレーションの性能は大きく変わります。“世界最速のコンピュータ”にばかり目が行きがちですが、ソフトウエアの開発は、コンピュータそのものの開発と同じように重要なのです」 ![]() |
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計算科学の魅力を伝えたい
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最近、計算科学を目指す人が減り、欲しい人材がなかなか来ないのが悩みの種だという小野TL。「私たちが学生のころは情報科学が人気でしたが、最近では生命科学に人が流れているようです。しかし、生命科学が進めば、シミュレーションは絶対に必要になります。ぜひ、若い人に計算科学の魅力を伝え、仲間を増やしたいですね」
では、小野TLが思う計算科学の魅力は? 「自然現象を見ていると、それはどういう仕組みで起きているのか知りたいと思うでしょう。シミュレーションは、それに答えることができるのです。現象の観察や洞察をもとに物理現象を表すルールを数学的に表し(モデリング)、そのモデリングで現象をうまく説明できるかどうかをプログラムをつくって考える過程はとても楽しいものです」 今後やりたいことを聞くと、“脳のシミュレーション”という答えが返ってきた。「神経細胞の信号伝達のシミュレーションは多くの研究報告があります。実際の神経細胞では、活動電位の伝達とともに、普通の細胞と同じように神経伝達物質などの物質輸送も行われています。輸送現象と信号伝達の統合シミュレーションができれば、面白いでしょう。VCADシステム研究プログラムの研究テーマの一つとして、細胞を丸ごとモデル化しようという“ライブセルモデリング”があり、代謝のシミュレーションが進んでいます。その延長で、神経細胞の信号伝達のシミュレーションが可能になるかもしれません。また、理研ではすぐ近くに脳科学の研究者もいますから、この環境を活かしたいですね」■
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謎の多い糖鎖の化学合成に
挑戦し、生命現象を読み解く 伊藤幸成 |
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生命科学で今、「糖鎖」が大きな注目を集めている。 糖鎖が高等生物の複雑な生命現象を支え、免疫反応や さまざまな疾病などに関係していることが分かってきたからだ。 「しかし、DNAやタンパク質に比べると、糖鎖の研究は 華々しさに欠ける面があります。複雑な構造を持つ糖鎖の合成は難しく またその機能も理解しにくいことが原因です」。こう語る 伊藤幸成主任研究員たちは、さまざまな糖鎖を独自の手法で 化学的に合成することで、糖鎖研究を大きく飛躍させようとしている。 |
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生命現象や病気の仕組みの鍵を握る糖鎖
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糖鎖は、文字通り糖が鎖のようにつながったものだ。食糧となるデンプンもグルコースという糖がつながったものだが、一般に糖鎖は、さまざまな種類の糖がいろいろな順番につながったものを指す。糖の種類や数、つながる順番や枝分かれの仕方・立体構造により、糖鎖には膨大な種類が存在する。人間のような高等生物の体を構成しているタンパク質の多くは、糖鎖が付いた糖タンパク質の形で存在する。糖鎖が目印となって別のタンパク質などにくっつくことで、さまざまな生命現象が起きる。例えば免疫細胞の活動を制御したり、細胞同士が結合したりするときに、糖鎖が目印となる(図1)。「膨大な種類の糖鎖が存在し、さまざまな性質をタンパク質に与えることで、高等生物の複雑な生命活動が支えられているのです」。伊藤主任研究員は糖鎖の重要性をこう説明する。 多くのウイルスも細胞表面にある糖鎖に結合し、細胞内に侵入する。例えば、インフルエンザウイルスの表面にあるHA(ヘマグルチニン)タンパク質が、シアル酸という糖を含む糖鎖に結合することで、インフルエンザウイルスは細胞内へ侵入して増殖し、やがてそれらが細胞外へ出てほかの細胞へ次々に感染していく。 ただし、細胞外へ出るときに細胞膜にシアル酸を含む糖鎖があると、インフルエンザウイルスの表面にあるHAが結合してしまい、うまく外へ出られない。そこでインフルエンザウイルスは、NA(ノイラミダーゼ)タンパク質でシアル酸を切断して、細胞外へ出る。インフルエンザ治療薬のタミフルは、このNAを阻害してインフルエンザウイルスが細胞外へ出ることを妨げ、ほかの細胞へ次々に感染していくことを抑える。「一般にはあまり知られていませんが、タミフルも糖鎖研究が生み出した成果なのです」 また、がん化した細胞表面の糖鎖は構造が大きく変化することが知られている。がんの診断や治療を目指す研究においても糖鎖生物学の成果が注目されている。 ![]() |
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化学合成のプロの出番
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生命現象の解明や病気の克服に重要な糖鎖の研究だが、DNAやタンパク質に比べると、研究しにくい面がある。「分子生物学分野の研究では化学的に合成されたDNAやタンパク質の一部分を用いて実験することが多いのです。生物学の研究者たちはあまり認識していないかもしれませんが、それらの合成は有機化学の進歩によって可能になったものです。それらの合成の研究にはとても長い歴史があり、今では機械的に自動合成さえできます。このような有機化学の技術に支えられて、生物学の研究は急速に発展してきました」しかし、DNAやタンパク質と異なり、糖鎖は鎖が枝分かれしたり、立体的に構造が異なる立体異性体が存在するなど複雑な構造を持ち、簡単には合成できない(図2)。「現状では糖鎖の合成は誰もができるわけではありません。私たち化学合成のプロの出番です」 |
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糖タンパク質の品質管理システム
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伊藤細胞制御化学研究室では、タンパク質の折り畳みにかかわる糖鎖をすべて化学合成し、その役割を解明する研究を進めてきた。タンパク質は、遺伝子の情報に従ってアミノ酸が鎖のようにつながったものだ。しかし、それだけではタンパク質は機能しない。アミノ酸の鎖が正しい構造に折り畳まれて初めて機能するのだ。そこでも、糖鎖が重要な役割をしていることが分かり始めてきた。
糖タンパク質ができるとき、細胞内の小胞体という器官でアミノ酸の鎖にマンノースという糖をたくさん持つ「高マンノース型糖鎖」が付く(記事冒頭の図)。その先端にはマンノースとは違う糖、グルコースがいくつか付いている。そのグルコースが取られて1個だけになった糖鎖に、折り畳みを助けるタンパク質(シャペロン)が結合すると考えられている。そして折り畳みが終わると、糖鎖から最後の1個のグルコースが外される。「ただし折り畳みはいつもうまくいくとは限りません。それを捨ててしまっては無駄になります。うまくいかなかったタンパク質に再チャレンジさせる仕組みがあります」 UGGT(グルコース転移酵素)が、折り畳みが正しくされているかをチェックし、うまくいかなかったタンパク質の糖鎖には、グルコースを再度1個付ける。すると、再び折り畳みを助けるタンパク質が結合して、折り畳みの再チャレンジが行われる。「UGGTは折り畳みがうまくいった“勝ち組”は無視して、うまくいかなかった“負け組”だけにグルコースを付けて、再チャレンジさせると考えられています。UGGTは折り畳みをチェックする“見張り役”として機能しているのです」 このような“糖タンパク質の品質管理システム”の仕組みを詳しく調べる研究は、あまり進んでいなかった。細胞の中には膨大な種類の糖鎖があり、そこから構造のわずかに違う糖鎖をそれぞれ取り出してきて、性質を詳しく調べることができなかったからだ。たとえ必要な糖鎖を取り出せたとしても、ごく微量しか得られない。それでは、いろいろな実験を行うことはできない。 「そこで、私たちは高マンノース型糖鎖に狙いを定めて、化学的に合成する研究を進めてきました」。こう語る伊藤主任研究員たちは、合成の原料となる分子の形や化学反応の順番を工夫することで、特定の構造を持つ糖鎖だけを効率よく合成する手法を開発。糖タンパク質の品質管理システムにかかわるすべての高マンノース型糖鎖を化学的に合成することに成功した。 「糖鎖の合成に使うことができる化学反応は限られています。その制約の中で、独自のアイデアで新しい合成手法を開発していくことが、この研究の面白いところです」 |
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勝ち組・負け組の見分け方
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糖タンパク質の品質管理システムで解明すべき謎の一つは、見張り役のUGGTが勝ち組と負け組をどのように見分けているのか、ということだ。「タンパク質をつくるアミノ酸には、水になじむ親水性のものと、油のように水になじまない疎水性のものがあります。タンパク質の周囲は水なので、外側が親水性、内側が疎水性のアミノ酸になるように折り畳まれるとタンパク質は安定します。しかし、折り畳みが失敗すると疎水性のアミノ酸が外側に出てしまう場合があります。UGGTは、タンパク質の外側に疎水性のアミノ酸があるかどうかで勝ち組と負け組を見分けているのだという仮説があります。しかし、それを確かめる実験はこれまで難しかったのです」伊藤主任研究員たちは、化学合成した糖鎖に疎水性の分子を付けた化合物を人工的につくり、UGGTとの反応性を調べた。「すると、この化合物に高い確率でUGGTがグルコースを付けることが分かりました。この化合物は、折り畳みがうまくいかなかった負け組のタンパク質の状態を再現していると考えられます。この実験は、UGGTは疎水性のアミノ酸が外側にあるかどうかで折り畳みの成否を見分けているという仮説を裏付けるものだと思います。ただし、糖鎖のわずかな構造の違いでUGGTの反応のしやすさが異なることも分かりました(図3)。勝ち組と負け組を見分ける過程には、さらに複雑な仕組みがありそうです。このように、人工的な化合物を合成することで、さらに詳しい生命現象の仕組みを解明していくことができます」 |
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本当の不良品は分解される
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実は、負け組の中でも再チャレンジをさせてもらえないタンパク質がある。「再チャレンジさせても駄目な本当の不良品を、UGGTは勝ち組と同じように無視するといわれています。しかし、負け組の中で再チャレンジさせるものと本当の不良品をどのように見分けているのか、それもよく分かっていません。とても重要なポイントなので、これから調べていきたいと思っています」
再チャレンジさせてもらえない不良品のタンパク質は、酵素によってユビキチンというタンパク質が付けられ、プロテアソームという細胞内小器官で分解される。「このユビキチンを付ける酵素にもいろいろな種類がありますが、ある種の酵素は糖鎖を目印にしてユビキチンを付けることを、東京都臨床医学総合研究所のグループが2004年に初めて発見しました。私たちは、合成したさまざまな糖鎖を用いて、目印となる糖鎖の種類を特定しました」 プロテアソームで分解される際にも、糖鎖がかかわっていることが分かってきた。プロテアソームは狭いトンネル状になっていて、その中に入ったタンパク質は解きほぐされて分解される。「しかし、タンパク質に糖鎖が付いていると狭いトンネルに入れません。そこで、糖鎖が切断されてからトンネルに入ると考えられています。実際に糖鎖が付いたままのタンパク質はプロテアソームで分解が進まないことを、私たちは実験で確かめました。このような糖鎖がかかわる分解過程の解明を、理研基幹研究所の鈴木 匡(ただし)チームリーダー(糖鎖代謝学研究チーム)たちが進めており、私たちは彼らと共同研究を行っています」。鈴木チームリーダーたちは、伊藤主任研究員たちが合成した糖鎖を用いて、そこで鍵になる酵素のメカニズムの解析を行っている。 糖タンパク質の大半は、これまで紹介してきた糖タンパク質の品質管理システムを通過する。そのシステムに異常があると、不良品のタンパク質が増えたり、それらが分解されずに細胞内に蓄積したりして、病気の原因となり得る。例えば、糖鎖とのかかわりは未解明であるが、アルツハイマー病やパーキンソン病などのさまざまな疾病が、不良品タンパク質の蓄積によって起きると考えられている。「糖鎖に異常がある糖鎖不全により、人によってさまざまな症状が現れると考えられます。糖鎖の研究が進むにつれて、いろいろな病気の原因が、実は糖鎖不全だということが分かってくると思います。今後、糖鎖をターゲットにした治療薬も開発されることでしょう」 |
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あらゆる糖鎖を合成する手法を築く
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糖鎖に働く酵素をつくる遺伝子の多くを日本人研究者が発見しており、糖鎖研究で日本は世界のトップレベルにある。「ただし、糖鎖を化学合成する研究をしている化学者はそれほど多くありません。私たちのように複雑な糖鎖を合成できる研究室は、世界でも限られています」 伊藤主任研究員たちは、より簡単に糖鎖を合成する手法の開発を進めている。「大きな糖鎖を大量に化学合成しておいて、それを原料にしてさまざまな酵素で糖を切ったり付け加えたりすると、理論的にはあらゆる糖鎖が合成できます。そのような手法が完成すれば、生物学の研究者たちが、欲しい糖鎖を自分たちで合成できるようなります。実は細胞の中でも、大きな糖鎖をもとに酵素を使ってさまざまな糖鎖がつくられています」 ただし、細胞の中で起きている現象をそのまま試験管の中で再現することは難しく、入手が難しい酵素もある。「私たちは原料となる糖鎖の構造を工夫することで、比較的入手しやすい酵素の組み合わせで、あらゆる高マンノース型糖鎖をつくる手法の開発を行っています。すでに全体の7割くらいの糖鎖を合成することに成功しました」 2008年4月、基幹研究所に新たな組織“ケミカルバイオロジー研究領域”が立ち上がった。ここでは生物学や化学の研究者たちが協力して、生命現象の仕組みを解明するとともに、その成果を創薬などの形で社会に還元していくことを目指している。先ほど紹介した糖鎖代謝学研究チームも、この“研究領域”のシステム糖鎖生物学研究グループに属している。「私たちは、この“研究領域”とさらに共同研究を進展させていくつもりです」 伊藤細胞制御化学研究室の研究は、糖鎖研究に大きなブレークスルーをもたらすことだろう。■
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関連情報
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「有機合成化学による糖タンパク質糖鎖の機能解明」『有機合成化学協会誌』Vol.64 No.5 2006
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四つの連携を推進し、科学技術に
飛躍的発展をもたらす 長田義仁 基幹研究所副所長・連携研究部門長に聞く |
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2008年4月1日に発足した 基幹研究所の大きな特徴の一つが、 「連携研究部門」が新たに設けられたことだ。 連携研究部門では、 理研所内・国際・産業・大学の四つの連携を推進する(図)。 どのような戦略でそれぞれの連携強化を図るのか、 長田義仁 副所長・連携研究部門長に聞いた。 |
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所内連携で共同研究がスタート
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──なぜ今、所内連携の強化が必要なのですか。長田:理研の各研究センターは独立性が高く、それぞれ独自の戦略で研究活動を進めてきました。その反面、理研内での連携がこれまで十分とはいえませんでした。理研の所内連携を進めるには、基幹研究所がイニシアチブを取り、推進していくことが重要です。私たちは基幹研究所が発足して4日目に、早速、理研横浜研究所で、免疫・アレルギー科学総合研究センターの担当者と話し合い、3件の共同研究をスタートさせました。横浜研究所の「研究センター」や「基盤研究領域」には、すでに所内連携のための部署が設けられ、担当者が配置されています。これから筑波や神戸、播磨の各研究所との間で所内連携を強化して異分野交流や情報交換を進め、新しい研究分野を開拓していきたいと思います。また、横浜研究所のNMR施設や播磨研究所の大型放射光施設SPring-8など、それぞれの研究所にある装置や施設を、理研全体としてさらに有効活用していくためにも、連携を緊密にしていきます。 ![]() |
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国際連携の目指すべき姿
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──国際連携も理研の大きな課題ですね。
長田:国際連携は、外国人研究者の割合を何割に引き上げればいいという、単純なものではありません。国際連携を強調しなくても、さまざまな分野のトップサイエンティストたちが理研で研究したいとやって来る、そういう存在にならなければ、本当の意味での国際的な研究拠点だとはいえません。 ──そのような存在になるために、どんな取り組みが必要ですか。 長田:例えば、海外の有望な若手研究者を理研に呼ぶことです。理研で研究活動を行い、彼らが帰国後、母国で活躍することが、ほかの若手研究者が引き続き理研に来るきっかけとなるでしょう。あるいはすでに実績のある人とその研究室の若手研究者を一緒に呼ぶなど、いろいろなやり方があると思います。滞在期間も、数学や理論の分野では2〜3ヶ月の滞在で十分な場合があります。研究者同士が会話することで互いが刺激を受け、研究が大きく進展するのです。欧米では今、そのような短期滞在型の交流が盛んに行われています。一方、実験が必要な加速器科学や生命科学などの分野では、1〜2年以上の研究期間が必要です。長期間、海外の研究者が日本に滞在するには、家族の生活環境が重要です。子どもの教育などをサポートすることも大事なのです。 ──アジアとの連携も重要ですね。 長田:間もなく、連携研究部門揺律(ようりつ)機能アジア連携研究チームの分室が、韓国のハンヤン大学内にできます。ここを拠点にアジアとの連携を強化していきたいと思います。また、すでにシンガポールと中国には理研の連絡事務所があります。この連絡事務所を通じて、優秀な若手研究者を理研に呼んだり、理研から母国に戻った研究者を支援したりする活動が必要だと思います。これまでアジアの若手研究者は、欧米を目指していました。欧米には、大学や研究機関だけでなく、民間企業にも活躍の場がたくさんあることが、その大きな理由の一つです。日本でも、もっと外国人研究者が活躍できるポストを増やす必要があります。国際連携では、理研だけではできないこともあるので、日本全体として取り組まなければならない課題も多いですね。
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産業界に基礎研究の重要性をアピール
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──産業連携は、どのように進めるお考えですか。
長田:理研の研究の重要性をもっと産業界に理解してもらう必要があります。そのために、理研に興味がある企業を募ってコンソーシアムをつくり、理研の活動状況を定期的に報告したり、理研でなければ呼べないような著名な国内外の研究者を集めたフォーラムを開催したりして、情報を共有していきたいと考えています。理研の基礎研究の重要性を理解してもらえば、共同研究に発展することもあるでしょう。 ──連携研究部門には、理研ー東海ゴム人間共存ロボット連携センターが所属していますね。 長田:連携センターでは、理研と企業の研究者がチームを組んで、本格的な共同研究を行っています。そのような連携センターをもっと増やしていきたいと思います。また、私がリーダーを務める分子情報生命科学特別研究ユニットは、トヨタ自動車(株)の支援を受けています。生物を構成しているような柔らかい材料で人工筋肉を開発する研究です。このような基礎研究に企業が注目してくれたのは画期的だと思います。 しかし多くの日本企業は、すぐに役立ちそうな研究にしか興味を示しません。基礎研究に刺激を受けて、そこから大胆に発想を展開して産業応用に発展させる力が、欧米に比べて日本企業はまだ十分でないと思います。一方、企業の側からは、日本の若手研究者は視野が狭いとよく言われます。理研の研究者の多くは任期制ですが、その後のポストはほとんどが大学や公立の研究機関です。活躍の場を企業へもっと広げなくてはいけません。そのためにも、企業との交流をさらに強化して研究者としての視野を広げていく必要があります。 |
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理研がさまざまな連携の核となる
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──大学との連携では、北海道大学の分室「北大電子研連携研究室」が和光キャンパスに開設されました。
長田:理研にとって必要だけれども、理研にはない研究分野が、北大にはあります。そのような分野との共同研究も進めたいと思います。 ──長田部門長は北大で長年研究を続け、さらに副学長として北大の運営にも携わってきました。大学から見た理研の印象はどのようなものでしたか。 長田:大学の研究者から見ると、装置にしても予算にしても理研は恵まれています。羨望(せんぼう)の的、仰ぎ見るような感じです。理研と大学の連携を進めるには、理研側がイニシアチブを取ることが重要なのです。そして今、大学は学生を獲得するために、それぞれが特色を出そうと懸命になっています。大学同士はライバル関係にあるので連携を進めにくい面があります。ですから、理研が核となり、連携しにくい大学同士の連携の輪を広げていく役割を担うべきです。大学同士の連携が進むと、個々で行っている研究よりも骨太の研究が行えるでしょう。 ここで紹介した四つの連携を理研が核となって進めることにより、大学と企業、海外の研究機関と日本企業など、さまざまな形の新しい連携が生まれることが期待できます。新しい連携の輪を広げることは、理研の任期制研究者に次のポストを提供し、活躍してもらうためにも必要です。さらに四つの連携を推進するには、それを束ねるコーディネーターの役割が重要です。今、そのような人材を募集しているところです。 社会とのかかわりの面で、理研はその実力をまだ十分に発揮していないと思います。四つの連携を進めることで理研が真の実力を発揮し、科学技術を大きく発展させ社会に貢献していくことができるでしょう。■
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通常、物質は温度が上昇すると体積が大きくなる。この現象は「熱膨張」と呼ばれる。近年の産業技術では、いわば固体材料の宿命ともいえる熱膨張のような性質をも、制御・抑制することが求められている。そんな中、理研基幹研究所高木磁性研究室は、室温を含む70℃にわたる温度領域で熱膨張がゼロとなる、マンガン窒化物だけで構成したセラミック材料の開発に成功した。従来のゼロ膨張材料に比べ、ひずみや欠陥が入りにくく機能が安定し、製造工程が簡素なためコストが低く抑えられるなど、単一物質ならではの大きな利点がある。今後、半導体デバイスや液晶製造、超精密・微細加工、精密光学機器など多くの分野で、幅広い利用が見込まれる。この成果について、高木磁性研究室の竹中康司 客員研究員(名古屋大学 准教授)に聞いた。 |
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なぜ、熱膨張ゼロの材料が求められているのですか。
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竹中:長さ10センチメートルの鉄は、温度が1℃上がると1.2マイクロメートル(マイクロは100万分の1=10-6)伸びます。このごくわずかな伸びが、ナノメートル(ナノは10億分の1=10-9)レベルの高精度が求められる半導体デバイス製造や精密光学機器などの分野では大問題となります。
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現在、熱膨張ゼロの材料はあるのですか。
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竹中:タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)やシリコン酸化物のようなマイナスの熱膨張(負膨張)を持つ物質と、プラスの熱膨張を持つ物質とを混合したガラス系の複合材料が利用されています(図左)。しかし、原材料のタングステン(W)自体が高価で製造工程が複雑なため価格が高い上、強度不足もあって、利用に大きな制約があります。
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──
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今回開発したゼロ膨張材料の長所を教えてください。
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竹中:開発した材料は特定の組成を持つ1種類のマンガン窒化物(Mn3XN)だけでできています(図右)。単一組成のため、ひずみや欠陥が入りにくく機能が安定する、製造工程が簡素でコストが低く抑えられる、という点で優れています。また、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)のような比較的安価で、環境に優しい元素だけで構成されています。タングステンや、これまで熱膨張特性制御のために添加していたゲルマニウム(Ge)のような希少で高価な元素を用いることもありません。
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──
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開発に当たってどんなことを工夫したのですか。
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竹中:2005年、私たちは「逆ペロフスカイト」と呼ばれる構造を持つマンガン窒化物が、室温で温度の上昇とともに体積が小さくなる性質を示すことを発見しました。この負膨張性マンガン窒化物は、構成元素の組み合わせや比率を変えることによって、単一組成の物質として熱膨張特性を自在に制御できるという特徴があります。しかし、構成元素の調整だけでは熱膨張をゼロにすることができませんでした。そこで作製する際の温度を見直し、これまでの800℃より高い温度で熱処理したところ、元素調整だけでは不可能だったゼロ膨張が実現しました。つまり、組成に加え、マンガン窒化物を作製する際の条件も工夫する必要があったわけです。研究の結果、より窒素成分が少ないガス中で熱処理することでも、ゼロ膨張を実現できることが分かりました。
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──
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今後、どのような応用が期待できますか。
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竹中:これまでのゼロ膨張材料に比べて高強度・低コストを実現できるので、用途が格段に広がると考えられます。大きな力のかかる精密加工などの分野でも利用できます。高集積半導体デバイス製造の分野では、集積度が増し、回路の線幅がどんどん狭くなっています。要求される熱膨張抑制もますます厳しくなっていますが、開発した材料にさらに工夫を加え、既存の材料では対応し切れない「究極のゼロ膨張」を実現することで、加工精度を飛躍的に向上できると期待しています。■
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*この研究は、(独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)・ナノテクノロジー分野別バーチャルラボのチーム型研究「高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用」の研究課題「相関電子コヒーレンス制御」の一環としても進められた。
● 本研究成果は朝日新聞、毎日新聞(3/18)などに掲載された。 |
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木造家屋を食い荒らすシロアリは厄介な害虫だが、森林再生にとっては倒木を分解する有益な昆虫だ。木材だけを餌とするシロアリの驚異的繁殖能力は、腸内に共生する数百種の微生物(原生生物と細菌)の働きによる。ところが、この微生物の大部分は培養できないため、個々の役割はよく分かっていない。理研の基幹研究所環境分子分解科学研究チームと横浜研究所の数チームからなる研究グループは、この培養できなかった細菌のゲノムを、DNA合成酵素を使って1000万倍に増幅して解析する手法を確立し、細菌の一種「Rs-D17」のゲノム配列の完全解読に成功した。解読されたゲノム配列から、共生細菌、原生生物、シロアリの三者の複雑な共生メカニズムが世界で初めて明らかとなった。この成果について、大熊盛也チームヘッドに聞いた。 |
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──
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今回の研究の目的は何ですか。
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大熊:シロアリは木質(セルロース)だけを食べて繁殖します。それは、生命維持や活動に必要な栄養源とミネラルを、腸内に共生する原生生物や細菌から得るシステムを持っているためです。シロアリ1匹の腸内には、約10種類の原生生物と数百種類の細菌が約1000万個も生息しています。腸内に原生生物が共生し、この原生生物の細胞内に細菌が共生するという多重で複雑な関係を築きながら共存しています。しかし、これら共生微生物のほとんどが培養することができないため、それぞれの役割や相互依存関係は不明でした。私たちは今回、その謎の解明に挑んだわけです。
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──
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どんな方法で研究したのですか。
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大熊:ヤマトシロアリに共生し、セルロースを分解する原生生物の細胞の中だけに生息する細菌「Rs-D17」に着目しました。この細菌は、細菌分類の最も高次の階級である「門」でも、まったく培養されたことがない「未培養新門」に属し、機能が不明でした。まず、顕微鏡下で原生生物の一つの細胞のみを分離し、その細胞膜を破って、漏出するRs-D17を数百個回収しました。そこから得られるゲノムの量は、計算上では約1ピコグラムに相当しますが、ゲノムを解析するには約100万倍の1マイクログラムが必要です。そこで、私たちはRs-D17のゲノムを、DNA合成酵素を使って1000万倍(10マイクログラム相当)以上に増殖して解析しました。培養を行わない手法で未培養新門の細菌の全ゲノム配列を解読したのは世界初です。
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──
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ゲノム解析をした結果、何が分かりましたか。
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大熊:Rs-D17の染色体には761個のタンパク質を合成する遺伝子があると予測されましたが、そのほかに121個もの偽遺伝子がありました。偽遺伝子とは、変異や欠失で機能を失った遺伝子です。また、Rs-D17のゲノムサイズは、一般の細菌に比べると小さいことが分かりました。Rs-D17は共生という特殊な環境に適応するために、不要となった遺伝子を消失させてゲノムを縮小する進化過程にあると推測できます。さらに、Rs-D17が属する細菌群は、原生生物からセルロース分解産物を提供される見返りに、原生生物やシロアリが合成できないアミノ酸やビタミンなどを供給するという、相利共生を行っていることも世界で初めて明らかとなりました。
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──
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この技術で、さらにどんなことが分かりますか。
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大熊:共生生物や細菌の機能が遺伝子レベルで明らかになると、共生メカニズムの謎が少しずつ解明されます。シロアリの高効率な木質分解機構から、木質バイオマスを原料とするバイオ燃料開発につながるかもしれません。Rs-D17は水素を発生する能力があることも分かり、水素を利用したクリーンエネルギー開発への応用も考えられます。地球上の99%以上の細菌は、現在培養できないのですが、今回の研究手法は今後、いろいろな分野で応用されると思います。■
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● 本研究成果は日経産業新聞・日刊工業新聞(4/2)などに掲載された。
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「一般公開」、来場者大幅増!
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当研究所は、科学技術週間(4月14日〜20日)に合わせて、本年度も一般公開を開催しました。理研の広範囲にわたる研究内容を分かりやすく紹介するとともに、科学を身近なものとして親しんでいただける実験などを行い、大変好評でした。 |
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和光研究所 4月19日(土)
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100以上の研究室が、体験型の展示や工夫を凝らしたパネルを使って研究内容を紹介しました。講演会では、丑田公規(うしだきみのり) 研究ユニットリーダー(基幹研究所 丑田環境ソフトマテリアル研究ユニット)が「“エチゼンクラゲが国を生む” ひょうたんからコマ クラゲからムチン」、阿部知子チームリーダー(仁科加速器研究センター 生物照射チーム)が「植物の七変化−黄色い桜、塩に負けないイネ」と題して、新聞などで話題になったそれぞれの最先端の研究を紹介。「深海の世界を体感しよう!」「ブロッコリーからDNAを抽出してみよう!」などのイベントも大好評で、日ごろ静かな研究所も多くの家族連れでにぎわいました。今年は例年を大きく上回る9000名を超える来場者がありました。 |
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筑波研究所 4月18日(金)・19日(土)
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18日はあいにくの悪天候でしたが、19日は天候も回復し、2日間で1340名以上の来場者がありました。来場した方々は、話題のiPS細胞やES細胞を顕微鏡下で観察したり、厳しい環境で育つ植物の話を研究者から熱心に聴いていました。また、寛山(ひろやま) 隆 研究員(細胞材料開発室)による「万能細胞(iPS細胞とES細胞)とは何か」、辨野義己(べんのよしみ) 室長(微生物材料開発室)による「うんちは語る腸の老化」と題した講演会では、会場が満員になる盛況でした。一般の方に科学、そしてバイオリソースセンターの重要性を理解していただく絶好の機会となりました。 |
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播磨研究所 4月27日(日)
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「ここが科学の最先端 −SPring-8−」と題してSPring-8施設公開(播磨研究所一般公開)を行いました。天候も良く、自然に恵まれた広いキャンパス内で、ゆったりとくつろぐ来場者も多く見受けられました。大型放射光施設「SPring-8」の秘密を探るガイドツアー、偏光板や音波を使ったゲーム、また、SPring-8を用いた農産物の産地特定といった身近な話題を扱った講演会などが多くの人でにぎわいました。X線自由電子レーザー(XFEL)の原型として研究開発されたSCSS試験加速器の見学の際に配布した理研オリジナルエコバッグやSPring-8下敷きも大人気でした。今年は昨年より200名ほど多い、約3600名の来場者がありました。 |
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まだ間に合います! 理研各所の一般公開!
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●横浜研究所
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場所:
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神奈川県横浜市鶴見区末広町1-7-22
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日時:
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7月5日(土)10:00〜17:00(入場は16:30まで)
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問合せ先:
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横浜研究所研究推進部総務課
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TEL:
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045-503-9110
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●仙台支所
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場所:
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宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉519-1399
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日時:
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8月2日(土)9:30〜16:30
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問合せ先:
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仙台研究推進室
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TEL:
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022-228-2111
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●名古屋支所
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場所:
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愛知県名古屋市守山区
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大字下志段味字穴ヶ洞2271-130
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なごやサイエンスパーク 研究開発センター内
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日時:
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8月30日(土)10:00〜16:00
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問合せ先:
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名古屋研究推進室
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TEL:
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052-736-5850
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新研究室主宰者の紹介
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新しく就任した研究室主宰者を紹介します。 1:生年月日、2:出生地、3:最終学歴、4:主な職歴、5:研究テーマ、6:信条、7:趣味 |
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X線自由電子レーザー計画実施本部 ビームライン建設チーム チームリーダー 矢橋牧名(やばし まきな) |
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1:
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1971年4月22日
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2:
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岐阜県
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3:
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東京大学大学院工学系研究科論文博士
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4:
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(財)高輝度光科学研究センター
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5:
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X線光学
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6:
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反たこつぼ
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7:
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芸術
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SCSS試験加速器利用チーム チームリーダー 永園 充(ながその みつる) |
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1:
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1967年9月20日
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2:
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神奈川県
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3:
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横浜国立大学大学院工学研究科前期博士課程(総合研究大学院大学論文博士)
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4:
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分子科学研究所、Max-lab(スウェーデン)、京都大学、ハンブルグ大学(ドイツ)
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5:
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EUV自由電子レーザーの利用研究
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6:
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諸行無常
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7:
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スキー、サッカー、旅行
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データ処理系開発チーム チームリーダー 初井宇記(はつい たかき) |
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1:
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1972年1月22日
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2:
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福岡県
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3:
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総合研究大学院大学博士課程
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4:
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分子科学研究所
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5:
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X線自由電子レーザー
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6:
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有朋自遠方来不亦楽乎
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安全設計グループ グループディレクター 浅野芳裕(あさの よしひろ) |
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1:
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1951年8月12日
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2:
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愛知県
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3:
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名古屋大学大学院工学研究科前期博士課程(東京大学論文博士)
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4:
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日本原子力研究所
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5:
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放射線挙動解明、放射線遮へい・防護
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6:
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有言実行
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7:
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サイクリング、ハイキング
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仁科加速器研究センター 加速器研究部門部門長 上垣外修一(かみがいと おさむ) |
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1:
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1963年7月31日
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2:
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愛知県
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3:
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京都大学大学院理学研究科博士課程
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4:
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理化学研究所
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5:
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重イオン加速器
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6:
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道は近きに在り
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7:
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読書
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イオン源開発チーム チームリーダー 中川孝秀(なかがわ たかひで |
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1:
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1957年10月20日
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2:
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茨城県
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3:
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筑波大学大学院物理学研究科博士課程
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4:
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ハーンマイトナー研究所(ドイツ)、理化学研究所
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5:
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イオン源開発研究およびその応用
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6:
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なせば成る
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7:
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食べること
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リニアックチーム チームリーダー 池沢英二(いけざわ えいじ) |
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1:
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1960年9月12日
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2:
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千葉県
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3:
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東京理科大学理学部第二部物理学科
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4:
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理化学研究所
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5:
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重イオン科学用線型加速器の運転および維持管理
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6:
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人生苦ありゃ楽あり
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7:
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バレーボール、テニス、スキー、食べ歩き
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サイクロトロンチーム チームリーダー 坂本成彦(さかもと なるひこ) |
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1:
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1968年8月13日
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2:
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大阪府
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3:
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東京大学大学院理学系研究科博士課程
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4:
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理化学研究所
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5:
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高周波加速システムの開発
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6:
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窮すれば通ず
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7:
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クラシック音楽
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運転技術チーム チームリーダー 福西暢尚(ふくにし のぶひさ) |
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1:
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1965年4月15日
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2:
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滋賀県
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3:
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東京大学大学院理学系研究科博士課程
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4:
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理化学研究所
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5:
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現実的なビームシミュレーションに基づくRIビームファクトリーの高度化
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6:
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いかなる状況でも最大限楽しむこと
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7:
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読書
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加速器高度化チーム チームリーダー 奥野広樹(おくの ひろき) |
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1:
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1966年2月21日
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2:
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東京都
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3:
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東京大学大学院理学系研究科博士課程
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4:
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理化学研究所
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5:
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超伝導リングサイクロトロンの高度化、大強度イオンビーム用荷電ストリッパーの開発
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6:
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1日1高度化
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7:
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チェロを弾くこと
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超重元素分析装置チーム チームリーダー 森本幸司(もりもと こうじ) |
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1:
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1967年4月2日
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2:
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神奈川県
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3:
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立教大学大学院理学研究科博士課程
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4:
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東京大学宇宙線研究所、科学技術振興事業団、理化学研究所
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5:
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加速器を用いた超重元素探索
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6:
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初心忘るべからず
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7:
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スキー、野球、旅行、車の運転など
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肥山ストレンジネス核物理研究室 准主任研究員 肥山詠美子(ひやま えみこ) |
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1:
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1971年3月23日
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2:
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福岡県
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3:
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九州大学理学研究課博士課程
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4:
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高エネルギー加速器研究機構、奈良女子大学
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5:
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少数多体系問題の観点からのハイパー核構造研究
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6:
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有言実行
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7:
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旅行
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理研の男女共同参画 谷 由美 TANI Yumi |
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「理研の男女共同参画」といわれ、何が思い浮かびますか?「男女共同参画だより」?「妊娠育児中の研究系職員の支援者にかかる経費助成」? おそらく、「理研の」が付いても付かなくても、「男女共同参画」の言葉から具体的にイメージするものはないかもしれませんね。2年前、男女共同参画の専任担当者にという話を頂いたときは、正直なところ、“え〜、嫌だなぁ〜”という気持ちでいっぱいでした。嫌だなぁと思った理由は二つあり、一つは、私は“女性研究者ではない”ということでした。日本の女性研究者の割合が欧米先進諸国に比べて少ないこと、出産育児などによって研究の継続が困難なことなどから、理研のような研究機関における男女共同参画の取り組みでは、女性研究者支援が大きな課題となっています。研究室秘書などの経験から「女性研究者」は身近な存在でしたが、私が社会人1年生として入社した会社は外資系企業で、当時から「性別による差別」などは感じたことがなく、むしろ、“女性が優遇され過ぎでは?”と感じていたくらいでしたから、自分自身に実感がないものにどこまで取り組めるのか大いに疑問だったのです。 もう一つの理由は、“男女共同参画なんて、人それぞれ”と思っていたことでした。「男女共同参画」でくくれる範囲は広いけれど、最終的には人それぞれの考え方による部分が大きく、そこに働き掛けることができるのだろうか、という疑問がありました。何も今、急いで取り組まなくても、時間をかけて自然に男女共同参画に到達するのが一番ではないか、と思っていました。 しかし、嫌だなぁと思う一方で、育児や介護などいわゆる女性の役割とされてきたものと、研究との両立に苦労する女性研究者の話を身近で聞き、“女性研究者は髪を振り乱して頑張るしかないのかな”、“もう少し、負担が緩和される方法はないのかな”とも思っていました。結局最後は、“今、やるんだ!”という理事の強い意志に動かされ(本当は、その迫力に、逃げ道はないと覚悟を決めたのですが)、手探りの取り組みが始まりました。しかし、当初はなかなかスムーズな議論にならず、“施策一つを実現していくのに、いったいどのくらい時間がかかるのだろう”と、不安になることもありました。それが今では、“××はどうなってる?”“△△に取り組んでいるところがあるけど、理研は?”などの積極的な意見や提案を頂くこともあります。まだまだ低い認知度や問題意識にくじけかけることもありますが、思わぬ人や思わぬ部署からの応援に励まされ、時間がかかっても決してあきらめず、一つ一つ丁寧に取り組む大切さを日々痛感しています。 抽象的ですが、それぞれが思う(願う)仕事や生活のバランスが保たれ、それが職場や社会で尊重され、多様性を排除するのではなく受け入れられれば、「性別にかかわらず、能力を発揮できる男女共同参画社会」の形成に近づいていくのではないでしょうか。今後は、「女性研究者支援」や「子育て支援」だけではなく、当事者以外の皆さんの関心を少しでも向けてもらい、本来の意味での男女共同参画の取り組みとしていくことが大きな課題です。そして、「一人一人が輝く理研」でありますように。■
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